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父子鷹の拳  作者: 遠野大和
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第68話

二月中旬、俺達の次戦が決まる。

当然ながら会場はこの間と同じ泉岡県営体育館。

近いというのは、それだけで色々な負担を軽減してくれるものだ。


「んっとね、日取りは三月十三日の日曜日。明君はフライ級で新人王戦に出るから。今回の興行は統一郎君と幸弘君の二人ね。」」


新人王戦と言えば俺は二回戦で敗退したので、明君には是非とも頑張ってもらいたいものである。

もし全日本をとれればいきなり国内十二位、ランカーの仲間入りとなるのだから。

しかし日本人は体格が小さい人が多く、フライ級も結構な激戦区なので厳しい戦いにはなるだろう。


「幸弘君の相手は神田ジムの小沢選手、統一郎君の相手は昨年の全日本新人王を取った江島勝利(えしまかつとし)選手。所属は王拳でまだ無敗だね。」

「何のつもりか知らねえが、こっちに来てくれるってよ。意外だったよな、なあ会長?」

「本当にそうですね。話が来た時は向こうでやるものだと思ってたので。」


江島勝利十八歳、今年卒業見込みの現役高校生だ。

戦績は六戦六勝三KО、百七十三センチのどちらかと言えば近い距離を得意とする選手。

試合を見る限り凄く勝気で、打たれれば必ず打ち返す姿が印象深い。

ランキングは十二位、俺は五位なのでこれに負けると今年のタイトル挑戦はまず無理だろう。


「彼はアマチュアの試合に出てないけどボクシング歴自体は長いみたいだよ。小学生からやってるとか。」

「ほお?何でまた試合に出てなかったんだ?」

「ずっとサッカーの片手間でやってたらしいので、本格的にプロを目指したのは高校に入ってからだそうです。」


何故サッカーを辞めたのだろうか、考えられる理由としては膝の故障とか?

まあ、正直向こうの事情など俺には知った事ではない。

リングで向き合うならば、ボクシングも簡単ではないと教えてやるだけだ。


「そういえばこの間のチャンピオンカーニバル見た?」

「はい。松田選手ですよね?」


つい先日、ライト級のタイトルマッチで新王者が誕生した。

挑戦者としてリングに上がった松田選手は、共に二度のダウンを奪い合う激しい打ち合いを演じ、僅差の判定をものにしベルトをその腰に巻いたのである。

あの絶対に折れない強い心は、相対する者には間違いなく脅威。

果たして俺に、あの強靭な精神をねじ伏せる事が出来るだろうか。



数日後、職場に頼んで店頭にポスターを張らせてもらう。

仕事終わりにユニフォームを脱いだ姿で作業していると、早くも数人に声をかけてもらえチケットを捌くあてが出来た。

店長なども予定が合うならチケットを買って応援に行くと言ってくれており、本当にありがたい限り。

そしてその日の夜、春子からも嬉しい報告が。


『あ、統一郎君、チケット欲しいって人が何人かいてさ、出来れば良い席で見たいんだって。まだあるならお願い。あ、四枚ね。』

「最前列ってことだよね?ちょっと高くなるけど大丈夫?」

『そこは聞いといたから大丈夫。うちのボクシング部の人達なんだ。』

「あ~なるほど、分かった。それと春子達の席は南さんと同じ中段くらいでいい?」

『どこでもいいよ。統一郎君ってば、お金払うって言ってるのにもらってくれないしさ。悠子からはもらった癖に。』


春子と亜香里は何となく保護者気分になってしまうが、南さんは自立した大人な感じ。

寧ろ俺が出すというのは、ちょっと失礼になる雰囲気があるのだ。

本人もそんな感じの事を言っていたし。

取り敢えず最前列四枚、こちらは今会長に連絡してちゃんと確保しておかなければ。

春子の信用問題になってしまう。



▽▽▽



試合まで残り一週間となったある日、三人の練習生がジムへとやってきた。

以前保護者同伴でやってきた中学生たちである。

どうやら入試試験も終わった頃合いで、三人仲良く通う事にしたらしい。

会長は試合間近の俺と佐藤さんに付きっ切りなので、基礎を教えるのは牛山さんの仕事。

鏡の前で三人並びジャブを打っている。

実は牛山さんは彼らの事を以前から知っていたらしく、意外なほど雰囲気は親し気。


「奥山、お前去年うちでサッカーシューズ買ってもらってたよな?安いものでもねえのに、なんでまた今ボクシングなんだよ?」

「いや、テレビで遠宮さん見てかっけえなって思って…でも別に、いい加減な気持ちでやる訳じゃないんで…」


奥山大地(おくやまだいち)、まだ百六十無いくらいの身長で小柄だが、動きから一目でわかるほど運動神経の塊と言った感じの子。

サッカー少年にしては珍しく坊主頭で、活きのいい雰囲気を醸し出している。

これから背が伸びる事を考えれば、明君と階級が被りそうな気配もありそうだ。


「古川は柔道部だったか。辞めんのか?」

「はい…自分は…はい。」


古川竹道(ふるかわたけみち)、身長は百六十半ばくらいで角刈り風味、やけに迫力がある。

骨格的にがっしりとした感じの子で、既に筋肉も程よくついており見た目通りパワーもありそう。

体重が既に六十㎏台後半あるらしく、どのあたりの階級でやらせるかは迷い所だ。


「吉田、お前は…バスケ部だったか。かなりモテたろ?」

「いや、そこまでではないですよ。そもそもあんまり興味ないんで。」


吉田翔(よしだかける)、後ろにまとめ上げた長髪がオシャレな感じ、そして既に百八十近い長身を誇るイケメン。

斜に構えるという行為が似合う中学生など、中々いない筈だ。

これなら間違いなくモテただろう。

顔立ちを見るに白人系の血が混じっているのだろうか、ハーフタレントみたいな雰囲気もある。

でもチャラついた感じはなく、今も一番真面目にジャブの練習に取り組んでいる様だ。

凄く下世話な事を言ってしまえば、外見が良い選手はそれだけで金になる。

加え実力も身に付けば、お客を呼ぶのにそう苦労はしないだろう。


「おしゃ、お前ら怪我しねえように気を付けながら、後でサンドバッグ打ってみっか。」

「えっ!?良いんすかっ!?やったっ!」


牛山さんはちらりと会長に視線を送り確認している。

若い子を定着させるには初めが肝心、楽しいと思わせるのが重要という考えか。


「統一郎君、幸弘君とスパーやるよ。マスじゃないけど、壊し合いみたいなやり方はしないでね。」


その辺は互いにしっかり弁えている。

グローブは佐藤さんが十四オンスで俺が十六オンス、本気ではやるが荒々しいやり方ではなく動きを確認しながら行うのだ。

元々階級差もあるので、試合前のこの時期は特に注意が必要である。


「…幸弘君、意識が下がる一辺倒だと駄目。強打見せながら圧力もう少し掛けてみよっか。」


結構長く手合わせしてるから分かるが、佐藤さんはパンチ力と言う意味ではそこまで無いが、体が密着した時の力は結構強い。

柔かい上半身で力をいなし、強靭な足腰で体を残す。

そして冷静にガードの隙間を見切り、ここぞという所で強く打つのである。


「統一郎君はスパーリングだと思って適当に打ち返さない。スパーリングだからこそしっかり相手見て打ってね。」


佐藤さんは基本のヒットアンドアウェーをしっかりこなしてくるので、少し強引くらいじゃないと手応えのあるパンチを当てられない。

その意識が強すぎてこうなってしまうのだろう。

階級差があるからもらっても耐えられるが、これが同じ階級だったら果たしてどうか…怪しい所だ。


「「有り難うございました!」」


四ラウンドのスパーを終えると、反省点などを互いに言い合いながら外の水道でマウスピースを洗う。

何気に俺は、この時間が結構好きだったりする。

室内に戻ると、今度は明君が牛山さんのミットでしごかれていた。

そうなると練習生たちを見るのは会長、一人一人丁寧に打ち方を教えながらのサンドバッグとなる。

残る二人はシャドーとなるので、良い機会と思いインターバルを利用し俺も話しかけてみる事にした。


「奥山君は高校じゃ部活とか入らないの?」

「チッス、さっきのスパー凄かったっす。えっと…そっすね、部活よりここでプロ目指す方がなんか…性に合ってるっつうか…」

「なるほどな~運動神経も滅茶苦茶良さそうだもんね。きっと良いとこまで行けるよ。」


ブザーが鳴りラウンド開始、俺は彼らの横でパンチングボール。

実はこれ結構技量が必要で、上手く出来ているのを見せられるのが結構気持ちいい。

そしてインターバルとなり、次に話しかけるのは古川君。


「多分古川君の場合、自分より大きい人を相手にする状況が多いと思うから、ボディ打ち上手くなると結構結果にも直結するかも。」

「はい…会長にもさっき言われて…頑張ります…」


慣れない先輩風をふかしてみたが、素直な子で助かった。

彼はさっき教えられながらサンドバッグを打っていた際、如何にも重そうな音を響かせておりファイターとしての資質は充分。

態度からは分かりずらいが、何となく負けん気の強さも垣間見える。

それから次のインターバル、黙々と只一人隅で鏡に向かい教えられたことを続けるイケメンに話しかけた。


「もしかして吉田君って、そういう地味な作業好き?」

「あ~そっすね。プラモとか作るのも結構好きなんで、そうかもしれないっす。」


こういう性格の人は意外に伸びる。

ボクシングという競技の特性上、どうしても練習は単調になるからだ。


「それに…走りとか運動全般、大地に勝てたことないんで、こんだけ身長差あって部活で練習してもバスケすら勝てなくて…向こうは遊びでやってんのに。だから…ボクシングでは勝ちたいっす。」


この三人、俺が思っているよりもライバル意識が強いのかもしれない。

そして分かったのはもう一つ、この三人の中でリーダーを上げるなら、それは間違いなく奥山君だ。

改めて意識して眺めると良く分かる。

彼の動きは並のそれじゃない。

下手をすればちょっと基本を教えただけで、そこらのプロに勝ててしまうんじゃなかろうか。

あまり言いたくない言葉だが、天才というフレーズがしっくり嵌る。

後二年みっちり仕上げたなら、一体どこまで伸びるのだろうか。

そしてそれは、階級の近い明君にもきっと大きな刺激となる筈だ。

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