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第1話「聖獣」(3)

聖獣(アルカナ)に近づくな! お前も死ぬぞ!」


 村人たちの声が背後から響くが、もう耳に入らない。


 「黙れ……もうあれしか希望はないんだ……!」


 目の前に広がる毒瘴の風が顔を叩き、さらに息苦しさが増す。だが、俺は目を閉じることなく、聖獣の胸部に光るアルカナコアを見据えた。


 夜空を漂う巨大な影――聖獣がその翼をゆっくりと動かし、青白い光を放ちながら村を見下ろしていた。その光が毒瘴を吸収している様子が明らかだった。


 俺は地面に膝をつき、額の汗を拭いながら息を整える。視線は空高く浮かぶその姿に釘付けだった。


「……なんだ、あいつ……どうやって空に浮かんでるんだ……?」


 拳を握りしめるが、届く距離ではない。胸の中で苛立ちが渦巻く。せめて魔法が使えれば、と悔やむ。


「攻撃なんか届きもしない……どうすれば……!」


 その時、目の前で風に乗る毒瘴が渦を巻くように流れていくのが目に入った。俺はその動きに目を凝らし、思いついた可能性に息を呑む。


「……待てよ……毒瘴の流れ……これを利用できれば……!」


 立ち上がると、周囲を見渡して近くの木々や岩場を確認する。次の行動を決めた俺は、道具箱に手を伸ばし、即席で装置を作る準備に取り掛かった。


 俺は道具箱を開け、小型のガラス瓶、金属管、発火装置を取り出した。震える手でそれらを組み立てながら、頭の中で計算を繰り返す。


「……これで流れを一時的に偏らせる……!」


 ガラス瓶に毒瘴の中和薬を注ぎ込み、金属管を繋げて密閉空間を作る。発火装置を取り付けて圧縮空気を噴射する仕組みだ。


「圧力を作って毒瘴の流れを乱せば、奴がバランスを取れなくなる……!」


 組み上げた装置を手に持ち、風上に向かって駆け出した。足元がふらつき、毒瘴の影響が体に及んでいることを感じるが、立ち止まるわけにはいかない。


「この位置なら、毒瘴の流れを最大限に乱せるはず……!」


 地面に膝をつき、装置を慎重に固定する。発火装置を調整し、ガラス瓶をセットしてからスイッチに手をかけた。


「頼む……うまくいってくれ……!」


 スイッチを押すと、装置が低い音を立てて作動を始めた。金属管から圧縮空気が勢いよく噴き出し、周囲の毒瘴が一瞬で渦を巻くように動き始める。空中に浮かんでいた聖獣が、明らかに動きを変えた。


「……動きが変わった……!」


 聖獣が翼を広げ、毒瘴の流れを安定させようとする動きを見せる。その反応に俺は確信を持った。


「やっぱりだ……! 毒瘴が不安定になったことで、奴が焦ってる……!」


 高度を下げ始める聖獣。その巨体が地上に徐々に近づいていく。俺はメスを握りしめ、心を決めた。


「着地するつもりだ……! 今だ……! このまま奴を仕留める!」



 

 聖獣が地面に足をつけた瞬間、大地が震え、砂煙が舞い上がる。翼を広げた聖獣が毒瘴を吸収しようとその場に留まっている。


「翼が広がっている……! 今しかない……!」


 息を荒らしながらメスを握りしめ、低い姿勢で駆け出す。視界が揺れ、体が悲鳴を上げるが足を止めるわけにはいかない。


 聖獣がこちらに気づき、目を光らせる。その巨大な爪が一瞬だけ動いたが、毒瘴の安定に集中せざるを得ない様子だった。その隙を突いて俺はその胸部に飛び込む。


「お前の心臓(アルカナ)……!一欠片でいいから、よこせッ!」


 メスを振り下ろす瞬間、聖獣が咆哮を上げた。巨大な影とともに、青白い光が一瞬激しく輝いた。

・毒瘴の流れ

- 聖獣が操る有毒な霧の動き。風に乗って渦を巻きながら広がり、周囲の環境を侵食する。トーラはこの流れを乱すことで聖獣のバランスを崩し、高度を下げさせた。


・装置(即席トラップ)

- トーラが毒瘴の流れを乱すために即興で作り上げた道具。圧縮空気を用いて毒瘴を渦状に動かし、聖獣の行動に影響を与える仕組み。簡易ながら効果的な戦術を生み出した。


・聖獣の習性

- 毒瘴を吸収して自身の周囲を安定させる特性を持つ。この習性により、毒瘴の流れが乱れると動きが制限される。トーラはこの特性を観察し、戦術に活かした。

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