92話。清須と那古野の軍議風景の巻。
今更ですが細川日記はネタ満載のギャグ時空のような感じにする予定です。
四章が終わったら一つに纏める予定ですので、何卒ご容赦をお願いします。
尾張清須城。
「えぇい!あのうつけめが、何様のつもりじゃっ!」
「まったくだ!家督を継いだばかりの分際で!」
「然り!小娘が調子に乗りおって!」
尾張守護代である織田大和守信友を傀儡としていた坂井大膳・川尻与一・織田三位らは、軍議の場においても戦の話をせず眼前に迫る信長の軍勢ではなく、先立って訪れてきた使者に対し憤りを隠さず感情のまま怒鳴り散らしていた。
「なにが『この期に及んで降伏は認めぬ、三日待つゆえ潔く腹を切れ。さすれば他の兵は許す』じゃ!この小守護代たる儂に良くもほざいたものよ!」
激昴する坂井だが、すでに朝廷から正式に正五位下弾正大弼に補任されている信長からすれば、武衛ですら同格である。故に無位無冠の彼など自称小守護代(笑)でしかないのだが、その辺の現実を見る目は無いらしい。
そんな彼らが中心となる軍議がまともな軍議になるはずもなく、大和守ではなく斯波武衛に仕える森政武・掃部助兄弟や丹羽祐稙らは何とか主君を逃がそうと画策をしていた。
「あの三人はともかくとして、実際はどうなのですか?」
森政武としてはここまで連中をのさばらせて来た以上、自分も無関係とは思っていない。さらに今回の戦では美濃の斎藤や駿河の今川まで尾張の戦に引き込んでしまっているのだ。
尾張に生きる国人としてはまさしく裏切り行為。腹を切れと言われても当然だと思っている。
これに対して「坂井らが勝手にやったことだ!」と言うのは簡単だ。しかし信長の「坂井如きの統率も取れぬ者が上におっては纏まるものも纏まらぬ。尾張のことを思うなら武衛様こそが率先して潔く腹を召されるべきである」と言う言葉には頷かざるを得ない。
この戦国乱世において、弱いと言うのは罪である。その罪人が上に立つから戦乱が終わらないのだ。と言われてしまえば否定することが出来る者は居ないだろう。しかし、それを知っても、なんとか主君を生かしたいと思うのが譜代の家臣と言うものだ。
問われた丹羽祐稙も、そんな森の気持ちが痛いほどわかる。しかし分かるが故に厳しい表情を浮かべざるを得ない。
「……弾正殿は我々を生かす気が無いようです」
「……左様ですか」
信長としては小者からの情報に有った『丹羽』や『森』に興味が無いわけではない。しかし現状で武衛の配下を幕下に加えるメリットとデメリットを考えた結果、デメリットが大きい(武衛の生存や斯波家の扱いが条件になるだろうから面倒)と判断し、彼らを殲滅すると決意していた。
これは信濃から来た連中が思いのほか使えたのと、九州からの補充の人員が間に合ったこと。また殺気溢れる姫様を前にして温い決断を取ることで己の評価を落とすことを恐れた為である。
実際、姫様云々はともかくとして「そもそも自らが武衛の忠臣だというなら、さっさと主君を傀儡にしている連中を殺せばよかろうに」と言う気持ちがあるのも事実だ。
昔の守護代としてそこそこ力が有った時ならまだしも、今の彼らは清須周辺の4万石程度しか治めていないのだ。坂井らが居なくなったとて組織運営くらいは出来るだろう?それなのに現状で坂井大膳らに好きにさせているような連中に価値があるとは思えない。と言うことである。
「我らの無能が武衛様を殺すことになるとは……」
「兄上!」
すでに生を諦めている政武に対し掃部助が声を荒げるが、現実を見れば明るい展望などどこにもない。
まず兵力差。現在の清須はおよそ1000人ほどしか居ないのに対して、信長は対美濃に4000・対服部党に対して1000。さらに今川に対して6000の兵を出しているのにも関わらず、対清須用の兵として5000もの兵を動員している。
これは同数や倍の数で当たってこちらの動きを抑える。と言う消極的なモノではなく、ここでの戦を一撃で終わらせて、美濃や三河に対して援軍を差し向けると言う方針だろう。
そんな信長が、面倒な戦後処理を嫌い「全員死ね」と言ったのだ。今更命乞いが通用するとは思えないし、森もそうだが身内に一向門徒がいる者達は三河での破却に対して憤りを覚えているはず。
そんな連中を態々生かす?ありえない。むしろ重点的に潰そうとするだろう。
「では勝てると思うか?」
「それは……」
真正面からそう問われては、掃部助とて「勝てる!」とは言えない。実際彼らに単独での勝ち目は無いのだ。背水の陣で挑む!と言っても清須の兵士たちとて、坂井や武衛の為に五倍の兵を相手に突っ込むような真似はしたくはないだろう。
大軍と言うのはそれだけで敵を圧倒するのだ。そして恐怖を覚えた軍勢は死兵足りえない。中途半端な突撃をいなされて滅ぼされて終わりだ。もしくは身内から裏切りが出て、後ろから刺されるだろう。
「勝ち目があるとすれば籠城で粘ることだが……」
そう言う丹羽も表情は暗い。
「粘ってもどうにもならんでしょうな。むしろ尾張の財が無くなるだけで、美濃の青大将や駿河の治部を助けることになる。お主もそのくらいはわかるだろう?」
「……」
兄に諭されて、完全に言葉をなくす掃部助。彼はもはや自分たちの命に意味はない。それどころか生き延びることそのものが害悪になってしまっていると言う現実を知り、愕然としているのだ。
そもそも攻城戦には三倍の兵力が必要と言われているが、向こうは兵数だけでも五倍である。さらに勝ち戦であり、尾張の統一が掛かる戦と言うことで士気も高いときている。
そこが油断となるような相手ならば良い。籠城で粘っている間に斎藤か今川が動いてくれれば勝ちの目も見えてくるだろう。だがそいつらが来たところで武衛様の扱いが変わるわけではない。むしろ連中は武衛様を排除しようとするだろうと考えれば、ここで時間を稼ぐことそのものが尾張の為にならない行為と言えるだろう。
ここで『(命を捨てる覚悟があるなら)潔く腹を切れ』と言う信長の言葉が、彼らに重く伸し掛ることになる。
また、兵士たちも「彼らが死ねば自分達は助かる」と言われたらどう動くだろう?今日を生きることが第一である彼らにとって、管領だの尾張守護だのと言った肩書きや大義名分は関係ない。むしろ殺して首を持っていけば褒美になると判断するのではないか?
それに敵は今川も恐れる外道・織田信長だ。那古野の目と鼻の先に有ると言っても過言ではない清須の内部に、己の息のかかった兵を潜ませていない等と言うことがあり得るのか?
内外に敵を抱えた状態でまともな籠城戦が出来るか?
もはや戦がどうこうではない。この状況は誰がどう考えても負けている。この期に及んで自分たちが選べるのは、負け方でしかないと言う現実を思い知り、武衛に仕える者たちは意気消沈し、今も上座で勇ましいことを吠えている三者を疎ましそうに眺めるのであった。
――――――
尾張那古野城。
混乱する清須とは打って変わって静寂が支配する那古野城では、さっさと戦を終わらせたい信長が最終確認と言う名の軍議を行っていた。
「……ぶ、武衛様については腹を切ってもらう。これは決定事項じゃ」
「「……はっ」」
「……さ、坂井大膳らも当然じゃな。ついでに信友も」
「「……はっ」」
軍議を主導し、武衛や信友らの殺害を告げるのはもちろん尾張が誇る織田弾正大弼こと信長である。
周囲から外道認定されている信長も流石に守護代の大和守信友はともかく、生まれる前から主筋であった(信友もそうだが)武衛を殺すと言うことに関しては緊張をしているようで、その口調は重い。そして軍議に参加している者たちもまた、その空気を感じて無駄口を叩こうとはしない。
正直に言えば、場の空気が重いのは武衛など関係ないのだが。
「いや、チラチラ私たちを見なくていいわよ?」
「そうね。別にここで喧嘩したりはしない」
「「「(嘘だっ!)」」」
そう。この場に静寂を生み出している元凶は不機嫌オーラを出す姫様と、荷ノ上から津田達根来衆と共に戦勝報告を携えて現れた義弘の間に有る空気である。
その際津田から簡単な説明があり、利家からの報告は誾千代に任されていたと言うことを聞いた信長は、その報告を怠った誾千代に対して「流石になにか罰を与えねばならんかの?」と思ったが、視線の先でいつの間にか逆さ吊りにされ姫様から容赦ない往復ビンタを食らって泣いている彼女を見て「……まぁ利家もお子様に書状の一つも持たせなかったのが悪いっちゃ悪いし。今回は勘弁してやろうかの」と言う気分になったとかならなかったとか。
それはともかくとして。
ここのところ絶賛不機嫌中である姫様からの「喧嘩はしない」宣言に対して、軍議の場に居る信長・恒興・内藤(ついでに望月)は心の中で悲鳴を上げていた。
ちなみに誾千代は客将ではなく姫様のお付き。つまりお客様なのでこの軍議には参加していない(折檻のダメージが大きくて寝込んでいる)。また、根来衆の津田算長も那古野に来ているが、彼は「自分は雇われの身なので軍議の決定に従う」と言って避難済みだ。
まぁそれを言ったら本来は義弘も誾千代たちと同じ扱いなのだが、彼女はすでに服部攻めで功績を上げているし「妊婦であるが故に戦に参加できない義鎮殿の代理として、此度の戦にも参加する」と言って来て、姫様もそれを認めた以上は信長も無視出来ないと言う状況であった。
つまり今の島津義弘は尾張に五千石を持つ吉弘家の代表代理なので、普通に軍議に参加出来る立場と言える。それはまぁ良い。能力があると言うのは分かるし実績もあるのだから、信長だって大歓迎だ。
問題なのはお互いの間に流れる冷たい空気である。流石に義弘も妊婦である義鎮に何かをしようとは思わないし、何もされない以上は義鎮も義弘に何かするつもりはない。
そもそも初対面であり、互いに直接的な恨みが有るわけでもないはずなので、和気あいあいとまでは行かないまでも、もう少し朗らかで有っても良いと思うのじゃがのぉ……
信長はそう思っているが、その認識は誤りであり実際には恨みは存在する。
義弘を始めとした千寿を狙っていた女子達から見れば、義鎮は千寿を九州から連れ出し、千寿の未来ごと奪って行った女である。(千寿的には姫様と一緒に大友家を出ることができて大満足だが、他の人間から見たら姫様の我儘に巻き込まれたようにしか見えない)
それに婚約解消による周囲からの落胆(慰めの言葉よりも、今後の結婚を諦めるような扱いは流石にイラついた)もあった。
そんなわけで、そもそも彼女の反対のせいで婚約解消をされて婚期が遠のいた(実際義鎮の強硬な反対は婚約解消の一因だ)と言う点においては個人としての恨みが有るし、千寿の事を想う一人の女として、義鎮の我儘のせいで彼の栄達を奪う形となったのだから、そりゃ恨みもするだろう。
「大友家から消えるなら一人で消えれば良いじゃない!」と言うわけだ。これもまた部外者たちの総意と言えば総意である。
そして義鎮からすれば義弘は事あるごとに千寿が賞賛していた女であり、父親が千寿を差し出そうとするなど、公私共にライバル的存在と認識していた相手だ。
確かに自分の行動が九州における千寿の栄達の道を奪ったことになったし、自分もそれは申し訳なく思っていた。だが、現在の千寿は三河と信濃の40万石(あとで10万石追加予定)を差配する大名のような存在となっている。
その為、今では「九州に居るよりコッチの方がいいじゃない!元婚約者?ふふん。千寿は貴女なんかよりも私を選んだのよ!」と言う気持ちも有って中々歩み寄りが難しい状況だ。
さらに言えば信玄の存在もある。
義弘も義鎮が正室で自身が側室となることは認めているが、それだって自分が第一側室であることが前提だ。まさかそこに元甲斐・信濃国主であり23歳の年増が居座って居るなど想像の埒外であり、そう簡単に容認できるようなモノではない。
千寿に側室が一人では足りないと言うのは分かるし、国主経験者が側に居た方が千寿が楽になると言うのも理解しているが、それはそれである。
そんなわけで機嫌が悪い義弘と、その義弘を宥めようともしない、それどころか義弘並に機嫌の悪い義鎮によって、場の空気は完全に冷え込んでいると言う訳だ。
この状態で不用意な事を言えば自分もどんな巻き添えを喰らうかわからないので、軍議は信長主導で粛々と行われ、三日後に坂井らの首が届かない場合は清須を攻めると言うことを確認し解散となった。
――――
三日後。三河にいる千寿から「今川から停戦の使者が訪れ、岡部らが兵を引いた」と言う報告が来ると同時に、信長は清須攻めを宣言した。
ここに尾張を統一するための最後の戦の幕が開ける。
ようやく坂井大膳登場。ノッブを苦しめた服部が既に死亡確認されている中、彼らは如何にして外道に立ち向かうのか?!
5000対1000。まぁ頑張れば勝てるね!ってお話
総合一位の人とか……一日で5000ポイントですってよ?(チラッ)
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