一の二
ついてきて
川の中は暗く、苦しかった。右も左も上も下も判別できずただ、流れに身を任せ漂っていると誰かの声が聞こえる。声は段々近くなる。しかし、意識は遠くなる。段々と失っていく、誰かが着物の衿を掴む感触がしたがそれ以上は覚えていない。
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お日様の眩しさで目を覚ますとまだ川の流れが届く川岸に仰向けで寝ていた。小さくて丸い石だらけの所で寝ていたせいか背中が痛む。
目覚めも最悪で、昔ゲン兄にぐるぐる振り回された時みたいに頭がグラグラし気持ち悪かった。胃袋から戻ってきた水や何かを吐き出して、目を閉じる。さっきまで寝ていたのにまだ眠い・・
「・・・・・・・・・・・・・・」
辺りには川の流れる音と雑草が風に揺れる音、鳥の鳴き声に混じる囁き声が聞こえた。なんで囁き声がするんだろう?
声が気になり、薄目で聞こえる方向を確認する。そこには白と黒の蛇みたいな生き物がボンヤリ見えた。その生き物はゆっくりと近づいてきて、品定めするように身体の周りをぐるぐる廻り出す。狸寝入りして盗み聞きをする事にした。
「退け小汚い妖怪め、使う身体が必要ならば。ホレ、むこうに五体満足の身体があるぞ。そちらを使え。シッシッ」
「この死体は俺様が先に見つけた。貴様にとやかく言われる事では無い。貴様が向こうの生き男を使えこの身体は俺様の物だ」
「妖怪と話しておっても埒が明かんわい・・・んん?この小僧まだ生きておるようだ。ホレ、口元に当ててみよ」
「本当か?・・・・おお!!これは、俺様はてっきりド座衛門だと思っとったが・・よく生きていたものだ。やはり、この身体が気に入った!!俺様がもらう」
「待て待て・・・・せっかく小僧が生きておるのだ。この小僧に聞いてみるが好かろう。どちらが使うべきかをな」
「ほほぅ・・神の類にしては中々良き考え。よし!!おい、貴様俺様とこの神どっちが身体を使うべきだと思う」
狸寝入りはすぐにバレ、二匹の生き物が褒めてきたり、質問をしてきたりし始める。どうやら死期が近いようで幻覚を見始めているようだ。どちらが身体を使うかだって?そんなこと、もう死ぬ者にはどうでもいい!!
「そんなの、どっちでもいいよ~」
適当に返答した。
「「どちらでも良い」だと・・オイオイ話が進まんじゃないか」
「待て・・なるほど、強欲な奴め・・さては、何か対価を寄越せとゆう事じゃな?」
「そうか、確かに己に何も利益が無ければ本気で答える気も失せるか・・ならば!!俺様は貴様を妖怪の仲間としてやろう!!どうだ?」
「ハッ そんな者になりたい者などおらん!!神だ!!神にしてくれようぞ小僧!!」
何か話が勝手に飛躍している・・・願い事なん・・か・・・・・
「・・・・・・・・・・どうやら意識を失ったようじゃな・・さて、どうするか・・」
「・・・・・・・返答を聞けず終いか・・・お先」
「なっ!!この妖怪が!!離れぬか!!キエェェェェェーー!!これはワシのじゃ!!ワシの身体じゃ!!」
「馬鹿め!!早い者勝ちが世の常よ!!ホラバ!!」
「痛だだだだだだだだだだだ!!」
両腕の傷口に二匹が入ってくる。さっきまで、夢の中みたいに不明瞭な出来事だったのにこの痛みは鮮明に伝わってくる。固まって傷口にこびり付いた血の塊を肉から引きはがし、骨と肉の間を通って肩まで登る。そのあと背中まで辿り着くと一度、体外に出て胴体に纏わり付き始めた。
あまりの痛み身体が勝手に暴れ、目からは涙が溢れ出る。何度も「やめてくれ」と叫ぶが、先を越されぬよう争う二匹には制止の声は届かなかった。目の回るような痛みの中、再び気を失った。
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「ブフッ!!おぇ~なんか沢山水を飲んじゃったよ~。え?なんこれ?」
川の水位が口元に達したことで再び目を覚ます。顔に纏わり付く水滴を拭おうと腕を持ち上げると、切られた右腕から一本の「白い帯」がぶらりと垂れ。足元で余った布が重なっている。混乱し身体を見回すと左腕にも「黒い帯」が同様に垂れているのを見つける。
「こ・・・・腕が帯みたいに・・あ!!マツ兄」
傷口から生えた謎の帯に狼狽していたが、河原に倒れる兄貴分の姿を見つけると腕の帯をそのままに、引きずりながら向かう。水を多分に吸った帯は重く、歩む速度を遅らせる。根が半分川に浸かった木にもたれ掛かり息を整え、またフラフラと進む。遅い歩みだが進む程、目的地への距離は近くなっていった。
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ようやく、マツ兄の傍に辿り着いたのはお日様が山の尾根に隠れかけネズミ色の闇が辺りを覆う頃だった。
膝をつきマツ兄の胸元に耳を付け心拍を図る。マツ兄は意識はないが、心臓は力強くドクドクと波打っていた。ホッと胸を撫でおろす。撫でる腕はないが・・
「生きてる!!マツ兄~よかった~~~」
とにかく、マツに兄を波の来ないもっと陸地に上げようと考えたが、腕は切られ今はおかしな帯が垂れるのみ。仕方なく、着物に噛み付き引きずろうとするがマツ兄の着物も水を含み重かった。歯が曲がりそうにななりながら少し移動させるが痛みが限界に達する。ならばと足の指で着物を掴み引っ張るが足が攣りそうになりながら引きずり、他にも身体で押してみたりして何とかマツ兄を乾いた土の上に移動させた。
「マツ兄・・・はぁ、重すぎる・・はぁ」
息が苦しくなり腰を下ろす。身体が熱を冷やそうと発する汗を両腕で拭っていると、どこかで魚が跳ねた。
「魚・・・そういえば今日は何も食べてないや~・・マツ兄も気絶してるから食べれてないよな~。
・・・・・・・・セン姉とゲン兄はちゃんと食べられてるかな?」
黒い流れに低く浮かんだ満月が反射し、ユラユラと揺れる流れを眺めながらブツブツと独り言を零す。二人いるのに独りぼっちの気分だ。寂しい気持ちが呼び水となりさらに独り言が溢れる。また魚が跳ねる。さっきより少し近くで。
「ゲン兄・・大丈夫かな~?間抜けだから心配だな~。でもセン姉が一緒だし大丈夫か。・・・あれ?何だろう」
月とは違う小さく白い光が二つ、川に浮かんでいる。光はバシャバシャと音を立てなが大きくなり、やがて正体を現す。息が止まる。ヒュッと吸い込んだ息が出てこず、そのまま窒息するんじゃないか。そう思った。川から上がって来たのは両腕を切り落としたあのチョンマゲ野ざらしだった。
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チョンマゲが走ってくる。身体は今だ座り込んだまま動けない。動いて何か対策をしないといけないのに、でも動いてどうなる?あの化け物にどんな対策をすればいい?そんな事に考えを巡らせている内にチョンマゲは肉薄し、手も足も出すことが出来ずに両腕で首を絞められ、そのまま地面に組み伏せられ全体重が首に乗せられた。
「うぅグッ!!ッ~~~~~~~~~~~~~~」
チョンマゲの顔が手を伸ばせば届く位置にあり互いの目線が交差する。恐ろしい、今まさに人を殺めようとゆう瞬間にも無表情のまま淡々と首をへし折ろうとする野ざらしが恐ろしい。
視界の端が段々暗くなり、視野が狭くなっていく。口がだらしなく開き涎が垂れている。朧げな意識でチョンマゲを見つめていると、チョンマゲがチラリと視線をこちらから退けどこかを眼差す。こちらもチョンマゲの視線を追うとマツ兄が居た、次はマツ兄だ。ここで殺されたら、次はマツ兄の番が来る。
死ねない!!何としても護らないと!!
「カハッ!!ぐぅ~~~~~~~~~~アァ~~~~~~~~~~~!!」
声にならない叫びを上げ、身体を駄々っ子の様に暴れさせる。膝で何度も腹を蹴り、両腕で顔を叩く。チョンマゲは一瞬怯んだがすぐにまた首に掛かる圧を強め、右手を首から離すと拳の底で顔面を打って来た。何度も何度も。充血した両目から涙を流し、鼻血が離れていく拳に糸を引いている。しかし、こちらも攻撃の手を緩めない、命ある限り抗ってやる!!滲む眼でチョンマゲを睨みつける。
「ほぅ・・・まだ諦めんか。たまげた小僧じゃな・・」
「だが、実力が足りんな。まだガキ過ぎて心根に見合った実力がないんじゃあ、本末転倒よ」
声が聞こえた。幻聴かとも考えたが、チョンマゲにも聞こえたらしく首を動かし声の主を探しているようだ。
「仕様がない、俺様がて「手」を貸してやる・・その代わりお前、妖怪になれ」
黒い帯がチョンマゲの身体に巻き付くと、身体からチョンマゲを引き離していく。チョンマゲの引き離す力に抗っているようだが黒帯は遂にチョンマゲを取り除くと、川へと放り込んだ。
「な・・何が起こって?・・」
「いちいち狼狽えるなガキ!!敵を見ろ。この程度で退く者ではないぞ!!早く立て!!」
突然の出来事に狼狽し、呆けていると左腕に急かされ慌てて立ち上がりチョンマゲが落ちた方を望む。チョンマゲがまさに立ち上がるところで驚きのあまり右手を突き出し拒絶のの言葉を吐く。
「こっ・・立つな!!」
すると、突き出された右手の白帯がチョンマゲへと延び巻き付くとチョンマゲを拘束した。拘束されたチョンマゲは身体を震わせ拘束に反抗しているようだが、抜け出せないようだ。
白い帯が風に揺れる。余った布が耳元へやってくると
「ならば、ワシも「手」を貸してやろ。使いこなしてみよ小僧。だが命を落とせばその時ワシと来てもらうぞ」
と囁く。すると白帯の申し出を盗み聞きしたのか、黒帯が異議を捲し立てる。
「おい、糞神野郎が俺様の提案を真似るんじゃねぇ!!このガキは妖怪になる!!そう契約をしたのだ先程な!!もう貴様の出る幕は無い。さっさとこの身体から出ていけぃ!!」
「待て待て・・妖怪。喚くな・・・思い出せワシらはこの小僧に選ばせておったはずじゃ、神か妖怪どちらを選ぶかを。死ねばどちらかに堕ちる。ならば死ぬまでに選ばせればよかろう。それまでワシはこの小僧の「手」となり答えを待とう」
「おのれ畜生神が自分に不都合とみて訳の分からん契約を増やしやがって・・・」
黒帯が伸び、拘束されているチョンマゲへ巻き付くと顔を川の中へと徐々に引きずり込み始める。遂に顔面が水に着くと。淀んだ奇声を上げチョンマゲは口の端から気泡を水面に送り出し始める。
「いいだろう・・結局どちらを選ぶか聞けず終いだったしな。貴様と同じ土俵で戦いこのガキの口から「妖怪になりたい」と言わせ、貴様に敗北を悟らせてやる。」
また勝手に話が進んでいる。訳が分からない両腕に身体をどうこうされ、変な黒ずくめの化け物に襲われる・・一体・・
「・・・・何が何だか・・」
そう呟くと、辺りに声が広がる。川の潺と帯が風に揺れる音だけがあった。
次の次辺りから大きく飛躍するかなと




