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白雪姫

作者: 田中タロウ

「一目惚れした女を物陰に隠れて見守る男」



うわー、こんな奴とダチになりたくねー!

むしろ、ダチにこんな奴いたら、速攻、縁切るね。


どこの誰だよ!?って感じ。



・・・はい、俺です。




俺はほとんど恩情で高校を卒業した後、

当たり前のようにプーになった。


ん?

プーなのか?フリーターなのか?ニートなのか?

何が違うんだ?

まあ、いっか。

とにかく、無職ってことだ。


で、俺は仕方なくバイトをすることにした。

遊ぶにも金がいるからな。


正社員じゃなけりゃ、結構雇ってくれるところはある。

クラブとかでのお洒落なバイトなんかもあったが、

近所のスーパーの生鮮食品運搬の時給が一番よかった。


まあ、別にカッコつける必要もないし、

金になるなら何でもいいや。


そう思って始めたスーパーのバイト。




ところが始めて3日目。

野菜の陳列をしていると、声をかけられた。

「蚊の鳴くような声」って言うけど、まさにそんな感じの声だった。


余談だが、蚊って鳴くのか?

あの「プーン」って音のことか?

あれ、かなりうるせーぞ。


でも、俺にかけられた声はそんな耳障りな声ではなく、

今にも消え入りそうな、か細い声だった。


「すみません。キャベツってどこにありますか?」


キャベツなんてデカイ野菜、聞くまでもなく見つけられそうだぞ。

しかも、声をかけられた俺の手には、まさにそのキャベツがあった。


「あ・・・すみません。そこにあったんですね」


この間、俺は一言も発していない。

なぜなら、この「蚊の鳴くような声」の主に見とれていたから。


ちっちゃくて、細くて、すごくかわいい女の子。

透き通るように白い肌と、真っ黒な瞳のコントラストが魅力的過ぎる。



俺は一目で恋に落ちた。

生まれて初めての一目惚れ。

キャベツ売り場の前ってのがイマイチだけどさ。



俺はその女の子に勝手に「白雪姫」と言うあだ名をつけた。

だってまさにそんな感じだ。


・・・って、俺、ヤバイ?

かなりイタイ奴だぞ。


自分でもわかってるが、この気持ちは止められない。

それ以来、俺は毎日バイトしながらスーパーの中で白雪姫を探した。



なんで、最初の2日間、俺は白雪姫を見つけられなかったんだ!?

と思うほど、白雪姫はよくスーパーに来た。

正確には毎日来た。


うわーーーーー

マジでかわいいなあ・・・

こっちのキュウリとあっちのキュウリ、どっちが新鮮かしら?

なんて小首を傾げてる姿なんてもう最高!(変態街道まっしぐら)

見てるだけで幸せになれる・・・


最初のうちは、白雪姫にしか目が行かなかった。

でも、数日経つとあることに気づいた。

白雪姫の押す、カートの中身だ。

その量たるや、半端ではない。


牛乳30本、

肉5キロ、

卵30パック

等々。


数えたわけじゃないが、そんくらい凄い量だ。

しかも毎日。


よく観察してみると、スーパーの行き来も、

この量の食材を運ぶため、大きなワンボックスカーを使っている。


白雪姫が車の運転。

信じられないくらい似合わない。

しかもいっつも縁石乗り上げてるし。

でもそんなところもかわいい・・・


おっと、それどころじゃなかった。

なんでだ?

なんでそんなに食材が必要なんだ?



俺は推理してみた。


推理1

大勢のヤクザが住む魔の巣窟で、使用人として無理矢理働かされている


推理2

大家族の長女で、毎日家族のために飯を作っている



「推理1」は却下だな。さすがに現実離れしている。

てゆーか、もはやファンタジー。

「推理2」はありえなくはないが、それにしても買い物の量が多すぎる。

50人家族というならわかるが。


こうして俺は、至って現実的な、


推理3

食い物屋で働いている


という結論に至った。



どんな店なんだろー?

白雪姫のイメージからして、カフェって感じだな。

いや、意外と小料理屋のママなんて言うのもアリかも。


俺の妄想はどんどん膨らんでいった。

ヤバイヤバイ、と思いつつ止められない。

うわー、ダチがいなくなりそう。


だけど俺の幸せな妄想は、ある日突然止められた。

俺の白雪姫が、男を連れてスーパーに来たのだ!!!


白雪姫が男と一緒。

それだけでも俺のガラスのハートはズタズタなのに、

その男が俺なんかとは比べもんにならないくらいイケメンときた日にゃあ・・


「家政婦は見た!」よろしく、俺はバイトをほっぽり出して、

二人が買い物している様子を棚の陰から眺めた。


二人は仲良さそうに、カートに次々と食材を入れる。

いつもより食材の量が多い気がする。

それでこの男がついてきたのか?


白雪姫は奴に対して敬語を使っているようだ。

ってことは、兄貴って訳じゃないよな?

学校の先輩、とか?

それにしちゃ、歳が離れすぎてる。

白雪姫は俺と同じくらいだと思うが、

男の方は25,6のサラリーマンといった感じ。


・・・まさか、彼氏?

い、いや、そんな訳・・・


俺が一人で赤くなったり青くなったりしていると、

視界から急に男の姿が消えた。



「てめー、何モンだ?」


俺の後から声が振ってきた。

ビックリして振り向くと、いつの間にか白雪姫と一緒にいた男がいた。

しかも・・・

なんか、さっきとは別人みたいに怖いんですけど?

どちら様ですか?


「さっきから、何、俺達のことチラチラ見てやがる?なんの用だ」


気づいてたのか・・・。

てゆーか・・・

マジでこええええー。


「あ、いえ、その」


俺がしどろもどろになってると、白雪姫が駆けつけてきた。


「統矢さん!どうしたんですか?」

「小雪。こいつがさっきから俺達のことつけてやがるんだ」

「え?」


小雪ちゃん、ってゆーのかぁ。

うん、ぴったり。

かわいい名前だなあ。


こんな状況にも関わらず、俺は、

白雪姫の名前がわかったこと、

白雪姫がこんなに近くに来てくれたこと、

に、すっかり舞い上がった。


「統矢さん、この人・・・スーパーの人ですよ?キャベツ売り場専門の人です」


あ。俺のこと覚えててくれたんだね!

キャベツ売り場専門じゃないけどね。


「ここで働いてる振りして、俺のこと狙ってたのかも知れないだろ」


おい!なんでてめーのことを狙わないといけないんだよ!

俺が見てたのは白雪姫だ!


と、心の中で叫ぶ。

間違っても、この「統矢さん」にそんなこと言えない。


白雪姫は俺のことを心配そうに見ながら言った。


「そんなことないと思いますけど・・・」


ああ。

白雪姫に心配なんてさせられん!!!


「あの!なんのことか知りませんが、俺が見てたのはあんたじゃなくて、白雪姫です!」

「白雪姫!?」


統矢という男はしばらくポカンとしてたが、

すぐに全てを理解したらしく、腹を抱えて笑い出した。


「あはははは!バカな奴だな!!おい、小雪。こいつ、お前のこと白雪姫だってさ!!!」


白雪姫は真っ赤になる。


「まあ、白雪姫と小雪。あながち間違ってねーか。それにしても・・・ははは、変なやつ!」

「う、うるせー!」

「お前、かなりイタイぞ」

「わかってる!自分でもわかってる!」

「あはははは!」


どうやら相当コイツのツボだったらしく、

いつまで経っても笑い続けてやがる。


一方、白雪姫は、というと、もはや白雪姫というより赤頭巾ちゃん、と言いたくなるほど

全身を真っ赤にさせている。

それでもかわいいゾ。


ようやく笑いの虫が納まったのか、統矢って奴は俺に言った。


「お前、小雪のことが好きなのか?」

「そ、そうだ!」

「あはは、ほんとアホな奴」

「うるさい!」

「あ、あの!」


急に白雪姫が口を挟んだ。


「統矢さん・・・帰りましょうよ」

「そうだな」


え?帰っちゃうのか?この状況で?


「ちょっと待て!」

「なんだよ?」

「何って・・・だから、その・・・」

「なんだ?小雪がほしいのか?」


ほしいのか、って聞かれればほしいが、

物じゃねーぞ、白雪姫は!


俺は統矢って奴をギロっと睨む。

すると、統矢は俺を値踏みするように見た。


「ふーん。俺のこと知らないにしても、度胸だけは一人前だな」

「てめーは何様のつもりだ!お前の事なんか知ってるわけねーだろ!」

「おうおう、そうだろうな。だけどな、俺は小雪の雇い主だ。

その俺にその態度はマズイんじゃねーの?」


ま、まさか、推理1が正解!?

んで、こいつがボスキャラ!?

・・・いかにも、ボスキャラって感じだしな。

すっげー、こえーもん。


しかし!!!

だからこそ、この俺が白雪姫を助けなければ!!!


「小雪のことがほしいなら、まず俺に許可取ってもらわねーとな」

「ください」

「アホか。やらん」

「じゃー、どうしたらいいんだよ!?」

「んー、そうだな・・・お前、車運転できるか?別に免許は持ってなくていいけど」


おいおい。


「できる!免許も持ってるぞ!」


一週間前に取ったトコだけどな!

と、心の中で付け足す。


統矢は腕を組み、しばらく考えた。


「じゃあ、お前もうちで働くってのはどうだ?」

「はあ?」

「小雪みたいにうちで住み込みで働く。どうだ?24時間、小雪と一緒だぞ」

「やります」

「まあ、待て。条件が二つある」

「なんだよ?」

「一つは、いざと言う時、命がけで俺を守ること」

「無理。白雪姫なら守るけど」

「小雪、帰るぞ。もうこの店は使うな」

「ま、待て!!」


俺は慌てて二人を引きとめた。

白雪姫がここにこなくなったら、もう会えないじゃないか!


「わかったよ!やるよ!!」

「そう来ないとな」


統矢はニヤリと笑った。


「ところでお前、なんて名前だ」


ここに来てようやく名前を聞くのか。

そんなんでよく見知らぬ奴を雇おうとできるな。


「品川庄治」

「・・・ふざけてんのか?」

「本名なんだから、仕方ないだろ!!」

「・・・」

「文句あるか!?」

「まあいい。もう一つの条件は・・・これが厄介だ」


統矢は真剣な表情になった。

「命がけ」より厄介なのかよ!?


「庄治。小雪に運転教えてやれ。ここに来るまでに3回もこすりやがった」




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