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6. 再会

 翌日。


 アンナはいつもより遅い時間にギルドへと向かった。昨日と同じ時間帯ならば、またルーフェスに会えるかもしれないと思ったからだ。


(もし、もう一度彼に会えたら、もう一回、一緒に組んで仕事をしてみないか聞いてみよう。)


 昨日エミリアに言われて、ギルドの仕事をする上で、ルーフェスほど最適なパートナーは居ないのでは無いかと、アンナは気付いたのだ。


 だからもう一度彼と一緒に仕事をしてみて、不快に思ったり、煩わしさを感じなければ、暫く自分と組んで一緒に仕事をしないかと、固定パーティーを組む事を提案するつもりだった。


 この仕事に元から反対しているエヴァンやエミリアに少しでも安心して貰うためにも相方は居た方が良いかったし、何より、二人なら受けられる依頼の幅がグッと広がるのだ。


 その為にはルーフェスにもう一度会う必要があって、アンナはわざと遅い時間にギルドにやって来たのだが、しかし、閑散としたギルドの中を見渡しても残っている冒険者の中に、御目当ての人物の姿を見つける事は出来なかったのだった。


 アンナは現実はそう簡単じゃないと、一人深くため息を吐いて肩を落とした。


(確証があった訳じゃないのに、わざとギルドに行く時間を遅らせるなんて馬鹿な事したわね……)


 仕方なく、掲示板に残っている少ない仕事の中から彼女一人でも出来そうな仕事を探すが、どれも面倒な依頼ばかりで、手を出すには躊躇いがあった。


(この時間に残っている依頼は、私一人でやるには厄介な仕事ばかりだけれども……。それでも、何か仕事をしないと借金を返せないし手持ちのお金も直ぐに無くなってしまうわ……)


 アンナは覚悟を決めて、残っている依頼の中でも比較的危険度の低いものに手を伸ばした。

すると、不意に後ろから声をかけられたのだった。


「アンナ、その依頼を一人でやるつもりなの?」


 振り返ると、そこには探していた人物が立って居たのだ。


 ルーフェスはたった今ギルドにやって来たところで、アンナが一人で依頼を物色している姿を見かけると、思わず声をかけたのだった。


「ニードルラビットは確かに低級モンスターだけども、一人で捌ききれる数じゃないでしょそれ……」


 彼女が手にした依頼書の内容は、街道に異常繁殖している魔物、ニードルラビット三十匹の討伐依頼だ。


「数が多いから時間はかかるかもしれないけど、一人で出来るのこの位しか残ってないのよ……。でも、……よければまた手伝って貰えないかしら?」


 今日はもう会えないかと思っていた彼の出現に、わざわざギルドに来る時間を遅らせた甲斐があったと、アンナは嬉しく思った。


 手にしている三十匹もの魔物の討伐は一人で出来ないことも無いが、彼の指摘通り自分でも一人でやるには中々しんどいとは思っていたのだ。

 けれども、また共同で依頼を受ければその懸念も解消できるので、アンナは素直にルーフェスに助けを求めたのだった。


「手伝うのは構わないけど……。それ、二人でも大変だと思うよ?」

「……そうかしら?貴方と私、二人でやればニードルラビット三十匹の討伐くらい簡単ではないかしら?」


 ニードルラビットは、文字通り角が生えたウサギであり、一対一ならば、駆け出しの冒険者一人でも倒せる程度の魔物なのだ。

 ただし、ニードルラビットは群れで活動する習性を持っていて一度に複数体が襲ってくるので、そうなると多少危険度は上がるのだが、それでも、この二人でならばその程度の低級な魔物などなんなく倒せるだろうに、アンナはルーフェスが何を懸念しているのか分からなかった。


 すると、分かっていない様子のアンナを見て、ルーフェスはアンナが見落としている大事な事を教えてくれたのだった。


「倒すだけならそうだけども……。それ、討伐確認にニードルラビットの角を納品するんだよ?つまり、三十匹も解体するんだよ?角を切り落とすのどれだけ大変だか知ってる?」


 ルーフェスに指摘されて、改めて依頼書をよく読むと、確かに書いてあった。



——————

【ニードルラビット三十匹討伐】

特記事項:

街道に異常繁殖中

討伐証明として、ニードルラビットの角を三十本納品する事

——————



 彼の指摘にアンナは固まった。

 確かに解体の事まで考えてなかったのだ。

 押し黙ったアンナの様子を見て、ルーフェスは察したのだった。


「……見てなかったんだね、納品物のところ。」

「……えぇ……」


 二人間に気まずい沈黙が流れた。


「……でも、数は多いから時間はかかると思うけれども、達成出来ない事はないと思うの。だから……一緒に頑張って貰えないかしら?」

 アンナは彼の手を取り、最大限に可愛らしく言ってみた。


 また面倒な依頼に巻き込もうとしているので、負い目は感じるが、背に腹はかえられ無いので、なんとしても手伝ってもらうしかなかったのだ。


「……分かったよ。出来る限り協力するよ。君の事だから、無茶して一人でも依頼を受けてしまいそうだしね。」


 少し呆れ気味にではあるが、今日もまた一緒に依頼をする事を承諾してくれたので、アンナは胸を撫で下ろした。

 今日の仕事の確保と、ルーフェスともう一度一緒に仕事をすると言う目的。どうやらこの二つは無事に達成できそうだ。


「有難う!それじゃぁ直ぐにでも倒しに行きましょう。」

 アンナは、手にした依頼書を受付に持っていき、この依頼を自分達が受けると申請すると、ルーフェスにも早く来るようにと促して出口へと急いだ。


「そうだね。直ぐにでも行かないと多分日が暮れるまで終わらないしね。」

 ルーフェスは、そんな彼女の様子を後ろから見守りながら、ゆっくりと後をついて行ったのだった。



(それにしても……)

 辻馬車の発着場へ向かう中、アンナは先程のやり取りを思い出していた。


(昨日は効かなかったのに、今日はエミリアの教えてくれた技が効いたってことなのかしら……?だとしたら、昨日と今日の違いは一体何なんだろう?)


 手を握って、可愛らしくお願いするという行動は昨日と同じなのに、今日はあっさりとルーフェスへのお願いが受け入れられた事が些か不思議で、心の中で一人、首を捻ったのだった。

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