第5話 呪物専門店。
呪われた品々の買取において、そこにコミュニケーションは存在しない。
あるのは、冒険者が要らないと思った品々が次から次へと持ち込まれる。
彼ら、彼女達の中では、それが呪われた品なのか、一般物なのかは検討がついている者もいれば、分からない奴も居るわけだが、それらはご丁寧に鑑定された結果をメモとして貰いうけ、そのまま立ち去っていく。
または、それらがいらないものであれば、そのまま売却という形になる。
彼ら、彼女達の記憶としては、店に入ってから出るまでの過程に、それ相応の記憶が存在してるのかもしれないが、それらもきっと思い出しても思い出せないような不確かなモノになってるかもしれない。
店に入るまではしっかりとしていた眼が、ここに入るたびにまるで洗脳去れたかのように、空ろになり、淡々と支払が済んでいく光景はなんともいえない。
勿論、俺自身も過去にここを利用したことがあるわけだが、思い出せる記憶というものが見つからないところが悍ましい。
『ああ、そんなのあったな?』
『確かに利用したな?』
『いつも助かってはいたよな?』
『困ってないのなら便利でいいのでは?』
そんな曖昧な返答しか出てこないところの次点でただの洗脳ショップである。
ここがとんでもなくヤバイ店だということが理解できるだろう。
魔法使いとしての俺の記憶が確かであれば、この店に成り代わろうとした商人達が幾人かいたはずなのだが……。
人の身で呪いの品々を扱う事の危険さを考えてみれば、それらはどうなったのか?
この店が未だにここに存在しているという次点で、大体察する事は出来るのかもしれない。
回収した呪われた品々はそのまま、後ろの部屋にある壷の中へと消えていく。
これが何処に繋がっていて、何処に持っていかれてるのかは今となっては分かる事だが……この店が出来る前はどれだけの災厄が外へ持ち出されたものなのか……。
迷宮から迷宮への魔力循環は果たして環境にやさしいのか……。
希望があれば絶望はある。その逆も然り……。
この身をもってしても、なんとも言い表せない気持ちになった。
迷宮としては、人々が生み出している呪われた品々を、どういう気持ちで回収しているのだろうか……。
しかし、俺を封印していたオーブはどういった品に扱われていたのだろうか? と、思って……みたものだが。
考えてみれば、答えはもう分かりきっているわけで。
アレも呪われた品の一つで間違いはない。
誰かがそう願って、アレを手にしたのかは分からないが、迷宮なりの人々への救済処置だったのかもしれないな。
結果として、俺自身が迷宮側に取り込まれてしまったのだから。