8話。主人公の主張の巻
とりあえず仕官した千寿君と姫様。
扱いが微妙になるのはシカタナイネ!
戦国解説編。
説明回とも言う。
注!このお話は内政チートに対する批判的な意見が有りますが、
特定の他作品を否定するモノでは有りません。
あくまで何をするにも時間が掛かるし、他人を使うのは大変だと言う戒めです。
非常に評判の悪いこの8話。色々と口調が荒かったり自分だってチートじゃんって感じで不快になるかも知れませんので、そう言うのが嫌いな人はプラウザバックお願いします。
忠告はしましたよ?
…内容的にはRー15なので大丈夫だと思いたい。
とりあえず客将の身分をゲットだぜ!
本当ならこのまま仕えても良かったが、連中の土下座を見た姫様が不安そうにしてたし、林や平手の爺様も俺達をどう扱って良いかわからなかったみたいだから、まずはお試し期間って感じだ。
「客」で「将」なら問題有るまい。
でもって役職は織田家指南役ってことにしてもらった。
武だけでなく、統治から何から全てを指南するって感じだな。しかも対象は信長だけでなく、信長に仕える連中全員になる。
まぁ俺たちがするのはあくまで「指南」だから、自分達に無理だと思えば従わなくても良いと言うのが良いところだろう。
……信長に拒否権を与える気は無いけどな。
それに姫様も、だ。基本的に書類整理は得意だが、実際に動く現場に関してはそれほど深く知ってる訳ではないし、そう言う意味では姫様の勉強にもなるからこれはお互いに得が有る関係と言えよう。
しかしこの指南役。場合によっては転生したり転移してきた連中が内政チートするためには丁度良い役職ではあるが、普通に考えればそーゆー連中が内政チートするのは非常に難しかったりする。
基本的に、どんなことでも聞きかじっただけじゃ実行が難しいと言うのが有る。転生前に実家で本格的な農業してました!なんて場合でも、本格的にやってたからこそ「あ、コレ無理だ」ってことに気付くんだな。
まず、現在は小氷河期なので気候が違う。そして土が違う、設備が違う、品種が違う等々、問題が盛りだくさんである。
それに農薬無しの栽培はかなりキツイ。堆肥を使おうにも「ぎょう虫」とかの問題もあるしな。
そして失敗した場合についてもだな。どれだけの規模でやるかは微妙だが、それでもこの時代「失敗して農作物が得られなかった」と言うのはかなり重い事案だ。なにせこの時代は食料が慢性的に不足しているので「今回は不作だったから他から買おう」なんてことは難しいのだ。
経済政策として有名な楽市楽座も難しい。と言うか、後年の信長ですら完全な楽市楽座なんか出来なかったのに今の段階ではまだまだ無理だ。座の既得権益を握る尾張中の寺が敵に回って、史実より酷い内乱が勃発してしまう。
兵農分離も無理だ。それに実のところ兵農分離は秀吉の刀狩りや家康の士農工商制度が根付いてから本格化した制度で在って、信長がやった政策ではないんだよなぁ。それに今は兵士を集めても、集めた連中を食わせる食料と継続して雇う銭が不足してる状況だから、メリットよりもデメリットの方が多い。
そもそも軍ってのは金食い虫だし、その金が用意できるほど豊かな土地なら、他に取られてしまう。そして今の織田にはそれを防ぐ力がない。なので今の段階で出来るとしたら、そこそこの数の兵士を雇って訓練を兼ねた軍屯をするくらいではなかろうか。
あとは何かを作って商売するというのも危険だ。まずパクられて終わるからな。
この時代は著作権だとか知的財産を保護する法律なんてないし、現在の織田の動向は斎藤や今川が逐一見張っている。しかも織田の人間なんか四割は斎藤で、四割が今川の息が掛かってるような状態である。
つまり内部に敵が多く、信用できる人間も居ない状況なので、何かしらを作るにしても製造方法を秘密にして独占するということが不可能なのが今の信長の置かれている状況なのだ。
実際筆頭家老の林佐渡守だって(さすがに姫様の前で自称の佐渡守は名乗らなかった)弟は信長の弟の信行擁立派だし、その信行派にも斎藤派と今川派が居る。いくら林本人が秘密にしようと、弟が林家の家臣に聞けば何をしてるかがばれてしまうだろう。
この時代の武士を舐めてはいけない。
彼らはただの猪ではなく、れっきとした地方領主であり、自分や家族、一族郎党の命を背負っているのだ。だからこそ彼らは、自分の手柄になるようなことを見逃したりはしない。
さらに商売をするなら商人が絡む。この時代の商人は様々な法で守られてる現代日本とは違い本当に危険な存在だ。
彼らは決して大人しく武士に従っているだけの存在ではない。リアルに生き馬の目を抜く連中なのだ。
そして基本的に武器やら奴隷を扱う死の商人でもある彼らは、油断すれば背中を刺されるどころでは済まない。そんな彼らを相手に対等以上の商取引をするには、どうしても彼らを束縛できるだけの力が必要になる。
結局、寺も武士も商人も、既得権益を犯すヤツを容認するほど甘くはないのだ。話を通すための賄賂や、担当者の中抜きもあるしな。
そういった力関係の把握や根回しやら何やらの『政治』を正しく理解して、更に交渉やら作業を無駄なく実行できて初めて内政チートの礎が作れる状況になる。
何事も経験と実績がものを言うのはいつの時代も一緒ということだ。
そして実績をあげる為には経験が必要不可欠なのだが、この時代には本人や周囲の経験としてトライアンドエラーができるような余裕は無い。普通は一度失敗したらハラキリだ。
それだけの覚悟で臨まねばならないのだが、戦国時代の農地改革は短期間では出来ないし、その間の補填もどうするかを考えなければいけない。
ここで下手なことをすれば「殿や織田家の面々に意味不明な事を吹き込み、我らを混乱させようとする正体不明の小僧を斬りました」って言われて殺されてしまうだろう。
さらにさらに雇った人間が従ってくれないと言う可能性もある。
たとえば、絶対君主として名高い信長だが、彼が「やれ」と言って、家臣が無条件で従うことになったのは第一次織田包囲網以降のことといわれている。それ以前は信長の出陣要請ですら普通に断る連中が居たし、場合によっては敵対だってしたのだ。
結局のところ、最低でも尾張を完全に統一した後で今川義元と斎藤道三の圧力が消えない限り、尾張において大規模な内政チートを行うことは不可能と考えても良いだろう。
織田信長と斎藤道三は仲が良いから大丈夫なんじゃないか? と言う意見があるかもしれないけど、それは微妙に違う。
斎藤道三は信長と仲が良いのではない。すでに楽市楽座みたいなことをしてるし、配下の関所に関しても口を挟んでるせいで義龍や美濃の国人たちと仲が悪いのだ。
現代日本のことを知っている人間ならば「楽市楽座や関の廃止をすれば商人が来やすくなり、美濃が栄える」と言うことは漠然とながらでも理解できるのだが、この時代の国人と大名の関係はそんなに簡単なものではない。
そもそも美濃の目加田(岐阜の前身)の町が栄えても地方領主たちの懐には金が入るわけではないのだ。彼らの収入源は自分の所領から上がってくる税なのだから。
つまり国内の関所を無くすと言うことは、彼らの収入源である通行税を奪うと言うことだ。そりゃ反発もするだろうさ。
そして関所に代わる収入源を用意するのも中々用意し辛い。なにせ大名にとって力の有る国人領主と言うのは脅威でしかないからだ。
良く言われることだが、基本的にこの時代の守護大名という存在は沢山いる国人領主の代表でしかない。だからこそ大名はあの手この手で国人達の収入源を削ろうとするし、先見のある者は彼らの力を弱め反対に自分達の力を増す為に国内の関所を撤廃させようとするのである。
美濃の場合は、目加田に商人を集めることで、商人を味方に着けることも可能だしな。
斎藤道三は自分が下剋上で国を獲ったからこそ、力をもつ領主に同じようなことをさせないために最初に経済の中央集権化をしようとしていたのだ。
それがものの見事に失敗した結果、彼は美濃国内で味方を失い、稲葉山を追放されることになった。
美濃の国人衆は土岐がアレだったから道三を代表にしただけで、道三に忠誠を誓ってる訳ではなかったと言うのも大きい要因だな。
結局、彼には国人に砦や関所を撤廃させることや、自領で楽市楽座をやるためには決定的に力が足りなかったという事だ。
そして今の蝮にできないことが今の信長に出来るはずもない。
ならば指南役としてどうするのか? という問題になるのだが……まず現状では織田の人間を動かすような提案は、しても殺されることはないだろうが無意味に終わるであろうと思っている。普通に邪魔くらいはされるだろうしな。
客将という身分は「権力争いに関わらない」というのを示すためには良い身分ではあるが、その分強制力がないし、そもそも現状では信長のやることが成功すると困る人間が沢山いるのだ。
仲間の振りをして情報収集をしてそれを今川や斎藤に流そうとするやつらや、いっそ堂々と直接的に妨害をしてくる連中も居るだろう。当然俺の指示に従わないくせに「指示通りやっても駄目だった」とか言ってくるやつらも居るだろう。
比較的簡単な内政チートと言われる『千歯こき』でさえも今は造るべきじゃない。今の信長の所領ではアレに頼る必要が有るほどの収穫は無いし、元々後家殺しと呼ばれる程の作業効率を誇るが故に、今の段階で今川にアレを真似されて造られたら洒落にならない事態になってしまうからだ。
何せ向こうは駿河・遠江・三河に版図を持つ大大名だ。こっちと同じことをされてしまえば国力に差がつくのは当然だし、向こうくらいになれば脱穀以外にも後家に回す仕事もあるだろうからな。
あと個人的には塩水選も危険だと思っている。農家や武家の連中に塩の濃度や浸ける時間なんか教えてもその通りにはできないだろうし、上手くやったとしても結果が出たら直ぐに別の所に情報が流れてしまうからだ。
ついでに言えば最初は俺が監督しないと絶対に種籾をダメにして終わるだろうし、俺が居ないところで勝手にやられて、それを俺のせいにされて逆恨みされても困るというのもある。
だからこそ最初にやるべきは……もっと簡単なことであるべきだろう。
「む? 田畑を真四角にしろじゃと?」
「ですな」
俺の提案に対して信長が不思議そうに尋ねてくる。
林と平手の爺様は声にこそ出さないが、何を言いたいのかは顔に出てるな。当然反対なんだろう。この時代の田畑は整地能力の低さも有るが、防衛も兼ねてあえて道をぐにゃぐにゃにしてるからだ。
だけどそのせいで当然畑やら用水路もぐにゃぐにゃだ。さらに微妙な高低差も有る。これを整備するには多大な時間と労力が必要だし、畑やら何やらを真四角にすれば、その分だけ道が真っ直ぐになり、防衛の面で問題が出ることになる。
しかし今のままだと排水やら給水の際の効率が悪いし、収穫量の算出の邪魔になる。さらに飛び地やら無駄なスペースやらがあって、権利者の管理が難しくなっているのも頂けない。
だからこそまずは真四角にして作業効率を上げる。
そもそも正条田植えにするだけで収穫量が何割か増すのは農業の常識。この時代でも通用するのは九州の実家でも試したから間違いない。まぁ小氷河期の愛知なので、そのへんがどうなのかはやってみなきゃわからないところはあるものの、少なくとも作業効率は上がるし、街道整備にも繋がる施策なので是非行うべきだと思う。
後は苗だな。
この時代は苗を植えるのではなく、普通に地面に種を蒔くだけだから発芽率からして低い。だからこそ最初から発芽した苗を植えることで、更に収穫量を上げるつもりだ。これは九州ではやってないので成果のほどは微妙だが、それだっていきなり尾張全土でやれと言っているわけじゃない。
田畑の区画整理をすることのわかりやすい利点は、街道整備と連動できることにある。
基本的なことだが、道を真っ直ぐにした方が歩きやすいし、敵の進行方向も分かりやすい。さらにまともな道を進む敵と畑の中を進む敵の足並みが乱れる。
まぁコレはぐにゃぐにゃの道でもそうなんだが、ずっと舗装された道を進んで来た兵士と、ずっと田んぼの中を進んで来た兵士では疲労の度合いが違うので、足並みを揃え辛いと言うのが有る。
あやふやではあるが、島津家久が肥前のクマーこと龍造寺隆信を狩った戦いも、舗装された道を進む兵と畑の中を進む兵の足並みが乱れたとかなんとかあったと思う。
だからこの施策の一番の目的は、収穫量を上げることじゃなくて。街道整備なんだ。
整備の結果緊急時の使者がより速く移動できるようにすることと、物資の輸送速度を上げること、そして敵の進軍ルートの特定と足並みを乱すことを主目的としておけば良い。
その副次効果として作業効率が上がったり収穫量が上がったりすれば信長からも国人達からも文句は出ないだろう。
緊急の使者がぐにゃぐにゃと動いてるのは間抜けだし、畑を突っ切ろうにも、天気とかによっては泥濘に嵌まって落馬するからな。
現在の緊急の使者用の道は大きく迂回する形だったり、妙に細かったりするので、どうにも速さが出ないのだ。将来的にはその道もいずれはやや広くしてしまえばいいと思っている。
そもそも今の信長の立場だと防衛がどうとか以前に、那古野は平城で籠城に向いた城ではない上に、援軍として来る味方が居ないから守ることを考えても無意味なのだ。
ならば防御より攻撃を優先した方が良い。つまりは兵を動かしやすくするべきだろう。
これなら他所の連中に真似されても困らんし、むしろ真似しようとすれば今の林のオッサンや平手の爺様のように家中の反対にあってしまい真似はできない。
それでも、もしどこかの大名がコレを強行すれば家中に不和を招くし、行軍以外にもいろんな意味で俺たちが攻めやすくなるだけ。ある意味では誘いでもある。
今回はそう言う説明をあえて行わずに、結論だけを伝えてみた。
そりゃ林のオッサンも平手の爺様も不満げだし、信長だって……いや信長は利点を考えてるな。ふむ、コレは「俺が言うことだから何か意味が有るかも?」って感じだろうか。
悪くはない。むしろ生徒としては最上だろう。
「むぅ。わからぬ。いや、道を真っ直ぐにした場合の利点は無論わかるぞ? しかし当然問題も有る。その問題を上回る利点がわからぬのよ。故にここは素直に聞こう。吉弘殿よ、それは儂の為になることなのかの?」
ほほぅ。知ったかぶりをせず、しかも高圧的でもなく。普通に確認に来るか。この辺は何と言うか、信長っぽい。俺の知る織田信長を今のコイツに押し付ける気は無いが、やっぱり意識はしてしまう。だからこその教育なんだが。
「無論問題を上回る利点は幾つか有る。だが『信長殿が自分で気付くまで教えん』と言ったらどうする?」
収穫量の増大はすべてに優先するッ! とまでは言わんが、かなりの利点であることは確かだ。あとは速さ。これは行軍だけじゃない、種まき・開墾・収穫等の作業効率を高めることで管理を含めた全てが簡略化される。これらで得られる時間を考えれば収穫量が変わらなくても全ての問題を上回るだろうよ。
それら諸々の利点を成果が出る前から気付けと言うのも無理があるのは承知の上。今の俺は出題者で信長が返答をする立場なのだ。なのでこうやって問題提起をして信長の成長を促すのも指南役としての仕事と言える。
「む? それなら儂個人の所領の半分を真四角にするかの。儂個人の所領ならば他の家臣どもも五月蝿く言わんし、今まで通りのやり方と、吉弘殿が言うやり方の結果を見比べることが出来るじゃろ?」
「「若殿!?」」
信長の言葉を聞いて林のオッサンと平手の爺様が驚いている。
それでも止めようとしないのは、俺や姫様が自分達に無い視野を持ってると思っているから、か。
しかし流石は信長。普通なら適当な土地を探してやってみるところを、まさか自分の所領を半分使うとは、な。
信頼されてると言うか、思い切りが良いと言うか。単純にそれだけではなく、しっかりと見比べる事で俺の逃げ道を封じるって意味も有るだろう。
なるほどなるほど。これが未来の覇王か。
今は敏いだけのお子様と言った感じで微笑ましさが前に来るが、このまま成長して美濃やら近江を手に入れたなら恐怖の対象になっているかもしれん。
何もしなくてもこれだ。将来がどうなるかが楽しみでしょうがない。
くっくっくっ、よかろう。俺がお前を立派な修羅にしてやんよ!
――――
当家の客将となり、指南役となった吉弘殿が最初に提案したのは田畑の区画整理? と言うものじゃった。真四角の方が作業効率やら飛び地の管理、また水の権利などの諸問題を片付けやすいのはわかる。
じゃが防衛と言う観点から見れば、それがどれだけ危険なことかは吉弘殿とて知っていよう。にもかかわらず儂らにそれをやれと言うからには何かしらの意味が有るのじゃろうて。
しかし意味もわからず、半分をそのようにすると言い切る若殿の決断の早さよ。確かに彼らは能力的にも人間的にも信頼に値するじゃろう。じゃからと言っていきなりそこまでするか?
「面白い、流石は尾張に名高きうつけ殿。ならばその信頼には実績をもって応えさせてもらおう」
そう言ってニヤリと笑う吉弘殿。口ではうつけ呼ばわりしとるが、悪い印象ではない。どうやら若殿の決断を高く評価してくれたようじゃの。
「う、うむ!」
普段から家臣達からうつけだ何だと言われて見下されたり蔑まれてきた若殿も、自分を正面から評価されて満更でもないようじゃしな。
儂としても、これほどの御仁に若殿を評価して貰えるのは正直嬉しい。
しかしそれはそれとして、じゃ。
アンタ、その顔スゴく・怖いから。
何か、覇気みたいなのが出てるし、後ろの景色が歪んで見える気がするぞい。林殿や若殿も腰が引けとるわ。正直儂も刀が有ったら手をかけるくらい怖い。
なんか「興が乗った」とか言って族滅しそうな感じがして怖いんじゃよ!
姫様! もしも彼が暴れたら何とかして下されよッ!
千寿君は転生者に恨みはありません。
ただ、この時代はかなり人心が荒んでるので、挙動が怪しいお子様は生きていけませんし、信長しか後ろ楯が無いヤツは、虎の威を借る狐扱いされて排除されます。
この作業は基本的に年単位ですのですぐに結果は出ません。また区画整理で望むのは作業効率や進軍の速さですので、収穫量については最悪同じでも良いんです。
内政チートは意外と難しいので、やるなら周囲の環境をよく見てからしようねってお話です。