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風神天翔記 ~とある修羅の転生事情~  作者: 仏ょも
四章。尾張統治と下準備編~
90/127

87話。修羅の巷(津島)の巻

前話のあらすじ


誾・鬼 「待たせたな」

尾張 津島。


主君である信長から「服部党が動くだろうから牽制をするように。別に勝つ必要は無いから、兵を率いることを覚えろ」と命じられた利家は、内心、と言うか普通に頭を抱えていた。


「……いや、殿から軍勢を預けられるってのは名誉なことなんだ。それはわかっている。わかっているんだがなぁ」


したって若すぎるだろ。俺、まだ14だぞ?


同僚の成政は兄が家督を継ぐ予定なので、兄の補佐として小牧山の対美濃戦線に向かっていると言うのに、自分は部隊長である。


甥っ子の慶次郎は「スゲー!」と目をキラキラさせていたが、その親であり自分の兄で有る利久の目は完全に腐って居たように思う。


あれは下手したら大和守に付くつもりだ。利久は林の与力だが、林は京に居るので、どうしても統率に難が有る。


もしも兄が裏切ったとしても、だ。自分が手柄を立てれば前田家に仕える者たちは生かすことが出来る。


そして一軍を率いて服部党を抑えることが出来れば、それは誰もが認める立派な手柄である。(これを認めないと前回の信広の手柄が無くなってしまう)


それらを考慮した上で信長が自分に任せたのだ。実際に経験させようと言うのも有るのだろう。


「したって若すぎるだろ。俺、まだ14だぞ?」


「……前田様。いい加減諦めなされ」


つい声に出てしまったのだろう。副官として付けられた40代の男からそんな声がかかる。しかし彼の存在もまた利家にとってはプレッシャーになっていた。


「いや、真田様に「前田様」とか言われても困るんですけど!」


そう、彼こそは副官こと真田幸隆だ。歴戦の強者にして謀略家であり、千寿から太鼓判を押されて姫様や信長の下に送り込まれた (誤字に非ず)元北信濃国人衆の一人である。


普通に考えたら新参ながら一万石を与えられた経験豊富な彼こそが大将になるべきなのに、そんな人が自分の副官とかありえねー!と言う話だ。もし信長から「彼の補佐に回れ」と言われたら、利家は自分が幸隆の補佐に回ることに何の不満も無い。と言うかそうあるべきだと今でも思っている。


ただ、利家には利家の言い分が有るように、幸隆にも幸隆の言い分が有る。


「いやいや、某とて新参の身ですぞ?それがいきなり1万石とか預けられましても正直困ると言いますか……いや、間違いなくありがたい話ではあるのですがね?しかしそのような身の某が、若輩とは言え譜代の臣であり、大殿の側近でもある前田様を蔑ろには出来ませぬよ」


「あ~まぁそれはそうでしょうけどね」


正面から若輩と言われ、更に能力では無く立場に従うと明言する幸隆。実に正直であった。


だがコレは当然と言えば当然と言える。千寿然り雪斎然り、真の謀略家と言うのは真実の中に謀を巡らせるので、必要の有るとき以外は嘘は吐かない。つまり基本的には正直なのである。


この正直さの中に隠された謀に気付くかどうかで、ソレを利用できるか足元を掬われるかが別れるのだが、現状で幸隆には利家をどうこうする気は無い。


そして自分を敬う理由を忌憚無く述べられた利家としては、彼の言い分に納得するしかなかった。むしろそりゃそうだと納得してしまう。


何せ現状の幸隆の立場で考えれば、今は主君によって、その能力と忠義を試されている時期なのだ。


ならばこそ、若輩だろうが何だろうが信長が大将と決めた利家に従うし、頭も下げる。自分より若いとか言ったら信玄もそうだし、そもそも利家は信長と同い年。


年齢を理由にどうこう抜かせば、信長の癇気に触れるだろうし歳の近い千寿にだって睨まれる。「三河守と敵対しない」と言うのは武田から降った国人全員の総意であるが、その中でも同じ謀略家として幸隆は千寿の怖さを嫌と言うほど知っている。


そんな怖い千寿からの口利きで1万石を拝領することになったのだから、彼のストレスたるや如何程のモノか……


それはともかくとして。現在利家と幸隆の2人は、信長の命を受けて斎藤や今川と連動して動くであろう服部に対する準備をしているところであった。具体的には募兵と兵糧の支度、更に津島の商人達との会合だ。


その会合で要請した内容も、軍資金は有るので矢銭の提供は求めない。ただ今川にも斎藤にも大和守にも服部党にも味方せずに黙っていてくれれば良いと言う内容なので、今の織田弾正忠家と津島の関係を考えれば断られる可能性は殆ど無いと言っても過言ではない(余程不利になったら話は別だが)。


そんなわけで戦支度をしているところに声を掛ける者が居た。


「お、居た居た。前田殿……だったか?」


「む?……どちら様で?」


「ん?あぁ、津田様ですか。九州からお戻りになられたんですね」


利家に声を掛けたのは、尾張で戦が無いと言うことで神屋の人間の護衛の為に九州に渡っていた、根来衆の津田算長だ。面識の無い幸隆は利家を守ろうと前に立つが、続く利家の声を聴き警戒を緩める。


ちなみに根来衆は信長では無く、姫様と千寿に雇われている。もっと言えば千寿は根来寺に対して三河に1万5千石の寺領を与えているので、彼らは実質千寿の配下と言っても良いだろう。


その為、織田家の序列の上では信長の直臣である利家の方が立場は上なのだが……利家はその辺の細かい契約を理解しきれていないので、とりあえず目上っぽい相手には下手に出るようにしていた。


これは誰彼構わずに突っかかっていた破落戸時代の利家を知っている者からすれば意外に映るのだろうが……利家は尊厳と引き換えに色々学んだのだ。まぁ千寿や姫様相手に磨かれた、彼なりの処世術と言ったところだろう。


利家の態度はともかくとして、津田算長は三河の寺領を守る為に人材が必要だと判断していたので、船で九州に行くついでに紀州から増員を連れて来ると言って尾張を離れていた。


その事を知っている利家としては、彼らが加わってくれれば心強いことこの上ないのだが、先にも述べたように根来衆の立ち位置が良く分かっていない。まぁ信長は今回の戦において彼を計算に入れていなかったので、依頼をすれば味方してくれるのだろうし、それが信長の意志に反すると言うこともないだろう。


しかし利家には彼らを動かすだけの金は無い。それにそもそも彼らが三河の援軍として向かう可能性が有るので、この場では勝手な判断は出来ないのが現状である。


「して、その津田殿が何用でしょうか?」


利家がどうしたものかと思考を停止したのを見計らって、幸隆がさっそく副将としてサポートした。まずは用件を聞かねばどうにもならないのだ。


幸隆も根来衆と言う名前だけは知っている。前の家督争いの戦の際には信長に味方したと言うのも聞いている。だが幸隆が知る彼らは金で雇われる傭兵である。長島の願証寺が服部党に味方するようにと企てていてその事を報告する為に来たと言う可能性も捨てきれていないので、多少警戒は緩めていても、解くような真似をする気は無かった。


「ふむ。貴殿は……初めまして、ですな。某は根来衆を率いる津田算長と申す」


そんな幸隆に対して算長が行ったのは挨拶。普段の荒くれ者を束ねる姿からは想像も出来ないかも知れないが、彼は根来衆の長。つまり企画部長であり営業部長であり、実働部隊の隊長である。(ちなみに社長は根来寺の座主だ)


彼は千寿からも挨拶は大事だと言われれているのもある。しかし元が顧客となり得る相手との折衝も任されている身である以上、初対面の相手に対して居丈高に当たる場合はあっても、雇い主の関係者に対して敵対行動を取ることは殆どない。


角が立たないのが一番だと、しっかり理解している。いわば大人であった。


「あ、これはどうも。某はこの度、織田弾正様に仕える事になりました真田幸隆と申します」


そんな大人の対応をされては幸隆も応じないわけには行かない。まぁ彼は彼で新参なので、誰にでも気を遣う必要が有ると言う現実もある。


「ほう、真田殿ですか……コレはご丁寧に。では挨拶も終わったところで前田殿に一つ頼みが有るのだが、よろしいかな?」


「あ、はい。何でしょう?」


自分の親と同世代の人間に謙られると背中がムズムズするのだが、自分は殿の代理なんだ!と自らを奮い立たせて、津田と向き合う。


「いやなに、此度の戦に我らも参加させて欲しいのだ」


「はい?」


まさかの向こうからの参陣希望だった。


「駄目かね?」


「い、いや、駄目と言うよりは、俺には津田様を雇う銭は無いし!」


自分が勝手に彼と契約を交わし、後から法外な値段を請求をされてしまっては信長に合わせる顔が無い。そんな理由から参陣を拒否しようとする利家だが、今回に限っては見当違いである。


「あぁ、報酬に関しては既に三河守殿から頂戴しているのでな。流石に先の戦だけで1万5千石もの寺領を頂戴するわけにも行かん。ここでしっかりと働いておきたいのだよ」


彼らは傭兵で在るが故に報酬には五月蠅い。それに元々彼らは現金で雇われていた。前の戦が終わった後で報酬はしっかり貰っていたし、神屋を通じて火薬やら何やらの補充も済んでいる。そこに寺領まで貰っては明らかに貰い過ぎと言うモノだ。貸し借りと言う訳でも無いが、きっちり清算すべきだろうと言う考えだ。


まぁ千寿にしてみれば根来衆の懐柔と、三河に寺が無くなってしまったので、一向宗の連中が湧く前に他の系列の寺を建てたかったと言う事情があるのだが……その辺の事情を知りつつも「貰った以上は働く」と言うプロ根性の顕れと言えよう。


「なるほどなー。うーん」


「前田様、よろしいでは有りませんか。味方は多いに越したことは有りませんぞ」


幸隆にしてみれば、向こうがタダで協力してくれると言うなら断ると言う選択肢は無い。さらに話を聞けば彼らは自分たちと似たような状況にあると推察できる。


つまり、所領と寺領の違いはあるが、彼らも試されているのだ。しかも試す相手は()()三河守様。そりゃ根来衆も気合が入ることだろう。


「真田様……わかりました。殿にはこっちから連絡を入れますので、津田様はコッチで俺達と服部党の相手をお願いします!」


「そりゃよかった。いや、うん。よろしく頼む」


「「???」」


心底安心したような顔をする津田に利家と幸隆は疑問を覚えるが、そもそもが九州から来た人間の護衛である津田算長が、どんな理由が有ろうとも護衛対象を放置して戦に参陣するなど有り得ないと言うことまでは気付かなかったらしい。


とは言え既に言質は取った。


「聞いての通りだ。俺達は正式に戦に参加することになったぞ。……大将の言うことには従えよ」


そう言って控えの間に対して声を掛ける津田。特に秘密な会合と言う訳でも無いし、隠すような内容でも無かったので普通に聞こえているのは分かる。だが彼の疲れ切った顔と「後は大将に任せる」と言わんばかりの澄みきった表情が何を意味するのかがわからない。


「無論従いましょう。まぁ余りにも間の抜けた命令を出されたら無視しますがね!」


パンっと勢いよく襖が開いたと思ったら、ソコにはドドーーンッ!と言う効果音が出そうな香ばしい恰好をして、聞き捨てならないことを抜かす銀髪少女と


「そこそこ鍛えてるみたいだし、大丈夫だと思う。ただ横の真田殿?の方が手馴れては居るだろうけど」


利家の器量を認めてるんだか認めて無いんだかわからないようなことを言う、凛っ!と言う効果音が出そうなほどキッチリとした青っぽい髪の色の女性がそこに立っていた。


「……えっと、津田様?」


自分への評価や、命令違反を仄めかすセリフはさておき、とりあえず誰?と確認するように指を差す利家。彼はその性癖から銀髪少女に目を惹かれたが、一瞬で「アレはヤバイ!」と本能が判断し、彼女を女として見ることを止めた。隣の女性?無理。自分より年上だろうし、何より姫様と同じ感じがする。


「まぁお察しの通り九州からの援軍だ」


「あぁなるほど」


「九州からですか……」


津田の言葉を受け、本能により理解を諦め、口をパクパクさせる利家と、ソレを横目に見る幸隆。その幸隆は目の前に立つ2人の少女を観察する。というか観察するまでも無く姫様や三河守様と同系列の存在であることは分かった。


甲斐で言えば秋山信友や、飯富兄弟が近いだろう。つまり……戦の鬼だ。


「出産を控えた姫様 (千寿含む)のお傍に仕える為に罷り越した、戸次鑑連が娘、誾千代です。姫様への手土産として服部党とやらを滅ぼすために此度の戦に参陣させて頂きます!」


「「はぁ」」


ハキハキとテンション高く言い切る少女に、利家も幸隆もそう答えるしかない。


「鎮理さん…殿のお父様より側室と認められて、鎮理殿にお仕えする為に来た島津義弘よ。同じく手土産を用意する為に参陣するわ」


「「はぁ?!」」


誾千代の時とは比べ物にならない衝撃を受ける2人だが、それはそうだろう。


この女性、自分たちの耳がおかしく無ければ、彼女は鎮理の側室と言ったか?鎮理、つまり三河守様の側室ってことかよ?!思わず利家と幸隆は目を見合わせる。(利家は恒興に聞いて千寿と姫様の名前を確認していた)


しかも千寿の父親が認めたと言うことは、正式な婚約者とも言える。それは信玄の事を知っている幸隆から見たら、どう考えても厄ネタだ。


そして利家とすれば、それ以上に厄介なネタで有ることを知っている。


「えっと、シマヅヨシヒロ様って、もしかして薩摩の守護様の二番目って言うか長女様です…か?」


そう、聞き間違いで無ければ、彼女は側室云々の後に島津義弘と名乗った。それはあの小者が口に出しただけで姫様がマジギレした相手の名前のハズ。それが吉弘様の側室???


「ん?その通りだけど尾張の人にも知られてるってどういうこと?……あぁもしかして鎮理殿?」


自分は尾張とか三河の事は知らなかったのに、ちょっと不勉強だったかな?と思って一瞬申し訳なさそうな顔をするが、「千寿が自分の事を話していてくれた!」と思うと自然と笑みがこぼれる。


そんな少女の笑みに見惚れるどころか、獲物を探していた鬼に見つかったかのような錯覚を受けて顔を真っ青にする利家。「頼む!違っててくれ!」と言う願いは、目の前の鬼によっていとも簡単に打ち砕かれた。


そんな利家の絶望をさておき、目の前で「あ、ズルいですよ!」と言って騒ぐ銀髪少女を「ふふん。私は父上からも鑑理様からも公認を頂いているし!」とあっさりと撃退する青髪の女性。この2人と根来衆が加わったことで、服部党に対する備えは盤石と言っても良いだろう。


だが問題は何も解決していない、むしろ悪化したかもしれない。







……どうやって報告したら姫様に殺されずに済むかなぁ。そんなことを考えながらチラリと横を見れば、幸隆も頭を抱えていたと言う。


後日、成政に「いや、津田様が居たとはいえ、良く初対面でそんな話を信じたな?」と言われた際、利家は「そりゃ一目見てタダ者じゃ無いって言うのは分かったし、何より『敵の首が手土産』って言う時点で吉弘様の同類だろ? だから彼女らの素性を疑うって発想は全く無かった」と、しみじみ語ったと言う。



青鬼?ハハッ。



取り敢えず4章終わった辺りで一回「一部完結」扱いで更新を止めるかもしれません。


向こうや他の作品がががががってお話。



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義弘さんはめだかちゃんでイメージすれば良いのかな
顔デカおばけから逃げるゲームだろ俺は詳しいんだ
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