病み堕ち
毎日が楽しい。学校に行くことが。友達と話すことが。家族とご飯を食べることが。そのすべてが楽しい。
全部先輩のおかげだ。あの人がすべてを変えてくれた。雨の中迷子のようにさまよっていた私にかさをさしてくれた。私に光をくれた。
彼は私の「王子さま」だ。
「先輩!来週、近くの公園に大道芸師が来るらしいですよ!一緒に見に行きましょう!」
友達と一緒に帰るのもいいけど、先輩と帰るのはやっぱり一番楽しい。
先輩といれば、何気ないの会話をするのが楽しい。ただ黙って歩くだけでも楽しい。夕日に照らされる横顔を眺めるのが楽しい。
あぁ、こんな毎日がずっと続けばいいのに。それでいつか恋人になって、ゆっくりと愛をはぐくみながら結婚して、最終的にはおんなじ墓の中で…。
想像するだけで、これからの日々への希望があふれて胸が躍る。
何となくじっとしてられなくて、一気に横断歩道を駆け抜ける。今は夕日が出てるし、先輩からいい感じに見えたりしないかな?
「先輩!」
私が後ろを振り向きながらそう呼びかけた時だった。
「……は?」
彼が車にはねられたのは。
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「んぁ…」
目を開けると僕は知らない場所で寝ていた。
初めのうちは混乱していたが、時間がたつにつれて意識が判然としてくる。
「あぁ…」
そういえばそうだった。後輩と帰っていた時にはねられたんだ。
その事実を思い出すとなんだか体の節々が痛い。痛みをこらえながら上体を起こして、まわりをみわたす。やっぱりここは病室だ。
寝起きで頭が回らず少しぼ―としていると、扉の開く音がした。
「…えっ。先輩?」
学校帰りなのだろうか。制服姿の後輩は僕のことを視認すると
「よかったぁ……。よかったぁ……」
そう涙を流しながら僕に抱き着いてきた。
「一日中寝たきりだったんですよ……。先輩が死んじゃうかも、と思うと怖くて…怖くて……」
ぎゅっと、強く僕を抱きしめる。声は弱弱しく、体も震えている。
そんな風にされるととてもいいにくいが、めっちゃ痛い!
「痛い!痛い!抱きつないでくれ!」
「わわっ、ご、ごめんなさい」
彼女は申し訳なさそうに僕から離れていく。まぁ、でも、抱き着いてくるなんてそれだけ心配かけたってことだよな。
僕から少し離れて、様子を窺うようにこちらを眺めている彼女を手招きする。
「ごめんな、心配かけて」
そういって、いつものように彼女の頭をなでようと手を伸ばす。しかし、
「っっ」
体が痛くて手をうまく伸ばせず、顔をしかめる。
やばいな、こんなの余計心配かけてしまう。
「……あぁ」
彼女は僕の情けない姿を見て言葉をこぼす。そして、今までに見たことのないような暗い目をして
「……やっぱり、わたしがまもらないと。ワタシが、マモラナイト」
何かを小さくつぶやいた。
先輩:とてもやさしい人。根っからの善人。高校二年生になってふと見かけた一年生がめっちゃ暗い顔していたのを見て、手を差し伸べた。いろいろと苦労したが、後輩と仲良くなることができて、楽しそうな姿を見ることができて満足している。後輩に対し恋愛感情は抱いていないが、今まで苦労した分幸せになってほしいと思っている。
後輩:幸薄系女子。今までの人生でいろいろと苦労してきた。それこそ闇堕ちしそうだった。しかし、そうなる前に先輩に救われた。先輩が見返りを求めずに自分を助けてくれたことに対して、一生をかけてお返ししようとしている。先輩に幸せにしてほしいと思っていた。きっと、おそらく、多分、先輩が車にはねられなかったら、ちょっと?重たい想いを抱いてる女の子として生きて行けたかもしれない。ただ、無事病み堕ち。