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風神天翔記 ~とある修羅の転生事情~  作者: 仏ょも
四章。尾張統治と下準備編~
98/127

93話。清須攻めの巻

あらすじ。


守護様に逆らい下克上を目論む外道信長。彼女が率いる5000の敵に立ち向かうは、小守護代こと坂井大膳っ!圧倒的不利な状況の中、正義の戦の幕が上がるっ!

尾張清須


「坂井様!正面、破られましたっ!」

「織田三位様、討ち死にっ!」

「川尻与一様、降伏を申し出ましたが首を刎ねられましたっ!」


本格的な戦が始まってから僅か2刻(4時間)そんな短時間で次々と送られてくる凶報に、坂井大膳を含む清須方の将兵は既に顔面蒼白となっていた。


「……なんだコレは!こんな戦があってたまるかっ!」


ダーン!ダーン!と絶え間なく襲い来る銃撃と、その合間に飛んでくる正確無比な矢の射撃により、櫓から顔を出した兵は次々とその命を落としていく。清須側の兵たちは城に籠っているにも関わらず一方的な被害を出していた。


こちらはわずか1000の兵ではあるが、自分が指揮を執れば「うつけ」如きに負けるハズがない!兵の前に立ち、意気揚々と鼓舞を行った坂井大膳だが、戦が始まるや否や一方的に損害を与えられていると言う現実を直視できず、完全に余裕を無くしていた。



――――


「まぁこんなもんか」


清須城の城壁からおよそ一町半(150メートル前後)で銃を構え、ぼそりと呟いている間にもまた一人撃ち殺し、横に居る弾込め役兼観測役の者から銃を受け取りながら戦場を俯瞰するのは根来衆を率いる津田算長である。


今回津田算長率いる根来の鉄砲隊は一斉射撃などは行わず、櫓や城壁の上から攻撃を仕掛けてくる連中に対しての攻撃に専念していた。そうして鉄砲に対する備えを行っていない連中を狙い撃ちにしているのだが、これがまぁ当たること当たること。


織田弾正忠家の場合は例の小者によって齎された書物の中から竹束を使った楯や、塹壕と言う効果的な銃撃陣地の作成など、鉄砲隊を活用する為の様々な知識を得ていたが、他の家はそうではない。それらは今川にすら教えていない知識だし、根来衆も同じ紀州の雑賀衆にさえ秘密にしている知識だ。


そんな知識を実際に使って形にしながら「より効果的に。より確実に」と射撃を行い、己の技量を高めていくのは鉄砲使い冥利に尽きると言ったところだろうか。


さらに今回はこちらの兵が圧倒的に多いので、向こうは狙撃兵を狙って出陣することもできず、結果として一方的に撃ち放題であるのだ。このような状態だからこそ、津田も「楽な戦場だ」とあくびを噛み殺す余裕があった。


しかしそんな余裕を面白く思わない者も居る。


「津田殿。油断は大敵です!」


そう言いながら矢を放つのは、姫様の折檻から回復した後で清須攻めのことを知り「私も手土産に武功を立てたいです!」と姫様に直談判し、特別に『射撃のみの参加を許す』と言うことで今回の戦への参加許可を貰った誾千代だ。


彼女は算長に対して「油断は大敵!」と言いながらも、あえて姿を晒して隙を見せている。その姿は、誰がどこからどう見ても自らの元に敵兵が来ることを望んでいた。


しかし今回の根来衆の仕事は城壁を守る兵士の狙撃と、逃げる敵の射殺だ。武人としての拘りなど持たない算長と修羅としてとりあえず手柄が欲しい誾千代ではどうしても相容れることはないだろう。


まぁ今回は「誾千代が命令を遵守出来るか否か」を確かめるために射撃のみの出撃許可を出したのだ。もしコレに逆らうようなら容赦ない折檻&矯正が待っていると言うのは誾千代も自覚している。


その上で彼女の腰には迷子紐が付けられており、その紐は津田算長の腰に繋がって居る。こんな状況なので、彼女が暴走したらなし崩し的に根来衆も暴走に巻き込まれることになる。その為、誾千代は文字通り根来衆に手綱を握られていて、万が一にも勝手な行動ができなくなっていた。


しかし今回の戦では自分たちが城兵を減らした後は、恒興や義弘による突撃が待っているのだ。他はともかく義弘をライバル視する誾千代としては、是が非でもその突撃に参加したいと思ってる。


だが勝手に前には出られない。ならばどうするか?と考えた誾千代はとにかく目立つことにしたのだ。結果として向こうから自分の元に来てもらえれば「乱戦になったから仕方なく」と言う名目が立つことになる。


その結果彼女は敵兵にわかるように姿を見せて狙撃を行っているし、彼女の正確無比な狙撃は「何らかの対処をしなくては拙い!」と城兵側に思わせるには十分では有った。


しかし如何せん、ただでさえ兵力に劣る清須には外に出す兵が居ない。


その為、城壁から離れたところから挑発のように堂々と射撃を行ってくる白髪の小娘 (迷子紐装備)に対して、有効な手立ても打てず彼らは憎々しげな視線を向けるしか無かった。


「なんですかその視線は。視線で私は殺せませんよ」


視線が通れば射線が通るのが修羅の弓術である。それを修めている誾千代も敵からの視線を感じ取り、そこに向けて射撃を行って当たり前のように目を射抜くのだから、城兵はとしては堪ったモノではない。


「お見事」


「……見事もなにも、この程度は出来て当然でしょう?」


見るものが見れば、これはお世辞でもなんでもなく紛れもない絶技なのだが、九州に居る射手からすれば相手の目の光を狙うのは当然のこと。そう教えられ、鍛えられてきた誾千代は、今更この程度の技を惟信に褒められても誇ることはなかった。


実際は一町半(およそ150メートル)離れた相手の目を狙って当てるのは九州でも上級の腕が必要だが、誾千代の周り(鑑連・由布惟信・高野大膳・十時連貞・安東家忠・小野鎮幸等々)は普通にこなすのだ。そんな修羅に囲まれて育てられた彼女に、一般常識を理解しろという方が酷なのかもしれない。


誾千代の不満はともかくとして、そうやって当たり前のように視線を向けた者までもが射殺されていくのだから、城兵の絶望はどれほどのモノだろう。


頭を出せば殺される。視線を向けても殺される。城壁の上や櫓に居たお偉いさんは皆死んだ。(この時代、弓を扱えるのは農家出身の一般の兵士ではなく、狩りを生業とする山師かそれなりの家の者だけであり、それが優先的に狙われた)


そのうえ外に居るのは自分たちの五倍以上の敵だ。この状況下でお偉いさんは自分たちにどうしろというのか?


そんな恐怖に怯える城兵に、更なる恐怖が訪れる。


「城門は無視、壁を乗り越えろ」


「「「「おぉぉぉぉ!」」」」

「お、おぉぉぉ」


正式に姫様こと義鎮の配下に加えられた九州勢が、指揮官代理である義弘の指示に怒声に近い声で応えれば、城壁を越えて城門を開けるよう命令を受けている望月の者たちも小さく声を上げる。


九州勢の事情は……まぁわかるだろう。本来であれば彼らは大友家の人間であり、姫様が動けないと言うならば経験豊富な由布惟信こそが彼らの指揮官であるべきだと言う気持ちが強かった。(誾千代は血統上代表にふさわしいし、力も有るのだが姫様から折檻を受けたばかりなので除外されている)


しかしその由布は誾千代の側に付いており、誾千代と共に狙撃による援護を行うに留めていた。


では誰が姫様の軍勢の指揮を執るのか?と言う話になったとき、姫様から代理として任じられたのが、この島津義弘である。


彼らは最初「大友に仕える我らが島津家の者に従うなどありえん!」と、衝撃を受け姫様に反対意見を具申しようとした。しかしそこで


「今の貴方達は大友家の家臣じゃなくて、吉弘家、つまり千寿の家臣なの。私と鑑理が認めた千寿の側室である義弘に従えないと言うなら、今すぐ九州に帰りなさい」


と当の姫様に完全論破される形となってしまった。


このままでは不満を抱えて戦に臨み、場合によっては命令違反もあっただろう。しかし領主としてのイロハを叩き込まれている義鎮は格が違う。当然そこで終わらせるような真似はしない。


「そんなことより目の前の戦に集中しなさい。この戦でどれだけ手柄を立てたかで今後の扱いは変わるわ。なにせ信濃も三河も土地が余ってるからね。一気に城持ちだって夢じゃないわよ?」


この言葉を受け目の前に大きくて美味しそうな餌をぶら下げられた修羅達は、島津だ大友だと言った一切の拘りを忘却の彼方に葬り去り、敵の首を求める修羅と化した。


そもそも彼らは九州でも冷や飯食いの立場にある三男や四男であったり、当主と次期当主から疎まれ、九州を飛び出すくらいに鬱屈したモノを抱え込んでいた者たちだ。


それがこうして戦場の華である戦に参加出来るだけでなく、褒美まで確約されたと言うのなら燃えないハズがない。ちなみに彼ら20名は未熟では有るが一応武人としての教育を受けた修羅である。その武力は今の前田利家や佐々成政に匹敵する。


そして彼らを支えるために派遣された者たち60名は、そんな彼らを守るために実家から派遣された修羅である。当然彼ら若造共よりも強いし、このまま見知らぬ地で燻るくらいなら、ここを新天地として城持ちの側近として仕えたいと言う気持ちも有る。


その為、服部党との戦の際に唱えていた「手伝い戦に参加しても若殿が危険なだけだ」と言う意見を完全に捨て去り、むしろ若殿の尻を叩いてでも戦に参加させようとしていた。


ちなみのちなみに。姫様と千寿が大友家を出る際「刺客を放てばどうなる?」と言う意見が有った際に「50人の修羅が命懸けで挑めば千寿だけなら殺せるかもしれない」と言わしめたのは、彼らのような立場の人間である。


これが多いと取るか少ないと取るかは微妙だが、信長に聞けば「50人で吉弘殿に勝てるかじゃと?無理に決まっとろうが!殺す気かっ?!」と声を荒らげるだろう。利家や成政は言わずもがな。恒興?ちゃっかり千寿の補佐をしていそうである。


そんな彼らが60人。つまり今、清須が相手にしているのは当時の千寿すら殺せる可能性がある修羅の集団と、20人の若手修羅である。そんな連中が目の前の褒美に理性を失くしたうえで、織田勢5000の援護を受けて一心不乱に挑みかかるのだ。


そしてその先頭を走るのは、一人でも当時の千寿の足止めが可能であろう修羅、鬼島津こと島津義弘。彼女もまた千寿への手土産を欲していたので殺る気は十分以上だ。


そんな連中に襲われることになった清須城こそ憐れと言えるだろう。


城門?城壁?あいつらは良い奴だった……と言わんばかりに突破していく修羅の群れに、城兵は為すすべもなく蹴散らされたと言う。


その影で、姫様から禄を貰い正式に雇われの身となっている望月勢他、吉弘家の人間およそ100名も粛々と城壁を乗り越えていく。


ここ、清須城での戦は既に終わりが見えていた。



――――



「おぉ。何というか……荒々しい連中じゃのぉ」


「ですね。姫様や吉弘様が常々「九州の連中は危険だ」と言っている意味がようやく分かりましたよ」


本陣からでも感じられる彼らの気勢を受けて口元をヒクつかせる信長と、達観した表情を見せる恒興。


城壁など、櫓や上からの攻撃がなければただの壁でしかないのだから、根来衆や誾千代の援護射撃によって敵の抵抗が無い壁に接近することは容易いものだ。


そこで三人一組となって櫓を創り、その上を駆け上って城壁を超えていく様は、何というか実に手馴れた様子である。それは一緒に突貫している望月達も「うぇ?!」と二度見する程の見事さだった。


そんな彼らに負けてなるものか!と尾張の者たちも城壁に挑みかかろうとするが、櫓になる者と駆け上る者の役割分担が出来ていないのでどうしても真似は出来ない。(中に行ったほうが手柄を稼ぎやすいが、その分危険だし、足場になることに抵抗もある。等の色々な葛藤もあった)


その為、尾張勢の攻撃は普通に梯子を掛けたり城門に攻めかかるだけとなってしまっている。……清須方にしてみたらそれだけでも十分な圧力であるが、やはり壁を跳躍して城内に雪崩込んで橋頭堡を築いている連中に比べれば見劣りしてしまうのは仕方のないことだろう。


「あ、殿!城門が開きましたよ!」


さらに尾張勢が城壁を越える前に城門が開けられしまった。これにより一番槍&手柄は完全に九州勢のモノとなることが確定してしまった。


ある意味で尾張勢の面目は丸潰れとなった為に、流石の信長も不機嫌になる……かと思いきや。


「ほほー。早いわ。元々清須は平城と言うのもあるし、戦の為の城ではないと言うのが災いしたのぉ。これから城を築く際には城壁への工夫や櫓の位置。それに形も考えねばならんな」


普通に感動し、学習していた。


まぁここで手柄を上げれるかどうかで今後の栄達が懸かっている彼らとは違い、信長にしたら派閥の違いなど些細なものだし、結果を出せる者に対して文句をつけるような性格はしていないと言うのが大きな要因だろう。


長年仕える無能な配下よりも、新参でも仕事が出来る者を活用出来るかどうかが、戦国大名として大成出来るかどうかの分かれ目となる。もちろん長年仕える有能な者が居れば一番なのは言うまでも無いことだ。


しかし信長の場合、家督争いでほとんどの譜代の者たちが信行方に付いたので、今の信長には譜代と言える者が少ない。具体的には林・平手・佐久間・池田・佐々・前田(利家限定。前当主や長兄は反信長派)と言ったところだろうか。


このうち、林と平手は京に居て朝廷工作を担当。佐久間と佐々は小牧山で斎藤と睨み合い。前田が服部党への対処に当てたので、残るは池田だけだ。


その池田家は恒興と共に本陣に詰めて居るので、この戦場には信長にとっての譜代と言えるような者は居ない。せいぜいが近くて遠い一門衆の信広や信光くらいだが、彼らは他の家臣とは扱いが違うので今回九州勢が手柄を上げても信長はちっとも困らない。


むしろ彼らが活躍することで姫様の機嫌が良くなると思えば「いいぞ!もっとやれ!」と督戦したいくらいだ。


とは言え、城門が開いたなら攻め入るのは当然のこと。旧武田家の三枝や内藤も手柄を欲しているので、せいぜい苛烈に攻めれば良い。


今回の戦では向こうが兵力差に怯えたのか無駄に兵を出してこなかったし、信長もさっさと城を落とすことを優先したので、清須の街にはこれといった被害は無い。乱暴狼藉も許す気は無いので結果として戦後処理は楽に終わりそうだ。


残る懸念は連中を逃がすことだけ。根来衆には逃げ出す連中がいたら即座に殺すように言っているが、こちらも注意が必要だろう。


「いやぁこのまま連中が腹を切ってくれれば、さっさと城も接収出来て楽なんじゃがなぁ」


「大丈夫だと思いますよ?この状況から覆すのは難しいでしょうし」


「じゃよな。ほれ見よ。あそこの白髪も悔しそうにしておるわい」


「十分手柄は立てたと思うんですけどねぇ」


「まったく、なにが不足なんじゃか。お子様は落ち着きがなくて困るのぉ」


「……ソウデスネ」


根来衆と共に数十の敵を射殺しながらも、突撃に参加できずにふてくされて迷子紐を弄る誾千代を指差して笑う信長と、完全なブーメランになっている信長の発言にツッコミを堪える恒興。


彼女らは坂井大膳とは正反対に、終始余裕であったと言う。



九州勢(プラス望月)大活躍の巻


開幕と同時に負けそうな坂井=サン。まぁそうですねってお話。



丹羽=サンについて、1550年からノッブに仕えて居たと言われておりますが、作者の中ではノッブが1549年に濃姫と結婚して斎藤道三の後ろ盾を得たからこそ、武衛や武衛に仕える丹羽氏が信長に接近したのではないか?と思っております。


それが無かったら、誰がどう見ても家督争いで信長が不利でしたしね。そんな斎藤道三の後ろ盾が無かった拙作のノッブに、武衛が人を派遣するか?と思った結果。派遣しないだろ。となりました。


従兄弟とかは……今更ですね。拙作のノッブは血縁を重視しておりません。


森=サンは前にも言ってますが、一節では長井に仕えたとかと言う話もありますし、どうもあやふやです。そんなあやふやは考察と言う名のご都合主義に飲まれたと思ってください。



己の作品(三國志)にダブルスコアを付けられるって複雑ですなぁ。もっとポイントくれて接戦にしてくれても良いのよ?(チラチラ)


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