表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/48

第26話[パラダイス]

 僕は今……楽園にいますっ!!


 この前のGvでは念願だったレーサー紅白戦の出場を決めた。だがその一方で、鷹の失速によって、幹部の麦へ重い責任がのしかかる姿も目の当たりにしたのだった。


 その週のメンテから、夏のイベントが始まったのだ。


 今、僕がいる『イスアンダム島』は、ハワイやサイパンなど南の島をモチーフにした島である。


 毎年行われる夏イベントの時に、イスアンダム島で解禁になるのが水着の『衣装装備』だ。


 衣装装備は通常の装備とは別枠にあり、装着すると、通常装備よりも優先されて表示される。


 基本的には効果が付いていない。


 つまり、対人戦などにおいて装備を敵に知られたくない場合に、隠す目的で装着されるのだ。


 だが、オシャレを楽しむために使われていることの方が多い。


(いやぁ~こころさんの水着姿はやっぱ最高だなぁ~。花音さんもポポちゃんも可愛いし。何より……アバターとは言え、ホークさんの水着姿が見れるなんてっ! 今回のイベント当たりだな!)


 通年の水着衣装は他の衣装同様、装備に効果は付いていないのだが……。今回の水着には効果が付いてるのだ。イベント期間中のイスアンダム島だけにはなるが。


 そのためか、普段は水着衣装など装備しないであろうホークさんのような人でも、今回は着用してる人がとても多いのだ。


 そして……その幸せな光景が目の前で繰り広げられる中、僕は右をそろりと見た。


 僕の右側には、黒光りのマッチョが際どい水着を着けて、ポーズを決めている。


 彼は鷹の男性ダンサー『腹筋6LDKダーハル』さんだ。女性ダンサーばかりが目立つが、実は男性ダンサーもちゃんといるのだ。


 しかも、アバターは色々と選べるはずなのだが、男性ダンサーは何故か黒光りマッチョが多い。もはや伝統に近い。


「ハハハハハハハッ!」


 そんなダーハルさんが、白く輝く歯を見せながら僕に笑いかける。


(あっ……暑苦しい……)


 僕は苦笑いしながら、今度は左側にそぉーっと顔を向けた。


 すると真夏のバカンスにいるとは思えない、負のオーラがこちらにまで漂ってきた。


 黒いマントを羽織り、フードを深く被って、青白い顔をした彼は、鷹のソーサラー『デス』さんだ。


(うっ……未だに、この人の雰囲気に慣れないな……)


 デスさんは僕の視線に気付くと、不気味な笑みを向けてきた。僕はまた苦笑いして、前を向くのだった。


(なんなんだ、この状況……目の前は天国なのに……地獄に挟まれてる……)


 僕がそんな事を考えていると、目の前にニヤニヤした水着姿のロマさんが来た。


「よぉ。なに座って見てんだよ。ムッツリめ」


(自分だってムッツリなくせに……)


 僕はそう思ったけど口にはしなかった。


 少しため息を吐いてから、ロマさんに向かって喋りだした。


「少し、心を休めてるんです。ここのとこ色々と続いたし」


「あぁ、そうだな。そんなに緊張したか?」


「しますよ! 僕みたいな一般プレイヤーが急に鷹の幹部会議なんて……」


──数日前


 僕が自分のたまり場で爽真君と話をしていると、もの凄い速さで麦が駆け寄ってきた。


「あー! いたいた! 文ちゃん! ちょっと来て!」


「えっ!? いきなり何!?」


「いいからっ! とりあえず来てっ!」


 そう言って、麦に無理やり引っ張られ、大図書館に連れて行かれた。


 三階に着くと麦の足は止まり、僕は酔って吐きそうになっていた。


「麦ちゃん一体……うぷっ……なんで、こんなとこに?」


「ん? ホークさんが文ちゃん連れて来いって言うから!」


「えっ!? ホークさんが? なんで、わざわざ図書館なの?」


「鷹の幹部会議は、いつも図書館の個室でやんだよ!」


 図書館は各階にテーブルが置いてあり、そこで本を読むことが可能なのだが、同じく各階に個室も用意されている。


 ロックがかかるので、ゆっくりと本を楽しみたい人達が利用したり、聞かれたくない話をする時にも使われる。


 ついでに個室にはモニターがあるので、動画を楽しめたりもする。


 僕は、麦の爆弾発言にすごく驚いた。


「はっ!? 幹部会議!? えっ、ちょっ! どうゆうこと!?」


「あーっ! あそこの部屋だ!」


 麦は僕の質問など気にもせず、奥にあった個室へと向かう。


(ちょっと待て待て! 幹部会議って! なんでいきなり僕が鷹の幹部会議に出なきゃいけないんだ! ……そういえば鷹の幹部って、ホークさんと麦ちゃん以外に誰がいるんだろ? ロマさんがこの前「俺ら幹部」って言ってたからロマさんはいるのかな……?)


 いきなり大手ギルドのトップ達が集まる場所に呼ばれ、少しでも顔見知りがいることを祈りながら、麦の後ろに隠れて部屋へと入った。


 部屋に入って、一番最初に目に入ったのは、壁に寄りかかったロマさんだった。その横には、見知らぬ騎士の人。


 そして、部屋の中央に置いてある三人掛けのソファにはホークさんが座っていた。


 その隣では、僕らに向けて手を振っているヴィンテージさんが、ゆったりと腰かけていた。


 僕はそれを見て安心した。


(良かった……会ったこと無い人は一人だけだな。これなら、まだ……)


 そう思っていると、ホークさんが僕らに話しかけてきた。


「来たか。あと一人だ。もう少し待ってくれ。紹介はそれからにしよう」


(えっ……まだいるの……)


 僕らが部屋に到着してから三分後、部屋のドアが開いた。


 開いたドアから現れたのは、すごくイケメンのファーマシストだった。


(イケメンだ……あのアバターすごく時間かけて作ったんだろうな。僕なんて、ほぼデフォルトなのに……)


 このゲームは結構細かく顔や体型、髪型などのアバター設定が出来る。


 本当はアバターをちゃんと作りたかったのだが、早くゲーム始めたいと妻に急かされ、結局ほぼデフォルト状態で始めてしまったのだ。


 人を急かした本人はさくっと作っといて、それなりに可愛く出来てたのが、納得のいかないとこだが……。


 結局のとこ、アバター作りというのは意外に重要なのだ。


 本物ではないにしろ、ゲームの中で『その人』のイメージになってしまうわけだ。やはり、見た目がいいと扱いも良かったりするし。


 僕がイケメンファーマシストを羨む目で見ていると、イケメンはホークさんに何か耳打ちをしてから、部屋を出て行ってしまった。


 どうしたんだろう?と思っていると、ホークさんが口を開いた。


「そろそろ始めるか」


 僕はさっきのイケメンが、部屋から出てしまったのに、始めちゃっていいのか気になって、麦に小声で聞いた。


「全員揃ってないのに、始めちゃっていいの?」


「文ちゃん何言ってるの! もう皆揃ったよ!」


「えっ!? さっきの人、部屋出て行っちゃったじゃん!」


「『はーちゃん』は幹部じゃないから! はーちゃんと一緒に入ってきた人が…………」


 麦はそう言うと、誰もいないはずの僕の後ろを、そおっと指差し、ぼそっと呟いた。


「文ちゃんの後ろに……いるでしょ?」


 

 僕が「はっ」として、後ろを振り返ると……誰もいなかったはずの僕の背後には、死神が不気味な笑みで立っていた……。


「ぎゃああああああああっ!」


 僕は衝撃のあまり麦に飛び付いた。


「ぷっ! 文ちゃん落ち着いて! 良く見てっ! 生きてる人間だよっ!」


 ぎゅっと閉じていた目をそおっと開きながら、勇気を振り絞って、もう一度死神の方に目をやると。


 そこには真っ黒なローブに真っ黒なマントと全身真っ黒で、同じく真っ黒な長い前髪を垂らした男性のソーサラーが立っていた。


 顔は青白く、精気が無いように見える。一瞬、鎌かと思ったのは、大きな杖であった。


「あっ……ははっ……もう、やだなぁ麦ちゃん! 驚かすような事しないでよ!」


 僕はそう言って麦から下りると、男性ソーサラーに近寄り失礼を詫びた。


「なんか、すみませんでした……。普段こんなに驚く事とかないんですけど、昨日怖い映画みちゃったからかなっ! ははっ……」


 すると、男性ソーサラーが不気味な笑みを浮かべながら、ボソっと何かを言った。……が、聞き取れなかった。


「…………ボソ」


「えっ……?」


 聞き取れなくて僕が困っていると、麦が横から口を挟んできた。


「初めまして。私は鷹の幹部の『死神(しにがみ)』です。皆からはデスと呼ばれています。貴方が麦飯さんのご主人ですね。噂はかねがね聞いておりましたが、噂のような尻尾や牙が無いので安心しました。(笑)……だって!」


(えっ……そんな長い話してたのか……。というか、どんな噂になってんだ)


「そ、そうなんですね。初めまして! 文月です。よろしくお願いします」


 僕が挨拶をすると、デスさんは怖い笑顔で返してくれた。


(こ、こわい……)


 そこへ、もう一人の初対面になる騎士が、こちらへ近寄ってきた。


 金髪でツンツン頭のガタイの良い男性騎士は、僕にスッと手を差し出した。


「こっちも挨拶いいか? 初めまして。俺は副マスターのマイラーだ。俺が聞いたのは、どうしようもなくイカれた奴だったけど。まともそうで良かった!」


 そう言って、笑いかけてくれたけど……僕は複雑だった。


(なんなんだ一体……鷹内部でどんな話になっているんだ……。きっと麦ちゃんの旦那ってだけで、噂に尾ひれ背びれがついてる状態なんだろうな……)


 僕がそんなことを思いながら、マイラーさんの手を握り返していると、麦が悪びれもなく適当なことを言ってきた。


「へーっ! 文ちゃんに会った鷹の人たち、皆そんな風に思ってたんだねー!」


(きっと、今ここにいる全員が「お前のせいだ」と、麦ちゃんに対して思っている気がする……)


 そこへ、椅子に腰かけたままのホークさんが声をかけてきた。


「紹介は終わったな。では幹部会議を始める」


 なぜここに連れて来られたのか、なぜ変な噂が流れてるのか、状況が飲み込めないまま、鷹の幹部会議が始まったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ