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父子鷹の拳  作者: 遠野大和
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第13話

八月十六日、今日から学校が再開する。

しかしまだ俺の傷は癒えておらず、練習も全く出来ていない。

それでも習慣でジムに顔を出すのは、もしかしたら新たに戸を叩く誰かがいるかもしれないと思ったから。

まあ、いなかったのだが。

この二週間あまり、牛山さんの練習風景を眺めていただけである。

後は会長の練習風景、こちらは見ているだけで参考にはなった。


「統一郎、体育とかは見学しろよ。」

「今日は体育の授業無いから大丈夫。じゃあ行ってきます。」


心配性の叔父に一声かけてから玄関を出た。

今日は快晴、夏本番の日差しがじりじりと照り付け、何となく引き返したくもなる。

と言っても日差しだけが理由ではなく、どういう反応をされるのかが少し怖いのだ。


▽▽


学校までは歩いてニ十分も掛からない道のりだ。

校門には数多くの生徒もいたが、あまりこちらを見る者はいない。

どうやら、それほど話題になっている訳ではない様で一安心。

だがやはり同じクラスとなればそうはいかない。


「…おい、あいつだろ?」

「ん~多分、こうしてみると本当地味だな。」

「でもさ、やっぱ肩回りとか凄えごついよ。」


何と言うか、誰も話しかけてくれない。

チラチラこっちを見てはいるのだが、結局席に座るまで誰にも声を掛けられなかった。


(ちょっと緊張しすぎたかな。顔強張ってたかも。)


こう聞かれたらこう答えるなど、色々シミュレーションしてきたのだが無駄に終わった様だ。

唯一と言っていい話し相手の如月さんも、今日は始業式のあれやこれやで忙しいのだろう。

確か会長職は九月までで、十月から次の生徒にバトンタッチという流れだったはず。

一応選挙なるものもあるのだが、去年は立候補者が彼女一人だけだったので実質無いに等しかった。

恐らく今年も同じだろう。

因みに役員などは、生徒会長が独断で決める事が出来るらしい。


「始業式始まるぞ~、静かに体育館へ移動。」


担任の気怠い声に促され、一同揃って体育館へ向かった。

そして指定の位置につくと、俺はどうにも視線を感じ見回してみる。

すると、視線の主は壇上にいた。

マイクのセットをしながら、こちらにウインクを投げかけて来る。

そんな行動をとっても誰も騒がないのが、彼女の人徳と言えよう。


『えぇ~二学期というのは、どの学年に置かれましても同様に大事な時期であります。故に………』


本校の校長はあまり話が長い方ではない。

精々十分くらいのもので、我々生徒には有賀い事だ。

その後は生徒会長もスピーチする。

この流れ、実は結構珍しかったりするのだろうか。


『私達三年生にとりまして、高校生らしい学校生活を送れるのは実質的に二学期が最後と言っていいかもしれません。後は皆それぞれ大忙しでしょうから。ですので……』


今まであまり注意しては聞いて来なかったが、意外に彼女はスピーチが上手い。

各学年は勿論、先生たちにも何かしらのメッセージを込めており、所謂定型文の様な挨拶ではないのだ。

カリスマとまではいかないが、慕われている理由も良く分かる。


『…では皆で協力して、良い二学期にしましょう。』


これで始業式も終わりだなと思ったその時だった、生徒会長が余計な一言を付け加えたのは。


『あ、そうだ。遠宮君、今日一緒に帰ろうね。直ぐ帰っちゃ駄目だよ。』


マイクからそんな言葉が響き、体育館は生徒たちの笑い声で満たされる。

やっかみなどではなく、こういう雰囲気になるのもやはり人徳のなせる業か。

まあ、俺にとっては堪ったものではないのだが。

それから教室に帰る道中、食いついてきたのは女子生徒達。


「ねえねえ遠宮君。やっぱり会長と付き合ってんの?」

「駄目だって囃し立てちゃ。ゆっくり関係性を築いてる所なんだからさぁ~。だよね?」


想像の中ではとても流暢に返答しているのだが、現実は中々に厳しい。


「あ、いや、その…な、仲良くしてもらってる。」


男子生徒が相手なら、きっともう少し上手く話せる。

心の中でするそんな言い訳も、どこか空しい。

そして二限目からは普通に授業という流れ、初日から六限までみっちりだ。



昼休み、珍しく如月さんは来なかった。

どうやら生徒会の仕事が立て込んでいるらしい。

若しくは、放課後早く帰るために今頑張っているのか。

そうして六限目の授業が終わり生徒達が散ると、さて俺はどうするかと悩む。


「ぼ~っとしてても仕方ないし、迎えに行ってみるか。」


そう思い、職員室近くの生徒会室へと足を向ける。

扉の前まで着くと、どうやら何かの会議真っ最中。

この学校に体育祭はないので、他の催し事となると文化祭辺りだろうか。


「何やってんの遠宮君。そんなとこ立ってないでどうぞ。」


いきなり扉が開き、如月さんは挨拶をする暇も与えず俺を引き摺り込んだ。


「あ、会長が彼氏連れてきた。」

「まぁ~だ、彼氏じゃないよ。前田。」


前田君というのは副会長で二年生、少々ぽっちゃり体形だ。

多分後任を引き継ぐのは彼なのだろう。


「まだって言った…本人の前で…」

「まあ、春子だしね。人の都合とか基本考えない子だから。」


そう語るのは眼鏡を掛けた女生徒二人。

どちらも見た感じ真面目で、勉強できますって感じの雰囲気だ。


「ほら遠宮君、ここ座って。あ、一応役員紹介しとくね。こいつが二年の前田、帰宅部のロリコン副会長。」

「ろ、ロリコンじゃないっすよ!あ、どうもです。」

「でぇ~、この子が書記の鈴木ちゃん、まだ一年生だよ。字が上手いから無理矢理連れてきた。」

「書道部の鈴木です。無理矢理連れてこられました…」

「それでこっちが会計の南悠子(みなみゆうこ)、元陸上部の三年生。心の友だよ。」

「いつも彼女の都合で引き摺り回されてる心の友です。どうぞよろしく。」


これが生徒会、中々に濃い面子だ。

俺は取り敢えず簡単な挨拶だけを済ませ、只の置物になる。



会議は意外にも、それほどの時を要さず終えた。


「よ~し、後は特に仕事も無いし解散!」


如月さんから活きの良い声が響き、俺も再起動する。


「遠宮君、今日練習は?」

「え?ああ、知ってたんだ。うんと、肋骨折れてるから、後二週間くらいは激しい動きするなって。」

「そっか…鈴ちゃんは部活今日休みだよね?よし、じゃあ皆でカラオケ行こう!」


折角の提案だが、俺はカラオケなど行った事が無いので、少し逡巡してしまう。

他三人も、何となく乗り気では無さそう。

とは言え、その顔はどこか諦め混じりで、提案に抗する気はない様だ。



カラオケ屋は学校から歩いて十五分程度の場所にあった。

俺もしょっちゅう食材を買いに来るスーパーマーケットの近く。

それを思い、地元すらもよく知らないのだなと、少し情けなくなった。


「遠宮君、何歌う?」

「え?え~っと、聞いてるだけってのは…駄目?」

「問題なし!鈴ちゃん、デュエットするよ。ほら、マイク持って。」

「え~、私ですか…南先輩の方が…」

「悠子とは次デュエットするからいいの。ほら早く!」


如月さんは人が本当に嫌がる事は強要しない。

その証拠に、さっきまでは乗り気でなかった三人も、今は凄く楽しそう。

俺はその光景を眺めているだけで、皆と同じように『青春』出来ているような、そんな気分に浸る事が出来た。



一時間半ほど四人の歌唱を聞き、カラオケ屋を後にする。

時刻は十八時ニ十分頃。


「じゃあ先輩方、俺はここで失礼します。」

「あ、私も帰ります。ではまた。」


淡白な挨拶の後、前田君はすぐ近くの肉屋に入っていった。

どうやらあそこが彼の家らしい。

そして鈴木さんもまた、その数軒先の本屋へ入っていく。


「あの本屋、俺も良く行くんだけど、鈴木さんの家なんだな。」


俺のそんな呟きに反応したのは南さん。


「ボクシングの雑誌、取り寄せてるんだって?」

「え?ああ、はい。店に置いてなかったもので。」

「ふふ、次に買いに行く時は、沙織のお母さんに少し絡まれるかもね。」


彼女が浮かべるふとした笑みは知性的な大人の魅力を秘め、俺は思わず見惚れてしまう。


「はい!イチャイチャ禁止ぃ~~!」

「落ち着け。親友の彼氏を取ったりしないよ。」

「…どうだか。悠子さんはモテますからねぇ~。」


何となくそれは分かる。

如月さんは言ってしまえば、残念美人という言葉がしっくり嵌るのだ。


「まだ時間あるなら、そこの喫茶店入ろうよ。うちのお祖母ちゃんがやってるんだ。」

「後はお二人でごゆっくり……」

「待った!悠子も付き合うの。」

「何で…」

「何でも!」


如月さんは強引に親友の腕を掴みながら、家に連絡を入れる。

お祖母ちゃんのとこで食べていくから、と。

結局俺は流れに身を任せ、大型店舗の陰にひっそりと建つ年季の入った喫茶店へと、三人で向かう事になった。

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