妖精カードバトル
「いっけー! サラマンダーでアタック! 7000のダメージ!」
「なんの! ウンディーネでガード!」
吹きあがった炎の柱を、清廉な水がかき消していく。
赤と青の交差する幻想的な光景に、周囲がわっと歓声を上げる。
ここはカードバトルの会場。
中央にあるスタジアムでは、子どもたちが妖精カードバトルを繰り広げていた。
この世界には妖精と人間が共存している。大人になると、人間は妖精と契約を結んで、その力を貸してもらう。
子どもたちはその練習として、幼い頃から妖精の力に慣れ親しめるよう、ゲームの形で妖精の能力や特性を覚えていく。
カードには妖精の力が宿っており、妖精の幻影を呼び出すことで、その力を発揮できる。あくまで疑似的に力を映しているだけで、妖精そのものが宿っているわけではない。炎も水も幻影で、実際に燃え広がったり、水浸しになることはない。
安全に楽しく遊べるカードゲームは子どもたちに大人気で、度々イベントが開催されるようになり、興行的に盛り上がるため大人にとっても良い経済効果をもたらしていた。
妖精への理解を深めるだけでなく、ルールを守ること、協調性、対戦相手への礼儀、ダメージ計算による基礎的な算数など、学びになる面も大きいため、親も子どもがカードバトルに興じることを制限することはなかった。
子どもたちに人気のカードは、派手な技が使えるカード、そして強いカード。
そうして人気のカードに描かれる妖精は、そのまま大人になった時、契約先としても人気の妖精となる。
必然的に、人気のない妖精というのも、いる。
「…………」
カードバトルの様子を、陰からこっそり覗いている、小さな影があった。
その影はきらきらとした粉を残して、その場から飛び去った。
「ふんだ。どうせみんな、強い妖精にしか興味がないんだわ。あたしなんて、ありふれていて、なんにもできないもの」
いじけたように呟いたのは、ピクシーだった。
小さな体に、薄い羽。能力なんてあってないようなもので、ちょっとしたイタズラしかできない。
じわりと浮かんだ涙を振り払うように、急にスピードを上げて飛び始める。
すると、突然何かに衝突した。
「きゃっ」
「わあっ!?」
ピクシーが衝突したのは、幼い女の子だった。彼女は大きな本のようなものを両手で抱えていて、それを手放さないまま、尻もちをついた。
「いったたた……」
「っき、気をつけなさいよっ!」
ピクシーは天邪鬼な性質を持つ。それでも、妖精の大半は人間、特に子どもに好意的だ。ピクシーもその場を飛び去ることなく、心配そうに女の子の眼前に浮遊していた。
その姿を目に捉えた途端、女の子の瞳がきらりと輝いた。
「ピクシー! あなた、ピクシーね!」
「……あんた、あたしのことがわかるの?」
「うん! だってわたし、あなたのカード持ってるもの!」
女の子は手にしていた本のようなものを開くと、ピクシーの前に掲げた。
「ほら!」
女の子が持っていたのは本ではなく、カードバインダーだった。スリーブの中に、一枚一枚、丁寧にカードが収められている。その中に、ピクシーのカードもあった。
「へえ……あたしのカードを持ってるなんて、珍しい」
一瞬だけ目を丸くしたピクシーだったが、すぐに視線を落とした。
「でも、その中に入ってるってことは、デッキには組み込んでないんでしょ。当然よね、あたし、弱いもの」
「ううん、わたしね、デッキは組んでないの」
「……え?」
女の子の言葉にピクシーが顔を上げると、女の子は寂しげに笑った。
「わたし、あたまがわるいから。どうしたら強いとか、計算とか、わかんないの。弱っちいから、友だちも、誰もバトルしてくれなくて。試合に出たこともなくて」
「……そう」
ピクシーは俯いた。
やっぱり、弱いものは、仲間外れにされるんだ。弱いから、必要とされないんだ。
「でもいいの! バトルできなくても、カード集めは楽しいから!」
「……楽しい?」
「うん! かわいいカードとか、きれいなカードとか、見てるだけで楽しくなるの。こんなにたくさんの妖精さんと友だちになれるなんて、大人になるのが楽しみ!」
ピクシーは息を呑んだ。
そんな視点は、持ったことがなかった。カードは、あくまで媒体だ。それ自体の収集を楽しむ者がいるなどと、思ってもみなかった。
「ほら見て、あなたのカード!」
ピクシーのカードをスリーブから出して、女の子は笑顔でピクシーに見せた。
「きらきらしてて、きれいでしょ? わたしね、このカード大好き!」
無邪気に笑った女の子に、ピクシーの目から、ぽろりと涙が零れた。
それを見て、女の子は慌てた。
「ど、どうしたの!? どこか痛い!? ぶつかった時、けがしちゃった!?」
「う、うるさいわねっ! なんでもないわよ!」
ぐしぐしと目元をこすって、ピクシーは女の子を見上げた。
「あんた、そんなにあたしのこと好きなら、大人になったらあたしと契約する?」
「いいの!?」
ぱあっと顔を明るくした女の子に、妖精は小指を立てた。
「約束よ! いいわね、破ったら許さないから!」
「うんっ!」
女の子はその小さな小指に、自分の小指をちょんと押し当てた。
弱い者同士、繋いだ絆。
後に彼女は、世界にその名を轟かす妖精使いとなる。
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