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7. 素顔

 街道に着くと、有り難いことにニードルラビットは向こうの方からやって来てくれた。依頼書にある通りやはり異常繁殖なんだろうか、街道にはウサギが溢れていたのだ。


「まぁ、滅多に自発的には人を襲わないんだけどね、これだけ数が多いと確かに危険だね。」

 街道に溢れかえるウサギを見て、ルーフェスは苦笑して言った。ニードルラビットは群れで行動する習性がある。その為一匹に危害を加えると、周囲にいる仲間が一斉に襲い掛かってくるのだ。


「とりあえずここにいるのは八匹ね。私が最初の一匹を仕留めて引きつけるから、後は流れで上手くやってね。」

「君の作戦は、いつも作戦になってないな……」

呆れつつも、このアンナの無茶振りをルーフェスは了承した。


 標的に定めた群れからは、まだ少し距離がある。二人は武器に手をかけて群れを睨みながらゆっくりと間合いへと近づいていく。


 じわじわと慎重に距離を詰めて、彼らの間合いに入ったその瞬間、アンナは一番手前に居た一匹に抜刀しながら飛びかかったのだった。


 一匹目。


 そしてそのまま流れるように、すぐ横のもう一匹を仕留めた。


 二匹目。


 すると仲間が襲われたことを察知して、群れのニードルラビットは一斉にアンナ目掛けて突進を始めたのだが、既にルーフェスがアンナの背後に回り込んでいて、後方からの攻撃に備えていたのだった。


 死角からアンナを狙ってくるニードルラビットに対して、ルーフェスは持ってる鉄杖を振りかぶって薙ぎ倒す。


 三匹目。


 また、別の方向からも同時に二匹が彼に向かって来た。

 避けるのは簡単だが、自分が避けてしまうとアンナがまともに突進をくらってしまうので、ルーフェスは咄嗟に身に纏っているローブを脱ぎ右側の一匹の方へ投げつけて動きを鈍らせると、その間にもう一匹の方を殴打で仕留め、そしてローブから抜け出した一匹にも、追随を許さずに強打を浴びせたのだった。


 四匹目、五匹目。


 ルーフェスが後ろを守ってくれているお陰で、アンナは目の前だけに集中出来た。なので彼女目掛けてあらぬ方向から突進してくるニードルラビットにも素早く対応し、たやすく切り払って駆逐していく。


 六匹目、七匹目。


 しかし、この二匹に気を取られていた為、アンナは自身の死角ギリギリの右横に居る、最後の一匹を見失っていた。

 その一匹は、仲間の仇と言わんばかりに、頭の角を突き出すと、勢いをつけて迷うことなくアンナ目掛けて突進してきたのだった。


 そんな敵の強襲に気付いていなかったアンナを、ルーフェスは後ろに強く引っ張った。


 不意に強い力で後ろに引っ張られたので、彼女は尻餅をつく形で転んでしまったのだが、その途端に、アンナが立っていた場所を大柄なニードルラビットが物凄いスピードで駆け抜けて行ったのだった。


 体当たりの目論見が外れたニードルラビットは、少し離れた所で急停止しすると、すぐさま第二撃を繰り出そうと体を反転させたが、勢いがあり過ぎた為に、足を滑らせて体制を崩してしまっていた。

 ルーフェスは、その僅かな隙を見逃さずに一足飛びに距離を詰めると、最後の一匹の脳天に鉄杖を振り落として絶命させたのだった。


 八匹目。


「大丈夫?」

 地面にぺたんと腰を落としているアンナを覗き込むと、ルーフェスは彼女に手を差し伸べた。


 先程ニードルラビットに投げつける為にローブを脱ぎ捨てていた彼の姿は、銀髪をなびかせたとても美しい青年であった。


 初めてローブを取った姿を見たアンナは、それはまるで物語に出てくる王子様みたいだと、思わず見惚れてしまったが、その事を気づかれぬ様に平然を装った。


「ありがとう。でも、せめて後ろに引っ張る前に一言欲しかったわ。」

「ごめんね、間に合わないと思ったから。怪我は無い?」


 大丈夫、と答えてルーフェスの手を借りてアンナは立ち上がった。


 素敵な男性に手を差し伸べられるという子供の頃に憧れたシチュエーションに直面し、アンナは少しときめきを覚えたが、周囲に散らばる、八匹のニードルラビットの死体を眺めると冷静になって、ふぅーと一つ長い息を吐いたのだった。


「ところで、今回は魔法を使わなかったのね?」

「滅多に使わないよ、目立つ訳にはいかないからね。それに、詠唱して呪文を唱えるより殴ったほうが早いし。」


 魔法を使わなくてもこんなに強いのか。

 昨日、大概の武器の扱いには心得があると言っていたのは、見栄でも何でもなく、本当の事なのだろうなと改めてアンナは彼の技量に感心した。


「やっぱり、貴方と組んで良かったわ。」

 本人に聞こえるか聞こえないか分からない位の小声で、アンナは実感を込めて呟いたのだった。

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