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67. 叔父との対決

 十時の鐘が鳴る頃、アンナとルーフェスは裁判所の一室に座って居た。


 向かい合って反対側にはアンナの叔父である、現ラディウス男爵が不機嫌そうな面持ちで、二人を睨みつけている。




「それでは、両者揃いましたね。審議会を始めさせていただきます。」

 そんな険悪な空気の中、初老の審議官が厳かに宣言すると、審議会が始まった。


 いよいよだ。


 けれどもアンナは叔父を前にすると怖い気持ちが溢れ出して最初の一言が言えなかった。


 すると横で見ていたルーフェスが、そんな、アンナの様子に気づいて背中にそっと手を当ててくれたので、アンナは冷静さを取り戻し、一度深呼吸をすると、堂々と目の前の叔父に向かって、自分の権利を主張したのだった。


「私、アンナ・ラディウスは、父の遺言の通り、ラディウス男爵位を正当に継承する権利を主張させていただきます。」

 凛然と前を向いて、アンナは宣言した。


 彼女の主張を聞き入れて、審議官は今度は叔父の方に発言を促す。


「では、ラディウス男爵はこれについて反論はありますか?」

「反論も何も、こんなの認められるわけないだろうが!!」

「しかし、この遺言書は有効ですよ。」

「遺言書が有効だろうが、無効だろうがそんなの関係ない。そもそも、この女が本物のアンナ・ラディウスであるという証拠がないじゃ無いか!!」

「ですが、登録されている出生記録と彼女の供述は一致しています。目や髪の色も登録どおりですし、こちらが実施した前男爵の関係者への聞き取り調査でも不自然な点はありませんでした。」

「そんなの、事前に根回ししておけばどうにだって出来るだろう!!こんななりすまし女に爵位を継がせるなんて正気の沙汰じゃないぞ!」

「ふむ、確かに一理ありますね。どうでしょうアンナさん、何か他に自身が前ラディウス男爵の娘である事を証明する方法はありますか?」


 一筋縄ではいかないと思っていた通り、やはり叔父はアンナの事を頑なに認めたなかった。けれどもこれは織り込み済みだったので、アンナは狼狽える事なく審議官からの問いに答えた。


「はい。あります。これは、父の形見の剣です。」


 そう言って、アンナは自身と常に一緒にあった愛剣を審議官に粛々と提出したのだった。


 あの日家から持ち出せた物は、もうこの剣しか残っていない。言わばこの剣は彼女がラディウス前男爵の娘である事を証明する最後の砦だった。


 審議官は鞘に入ったその剣を手に取ると、柄の部分にある家紋を何度かなぞって、その剣の真贋を確かめていたので、アンナは強張った表情で審議官をじっと見つめると、心の中で祈りながら返答を待った。


 そして彼は、判断を下した。


「……確かにラディウス家の家紋が入っていますね。前男爵の持ち物でしょう。」


 暫くの静寂ののち審議官から述べられた言葉に、アンナはホッと胸を撫で下ろすと顔いっぱいに溢れんばかりの笑顔を咲かせた。


 遂に、悲願が叶うのだ。


 アンナは万巻の思いで胸が一杯になったのだが、けれどもその明るい表情は、叔父からの言いがかりによって一瞬でかき消されてしまったのだった。


「そんなの、模造品に決まってる!!腕の良い職人ならソックリに作れるだろう?!証拠には認められない!!!」

「……まぁ、確かにその可能性も否定できませんね。」

「そんな……」


 頑なにアンナの事を認めない叔父の主張を、審議官も受け入れてしまったのだ。


 そのやりとりに、アンナは愕然とした。

 唯一の形見である父の剣まで否定されてしまったら、自分がラディウス前男爵の娘である事を証明するものが本当に何も無くなってしまうのだ。


 アンナの表情は再び曇り、為す術なく押し黙ってしまった。


 部屋はひっそりと静まり返り、叔父だけが一人、勝利を確信したかのようにほくそ笑んでいる。


(そんな……ここまできて私たちの主張が認められないなんて……)


 この五年間は一体何だったのか。

 叔父によって奪われた弟の未来を取り戻すという目標が、目の前で崩れ去っていく。


 この絶望的な状況にアンナが打ちひしがれて手も足も出ないでいると、すると突然横に居るルーフェスが、「あっ…!!」と、何かを思い出したかのように声を上げたのだった。

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