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20. 観劇へのお誘い

 討伐依頼を終えた二人が乗っていた乗合馬車は、定刻通り市街地へと到着した。いつも通りなら後はギルドに戻って依頼完了の報告をして、報酬を受け取り精算が終われば二人はそこで解散となる。


 けれども、アンナは今日はこのままルーフェスと別れたく無かったので、「じゃあまた明日」と言って去っていこうとする彼を、勇気を出して呼び止めたのだった。


「ルーフェス、この後時間ある?友達が女優をやってる劇団の公演チケットを貰ったの。よかったら一緒に観に行かない?」

 アンナは、そう言ってカバンの中の観劇のチケットを握りしめると、意を決してルーフェスに差し出した。


「お芝居?」

「うん。結構人気があって、中々手に入らないチケットなのよ。折角貰ったのだから、良かったら一緒にどうかな?」


 今までに無いお誘いに、ルーフェスは目を丸くして驚いていたので、アンナは断られたらどうしようかと不安に思いながら、彼の返事を待った。

 それはほんの数秒の間であったが、アンナにとっては酷く長い時間であった。


「面白そうだね。是非、観てみたいな!」

「うん!一緒に観に行きましょう!!」


 断られるかも知れないと、不安に思っていた所に色良い返事をもらえた事で、アンナは心の中で飛び上がって喜んだ。頬も自然と緩んでしまう。

 これで今日はいつもより長くルーフェスと一緒に居られると思うと、嬉しい気持ちが溢れ出していた。


「これって中央広場に設営されている大きなテントの所だよね?」

「えぇ。今はあそこで公演しているわね。三ヶ月公演って言っていたかしら。」

「そっか。中央広場のテントって、ずっと憧れてたんだよね。あれって、演劇とかサーカスとか、楽しい物の象徴だよね。いつかはあそこの催し物を観に行ってみたいとは思っていたから、誘ってくれて嬉しいよ。」

「今まで一度も観たことがないの?」


 思いもよらない彼の言葉に驚いてアンナは思わず聞き返してしまった。


 王都の中央広場にはいつも大きなテントが張ってあり、サーカスや劇団等、設営の許可を買った様々な興行主が入れ替わり立ち替わり楽しい娯楽を人々に提供していたので、席種によって値段の幅はあるが、大体の興行は一般席はリーズナブルな値段設定なので、中央広場の興行は平民の間でも娯楽として広く浸透している物だったから、一度も見た事がないという人は珍しかったのだ。


「うん。中央広場のテントに来たことは一度も無いんだ。だから本当に誘ってもらって嬉しいよ。楽しみだな。」


 ルーフェスは子供の様なキラキラした笑顔で答えた。どうやら彼は本当に心から演劇を楽しみにしているらしい。それが一目で分かるくらいに、顔を綻ばせているのだ。


「あら、それなら尚のこと誘って良かったわ。エミリアの劇団の公演は本当に素晴らしいのよ。歌、踊り、音楽に照明、そしてストーリー。それら全てが合わさって、貴方絶対に劇の世界に引き込まれるわ!」

「それは本当に、楽しみだな。」

「ええ。本当に、楽しみね。」


 嬉しそうな彼の顔を見て、アンナも釣られて笑みが零れる。


(これはきっと、素敵な想い出になるわ。)


 大好きな劇を、好きな人と一緒に観る事が出来るなんてまるで夢の様で、アンナはチケットをくれたエミリアに、心の底から感謝したのだった。

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