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風神天翔記 ~とある修羅の転生事情~  作者: 仏ょも
四章。尾張統治と下準備編~
94/127

90話。渡る世間(尾張)は鬼ばかりの巻

前話のあらすじ


鬼 「来た・殺った・勝った!」

姫 「あ”ぁ”ん”?!」




尾張那古野


「待って、ちょっと待ってください!」


「待ちませぬ!姫様ー。誾千代ですよー誾千代がやってまいりましたよー!」


「……なんじゃ騒々しい」


これから武衛様をどう処理しようかと言う相談をしとったら、恒興が何やら騒いでおる。で、何が有ったのかと思えば、別な女子の声が聞こえてくるではないか。しかしギンチヨ?聞かぬ名じゃの。


この時期に来る姫様の客と言うことは九州からの者かの?いや、まぁ儂や恒興も場所が場所なら姫様と呼ばれる立場じゃし、妹たちの可能性も無いわけではないが……聞いたことが無いから姫様じゃよな。


「誾千代?まさかあの子が来たの?」


ほらの。なにやら姫様の知り合いみたいじゃし。無礼は無礼じゃが、此度は大目に見てやるわい。


「恒興!とりあえずそやつを連れて参れ!内藤、迎えに行ってやれぃ」


「はっ!」


このままでは五月蝿くて軍議どころではないし、九州からの人員が来たと言うなら政にも関わるからの。戦は政の延長と考えれば、軍議の前に補充を確認するのもよかろうて。


「あ~ごめんなさいね?」


「んむ?まぁ別に姫様が悪いわけじゃないからのぉ」


悪いのはギンチヨとやらであって姫様では無い。それに九州の人間がどれだけの者なのかを見たいと言うのもある。


……まさか全員が全員吉弘殿や姫様みたいな連中じゃないじゃろな?


信長の脳内に修羅が行進している姿が浮かび上がるが……これ以上は危険だ!と脳がその映像の再生を止めた。もう少し遅ければ信長は脳内の千寿や姫様に吹っ飛ばされて、一人で襖に衝突していたことだろう。


「ここに姫様がいるんですかベッ?!」


「五月蝿いわよ」


「うぅ、ぉぉぉぉぉ……」


そんなリアルシャドーさながらの怪奇現象の被害から免れた襖が、幼い子供の声と共に開け放たれた。……と思ったらその少女は姫様が放つ礫を額に受けて、悶絶している。


怒涛の展開に目を白黒させる信長主従だが、とりあえず一言。


「……なんじゃ。この白髪小娘は」



――――――――



「姫様!お久しぶりでございます!」


とりあえず頭の痛みが治まったのか、姫様こと義鎮の前で土下座する誾千代。完全に信長を無視する形になっているが、未だに大友家所属の彼女にとっての主君は信長ではなく義鎮なので、彼女の中では無礼でも何でもなかったりする。


「えぇ久しぶりね。随分大きくなったじゃない?」


「ハイ!あれから5年いや6年、今や誾千代も立派な修羅にございます!」


「……立派な修羅って」


信長もそれを理解しているので、そのことに対しては特に文句を言うつもりはないが、流石に自分よりも幼い少女が嬉しそうに修羅を名乗るのはどうなんだ?と思わないでもない。


「む、そこな赤毛のお子様はなんぞ文句でもあるのですか?」


「お、お子様じゃとぉ?」


姫様や千寿には散々お子様扱いされている信長だが、この時代で言えば結婚適齢期の立派な淑女である。さらに官位も頂戴し、名実共に織田弾正忠家の当主として周辺に認められつつ有る (外道orうつけorお子様としてだが)自分が、よりにもよって見るからに年下の小娘にお子様扱いされてはイラつくのも仕方ないだろう。


「口を慎みなさい誾千代、その赤毛のお子様が織田弾正大弼信長様で、私や千寿の主君なのよ?」


「え”?コレがですか?」


「こ、これぇ?」


目の前で指差されコレ扱いされるなど、面目を重視する武士にはとても耐えられるモノではない。しかもこの小娘は挑発などではなく素で驚いている。この行為がどれだけ屈辱的な行為なのかは推して知るべし!と、普通なら一触即発な空気になるところだろうが……残念ながら (?)信長はそう言う扱いに耐性があった。


と言うかココで激昂したら「大名がそんな小さいことで騒ぐな」と折檻されると言う未来を予測したと言っても良い。その証拠に。


「流石に失礼でしょ」


「ハベッ!」


目の前では自分に代わってしっかりと姫様が折檻してくれている。まぁいくら無礼を働かれたとしても、信長が大友家の家臣を斬るのは拙いので、こうして彼女がフォローを入れるのも当然と言えば当然であるのだが。


「ふっ。まぁあれじゃぞ?儂としては子供の戯れに目くじらを立てるような真似はせんが、儂にも立場があるでのぉ、あまり舐めた態度を取ってくれるなよ?」


「くっ!」


ふふんと鼻を鳴らしながら上から目線で説教をする信長だが、言っていることは間違ってはいない。例え信長が許しても、家臣は自分の主君に対する無礼を許してはいけないし、無礼を働いたのが家臣の身内なら止めるのも家臣の務めだ。


「そう?信長が許したなら折檻はこれくらいにしてあげるわ」


「……え?」


「それで誾千代。貴女が来ると言うことは鑑連も知ってるのよね?」


さっさと折檻を終わらせる姫様に、アレ?もっとヤっても良いんじゃよ?儂みたいに尊厳が死ぬまで殺っても良いんじゃよ?と言う念を送るが、残念ながら義鎮には受信機能は無いらしい。


もっとも隣にいる恒興はなんか冷たい目で信長を見ているので、なぜか彼女は受信できたようだが……恒興には姫様の知り合いを折檻する気はないし、何より目の前の少女は自分より強いと言うことも分かっているので、下手に手を出す気は無かった。


利家同様に、恒興も色々学んでいるのだ。


それはともかく。


「ハイ!姫様がご懐妊とのことでしたので、少しでも知っている者が護衛に付くべきだと説得しましたら、快く送り出してくれました!」


「……そう。それは正直助かるわ。後でお礼を言わないと」


信長や望月が居るとは言え義鎮にとって尾張は異国だし、知り合いの一人も居ないと言うのは心細いものがあったのも事実なので、こうして九州から付き人が来てくれるのは正直嬉しい。


しかし、義鎮も女である。誾千代の狙いなどお見通しだ。


「で、本音は?怒らないから言ってみなさい」


「千寿様に会いたいです!姫様が御伽辞退している今が絶好の好機だと思ってますベラ?!」


「はっ!お子様には10年早いわ!次は儂のバンジャン?!」


怒らないがツッコミを入れないとは言っていない。


「「嘘つき!!」」


頭に鉄扇の一撃を喰らい、声を合わせて抗議する赤と白のお子様たち。と言うかどさくさに紛れて勝手に順番を決めるなと言いたい。


自分の旦那を狙う女が多すぎることに、誇らしいやら危機感を覚えるやら。今の義鎮はそんな複雑な心境であるので、怒ってはいないのだ。だから嘘は吐いていない。


「まぁそんなことだろうと思ったわよ。あぁ信長の番は無いから。アンタはさっさと自分で相手を見つけなさい」


「なんじゃとー?!」


「ふふん」


「いや、誾千代も無いから」


「えぇ?!」


二人して、ナンデ?!と言う顔をするのだが、そりゃそうだろう。


確かに義鎮も一人か二人は側室が必要だと考えているが、主君の信長は論外だし千寿が誾千代のようなお子様に嵌ってしまっては自分が困るのだ。そんな自爆のような真似をするほど義鎮は女を辞めていない。


「あの、信長様?」


そんな女の戦いが一段落したところで内藤が声を掛ける。彼は元々軍議の為に呼ばれていたのだが、女の戦いに関与する気は無かったので黙っていたのだ。まぁ信玄に気を使ったとも言うが。


「む、内藤?……お、おぉそうじゃな。そういえば軍議中じゃよな!」


場に自分に不利な空気が流れてきたのを察した信長はさっさと話題を変えることにしたようだ。さすがの切り替えの速さである。


「軍議……そうでしたっ!」


「ん?どうしたの?」


そしてその軍議という言葉に反応したのも、自分に不利な状況になりつつあることを察した誾千代だ。修羅の嗅覚はこう言う戦いにも活かされるらしい。


「姫様!大変です!抜けがけです!」


「抜けがけ?」


信玄や紹策に関しては義鎮も認めたことなので、特に文句を言うつもりはない。と言うか誾千代がソレを知っているとは思えないので、他の何かが有ったのだろうが……自分には何の連絡も来ていない。


まさか千寿が私に内緒で誰かに手を付けた?その考えに至った義鎮は一瞬呆然とするが、彼がそんなことをするはずがないと思い直し、阿呆な考えを一瞬で切り捨てた。


では抜けがけとは何なのかと言う話になるのだが……


「はい!私たちと一緒に尾張に来た島津義弘が、港で戦準備をしていた前田殿?とやらを唆して服部党?とやらを滅ぼそうとしておりました!」


「「……はぁ?!」」


信長と義鎮の二人が同時に素っ頓狂な声を挙げた。信長はともかく姫様に関しては実に珍しい光景であるが、誾千代の告げ口は続く。


「元々『足止めを命じられているから』と言って戦には及び腰だった前田殿に対して、奴はあろうことか「どうせ敵なんだから殺せば良いでしょ?」って言って!半ば無理やり前田殿を戦場に連れて行ったのです!」


嘘は言っていない。自分も一緒になってやろうとしていたことではあるが、自分は実行できてないからセーフと言う自分ルールが発動したらしい。どうやら誾千代はこのままでは義弘の一人勝ちだと言うことに気付いたので、ここで義弘と刺し違えるつもりのようだ。


そんな誾千代の鬼気迫る様子から嘘ではなさそうだと判断した信長だが、それならそれで別の問題が発生する。


「利家からは何の連絡も来ておらんぞ?……恒興は何か知っとるか?」


「ですね。連絡は来てません。もしかしたらそろそろ早馬が来るかもですけど」


「ちっ!アヤツは何をしとるんじゃ!」


非常事態が発生した場合は、勝手な判断をせず即座に信長に連絡をすると言うのは織田家では常識。その常識に沿って考えれば、今回のことは確実に報告をしなくてはならない案件である。それなのに何の連絡も寄越さない利家に信長も軽く苛立つ。


……当の利家としては誾千代に全てを託した気になっているので、次の報告は服部党殲滅のお知らせになるのだが。


前田利家の危機はともかくとして、問題は今の那古野だ。利家が勝てば、まぁ良い。信長も利家に対して『戦をするな』とは言っていない。故に戦をして勝ったと言うなら『足を止めろ』と言う命令は果たしているとも言える。


問題は服部党の拠点が輪中にあることだ。普通に城攻めしたのでは落とすことは出来ないし、下手に攻めかかって犠牲を出せば無駄死にである。さらに戦が長引けば長島の連中が服部に合力するかもしれない。その場合は美濃の斎藤など比べ物にならないくらい厄介な敵が生まれてしまう。


それが自身の判断ならまだしも、他家の人間に乗せられた結果となればその責は誰が負う?


しかもシマヅヨシヒロなど聞いたことが無い武将に乗せられてって…………アレ?


「の、のう銀髪や」


「む?なんですか?」


赤毛の小娘に銀髪呼ばわりされて少しイラっとした誾千代だが、一応千寿や姫様の主君だと言うことなので不満を飲み込むことにしたようだ。まぁ顔は不機嫌です!と主張しているが。


「その、利家を唆したシマヅヨシヒロってアレかの?薩摩の守護の二番目と言うか、長女の?」


「そうですが……守護の貴久ならともかく、アレのことも知っているなんて。前田殿とやらもそうでしたが、尾張の人間と言うのは随分と勤勉なのですね?」


そんな褒め言葉を貰っても信長としては微塵も嬉しくない。なんで九州からの増援の中に姫様の宿敵が入っておるんじゃ!と大声で叫び出したい気分だ。そして宿敵を迎え入れることになった姫様がなんの反応も示していないことに疑問を覚えた信長が、チラリと横に座る彼女を見れば……


「………」


姫様は完全に無表情で固まっていた。


「ひ、姫様?」


その様子に何かヤバイと感じたのだろう。誾千代は微妙に距離を取ろうとする。


「……誾千代?」


だが彼女の行動は遅かった。緊張で顔を青ざめさせる誾千代に無言で手を差し出す義鎮。普通なら何を?と思うのだろうが、この場にいる人間全員は彼女が誾千代に対し「名簿・もしくは事情が書かれた書状」の提出を求めていることが分かった。


「はいっ!」


当然誾千代もソレを理解したのですぐに鑑理からの書状を差し出す。そしてソレを無言のまま受け取り、無言のまま読み進める姫様。


「「「………」」」


そして無言の時間が続くこと暫し。


「……コレは本当なのね?」


最後まで読み進め、末尾に押されていた花押を確認したところで、義鎮は誾千代に声を掛ける。ちなみに視線は書状から一切動いていない。


「はいっ!確かに義父様「あ”ぁ”ん”?」…あ、鑑理様がお認めになりましたっ!」


地獄の底から響くようなドスの聞いた声が軍議の間に響くと、誾千代が顔面蒼白となって土下座をする。ついでに恒興と内藤も何故か土下座していたが、その理由は不明だ。


「……そう。鑑理がねぇ」


そして冷笑。一同はまるで部屋の温度が急激に(10℃くらい)下がったかのような錯覚を受けたと言う。


「「ひ、ひぃぃぃぃ!!」」


信長は今回粗相はしなかったが、かなり危ない水準まで来ていたと言う。誾千代?アウト。そして人知れず望月もアウトである。


そんな地獄を創り出した義鎮だが、今の彼女は目の前の惨状など目に入らないほどに葛藤をしていた。


そもそも彼女は大友を捨てた身だが、千寿は吉弘の名を捨ててはいないのだ。さらに彼は家族を大事にするタイプの人間なので、家長である鑑理が認めた婚姻を断ることは無いだろうと考えられる。


それに義鎮としても、過去はともかく今は吉弘家に嫁入りした立場であるので、家長である鑑理の承認を得た義弘の側室入りを独断で拒否することは出来ない。


いや、自分が頼めば千寿は頷いてくれるだろう。だがしかし、九州から家を捨てて来た彼女を特に問題もないのに送り返せばどうなる?自分の評判は間違いなく地に落ちるだろう。いや、それはまだ我慢できる。


だが嫉妬で家長に認められた側室を追いやるような女に千寿は笑いかけてくれるのか?


もしも千寿に失望されてしまったら?それはもう島津義弘を認める認めないどころの話では無い。つまり現時点での拒否は出来ない。


「誾千代」


ならばまずは顔合わせだ。自分はまだ島津義弘と言う女を見たことがない。間違いなく将としては優秀なのだから、側室が無理でもお手付きくらいなら許せるかもしれないし……まずは見定めよう。そう決意して、義弘を連れてきた誾千代に彼女を連れてきてもらおうとして彼女を呼んだのだが、返事がない。


「?」


書状を読んでいる間にどこかに行ったか?と思って視線を書状から外し目の前を見れば……そこには義鎮の重圧を一身に受けてしまい、白目を向いて気絶(&粗相)している少女(銀髪ロリ)が居たとか居なかったとか。



このように、九州からの増援は敵味方に混乱を齎す暴風となって尾張を駆け抜けたと言う。






姫様。島津の襲来を知る。さらに誾千代の裏切りは失敗したもよう。


大友家に仕える身である誾千代にしたら、姫様の威圧は主君からの威圧ですからね。彼女が感じる重圧には妹分でしかないノッブ以上に補正が加わるのです。


どうやら姫様は歩み寄りを選択するようです。実際会ったことはないし、恨みが有るわけでもありませんからね。まぁ結局のところは、子供が居るのが心理的な余裕となっているんですってお話。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませてもらってます! 内政チートに関わる話も、戦国乱世の時代にそんな事うかつにやろうとしたらそりゃ利権や謀略の絡みに呑まれますわなって非常に納得できました。 [気になる点] 姫様と…
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