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筆だって自分で文字が書きたい~人になりたいのに、異世界で神にされました。~  作者: 嶋田愛那
出会い~江戸編

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相談屋お筆は悩みを聞く



「お筆ちゃん、聞いてくれよ。昨日また嫁と喧嘩しちまった」


「なぁお」


「おれどうしたらいいんだ…正直、あいつがなんで怒ってんのかがわかんないんだよ。たぶんおれが悪いんだろうけどな…」


「にゃあ、にゃおおん」


「そうだよな。まずはあいつと話さないとなにもできないよな」


「なぁ」


「うん、おれ、あいつがなんで怒ってるのか聞いてみるよ。そんでできるなら直したいって言ってみるか。そんでも怒られるかもしんねえけどな」


「うなぁお」


「ああ、なんかあいつに買っていけばいいのか。久しぶりにあいつに似合うかんざしでも買っていくかな」


「にゃん」


「お、これがいいってか?値段も手ごろだし、確かにあいつに似合いそうだな」


「にゃお」


「おう、会計頼むよ」


「はい、まいどありがとうございます。無事に仲直りできるといいですねえ」


「そうだなあ、頑張ってみるよ。それもこれも、お筆ちゃんが相談に乗ってくれるおかげさ」


「ええ、お筆ちゅわんはほんっっっとうにいい子でちゅよぉぉぉぉ」


「…うにゃあ」


「はは、おめえさんもしつこくして嫌われねえようになあ。そんじゃ、邪魔したな」


「はい、またのご利用お待ちしております~」


「にゃ~」




看板猫の一日は忙しい。



看板猫といえば、一日中気まぐれに昼寝して、ときどき客に愛想をふりまき、ぷいっとどこかに出かけることもある印象だろう。



だがわたしには「相談役」という仕事がある。

客の相談に乗るのは、店が開いている昼間だけなのだが、この昼間にさっきのような人間が5、6人は来るのだ。



ちなみにさっきの人間は大工で、奥さんと2人で長屋に暮らしているらしい。

奥さんと頻繁に喧嘩してしまうということで相談に来ていたが。



大工は知らないだろう。奥さんもまたわたしに相談に来ていたということに。


「お筆ちゃん、あたし、いつもつい旦那に怒っちゃうの」


「にゃん」


「旦那が悪いときもそりゃあるけど、だいたいはつい八つ当たりしちゃうのよ。落ち着こうと思っても、やっぱりいらいらして…ねえ、どうしたらいいと思う?」


「うなぁ」


「これ、練り香水?そうか、香りをつけておけば、いらいらしても落ち着くってことなのね?」


「にゃ~」


「この練り香水、とても落ち着く香りだわ。これなら旦那ともちゃんと向き合えそう。店主さん、これもらうわね」


「はい、お買い上げありがとうございます」


「お筆ちゃん、相談に乗ってくれてありがとうね。店主さんにいっぱい褒めてもらうんだよ」


「…うにゃあ」


「ほんっっっとうにお筆ちゃんはお利口さんですねぇぇ」


「はは、店主さんもかまいすぎて嫌われないようにねぇ。それじゃ邪魔したね」


「またのご利用お待ちしております~」


「にゃ~ん」



というように、喧嘩した人間の両方が相談に来るということが結構あるのだ。


この店の主、わたしの飼い主である商人は、わたし目当ての客が増えるわ、売り上げも上がるわでにっこにこだ。商魂たくましいことこの上ない。



そしてこの店主もまた、夕方になるとわたしに泣きついてくるか、客にいわれたようにめちゃくちゃにかわいがろうとするかである。うっとうしいことこの上ない。



猫又に相談したところ、『まあ猫は素晴らしい生き物だからねえ。店主もよくわかってるじゃない。うっとうしい?まあ、ときどき愛想よくしてあげればいいのよ』



鈴には、猫は気まぐれなんだからそこまで頻繁に愛想よくしなくともいいんじゃね?と言われた。

たしかに猫又は気まぐれだが、猫又だけでなく猫全体が気まぐれな生き物だったのか。



はじめての気付きだった。やはり他者と話すのはよいものである。



それからわたしは、気分が乗れば最低限返事を返し、気分が乗らなければ無視して昼寝をすることにした。



まあ、たいがいはさっきのように返事をしてしまうのだが。

気まぐれに振る舞うというのも難しいものである。



そして最近は、人間だけでなく妖の世間話にも付き合うことになった。

例の引き寄せ体質の店主によるものだ。



わたしの毛を整えるために買われ、わたしと鈴とでつくも神三人衆となったべっ甲の(くし)は、店主によってわたしの首に下げられることになった。



櫛と念話で話すのにじっと見ていたら、「このきらきらが気に入ったんだね?だったら鈴の下につけてあげようねぇ!毛を整えるときに使ってあげるからねぇぇぇ」という感じだ。



わたしは別に櫛は要らないが、ふたつの友と話しやすくなるからと大人しくしていた。

鈴には自主性が…とか言われたが。わたしは筆なので。



こうして3人、いやみっつで会話をしていると、妖の客には聞こえてくるらしく、よく話しかけてくるようになった。



昼間店で話すこともあるが、さすがに妖の話を店でするわけにもいかず、念を使ってもらうにしても、店で長らく無言で見つめ合う猫と客ができあがってしまう。



そこで、夜に話すこともしばしばあった。

わたしが寝床にしている倉庫の中で話すのだ。

人間の姿であれば怪しまれるが、彼らは元の姿に戻って来るので大丈夫なのである。



常連の狐や狸、ときどきはぬらりひょんの旦那や(かわうそ)とも会話をする。

彼らはつくも神とは違う妖なので、わたしたちにとってとても興味深い話を聞かせてくれるのだ。



彼ら曰く、江戸にはたくさんの妖がいるが、人に交じって買い物をする者は少ないのだとか。



まず、人に化けるだけの力のあるものがいない。

そして、化けることがなければ、人の売る品物や人の営む生活にもあまり興味を示さないのだ。



常連の彼らは妖の中でも力の強い方らしく、物事の見方もわれわれと異なっていて面白い。長年人に化けて生きてきたからこそできる話などもしてくれた。



ちなみに猫又が面白がってつけた「つくも神三人衆」というあだ名は彼らにも浸透していた。

彼女も顔が広いものだ。



妖の客は不思議なもので、頻繁に来るものもいれば、1回来ただけでもう来なくなるものもいる。

妖もまた、猫のように気まぐれなのだろう。



騒がしくもどこか落ち着いた看板猫の日常を送っていると、鈴が言った。



『なあ筆、櫛。たまには外に出てみねえか?』



そういわれてはたと気付いた。

この店に来てから、店の敷地内から出ていないのだ。



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