58. 計画の第一歩
「エヴァンただいま!エミリアは居るかしら?!」
クルト村から王都へ戻ると既に夜になっていた。
アンナはリチャードとリリアナの二人を連れて家に帰ると、帰宅の挨拶もそこそこに、頼りになる親友の姿を探したのだった。
「姉さん?!早かったね?!」
「アンナ、え?本当に連れ戻しこれたの?!」
エヴァンとエミリアは、丁度夕食を食べているところで、アンナの帰還がリチャードを探すと言って出て行ってからまだ一日しか経っていなかったので、あまりの早さに、二人はあんぐりと驚いていた。
「えぇ。無事に連れ戻す事が出来たわ。二人とも入って来てください。」
そう言ってアンナは後ろに連れていた二人を家の中へと招き入れると、二人にエミリアを紹介したのだった。
「リチャード様、リリアナ様、こちら昨日お話しした女優のエミリアです。」
「えぇっと。初めまして、エミリアです?」
急にアンナに紹介されて、エミリアは戸惑いながらも一礼をすると、名を名乗り簡単に自己紹介をしてみせた。
「初めましてエミリア嬢。私はリチャード。この前貴女の舞台を観賞しました。とても素晴らしかったですよ。」
「初めましてエミリアさん。私はリリアンナと申します。この間観させていただいた劇には、本当に感動しましたわ!」
リチャードとリリアナは、とてもにこやかにエミリアの事を賞賛し、笑顔で手を差し出してきたので、エミリアはそれぞれと戸惑いながら握手を交わした。
「それはどうも……。えーっと……有難うございます?」
エミリアはこの状況が全く飲み込めず、何をどうしたら良いのか分からなくて、アンナに困惑の目配せして彼女に助けを求めると、それに気付いたアンナは、リチャードとリリアンナとの事の経緯を簡単に説明すると、それからエミリアの手を取ると、真剣な眼差しで彼女に訴えかけたのだった。
「単刀直入に言うわ。エミリア、貴女の協力が必要なのよ。お願い、力を貸して!!」
「アンナ、私は貴女の助けになるならば喜んで力を貸すけれども、でも一体、何をすればいいの??」
大体の経緯は説明を聞いて何となく把握したものの自分に何を求められているのかが全く分からずに、エミリアは未だ戸惑っていた。アンナのみならず、リチャードやリリアナまで、何かを期待する目をエミリアに向けているのだ。
自分に何かとんでもなく重要な事を頼むのではないかと、エミリアは少し身構えてアンナの言葉を待った。
そんなエミリアの緊張が伝わって来たのか、アンナは張り詰めた空気の中、真剣な顔で重々しく口を開いた。
「あのね、今から言うこの計画は、劇団の協力なくては実現できないの。だからエミリアには、劇団との橋渡しになって欲しいの。」
アンナはエミリアの手をギュッと握って彼女の目を真っ直ぐに見てそう言うと、エミリアとエヴァンに、自身が素案を考えて、リチャードとリリアナと共に丁寧に練り上げた計画を詳しく説明したのだった。
***
「成程!それは面白いわ!!!うちの劇団の話題にも繋がるし、きっと団長も協力するわ!いいえ。私が絶対に協力させるから、任せて!!」
「それは、とても頼もしい。頼りにしてるよ、エミリア嬢。」
「えぇ、えぇ。任せて下さい。」
アンナの説明を聞き終えると、エミリアはさっきまでの不安そうな態度は影を潜めて、顔を輝かせて興奮した口調でアンナの計画に賛同の意を示していた。
彼女は説明を聞いてこの計画に凄く乗り気になったのだ。
心強い味方を手に入れて、リチャードもリリアンナも嬉しそうに笑みを浮かべていた。
こうして、アンナの計画はまた一歩実現に近づいたのだった。
しかし、一歩進んだは良いものよ、アンナはたちには今解決しなければいけない別の問題がまだ残っていた。
「それで、当面の問題は……どうやって、ルーフェスを外に連れ出すかと、リチャード様とリリアンナ様をどこで匿うかね。うちは流石に二人も泊められないわ。」
家出中の身であるリチャードとリリアナを、どこで匿うのか。その場所が無いのだ。
一人くらいならアンナの家でも何とかなったが、狭い借家なので、二人一緒に匿う事は流石に無理だった。
「そうね……家に一人来てもらうって言いたいところだけど、ごめんね、家にはその余裕が無いわ。」
「そうよね……」
そんな風にアンナとエミリアが頭を悩ませていると、横からリチャードが「考えている事がある」と、口を挟んだのだった。
「私たちの居場所については、もう一人協力者を巻き込もうと思ってる。そうすれば彼の屋敷に匿って貰えるし、それに彼の協力があれば、ルーフェスとも接触できると思うんだ。」
「当てが有るんですか?」
「うん。でもそれには、エミリア嬢の協力が絶対に必要なんだけど、いいかな?」
「えっ、私???」
「後はそうだな……。ルーフェスに接触するのには君にも手伝って貰いたいかな。」
「えっ、俺も??」
エヴァンとエミリアは、急な指名に戸惑ってお互い顔を見合わせると、怪訝そうな顔をリチャードに向けた。
するとリチャードは、そんな二人の戸惑いを解消するべくニッコリと笑って、自信を持ってその考えを皆に披露したのだった。




