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閉めきったままのカーテンは年に五回ほど開ける程度だった。
時計の針は三時を指している。だが昼夜の区別はない。
そう言えば僕は、ここ数日間の記憶がまったくない。
数日間という時間の感覚さえもないが、数日間は経過しているであろう何かを感じてもいる。
冷蔵庫から最近、買ったであろうサンドイッチを取り出してみる。
日付は六月三日と記載されていて、再会を待ちわびた恋人のように、不満気にサンドイッチに挟まれたハムと玉子が怨めしそうに睨みつけた。
サンドイッチを握りしめ、カーテンの方向へ目をやる。
太陽の光がカーテンの隙間からかろうじて射し込んでいるのが窺え、少なくとも夜ではなく昼であることを認識させてくれた。
恐る恐るサンドイッチを包むビニールを紐解いて口にする。どうやら直感が判断した答えは正解のようだ。
確実に数日は経過しているに違いない。
少し酸味の効いたハムはスパイシーで、明らかに賞味期限を無視してしまった味を食べる者に美味しさではない食への感謝の在り方を提供していた。
舌のひりひり感が現実味を帯び、やがて麻痺を訴えた。
僕は問答無用、容赦なくごみ箱めがけて、残った九十五パーセントのサンドイッチをおもいきり放り投げた。
直ぐ様、台所へ駆けつけ、口をすすぎ、ついでに顔を洗った。
携帯電話には何件かの着信コールが表示されていて、今日はどうやら六月八日であることも知らせてくれていた。
『僕は数日間、眠っていたのだろうか。ここ数日間の記憶がまるでない。まったく思い出せない』
そう呟いては少し汗ばんだ体を洗い流すために浴室へと足を運んだ。
服を脱いで浴室に入ることさえ億劫でならない。
本能と理性は大きく駆け離れていて、これはとても恐ろしい存在だ。
だからであろうか・・・にも関わらず、よってでもあるが、僕は乱暴な素振りで机の上に乱雑に着ていた衣類を脱ぎ捨てた。
随分と心身がすっきりしたのは血流が活気さを本来の健康的なものに働きだしたからだろう。
僕は布団の上に大の字で寝転んだ。
何気なく手にとった本の背表紙をしばらく眺めていた。
長い時を経て再び小説というものを読み始めた。