???話。細川日記④
小浜を出た藤孝は北を目指す。最初の寄港地は越前三国……ではなく能登輪島。
能登輪島。
特に問題無く船に乗れた俺は何事も無く能登半島の頂点。輪島に到着した。今は輪島の商人用に積み込んでいた荷を下ろしつつ、輪島の品を直江津や酒田・土崎へと運ぶための積み込み作業を行うようだ。
かく言う俺も、その作業を手伝うことにしている。いや、黙ってるのもアレだし、積み下ろしだの積み込みを手伝えば銭が出るって言うし、そもそもこの時代の船からの荷下ろしって完全に手作業だからな。
台車も無ければ大八車っぽいのも大商人くらいしか持ってないんで、この辺の荷物運びは本当に人力。数で賄う感じだな。いやはやよくもまぁ腰を痛めんモンだと感心したね。
俺?鍛えてますから (ドヤッ)
しかしアレだ。あの運送会社にあるようなコロみたいなので出来たレーンの上をシャーってやる感じにすれば随分楽になるだろうに。……コレは港街が有る大名に仕えたときに提案してみるか?
鉄やアルミじゃなくても荷物にそんなに重さが無ければ木でも大丈夫だろうし、真円で有る必要もない。何なら最初は竹でも良いだろう。
竹と言えば、発展したら竹流金みたいに鋳型を作って鋳造すれば量産も出来るか?なんだかんだでこの時代って鍛造だけじゃなく鋳造技術も有るんだよな。
鉄は東北の鉱山に有るだろうし。何なら錫や銅でも良い。後は鉱山までの道路整備だな。鉱山は基本的に山奥だし、この時代の東北の冬は本気でヤバイらしいから鉱山開発の難易度はかなり高いんだ。
更に現在は採掘方法が露天堀り限定だから、冬の度に雪と地下水で小さな湖が出来る。この水を抜く方法を考えんと採掘量は集まらん。
坑道を掘るにはボーリング作業(試錐)が出来んと駄目だし、やっぱり鉄砲水が怖い。あとはガスも有るよなぁ。カナリアは日本に居ないから、鶯とか?……風流だな。
面倒くせぇ。いっそのこと火薬使って爆破したら何とかならんかね?
「おーい。兄さん!動け動け~」
「お、すまんすまん!」
いかんいかん。今は積み荷に集中しなければ!
「つーか凄ぇよなぁ」
「む?何がだ?」
「いや、普通はそんなに荷物持てねぇよ」
「そうか?」
そう言う船員は米俵二俵ほどの荷物を抱えて額に汗を流している。ちなみに今の俺は、まず背中に簡易な背負子のようなモノを使って、米俵を三俵(90㎏)。両脇に一つずつ抱えて更に二俵。でもって前の方にも紐で括って一俵と言ったところだ。(この時代の米俵は1俵30キロの中型が標準)
合計で180㎏。岩手の堤さんが70㎏を8袋、すなわち560㎏を持ち上げたことを考えれば、この程度では誇れはしない。まぁ自分的にはまだ余裕は有るのだが中身は食い物だし、何より嵩張るので重さ云々より純粋に持ちづらいのが問題だ。
やはり米俵専用のカーゴのようなモノの開発が必要だろう。車輪部分をどうするかだが、量産ではなくワンオフの専用機にすれば良いだろう。その際は商人用は緑で、大名用は赤で角付きだな。
それはともかくとして。
「なぁ吾作よ」
「あぁ。言わなくても良い」
俺達の目の前では、荷下ろしをした荷物を狙って来たのだろう。明らかに悪たれた連中が3人程で輪島の商人の小者に絡んでいる。
助けないのかって?何でだよ。
俺達は荷を下ろすのが仕事なので、その後の事に関してはノータッチだ。積み込む荷物を積み込んだらさっさと出港するだけ。
こういうのは商人が自分の荷物を守る為に護衛を用意しているモンだし、ソレを無視して絡む連中には、大体バックに商人の意見を無視できるような大物が付いているのが普通だ。
具体的には大名かその重臣。
商人もソレを見越して多めに発注してたりするんだな。
そして能登の大名と言えば、悪名高い畠山である。そう、応仁の乱の元凶の一つであり、紀州にのさばる管領家の畠山の分家筋だ。血統で言えば細川京兆家の分家である俺と似たような感じだな。
そんで畠山は先代の紀州畠山家当主である畠山稙長のせいでかなり面倒なことになっている。その面倒に巻き込まれたのが現在の能登畠山家当主畠山義続で、昔は紀州の本家を継ぐと言われていた人間だ。
まぁなんだかんだで流れたのだが。その為なのかどうかは知らないが、彼が能登畠山家を継ぐとすぐに家臣団が割れて能登には乱が起こることとなる。
その上叔父が加賀の一向宗を引き連れて戦を仕掛けてきたりしたせいで、一門衆の統率も取れず、畠山七人衆と呼ばれる連中によって義続は自分の子である義綱と共に親子共々傀儡とされてしまうわけだ。
まぁ織田によって傀儡にされた尾張の斯波義統・義銀みたいな感じだな。でもってコイツは家臣から実権を取り戻すために色々画策したりしていて、今は温井を殺すかどうかくらいじゃないかな?
そんなわけで、現在進行形で家臣と主君が水面下 (上にも出てるが)で綱引きしてるもんだから統治については二の次。尾張で言う津島以上の港である輪島を支配すれば、その経済力で能登を実効支配することも難しくは無いだろうに。
ここ輪島は街規模12で輪島塗が……っていかんいかん。この世界はゲームでは無いのだ。大体33000貫の投資は無理だろ。投資先も良く分からんし、そんなコトするくらいなら武装するって話だ。
それはともかく。
能登の連中には清須の権力よりも津島を選んだ織田信秀のような先見の明は無いらしい。
(実際津島に拠点を築いたのは信秀の父親である信定であるが、彼は尾張において主家の力を高める為の奉行として津島に居たのであり、大和守や武衛に対しての独立心のようなモノは無かった。その証拠に拠点を勝幡や犬山に移している)
そんなわけだから俺達が世話になっている商人もさっさと船を出したいし、俺としても管領家の連中に関わりたくないんで、ここは逃げの一手だろう。
そう思ってた時期が俺にもありました。
「おい、その荷物も置いてけや!」
「あぁん?」
さっさと荷を下ろして、自分たちの船に積み込む分の荷物探そうと思っていたら、悪たれの一人がそんなことを言って来やがった。
「聞こえなかったのか?ソレを置いて行けってんだよ!」
まだ若い、多分20になるかどうかの小僧が顔を寄せて下から変顔をキメてくる。メンチ切ってるつもりなのだろうが、実に滑稽だ。
「ソレとは?」
十中八九、俺が担いでいる俵だろうが、一応聞いてみる。もしかしたら刀かもしれんしな。
「その米俵に決まってんだろうがッ!殿様に献上してやるから、有り難く差し出せって言ってんだよ!」
コイツが本当に俺と同じ日本語を話しているかどうかは分からんが……まぁ増長した田舎の武士などこんなモノだ。京でも堺でも地元の侍は商人にこんな態度はとらんと言うのに。
もしかしたら俺は商人に見えないし、どうせすぐにいなくなるのだから何をしても良いとか思っているのかもしれん。
「聞こぇねのか?!さっさと置いてけって言ってるだるぉ?!」
妖怪米俵置いてけか?まぁ良かろう。欲しいならくれてやる。
ポイっ。
「へ?」
ぐちゃ。
言われた通りに米俵を投げ渡すと、悪たれはその米俵を頭でキャッチ!そのまま地面にダイヴした!俺はその上に追撃とばかりに米俵を積み重ねる。お侍様に米俵を寄越せって言われたのだから仕方あるまい。
6つの米俵が俺の身から離れる頃には、地面に積み重ねられた米俵に人間の体が生えているような、面白おかしいオブジェが出来ていた。
「おや、お侍様に言われた通りに俵を渡したら、お侍様が消えてしまったぞ?」
いやぁ困った困った。
「兄さん……まぁいいか」
吾作も彼らの態度には思う所も有ったのだろう。さらにコチラは地元の木っ端商人ではなく、小浜から十三湊まで船を出す大店の商人の一味である。今の混乱に混乱した能登畠山の家臣の関係者が騒いだところで何にもならんし、出港したら数か月は来ないのだ。
大名だの重臣の威を借りて悪たれているだけの小僧の敵討ちに躍起になる程、連中は暇ではないだろう。
「ついでにゴミ掃除もしていこうか。グダグダ騒ぐ連中が居ては荷物を積み込めんしな」
仲間の一人が潰されて (物理)無言になる悪たれ共は、俺の声が耳に入るや否やビクッとして腰に差した刀を抜いた。見た感じそれなりに剣の腕は有るようだが、所詮はそれなり。
……それに
「刀を抜いたな?ならば貴様らは俺の敵だ」
今も昔も武器を相手に向けると言うのは宣戦布告と同じ意味合いを持つ。それに俺も刀を差していることから、ただの農民や小者だと思った等と言う言い訳は聞かん。
公的な文章では、商人の荷物を奪おうとした悪たれがその護衛に殺されたと言ったところか?なおさら敵討ちはされんな。
武士として余りに情けない所業である為、家の人間も彼らの存在を揉み潰そうとすることは有っても、庇うと言うことは無いだろう。下手に庇えば他の重臣に付け入る隙を見せる事になるのだから。
自分との差を理解出来る程度の頭は有るのだろう。ガチガチと震えて居るが、謝罪の言葉は無い。地元でこんな醜態を晒しては生きて行けんよなぁ?
「苦しまずに殺してやろう。首を出せ」
「「く、くそぉ!」」
「愚かな」
俺が刀を抜く前にと思ったか、二人同時に挑んでくる。しかし残念ながら彼我の戦力差はそんなものでは埋まらない。
「グボッ?!」
右から来た悪たれの腕を掴んで、左の悪たれの腹を刺す。この際しっかり捻るのを忘れてはいけない。
「お、おまっ?!グボッ!」
腹を刺されたせいで手放してしまった左の悪たれの刀の柄を蹴り上げ、仲間を切ったことに動揺する右の悪たれの首を貫く。
蹴り穿つ悪たれの刃ッ!とでも言えば良いのかねぇ。
「「「……」」」
一瞬で二人の悪たれを葬った俺に、どういうリアクションを取れば良いのかわからないのか、周囲は茫然自失と言った空気に包まれている。いや、吾作は黙々と荷物を確認しているな。
「あぁ終わったか?そんじゃ兄さん。コレを持ってくれ」
「了解した。コイツ等はどうする?」
「その辺に捨てとけば魚が食うだろ。町の連中もこんな奴は来なかったって言ってくれるさ」
ちらりと周囲を見れば既に皆が連中の死体を海に運び、血の後始末をしてくれていた。
「……海の男は荒くれ者が多いのは知っていたが、町人も容赦がないな」
「兄さんが言うか?」
「ふっ違いない」
かくして藤孝は戦国乱世に生きる人間の強さをまた一つ実感していくのであった。
どんとはらい
東北地方でどうやって藤孝を出世させよう……まぁ彼は普通に文武両道なので出世するのにチートは必要無いんですけどね?ってお話。
畠山はなぁ。コイツ等って本当に意味が分からないんですよねぇ。
三國志とはダブルスコアどころじゃないポイント差!やはり中国は桁が違うと言うことか……。
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