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33. エヴァンの帰宅

「ふぅ……」

 ダイニングの椅子に座ると、アンナは深く息を吐いた。昨日からずっと気を張っていたが、ルーフェスの容態が安定したのを見届けたことで、ようやく完全に緊張の糸が切れたのだ。


 すると一気に眠気が押し寄せてきたので、アンナはそのままゆっくりと椅子の背にもたれかかるようにして、深い眠りの海に落ちていった。




 どの位経っただろうか。


 玄関のドアが開く音と「ただいま」という声が、眠りの海を彷徨っていたアンナを現実へと引き戻した。


 どうやら、弟が帰ってきたらしい。


「エヴァン、お帰りなさい。お使い有難うね。」

 アンナは重い瞼を擦りながら慌てて立ち上がり、一仕事終えて帰ってきた弟を労った。


「どうってこと無いよ。」

 当たり前の働きをしたのだから特段労いは要らないという感じでエヴァンは素っ気なく返事をすると、抱えていた荷物をダイニングテーブルの上に広げて見せたのだった。


「これは……?」

 彼がテーブルの上に広げた荷物を、アンナも覗き込む。


「ジェフって人に渡された。着替えと……多分コレは傷薬?」

 そう言ってエヴァンが指差す先には、紫色の小瓶が転がっていたが、その特徴的な小瓶の形状を見て、アンナは目を丸くして驚いたのだった。


「えっ、待って?!これって最上級品の傷薬よ!!」


 それは、万能薬とも言われている、冒険者であってもそうでなくても、誰しもが喉から手が出るほど欲しい一品であったのだ。


「その小瓶、そんなに凄いものなの?」

「そうね……。正規値段ならこの小瓶を買うのにこの借家の家賃の二、三ヶ月分を払わないと買えないような代物よ。」


 アンナは、まだ男爵家で両親と暮らしていた頃に父が恩賜の品として国王陛下から賜ったその薬を使って、魔物討伐で重傷を負った若者を回復させた事を覚えていたのだ。だから、この小瓶の価値が一目で分かった。


「うわっ、そんな高価な物を何も知らずに運んでたのか。良かった、落として割らなくて。」

「ふふっ、そうね。丁寧に運んでくれて有難うね。」

 説明を聞いて自分が運んでいた物の価値が分かるとエヴァンはたじろいだが、アンナはそんな彼の頭を優しく撫でて、その功績を労った。


「……それで、あの人は?寝てるの?」

 あの人とは、勿論二階のアンナの部屋で寝ているルーフェスの事である。

 エヴァンは頭を撫でるアンナの手から気恥ずかしそうに逃れると、自分に伝達役を頼んだ張本人はどうしているのかと尋ねたのだ。


「えぇ。さっき眠ったところよ。」

「そっか。ジェフって人からあの人宛に伝言も預かってるんだけど……」

「もう少し寝かせておいてあげたいんだけど、その伝言は、早く伝えた方が良い物なの?」

「うーん……。……どっちかって言うと……そう……かな……?でも、直ぐにって程でもないか……な?……正直、俺が聞いても何のことか分からなくって……」


 煮え切らない様子の弟を見て、その伝言は本人が聞かないと正しく意味を理解できない内容なのだなと察して、アンナはチラリと時計を見た。


 先程ルーフェスが眠ったのを確認してからは一時間が経過していたが、彼の具合を考えると、せめて二時間は連続して寝かせてあげたかったのだ。


「そうね、もう少しだけ寝かせてあげて後一時間したら声をかけに行きましょう。」

「了解。じゃあ時間になったら教えてよ。部屋に居るから。」

「えぇ、分かったわ。」


 そうしてエヴァンは自室に引き上げて行って、アンナはまたリビングで一人椅子に座った。


 それからアンナは目の前に広げられたままの荷物を改めて眺めて、徐にその中の一つである紫の小瓶を手に取ると、そっと胸の前で握りしめたのだった。


(この薬ならば、きっとルーフェスの傷もよくなるわ……)


 何故こんな高価なものを一介の庭師が持っていたのかという疑問はあるが、それでもこの薬があれば、彼のあの深い傷が綺麗に治るのではないかと、期待出来るのだ。


 それを思うとアンナの心を占めていた不安はどんどん小さくなってゆき、彼女は自然と穏やかな表情になったのだった。

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