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白猫(バイマオ)妖戦記

作者: 海谷子猫


https://42762.mitemin.net/i784148/


 まだ生暖かい秋風吹く校庭に、何かの生き物が現れて瞬時に消えた。

 俺は中国生まれ、日本育ちの(はく)風間(ふうま)。中国名は白風(バイ・フェン)。今俺は日本の中学1年生のカリキュラムを遂行中だ……。決して、校庭に現れたあやかしに気を取られてはならない。けど放って置くと悪さするんだよなぁ……。

「先生、すみませんトイレ行ってきて良いですか?」


 案の定、「何か」は掲示物をビリビリにしてしまっていた。廊下に紙屑が舞う。気配はするが姿は見えない。カサカサ、と紙屑の上を歩く音がして、逃げていく気配がする。それを追って廊下の曲がり角を曲がると……。

「ずいぶん小物ね。」

 一人の女生徒が、とかげのような妖の首根っこを捕まえていた。

「真央姉。」

 俺の姉、真央はそのままそのとかげを丸飲みにする。

「あっ、調理しなくていいの?」

 とっさに言った俺に、真央は無表情なまま頷いてみせる。

「大丈夫、このくらいなら飲み込めるから。」

 中国名、白・(バイ・マオ)は、人でありながら妖力を有する一族の末裔だ。とは言え、妖力を持つ子供が生まれるのは稀で、さほど多くない。

 多忙を極める両親のうち、母も妖力持ちだ。しかしこの母子以外に、親の代・子の代共に妖力持ちはおらず、仕方なしに、妖力持ちながら日本へ移住していた遠縁の親戚、林杏(リンシン)婆さんのところに幼い頃に預けられた。それが俺達姉弟と言うわけだ。

 そして妖力持ちには、特徴がある。妖を食べると、妖力が増すという特徴が。

「ちょっとは足しになったかな……。悪いけど後処理、お願いね。」

 そう言って真央は教室に戻っていった。散らかる紙屑。一人では無理だと悟った俺は職員室に駆け込んだ。

「先生ぃぃ! 風で掲示物がめちゃくちゃに‼」

 そうして、結局掲示物は先生方が片付けてくださるということで、俺は授業に戻ったのだった。そして昼休み。

「風間、お前の姉ちゃんってキレイだよな、品性方向、眉目秀麗!」

「いきなりなんだよ。」

「いやぁ、だって二年生なのにもう生徒会入ってんだぜ? 成績優秀な上に美人とか最高じゃん。」

 友人のスバルが姉をヨイショしている。

「弟のお前も真面目で優秀だし……悔しいけど顔もイケメンだしなぁ。姉弟揃って羨ましいかぎりだぜ。」

 俺の事までヨイショし始めた。

「おいおい、急に褒めちぎるじゃねぇか。魂胆はなんだよ?」

「えへへへ。真央様とデートしたいから約束取り付けてきてっ!」

「……あのな。自分で誘えよ。」

「やだ! 恥ずかしい!」

「じゃ、諦めるんだな。」

「ケチ! 鬼!」

「何とでも言ってろ。あ、それと。」

 なんだ? とスバルが首をかしげる。

「真央は許嫁いるぞ?」

「えええええええええぇぇぇぇ⁉」

 クラス中の男子が絶叫をあげる。聞き耳立ててやがったな。

「そんな、真央様に許嫁なんて!」

「えっ、中国人ってみんな許嫁いるの? ってことは相手は中国人⁉ 相手を、相手をお前、風間知ってんのか⁉ えぇ⁉」

「落ち着けよ。知ってるけど教えてやんない。」

「風間ぁぁぁぁ‼」

 あぁ、今日も平和だ。そんな平和を壊す依頼が、リンシン婆さんの営む中華料理屋「猫梅苑(マオバイエン)」に舞い込んだ。それは放課後、日も沈んだ後の事だった。

「真央、風間、お客だよ。」

 リンシンが応接間に俺達を呼んだ。いつもの依頼だ。そこには高そうな腕時計を着けたスーツを着た男性が座って待っていた。おおかた社長と言った所か?

「なんだそのガキ共は。」

 おうおう失礼なやつだな。

「まぁまぁ旦那、見てなよ。」

 リンシンが促して、チャイナ服を着た真央が変化(へんげ)を始める。立ち上る深紅の炎に、黒髪がみるみる銀髪になっていく。獣の耳となり、尾が生え、爪が鋭く厚みを増す。

「ひっ……! ばっ、化け物……!」

 恐れおののく社長に、リンシンが声をかける。

「これで信じてもらえたかい。うちは『本物』だよ。」

 俺達姉弟は何も聞かされていないのだが、変化したマオが唐突に言う。

「早く車から『連れてきたら』どうニャ?」

「おや、私はまだ何も言ってないんだけどねぇ。匂うかい、マオ?」

「キツネ臭いニャ。どうせ『キツネ憑き』ニャ。」

 はっとした社長が口を開く。

「そうなんだ、娘の様子がおかしいんだ。別の場所でも『キツネ憑き』と言われて、だけどそこでは退治できないと言われてここへ紹介されて来たんだ。」

「どうせ何処かの稲荷神社で意地汚い祈りでも捧げたんだニャ。お前からも嫌な匂いがする。そして娘からは神格の香りがする。キツネ神から怒りを買ったんニャお前は。神格を『退治』はできないニャ。」

「そっ、そんな!」

「キツネ肉は臭くて食えないしな……。神格を食うと後が怖いし……。」

「……え?」

 おっと、声に出てたみたいだ。

「何でもないです! えっと、『退治』はできないけど追い払うくらいならできますよ。娘さん連れてきましょう。」

「本当か⁉ ありがとう! こっちだ。」

 そうして、俺と社長二人で車に向かった。車には、お抱えらしき運転手と、娘の母親が付き添っていた。

「ヴヴ~……。」

 十歳くらいだろうか。だいぶ暴れたのだろう、目隠しをされ、猿ぐつわを噛まされ、手足をそれぞれ一つに縛られて、その子は唸っていた。俺は持ってきたカーテンでその子を包むと、母親に声をかけて娘さんを強化された腕力でひょいと抱き抱えた。暴れるかと思ったけどあっさり抱えられた。

「奥さん、娘さんをお預かりしますね。」

 呆気にとられた母親が娘が見えなくなってから、同じく呆気にとられていた父親にすがり付く。

「あなた! 大丈夫なんですか? あんな子どもに任せて! 美穂は、元に戻るんですか⁉」

「大丈夫だ、お前はここに居なさい。」

 社長は店内に入っていく。その場には、心配そうな顔をした運転手と、母親だけが残された。俺は娘さんをソファに寝かせると、社長の到着を待って娘さんを包んでいたカーテンを開けた。

「ヴヴ~!」

 バタバタと暴れる娘さんを見て、マオがポツリとこぼす。

「旨味のない仕事はやる気が出ないニャ……。」

「そんなこと言うなよ、マオ姉。人助けだぜ?徳を積むんだよ、徳を。ほら、んっ。」

「わかったニャ……。」

 そう言うと、マオは俺の頬を両手で包み……俺の唇に、口づけした。

 正確に言えば、俺から「貯めた妖力を吸っている」。みるみる爪が伸び、妖力の高まりを感じる。

「フェン! 縄を解いてやるニャ。私が相手してやる! 追い出してやるニャ!」

「はいよ。」

 暴れる娘さんを半ば押さえつけて、目隠しを取り、猿ぐつわを外す。

「貴様! よくもわらわを追い払うなどと言うてくれたな!」

「その程度の拘束もほどけない低級が何か言ってるニャ。」

 赤い瞳の娘さんが、ビキビキと青筋が立ちそうなほど怒っている。

「この程度の拘束なぞいつでも自力で解けたわ‼」

 そう言うと両手両足の拘束を引きちぎると、獣のように四つん這いになってマオを威嚇する。

「その借り物の身体に傷を付ける気かニャ? 神格が聞いて呆れるニャ。それともニャにか? 臆病でそこから出てこられんのかニャ⁉」

「ほざけ! 半化けが‼」

 白い光が湯気のように立ち上り、しめ縄をつけたキツネの姿が現れる。崩れ落ちた娘さんの身体を、俺がスライディングキャッチして保護する。

「ふん。もうその身体に用はないわ! くれてやる!」

「そりゃどうも。うん、ちゃんと息してる。大丈夫だ。」

 規則正しい寝息を立てる娘さんを抱き抱えて運ぶと、社長が飛び付くように駆け寄ってきた。

「美穂は……娘は無事なのか? もう大丈夫なのか?」

「美穂ちゃん『は』、大丈夫ですよ。」

 ゴウッと火の玉が飛んできて、社長を突き飛ばして避けさせる。

「ヒィッ!」

「よくも我が社を取り壊してくれたな! わっぱ!」

 キツネ神様は相当お怒りのようだ。

「し、仕方なかったんだ! 古いビルを取り壊して駐車場にするには、あの祠は取り除くしか!」

「問答無用!」 

 火の玉を飛ばされ、身をすくめる社長。そこに立ちはだかり、両手で火の玉を振り払うマオ。その隙に俺は、美穂ちゃんを部屋の外に控えていたリンシンに受け渡す。そしてとあるものを受けとる。

「ニャんだ、宿無しかお前。ちょっとかわいそうニャ。」

「ええい、黙れ!」

 キツネ神が再び火の玉を飛ばした所へ、マオが突っ込んで火を蹴散らし、キツネ神のアゴをアッパーで勢いよく殴りあげる。衝撃で存在が「揺らいだ」キツネ神を、リンシンから受け取った水晶玉が吸い込んでいく。

「ギィィィィィ!」

 断末魔を残してキツネ神が吸い込まれた。訪れた静寂に、社長が呟く。

「終わったのか……?」

「終わってないニャ。」

 チリチリと黒焦げ、小さな傷だらけになったマオが仁王立ちで立ちふさがる。

「ヒッ……!」

「元はと言えば祠を壊したお前が悪いニャ。新しく作って、この水晶をご神体として納めるんだニャ。」

「布で包んでおきましたから大事に持ち帰ってください。早急に作らないとまた化けて出ると思いますよ。」

 俺がそう言って社長に渡すと、彼は観念したように小さな声で、わかりました……。と呟いた。

 社長が帰った後、マオは傷を治すために俺の右腕にかぶりついた。血を吸うのだ。みるみるマオの傷が治っていく。そしてマオが口を離してしばらくすると、ジワジワッと俺の噛み痕も傷がなくなる。

 原理はこうだ。女しか生まれない白一族は、妖力を持つ子どもが生まれると、血縁のない男児をもらってきて番としてあてがう。幼いうちにお互いに血を飲ませ合い、女児の方は初めての唯一の血として味を覚え、男児は妖力を含む女児の血を糧として肉体が強靭になり、妖力をストックする。そうして生じた血の盟約により、男児は女児の妖力の貯蔵庫となる。血肉を共有する関係の出来上がりだ。そして同時に、お互いを婚約者として縁を結ぶ。血の盟約は二度目を結ぶことはできない。

「フェン、ごちそうさまニャ。」

 マオは変化している時、俺のことを中国名のフェンと呼ぶ。変化が解け、元の黒髪の真央に戻る。

「……いつも痛いよね、ごめんね、風間。」

 ヒトになっている時は日本名の風間と呼ぶ。性格や口調が変わるのも去ることながら不思議なんだが、本人もよくわからないと言っていた。

「大丈夫だよ、真央姉。妖力で傷はすぐ治るからそんなに痛くないし、お陰で俺、風邪ひとつ引いたことないもん!」

 そう言って俺より背の高い真央姉に届くように背伸びして、両手で顔を引き寄せてキスをする。

「俺の中の『気』は、安定してるだろ?」

「うん、安定してる……。」

 確認するには口づけが手っ取り早いんだ。ついでにエネルギー補給に俺の中の妖力を真央姉に送っておいた。

「だから大丈夫。」

 ニッと笑った俺につられて、真央姉もにこっと笑った。



 次の日、昼休み。貧血対策で鉄分入りヨーグルト牛乳を飲みながら、教室でボーッとしていた。なんであんなに真央姉は可愛いんだ? クラスにもかわいい子は何人もいるけど、真央姉は別次元に感じる。血の盟約も関係しているのかな?

「おい、スバル。うちの姉ちゃん、可愛いよな?」

「えっ? なに当たり前なこと言ってんの? 神秘的な雰囲気、優秀で品性溢れる出で立ち! 整った顔立ち、溢れる優しさ! ヤマトナデシコとはまさに真央様のためにある言葉だよ! ……もしかしてデートの件、考えてくれた?」

「いや、全く。」

「何でだよ‼」

 ははは、と笑ってはぐらかしてみたが、真央姉の婚約者は俺だし、真央姉に婚約者がいるって噂は流してるから変な虫は付かないと思うが……。少し心配だな。強引な連中が居なきゃいいけど。

「あの、風間くん。ちょっと良い?」

 同じ委員会の、隣のクラスの女子だ。

「うん、いいけど。どうしたの?」

「ここじゃ話しづらいから……、向こうで。」

「わかった。行くよ。」

 何の話だろう?


 屋上に向かう途中の階段に着いた。

「私、風間くんのことが、好きです! 付き合ってください!」

 おっとぉ。そう来たか。

「婚約者が中国に居るかもって噂は知ってるんだけど……。日本に居る間だけでもいいの。……だめ?」

「うーん、ごめんね? 婚約者が居るのは本当だし、俺、その人のことちゃんと好きだから、他の人と付き合うつもりないんだ。ごめん。」

「……わかった。聞いてくれてありがとう。」

 ちょっと涙ぐむ女生徒。気を遣って先に戻ることにした。

「先戻ってるね。」

「うん、ありがと。」

 俺が去った後、静かに泣き崩れる女生徒。血の盟約で耳までいいから聞こえてしまう。

 と、耳のいい弊害がまたしても。真央姉の声が聞こえてきた。

「だから、先輩とはお付き合いも出来ないしデートも行きません。」

「中国に居る婚約者に悪いからって? いいじゃん別に、黙ってればバレないよ!」

「そうだぜ、徹くんほど一途な男もそうそう居ないよ? これを機に乗り換えちゃえって!」

 どうやら三年生に絡まれているらしい。

「それにしても真央ちゃんってホント可愛い顔してるよなぁ。」

「徹くんとお似合いだよ!」

 歩を進めていたが、追い付いた。

「おっ! 弟くんじゃん! 真央ちゃんと徹くんの恋を応援してやってよ!」

「何の冗談だよ? センパイ。」

 真央姉を後ろ手でかばって、センパイ達との間に割って入る。よく見たらこいつら半グレで有名な危ないセンパイじゃん。

「何? 俺らが悪者みたいじゃん。」

「しつこく言い寄ってるのは悪者に入らないんですか?」

「はぁ?」

「姉は断りましたよね?」

 俺が間に入ったのは理由がある。変化しない真央に、戦う術がないからだ。変化すれば、筋力も上がるし、炎もあるし爪も牙もある。けれどそれを隠すと、真央には戦う武器がない。一方で俺は、血の盟約で手に入れた強靭な肉体と筋力と、リンシン仕込みの体術がある。

「失礼だな! プレゼンしてただけだろ!」

「押し売りをプレゼンとは言わないでしょう?」

「生意気なやつだな!」

 言い寄っていたセンパイが殴りかかってきた。右ストレート。一番避けやすい。真央をトンと押して避難させる。ボクシングでもやっているのか、次々と拳が飛んでくる。全てかわせているが。

「なんっで、当たらねぇんだ……!」

 俺は目も良いんだ。

「センパイ、どうします? ぶん殴られて真央を諦めるか、大人しく真央を諦めるか。」

「ほざけ! 一年坊が‼」

 また殴りかかってきたセンパイの拳を避けて、手加減して顔面に一発。吹っ飛んでいくセンパイを見ながら、やり過ぎたかな、とちょっと反省した。

 真央姉に寄ってくる男を蹴散らすには、やっぱりこれしかないか。

「よく聞けヤローども! 俺と真央は血が繋がってない! 俺は許嫁として一族に迎えられた養子だ! 真央に手ぇ出したらぶっ殺すぞ‼」

 いつの間にか集まっていたギャラリーから、ひゅ~! と拍手が沸き起こる。あのセンパイ達に苦労させられていた人もきっといるだろう。ともあれ、このスクープは学校中に駆け巡る。少しは抑止力になってくれるといいが……。


「風間ぁぁぁぁぁぁぁ‼ お前! 真央様の婚約者だったのか⁉」

 教室に着いたとたんスバルに捕まる。

「噂が早ぇな。」

「血が繋がってないのにお前の見目が麗しいのは納得行かんが、真央様に心に決めたお人がいるなら俺は身を引こう……。」

「おう? そうか? スバル、黙っててごめんな。」

「敵を欺くにはまず味方からって言うもんな! そこんとこ責めるつもりはないぜ!」

「助かる。」

「その代わりと言っちゃなんだけど……、一回、デートしちゃだめ?」

「だめ!」



「最初に隠そうって言ったのはフェンだニャ。バラしてよかったんニャ?」

「状況が変わったんだよ。」

 小声で話しても、俺達の耳にはよく届く。マオは今、遥か上、電柱の上だ。見晴らしのいい電柱を飛び移って、町中の妖をハンティング中だ。俺は、それを追いかけて、キャンプ道具の入ったリュックを背負って走っている。竹籠を背負ったマオは、仕留めた妖をそこに放り込んでいる。

 山の開けた所に着くと、焚き火をして、マオが仕留めた妖を調理し始める。カエルみたいなやつは、塩でぬめりとりして、よくすすいで皮を剥ぎ、素揚げする。黒いよくわからないモヤモヤしたものは、とりあえず一回洗って、みじん切りにして他の食材とあわせてチャーハンにする。香ばしいんだよな、意外とこれが。

 リンシン仕込みの調理スキルだ。

「フェン、お前そんニャに私を他の男に渡したくニャいのか?」

 ニヤニヤしながらマオが聞く。

「そうだよ。」

「おぉう、想定外の反応が返ってきたニャ……。恥ずかしがるとかニャいのか。」

「今更だよ。何年婚約者やってると思ってんだよ。」

 一緒に晩ごはんを囲む。俺には、産みの親の記憶がない。口減らしに売られたと聞いている。けれど恨んではいない。中国の奥地の暮らしがどんなに過酷か、おぼろげに覚えているから。皆貧しく、かつて栄華を極めた白の一族も例外ではなかった。昔はシャーマン的な立ち位置で、村の重要な催事に関わっていたと言う。しかし妖力を持つ子どもが次第に生まれなくなり、衰退の一途をたどった。そして今では親類縁者は世界各地に散り散りになっている。

「マオ、中国に帰りたいか?」

「……いや、あそこに私の居場所はもうニャいと思うニャ。日本は八百万の神々が居るだけあって、妖も多い。食うに困らんニャ。」

「そうか……。」

 豪華な装飾もなく、だだっ広い敷地で真央と、真央の両親達と遊んだ記憶が遥か彼方にある。懐かしく思うが、その日々が戻ってくることはない。新しい日々を過ごすしかない。

「フェン、このトカゲみたいなやつも焼いてくれニャ。」

 そう言って一メートルはあろうかと言うトカゲのような妖の首根っこを捕まえて、マオがにっこり笑う。



 次の日の夕方のことだった。

「会長が呪われているみたいなんです。」

 役員の一人は、そう言って初老の男性に肩を貸しながらやってきた。リンシンは片手をかざしながら、ソファに座らせた会長さんから妖力の痕跡を探していた。

「確かに呪われて精気を奪われているね……。大元の妖は……、これは……。」

 その時、その人達は現れた。

「やっほー! 真央に風間! リンシンも! 久しぶり!」

「お邪魔します。」

 真央の産みの母親の鈴鈴(リンリン)と、実の父親の浩然(ハオラン)だった。

「……って、あれ? この気配、すごく心当たりあるんだけど?」

「リンリン、やはりそうか?」

「間違いないわ、これは黒老鼠(ヘイラオシュー)の仕業だわ。」

 黒老鼠ヘイラオシュー……黒いネズミという意味のそのワードには、白の一族には並々ならぬ因縁があった。単に猫とネズミというだけでなく、黒老鼠の一族とは長く敵対関係が出来ていた。奴らは報酬さえ貰えば人の道理を外れたこともする外道だった。中国国内に留まらず世界中を暗躍するヘイラオシューを追って、リンリン夫妻は多忙を極めている。

「やつが来日してるって噂は本当だったのね。それに、やっぱりリンシンの所には情報が集まるわね。」

 スンスンと空気を嗅ぐと、リンリンは会長の胸元を指差した。

「ここね。」

 見てみると、そこには名刺入れがひとつのみ。そしてその底に、呪いの札が入っていた。リンリンは札を破いて燃しながら、こう続ける。

「相当身近な協力者が居ないと、これは仕込めないわよねぇ。どうして『呪われている』と判ったのかしら? 役員さん?」

 会長を連れてきた役員は崩れ落ちた。

「妻子を人質に取られて……。けれど会長にも恩があるから、どうにかならないかと……。けど、札が破られたから呪いは解けましたよね?」

「いいえ、解けてないわ。これは二枚で一つの呪いなの。やつが持ってるもう一枚の札を破かなきゃ解けないわ。」

「そんな……。」

「やつが滞在してるホテルは目星が付いてるけど……。警備が厳重ですぐには手が出せないわ。狙うなら車で移動している所。もしくは外出先。日中は目立つから夕方から夜の間ね。」

 情報収集はバッチリのようだ。

「今日はもう遅くてやつもホテルの中だったから、明日、決行よ!」

 会長は弱まった呪いに侵されながら、リンシンの結界が張られた客間に寝かされた。呪いの効力もこれでマシになる。ただ、繋いだ縁を断ち切るまでにはならず、ここで精気を送り込んでもすぐ吸われてしまうため何も出来なかった。付き添いで、かの役員も泊まり込みだ。

 そして白の一族はというと、二階の畳の広間で、ゆっくり夜を明かしていた。リンシン特製のノンアルコールの甘いマタタビ酒を囲んで、猫達は幸せそうだ。

 真央は、変化もしないままゴロゴロと俺の膝の上でくつろいでいる。

「フェン! うちの子どうよ? って言っても私も久しぶりに会ったけど、いい女に育ちそうでしょ⁉」

「ごめんね、フェン。リンリン酔っぱらってる。テキトーに相手していいからね。」

 絡んできたリンリンと、横から声をかけるハオラン。

「真央は、学校でも評判の美人だよ。成績もいいし、優しいしヤマトナデシコだってさ。」

 今は酔ってでろんでろんだけど。

「でもさぁ! それは人間の真央でしょ? 猫のマオを知ってるのはあんただけな訳じゃん? フェンから見てどうなのよ、うちの娘は⁉」

 肩を組んで絡んでくるリンリン。

「真央は…どっちの真央も、可愛いよ。なぁ?」

 足元の真央をコショショ撫でて、真央は本物の猫のようにあくびした。

「そりゃそうよ私の娘だもん! おほほほほほ!」

 結局その日は、その畳の広間に布団を敷いて雑魚寝した。



 朝、目が覚めるといつも通り真央が目の前に居た。その額に口づけると、朝の支度をしようと立ち上がる。と、腕を引っ張られ布団に引き込まれる。真央が起きていたのだ。いつもは二つに結んでいる髪の毛が結ばれておらず、黒髪が艶やかだ。

「どうした、真央……。」

「しっ、皆起きちゃう。」

 真央は、人差し指を立てて俺の唇に当てると、身体を引き寄せてきた。そのまま口づけると、妖力を吸いだしていく。決戦前の栄養補給だなこりゃ。皆の目の前だと恥ずかしいから隠れてやってるようだ。

 あらかた吸い終えて、俺達は学校に行く準備を始めた。リンリンとハオランには、日中の黒老鼠の尾行をお願いしてある。まだ寝こけているが。

 俺と真央は、いつも通り朝ごはんの準備をする。途中で起きてきたリンシンも加わって、下の階で結界の中にいる二人の分も含めて七人分を作った。今日作った朝食は、ベーコンエッグにサラダ、トーストといった簡単なものだ。弱っている会長さんの分は、食べやすいよう一口大に切り分けた。

 それを役員の分も一緒に持っていくと、いくぶん会長さんの顔色も良くなっていた。

「これ、朝飯。」

「あぁ、ありがとう。……切り分けてくれたのか、助かるよ。さっき会長が目を覚ましたんだ。食べてもらうよ。」

 役員が皿を受けとる。

「悪いな……、若いの……。」

 会長が弱々しく手を上げる。

「いえ、悪い奴らの親玉はこちらも追ってる奴なんで。気にせんでいいです。」

 会長の手を握ると、精気が少しずつ吸い取られていく気配がした。

「役員さん、あんた、こんなことして人質に取られた妻子は大丈夫なのか。」

 気になっていたことを聞いてみる。

「あぁ、それがね。私に指示を出した人物は、札さえ仕込めば人質を返す、あとは何をしようと、呪いを解くために奔走しても構わないって言ったんだ。」

 怪訝そうに役員は言う。

「本当に妻と子どもは帰ってきたし、ここに来たあとも妻とは連絡が取れているから無事なんだよ。弄ばれているのか……、よっぽど自信があるのか……。気味が悪いよね。」

「どっちもだと思いますよ、奴らそういう感じなんで。」

 手を離して、イスから立ち上がる。

「風間! 朝ごはん覚めちゃうよ!」

 真央の声が聞こえる。

「じゃ、俺戻りますね。」

「あぁ、朝ごはんありがとう。」

 俺の知る黒ネズミ達は、もっと残忍だった。人質を取っておいて、目的を遂行したら人質もろとも殺すのだ。

「そういえば言ったっけ?黒老鼠の代替わりがあったこと。」

 リンリンが食卓でトーストを頬張りながら言う。

「初耳だよ。先代はくたばったのかい?」

 リンシンが箸で器用に目玉焼きを食べる。

「うーん、詳しくは判らないけど、引退みたいな感じかな。孫息子が首長を名乗ってて、かなりやり手だって聞いたの。」

「時代も変わってきたからね。」

 ハオランが話を引き継ぐ。

「昔ならバラせた死体も、今じゃ証拠になっちゃうからね。セキュリティなんかも厳しくて必要最低限の殺ししかしないらしいんだ。」

「しかも昔とやり口が違うのよ。狡猾、っていうものかしらね。とにかく頭使ってくるのよ、奴ら。」

「力ゴリ押しのリンリンとは相性悪いね。」

「本当にそうなの‼ しかもネズミだけに親類が多くて、手下も多くて。今回も結構な数出てくると思うわよ。覚悟して。」

「今日……、勉強に身が入るかしら……。」

 呟いた真央の一言でハッとする。時間!

「やべぇ! 呑気に話聞いてる場合じゃなかった! 遅刻する!」

 急いで残りの飯をかっ込むと、リュックを背負って玄関に向かった。

「真央姉! 早く!」

 とっくに食べ終わっていた真央姉が、リュックを持って小走りに玄関に来た。

「風間、近道する?」

 真央姉の言う近道とは、屋根伝いに一直線に学校に向かうルートのことだ。

「妖力温存しようぜ、走ればまだ間に合う。」

「解った。」

「行ってらっしゃーい!」

 リンリンが手を振って見送ってくれた。




 なんとか授業を受けきり、帰路に付く頃にはとっぷりと日が暮れていた。

「あ、母さんからだ。もしもし? ……うん。今終わったところ。えっ? あぁ、なるほど。解った。行くね。」

 電話を切ると、真央は俺を見た。


「うわぁぁぁぁぁ!」

「フェン! 静かにするニャ!」

 変化したマオが俺を小脇に抱えてビルの上を飛び移っていく。

「あっ、あそこだニャ。」

 いくら肉体が強化されていても、俺はビルを飛び移れない。そのためマオが搬送してくれている。夜のネオンがきらめく中、俺は縮こまって荷物のように運ばれていく。

「フェン! 街の光がキレイだニャ!」

 いつもは暗い田舎で街灯の明かりを頼りに妖ハンティングしていたから、ちょっと中心街に出てきてお上りさんのようにテンションが上がっている。

「おっ、来たわね。お疲れ様。」

 リンリンが声をかけてくれた。着いたようだ。

「このビルの中に、新しい首長がいるわ。その名も王・沐阳(ワン・ムーヤン)。ワン姓は直系にしか与えられない姓ね。それとこのビルはあの会長さんの商売敵がいるビルよ。きっと今頃会食中だわ。」

 ハオランがガサガサとエコバッグを漁る。

「おにぎり買ってきたよ。何味がいい?」

「ツナマヨありますか?」

「あるよ! ほい!」

「ども! ほい。」

 キャッチしたおにぎりをマオに渡す。

「なんでツナマヨが食べたいのわかったんだニャ?」

「いつもそれじゃん。わかるって。」

「何かムカつくニャ。」

「ムカつく? 怒ってんの?」

「怒ってニャい……。」

「膨れっ面してどうした、おん?」

 大事そうに両手でおにぎりを握りしめているマオの頬を両手でこねくりまわす。

「あぁ……、トキメいちゃった?」

「そう言うところがムカつくニャ。」

 しっぽが少し揺れている。嬉しい時のサインだ。あぁ……、可愛くてしんどい。

「ハオラン、梅干し入りおにぎりある?」

「あるよ! ほい!」

「あざす!」

 酸っぱい梅干しでちょっと気を引き締めよう。そうしていくつかのおにぎりを皆で食べて、作戦を練り直した。そして数分後……、地下駐車場で、ワンを迎え撃った。

 数名のボディーガードと秘書を引き連れて、ワンは現れた。人気はない。四人並んでワンに立ち塞がる。

「どちら様かな?」

 低音のワンの声が地下駐車場に響いた。それに対して変化していないリンリンが答える。

「○○商事の使いで来ました。ワン殿、呪いの札を頂戴したい。」

「名乗ってくれないのかね?」

「そうね、代替わりして初めて会うものね、ワン・ムーヤン。」

 真っ青な炎が立ち上ぼり、リンリンが変化していく。

「私はバイ・リンリン。私達は白の一族よ。あなたの悪事の邪魔をしに来た!」

 すると二台ほどのワゴン車の扉が開き、黒ネズミの手下達が周りを包囲する。マオも深紅の炎を上げて変化し、戦闘態勢に入る。

「いやはや、片割れの札が破かれたからどんな連中が食い付いたかと思ったら……。先代がお世話になったようで。」

「ほんとね。先代の見舞いに毒の花束でも送っておけば良かったわ。」

 バチバチじゃん。こわ。

「なるほど、白の一族も次の世代を育てているのですね。実に美しい。」

 ワンの視線を感じてチラッとそっちをみると、ワンはマオを凝視していた。

「おい! 俺の許嫁だぞ! じろじろ見んな!」

「これは失礼した。そろそろ宴を始めようか。」

 ワンが手を叩くと、手下達がいっせいに武器を持って襲いかかってきた。時には避け、時には攻撃をして、四人は負けじと応戦した。マオは、炎を宿した爪で相手を蹴散らした。リンリンは青い炎を灯した拳で相手を殴る。ハオランは暗器と体術でリンリン・マオに負けない強さを示した。俺も体術で攻撃は避けて、何人かはグーパンでのした。

 しかし相手も妖力を持つ身。こちらも無傷とはいかなかった。マオも俺も、しっかり攻撃を食らうこともあった。そこら辺のチンピラより確実に強い。一方で、それをものともしないリンリン夫妻。リンリンは、しなやかな足さばきでネズミを蹴り上げ、武器を青炎の拳で破壊する。ハオランも、雷の妖術を使うネズミ相手に遠距離から暗器を投げたり、来電を避けるために電気を通す暗器を避雷針代わりにわざと近くに刺してみたり。最終的には相手の懐に入って近距離で体術を駆使してネズミの腹に連続で打撃を入れて倒した。

 リンリン夫妻の場数の多さと、洗練された強さが伺えた。そうして四人で、ネズミの手下を気絶させていく。殺しはしない。

 ふと、マオと俺が背中合わせで立ち会った。

「フェン、流石に疲れてきたニャ。しかもネズミ人間相手だと食えないからやる気出ニャいんだニャ。」

「そうだな、ネズミは衛生学的に病原菌キャリアだし本物のネズミでも食えないな。」

 足元に落ちていたサバイバルナイフを拾い上げると、俺は自分の腕をそのナイフで切った。

「マオ、血をやるからもうちょっと頑張れ。」

「うわびっくりしたニャ。いきなり痛そうなことするニャよニャ……」

 マオが指を鳴らすと、俺達二人の周りに炎の壁が出来上がった。これで攻撃されることなくマオが血を舐めとることが出来る。みるみる間に塞がっていく傷口。みるみる妖力が高まるマオ。もう、手下の数もだいぶ減ってきた。

 パンパン! と手を打つ音が聞こえて、ワンが不敵な笑みを浮かべていた。

「実に見事だ! 一匹も殺していない! 良いものを見せてもらった。我々は残虐な性分でね。共食いだってするんだよ。」

 ゾッとする話だ。ネズミの妖力を持つだけで、もとはただの人間のはずだ。

「良いものを見せてもらったお礼に、この札を贈呈して今日は退散しよう。」

 いつの間にかマオの横に来ていたワンが、マオに呪いの札を渡す。こいつ、速い。

「ふざけんニャ! 私と闘え!」

 ブンッと殴りかかるも、ワンはスルリと避けて元の位置に戻る。

「マオ、やめなさい。その男を侮ってはだめ。今回の目的は呪いのお札よ。目的が達成されたのだから退くわよ。」

「私は一向に構わんがね。」

 ぞろりとした殺気が辺り一面に広がった。間合いが広い。そして俺達は、動けない。

 ワンが指をパキッと鳴らすと、ザッと仲間の三人が俺を庇うように集まった。

「えっ、何、俺狙われてた⁉」

「意地汚いニャ……。」

「誉め言葉として受け取っておこう。ではそろそろ、おいとまするよ。」

 少数の部下を連れて、ワンは車に乗り込んだ。そして出口から、滞在先のホテルへと向かっていった。残ったまだ動けるネズミ達が、気絶しているネズミをワゴン車に詰め込んでいく。

「私達も帰りましょうか。」

 リンリンが言うと、マオは自分の炎でお札を焼き尽くした。灰が宙を舞う。

「ワン・ムーヤン……、許さニャい……。」

「いずれまた会うわ。力をつけましょう。さぁ、帰るわよ、マオ。」

 会長さんも心配だったので、リンリン夫妻はビルを飛び移って帰った。俺達二人はというと、リンリンの助言で、バスで帰ることにした。

「二人とも疲れてるでしょ。後始末は私達に任せて、ゆっくり帰っておいで。」

 一番後ろの席で、他にはあまり乗客は居ない。ふと、さっきから俺の腕を抱いて離さない真央がボソボソと話し始めた。

「ワンが風間を狙った時……一瞬、脳裏によぎったの。風間が死んじゃったら……って。とても、怖かった……。」

 俺は艶やかな黒髪の頭を撫でる。

「俺、狙われたことにも気付かなかったよ。俺が弱いから、真央姉にこんな心配させるんだよな。ごめんな。」

「ううん、風間は悪くない! 弱いのは、私なの……。」

「真央姉は強いよ。それにまだ場数を踏んでないだけだよ。これから強くなるんだ。俺も真央姉も。俺なんてチビだけど成長期が来たら身体もでかくなって背が伸びる。物理的に力も強くなる。心配いらないよ。」

「でも、それにも限界があるかもしれないわ。だって風間は、人間だから……。」

 真央姉は、右人差し指の指先を部分的に変化させて爪を出した。すると、左の人差し指をチリリと引っ掻いた。滲む真央姉の血。その指を、ほら、と差し出される。

「フェン、舐めて。」

 キラリと赤みの強い瞳が俺を捕らえる。

「わかったよ……。」

 血の盟約は、互いの血を飲む度に強度を増す。しかし、妖側である真央の血を飲むということは、段々と人を捨てる行為に等しかった。

「うっ……。」

 体内に炎が駆け巡るように熱い。汗が吹き出し、真央姉が繋いだ手をぎゅっと握ってくれている。ビキビキと身体中の筋肉が悲鳴を上げる。身体が、作り替えられようとしている。感覚が研ぎ澄まされ、これまでとは明らかに違う。今まで見えなかった、妖気の流れが見えた。

「フェン、目が赤く光ってる……。」

 痛みが引く頃には、家の最寄りバス停に着いていた。

「風間、大丈夫?」

「うん、痛かったけど。てっきり俺も変化するかと思ったけどしなかったな。」

「でも、目の色が変化してたよ。私とお揃い。」

 繋いだままの手を優しく引っ張って、真央姉を抱き寄せる。背丈が真央姉の方が高いのがちょっと気に食わないけど仕方ない。俺は今、成長期なんだ。

「真央姉、心配しなくて良いからな。」

「うん……。」

 抱き返された手の温もりに、俺自身も安堵する。俺達は、一蓮托生。生涯でただ一人の連れ合い。俺がいつか身も心も化け物に成り果てたとして、血の盟約が有効だったらいい。真央姉のために闘えたらいい。

「お前達、道の真ん中で何してんだい。」

 リンシンに見られた。バッと離れた俺達を見て、リンシンは呆れたように店の中に戻っていく。

「例の会長さんなら、ハオランの精気を分けてやって全快したよ。もう帰った。リンリンとハオランは荷物を置いてるホテルに戻ったよ。」

 ちょっと冷える夜風が、火照った身体に気持ちいい。また繋いできた真央姉の手を握ると、二人で家に入っていった。



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