【SSコン:穴】 困ったサンタクロースを助ける話
この町には、昔からサンタクロースがやって来る。
彼は毎年クリスマスにプレゼントを配ってくれ、プレゼントをもらった子供たちが喜ぶのが何より嬉しいことだと言う。そんな善良な彼を嫌いな人なんてほとんどいないだろう。
そんなサンタクロースに、大人になった私が出会うとは思わなかったが。
彼は人気のない夜の公園で座り込んでいた。
どうしたものか、と呟きながら項垂れる姿を放っておけず、私は声をかけた。
「あの、サンタクロースのおじさんですよね?こんばんは」
「おお、こんばんは。君のような女性がこんな時間に出歩いていてはいけないよ」
「仕事帰りだったもので仕方なかったんです。ところで、おじさんはどうしたんですか?何か困っているように見えましたが」
「その通りじゃ。実はな……」
彼が言うには、プレゼントを入れていた袋に穴が空いてしまったらしい。気付くのが遅れたせいでプレゼントもいくつか落としてしまい、機械系の物はいくつかダメになっているだろう、とも。
「取り敢えず落としたものは全て回収したんじゃが、これからどうすればいいかわからなくて困っておってな……。傷ついたプレゼントを渡すわけにもいかんし」
「そうでしたか」
ここで私は気づいた。今こそ、恩を返せるのでは?と。
そう、私も子供の頃、このサンタクロースのおじさんにプレゼントをもらっていたのだ。それも成人するまで。
もらうだけというのが非常に心苦しく、何かお礼をしたくて勉強も頑張ったし、修行も頑張った。
その頑張りが報われる時が来たのだと思うと、おじさんには悪いがとても嬉しかった。
「おじさん、おじさん、私きっとあなたの役に立てます!」
私、魔法使いなんです!
「私、頑張ったんです。おじさんにプレゼントをもらい続けた恩を返すために。だから今ここで、手伝わせてください!」
私がそう言い切ると、おじさんは目をパチパチと瞬きし、少し照れた様子で言った。
「君は相変わらずじゃな。昔からお礼の手紙にお礼の品を添えて枕元に置いてくれる子だった。まさか魔法使いになってまで恩を返そうとしてくれているとは思わんだが……」
「私のこと、覚えてくれてたんですか?」
「うむ。わしはプレゼントを贈った子供のことは全部覚えておるが、君は特にな」
「そうですか……嬉しいです。その、私の申し出、受けてもらえますか?」
「……受けさせてもらおう。すまぬが、よろしく頼む」
「ガッテン承知です!」
私はそう言うと、いそいそとカバンから杖を取り出した。
そして取り出した杖を構え、一振り。
「おお、これは……!」
魔法の効果は確かにあったようで、光を放ちながらたちまちプレゼントと袋が修復されていく。
光が収まると、そこには新品同然のプレゼントが。
「しっかり元の状態に戻っておる。ありがとう、ありがとう!」
「いえいえ!あなたの役に立ててよかったです」
何度もお礼を伝えてくれるおじさんに、どうしようかと思っていたところ、そうじゃ!とおじさんが言った。
「わしも助けてもらったお礼がしたいからの、よかったらソリに乗っていかんか?しっかり家まで送るぞ?」
「わ、私がソリに……!?いいんでしょうか?」
「いいんじゃいいんじゃ。ほれ、ソリの……わしの隣にでも乗れい!」
お邪魔します、と呟いて乗ったソリは非常に座り心地がよく、いつまででも座っていられそうだ。
私があのサンタクロースのおじさんのソリに……!と感動していると、おじさんがソリを出発させた。
空へソリが上がっていくのは少し怖かったが、それもすぐに消え去った。
「わあ……!」
私の目に飛び込んできたのは、とても美しい、町の夜景だった。
「綺麗じゃろ?わしもこの夜景を気に入っておる」
ずっとこの夜景を見ていたいくらいだったが、残念なことに私の家はさっきの公園から少ししか離れていない。つまり、すぐ家に着いてしまうのだ。
残念だが、これからおじさんも一仕事するだろうし、仕方ない。
綺麗に着地したソリを降りる。トナカイたちにお礼を言って、おじさんに向き直った。
「おじさん、貴重な体験をさせてくれてありがとうございました。とっても楽しかったです!」
「はは、それは良かった。では、そろそろわしも仕事をしなくてはいかんのでな」
「……はい。あなたに会えて、本当に良かったです。お仕事頑張って下さい!」
「ああ。君も早く寝るんじゃよ」
こうして私のクリスマス・イヴは終わった。
翌日、昨日のことを思い出してニヤニヤしながらベッドから起き上がると、小さな包みが置いてあることに気づいた。
包みには小さなメッセージカードが付いていて、「メリークリスマス!」と書かれていた。
大人になったからもう来ないと思っていたのに。だからきっとこれは特別なプレゼントなのだろう。
私は子供の頃のようにワクワクしながらリボンをほどいた。