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筆だって自分で文字が書きたい~人になりたいのに、異世界で神にされました。~  作者: 嶋田愛那
出会い~江戸編

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相談屋お筆は人(?)の依頼を受ける



『落とし物をしたんだが、一緒に探してくれないかい?』



いつものように看板猫をしていたある日。


いつものように人間が尋ねてきた。


正確には人間ではない、と思う。


だが、妖というわけでもない。



少なくとも、わたしが今まで出会ったことのない存在である。



わたしはじっと彼を観察した。


これは河童に教えてもらったことだ。

自分に理解できないことが起こったときは、まず観察してみること。

それでもわからないときは、諦めるか、それに身を任せるか、誰かに聞いてみるかだ、と。


河童は生まれたての頃、どうして川は流れるのか?と思い至って流されてきたらしい。

それはいったいどうなのだろう。好奇心旺盛なのはいいことだ。



さて、今は目の前の人間だ。

わたしは現実逃避をやめた。


たぶん男。年のころは三十路くらいだろうか。

結った(まげ)はざんばらになっていて、顔は青白い。

どこかの店のものらしい仕事着を着ている。手代だろうか。



そのくらいなら、普通によく見かける人間である。



しかし彼が人とも妖とも異なる点。



まず、念を使っていること。

そして、身体の向こうが透けて見えることだ。

ついでに、彼の周りは少し冷えている。



そして。



『落とし物をしたんだが、一緒に探してくれないかい?』


微妙に会話が成立しない。

同じことを繰り返し言っているのだ。



なんとなく毛先がざわざわする気がする。

なんでだろう。



念を発しているが、どう見ても人なのに、どうして声を使わないんだろう?

いや念を使っているというよりは、声を発しようとして念に変わっているのか。



相手がどういう存在なのかにも、興味がある。

わたしはとりあえずその人について行くことにした。



『わたしでよければ、手伝いますが…この通り猫の見た目ですよ?』


『落とし物をしたんだ。一緒に探してくれないかい?』



相手はこちらが猫だろうが関係ないらしい。

相手が望むなら、手伝っても構わないと思う。


これで何の役にも立たなかったら面目ないが。



そして移動しようと立ち上がったとき。



「お筆ちゃん、いったい誰と話しているんだい?」



店主に彼は見えていないと判明してしまった。

やらかしたかもしれない。



本来、猫は猫以外と対話しない。


それなのに、人ならぬものと話していると知れたら、妖とばれてしまうかもしれない。


せっかく猫として店主に飼われることに慣れてきたのに、これでは疑われてしまう。



『落とし物をしたんだが、一緒に探してくれないかい?』


お前は少し黙れ。



すると八兵衛は眉根を寄せて、わたしを抱き上げた。



「猫は見えないものに敏感だというからねえ…お筆ちゃんもそうなのかね?」



はてと首をかしげる店主に、わたしはにゃおと鳴いてすり寄った。

この店主はこれに弱いのだ。


たちまちでれっとした顔をする店主に呆れながら、するりと離れた。


どのみち彼にこのままいられては、店や八兵衛にも影響が出かねない。

八兵衛は気付いていないが、だいぶ冷えてきている。



秋が近づいていて朝晩が冷えるとはいえ、まだ夏の暑さは続いている。

それなのに、昼間ここまで冷えるということは、だいぶやばいのだ。


このままでは店主が風邪を引きかねない。



猫又も常連客もいないのが不安だが、この人を店から離すには、自分が行くしかないのだ。



『落とし物をしたんだが—』


『はいはい行きます、行きますとも』



とにかく、店を離れてついて行くことにした。



筆の背中を店主が寂しそうに見ていたことは、筆は知らなかった。




『なあ筆、八兵衛さんも言ってたがよお、誰と話してどこに向かおうとしてるんだ?』


『筆さん、誰かとお話していたんです?』



いきなり虚空に向かって話しかけ、歩き出すという筆の奇行に、鈴と櫛はついて行けていなかった。



『さっきお客さんが来て、落とし物をしたから見つけてほしいって言われたんですが…お二方には見えないんですか?』



鈴と櫛は唖然とした。

そして、「こいつ/この方、たまに天然でやらかすよな」と同時に思った。

そして同時につっこんだ。



『いやなんでついて行こうとしてんだ!?』


『だ、誰か呼んだ方がいいですよぅ!おしろ(猫又)さんとか、団三郎()さんとか!』


『生憎今日はみなさんお忙しいですし…』


『なら今日はやめとけ!引き返せ!』


『でも、困っているみたいですし…』


『こ、困ってるってなんでわかるんです?』



なんでこのふたつ、こんなに焦っているんだろう?とのんきに考えながら、筆は答えた。



『落とし物をしたんだが、一緒に探してくれないかい?って何度も言ってくるので…』



……。



『そんな怪しいもんにふらふらついて行くんじゃねえ!!』


『お、おばけ~!おばけじゃないですか~!』


『そいつの言う落とし物って、それってよお』


『あ“~!待ってください聞きたくないですぅ!』



阿鼻叫喚であった。

というかそれでいくと、我々だっておばけに入るんだが。



『でも、今更引き返すのもなんですし…』


『姐さ―――ん!!!おしろ姐さーーーん!!!!』


『団三郎さーーーん、おふささーーーん!!』



必死だ。

筆は巻き込んでちょっと申し訳なく思った。


でもあのまま店に居ても影響が出そうだったし。

筆は反省しているが、後悔はしていなかった。



『落とし物をしたんだが、一緒に探してくれないかい?』



その間も同じことを言いながら、彼は道を先導していた。



そして、ある場所に着いた。

水路になっているところの隅にある、木のそばで彼は止まった。


ゆっくりと振り返る。


ここなんだろうか。

なにも見当たらないが。



『おおお落としししし物をしたたたたんだが落としももものののををををさささががががががががが』



彼の姿がぶれ始めた。

念もぶれている。



『大丈夫ですか、落としたのはこの辺なんですね?』


『ここまで来ると、こいつの豪胆さやべえな…』


『心臓に毛が生えているんじゃないです?』



鈴と櫛が呆れているのは、聞かないことにした。

心臓はそもそもない。筆なので毛は生えているが。



それよりも、ここで本当にいいのだろうか。



あと、なにを落としたのかを聞いていない。



そう思って彼を見上げると。




彼の姿はもうなかった。




ここまで読んでくださりありがとうございます!

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