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風神天翔記 ~とある修羅の転生事情~  作者: 仏ょも
四章。尾張統治と下準備編~
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68話。姫様おめでたか?の巻

千寿君が信濃に居る間のノッブと姫様のお話。


千寿が景虎・定満・実綱の3人を潰し、秋山信友を使って深志の内藤や彼に従う国人たちを口説かせて居た頃。千寿の主君である信長は三河の姫様から文を貰い大急ぎで三河安祥城へと駆けつけていた。


「姫様や!子が出来たやも知れぬとは本当かや?!」


「大きな声出さないの」


「はべっ!」


バンっと音がするくらい大きな音を立てて現れた信長に対し、扇子で横殴りにする義鎮。目的の部屋に入ったかと思ったら、次の瞬間にはスパイラル回転をしながら吹き飛んでいる信長を見て、一部のお付きの兵は驚いた顔をするが、利家や成政は「またか」と言った表情で吹っ飛んだ信長を目で追うに留めている。


近習からそんな目が向けられた信長は、空中で回転することで衝撃を逃がしたのか「とうっ!」と声を上げ、シュタッと言う音がするくらい綺麗に着地し、また義鎮が居る部屋へと突撃していった。


「……今日ってこっちで飯なんだろ?」


「らしいな」


そんな主君を尻目に利家や成政は今日の天気や晩御飯についての会話を始めたようだ。それはそれとして、問題は信長と姫様である。


「いや、「子を作る」って言われてから数ヵ月でそんなん言われたら、誰じゃってビックリするじゃろ?」


大きな声を出すとまた扇子を喰らうかも知れないので、トーンを落として食いつく信長。何時の時代であっても子とは天からの授かり物である。それが自分達の意思でそんなに簡単に出来るなら、世継ぎが居ないと悩む世の中の大名の苦労の半分は無くなるだろう。


だが、残念ながら尾張にはそんな信長の言葉をいとも簡単に吹き飛ばす実例が存在した。


「いやあんた、自分のお父さんを見なさいよ」


「うぐっ!」


そう、他ならぬ自分の父親だ。守護代の代官の分際であちこちでポコポコ生ませてたじゃない?と言われれば信長には返す言葉もない。


なにせあの父親は守護である武衛どころか、公方や天下人とも言える三好の当主よりも子を作って居ると言う事実がある。もしかしたら自分が知らないだけで、その辺の町娘にも手を出している可能性も高い。


その為、もしもその辺の町人が「自分は信長の兄弟だ」と言ってきた場合、信長も林も平手も疑うより「あり得る」と納得してしまうほどの節操の無さだ。


増えすぎた一門や当主も知らない先代のご落胤など、家督継承における鬼門であるが、あのマダオはそう言うの何も考えてはいなかったのか?と実の娘に言われるくらいに節操が無かった。


それを考えれば、確かに今さら義鎮一人が妊娠したからと言って、織田弾正忠家の当主が騒ぐような事では無いのかもしれないが……何か釈然としないものを感じながらも、そもそもの本題は織田弾正忠家の今後についての相談であることを思い出し、大人しく姫様の前に座る信長。


だがその視線はどうしても彼女の腹部に行ってしまうのは仕方ないことだろう。


ちなみに義鎮は産婆などに確認をとった訳ではない。月のものが来ないのと、つわりっぽい症状が出ているのでそう判断しているだけだ。


時期的にも千寿が言う安定期と言うのにも入っていないし、何が体に悪いのかもわからないので、今は「おめでとう!」とか「本当か?!」などと騒がれたりするよりも、ひたすら安静にしていたいと言う気持ちが強いのだ。


それはそれとして問題は、今回の信長の三河訪問である。そもそもの切っ掛けは「今後の統治に対して相談がしたいので尾張にこれるかの?」と言う質問に対し、義鎮が「妊娠したっぽいから暫く無理」と言う返事を出したことである。


頼れる姉貴分の妊娠を知り、元々家族と認めた者への愛情が深い信長は取るもの取らずに駆けつけたと言うわけだ。


「そう言えば貴女、尾張の統治は恒興に任せて来たの?」


実際那古野から安祥までは馬で飛ばせば2日も掛からずに着くし、早馬を出す際の実践と問題点の洗い出しと言う意味も有るので、決して無意味では無いのだが……今の信長が尾張を空けるのは不用心に過ぎると言う懸念がある。


もし「そうだ」と言ったら、今度は回転で力を逃がせないようにするため、真上から扇子を叩き付けてやろうと思った義鎮だが、さすがにソレは杞憂に終わった。


「いや、恒興は鳴海にて待機しておるよ。そんでもって留守は信広殿に任せてある。政については、アレじゃよ。別に三河におっても尾張の書類を捌くことは出来るでの。火急の際には恒興からの連絡を受けて動く予定じゃな」


「信広殿?確かに彼は千寿も認める将だけど、だからこそ彼が貴女に反旗を翻したら大変なことにって、あぁ……残った一門がどう動くか見定める気ね?」


「おぉ、流石は姫様よのぉ。ま、恒興も利家も成政もその辺は全然理解しとらんかったから、連中よりも視野の狭い信広殿や儂に不満のある国人共・特に上四郡の生き残り共には到底理解出来まいよ。どうせだから、一見ガラ空きの那古野に入った信広殿や、それを見た国人共がどう動くかを三河から確認したいと思っての!」


そう言ってニヤリと悪い顔をする信長を見て「随分修羅染みて来たわね」と思うが、信長の行動は戦国大名としては何ら間違っていない。そう、一度逆らった連中は許してもまた反旗を翻すだけなのだから許す必要など無いと言うのは、義鎮も信長も千寿から口酸っぱく教えられたことなのだ。


そもそも国内において国人が信長に反旗を翻す理由は、権力欲や名誉欲、もしくは金銭的に困窮してそれらを誤魔化す為のモノだからだ。彼らはソレが解消されない限り、何度でも裏切るだろう。


そして信長にはそんな国人の我侭に付き合う気は無い。無能に権力を与える気は無いし、仕事も割り振る気も無い。杜撰な領地経営が原因で出来た借金を補填しろと言うなら、その分は領政に口を出すつもりだし、金は欲しいが口は出すな!とか抜かすような阿呆に何かをしてやるつもりもない。


彼らの代わりになるような人材は、これから育てれば良いだけだ。今の尾張の国人程度ならばいくらでも量産出来ると言うことは利家や成政を見れば分かることでもある。


ここでもしも信広が武衛を掲げて挙兵するなら、武衛ごと殺すつもりだと言うことだろう。この決断には、そもそもマトモな戦にはならないだろうと言う判断もあるのが大きい。何せ信広が兵を集めようにも、下尾張四郡の国人はほぼ死んでいるし、上尾張四郡は負けたばかりで損害の回復が出来ていない。


代官として派遣されている元破落戸共は姫様や千寿の怖さを知っているので、絶対に逆らうことは無い。家臣の代表である林や平手・佐久間にしてみても、今まで信長を支えてきた彼らが今更裏切ってどうすると言うのか。


故に、今更武衛の名に従うのは旧来の体制を重んずるか、既得権益を犯されて鬱屈とした連中のみ。大掃除には丁度良い頃合いだろう。ここで信広が信長に「これこれこういう連中が自分に書状を出して来た」と言うように報告するなら信広の地位は安泰となるのだが……はてさて、どうなることやら。


「ほへ~信長様も中々の修羅ですなぁ」


最近姫様と各種(意味深)打ち合わせをしている紹策も、商談の際にビクついていた少女とは思えないような決断に目を見開いている。


「んむ?まぁあのような連中を生かす理由が無いだけじゃよ。初めから不要と割り切っとればこの程度はのぉ」


そんな紹策の称賛の言葉に、何でもない事のように返す信長。実際信長にしてみれば紹策は千寿や姫様との繋がりが有る商人で、下手な真似をすれば怒られそうだというのもあるし、そもそも彼女の存在は尾張にとって得となるが故に気を遣うのだ。居ても害になるだけの国人とは扱いが違うのも当然と言えよう。


「ごもっとも、そこまで割り切ってるなら今後の武衛の扱いや尾張の統治には問題ないように見えるけど……懸念は甲斐・信濃の国人や九州から来る連中ね?」


きっぱりと割り切る信長に頼もしさを覚える義鎮。出産前に尾張の掃除をしてくれるのは非常にありがたいことなので、自分から特に何かを言う必要は無さそうだと安堵したのだが、書状に書いていた「今後についての相談」に関しては他人事ではない。


と言うか当事者の一人としてキチンと話し合いが必要だと思っていたので、こうして来てくれて助かると言う気持ちが有るのも確かである。


「じゃな。尾張の一郡の中でイキっとる国人とは違い、信濃と甲斐と言う、国を跨いで働いておった者たちや、九州の戦や政を知る者が加わってくれるのは非常に有り難いのじゃよ。その為、そんな人材を三河や信濃で独占されても困ると言うのが有るのぉ」


信長の懸念は千寿の影響力がどうこうではなく、優秀な人材が回ってこないと困ると言うモノである。要約するなら「尾張にもまともな国人が欲しい!」であった。これは城代としての仕事に嫌気が差して来た利家や、国人共の不正の多さとその後始末にうんざりしていた成政&恒興には特にその気持ちが強い。


林や平手に関しては家の者たちに「信長の命令に従え」とだけ言っているので、特に問題は無いし、佐久間も現在尾張で色々な仕事を詰め込まれて飽和状態になりつつあるので、優秀な新人は大歓迎である。むしろ早く補充してくれと信長に嘆願している。


誰も彼もなんとも欲の無いことであるが、今まで信秀に従って動いていただけの尾張の田舎の国人に、いきなり内政関連の仕事量が増えれば誰だってこうなるだろう。織田の人材不足は深刻なレベルであるが、それでも無能は生かすよりも殺した方が良いとする辺り、流石は織田信長。非常に歪み無い精神を持っていると言えよう。


「うーん。千寿は出来るだけ三河で面倒を見たいって言ってたけどねぇ。まぁとりあえず私と九州から来た連中から数人が尾張に行くけど、私は体調の問題があるからなぁ。あ、ちなみに尾張から南信濃に人は出せないの?出来たら一門の信光殿か信広殿が良いんだけど」


まぁ信広に関しては今回問題を起こさなければと言う条件付きだが。


「あぁ姫様が来てくれれば問題の大半は片付くと思っとったが、子の事を考えればのぉ。恒興らの補助くらいはお願いしたいのじゃが……でもって南信濃なぁ。山の中にして今川と斎藤と長尾に挟まれた面倒事が確約された土地じゃろ?下手な連中に預けるのも危険じゃし、そもそも行きたがらないじゃろ」


だから尾張から人は出せないし、信濃も千寿に丸投げしたいと言うのが信長の判断である。まんま千寿が信玄に語った内容だが、これは千寿の洞察力云々ではなく、織田家の現状を見れば誰でもそう判断すると言うだけのことだ。


「はぁ~やっぱりかぁ。まぁ私は良いのよ?晴信……いや、今は信玄か。信玄が向こうに居れば千寿も不自由はしないでしょうし」


「「姫様?!」」


正室としては、夫が自分の知らないところで知らない相手に手を出されるのが一番心にクる。とは言え自分は妊娠中で信濃には行けず、千寿に男として不自由をさせる可能性を考えれば、公認した側室が夫の側に居ると言うのはある意味で安心できることである。


とは言えソレは余裕のある義鎮だからこその意見であって、その恩恵に与れない者にしてみれば冗談では済まない話だ。


具体的にはようやくお手付きを公認された博多商人と、あわよくばを狙っている赤毛の少女なのだが。


「紹策はともかく信長まで……アンタ、まだお相手居ないの?」


「ぐはっ!」


姫様からの容赦無い質問に血を吐く素振りをする信長(14歳乙女)


そんな信長を見て「わかるわぁ」と頷く紹策だが、ココは理解される方がキツイかもしれない。


「まったく、貴女は立派な大名なのよ?後継者は作らなきゃ駄目じゃない。それなのに子はまだしも相手も居ないって……」


「いやいや、姫様とて知っておろうが!ここんとこずっと戦じゃぞ?!どこで見つけろと言うんじゃ!それにようやく落ち着けると思えば吉弘殿が武田から側室を入れたって言うし、神屋との関係も認めたって話まで書状で伝えて来るってイジメじゃろ?!まぁ神屋はともかく、後から来て側室に収まるのはズルイぞ!」


そんな同情交じりの視線や呆れの混じった視線を向けられた信長は猛然と抗議をする。


確かにもう尾張の統一は目の前、と言うか今回の件で信広が動けば完全に統一が成されるし、彼が動かなくても形式上、または対外的に武衛や守護代を掲げての尾張の統一は成されることになる。後は彼らに内部の虫を燻り出してもらい、細々と戦をしつつ、人材育成や国内での法度を作って支配体制を確立するだけだ。


そんな尾張に加えて、三河と南信濃の所領を加えた場合、今の信長の身代はおよそ80万石となる。それは今の段階で美濃と木曽福島(予定)を治める60万石の斎藤義龍を凌ぐほどである。


それも今川とは水面下で手を組んでいると考えれば外敵となる者が暫く居なくなる。つまり信長が子を作るのはこれからの数年が絶好の機会なのだ。それなのに相手が居ないと言うのはどうなんだ?と言う義鎮のツッコミは至極尤もだろう。


無論信長とて自身の後継者を作る必要が有ることは理解してはいるのだ。だがどうせ子を作るなら気心の知れた相手の方が良いし、今の信長の身代を考えれば、その辺の顔だけの男と婚姻を交わすことは出来ない。それらを考えた時、信長の相手としてピックアップ(ロックオン)されるのは千寿が最有力であるのは当然と言えば当然の話。


もしも千寿の子供が織田家の後継者になれば、彼の力が強くなり過ぎると言う懸念に関しては、実は千寿と義鎮以外には問題だと思われていない。……そもそも信長も林も平手も今更千寿を逃がす気は無いと言うのがある。


特に京に居る林や平手は、千寿や姫様が出て行かないようにするためにも今以上に繋がりを強める必要があると考えてるし、それなら子を作って貰えば良いんじゃないか?と本気で考えていて、その旨を信長に伝えている。


信長は元々そのつもりなので、この波に乗るしかない!と意気込んでいるのだが、肝心の千寿に側室が出来てしまっては、彼の迸るアツゥイパトスは自分ではなく側室に向いてしまうではないか。


神屋に関しては……19歳で周囲から子を望まれているのを知っているので、特に文句は無いのだが、いきなり現れて側室の座に収まった武田信玄に関しては流石に理不尽じゃよ?!と叫ばざるを得ない。


そしてその叫びに反応したのは神屋でも義鎮でも無かった。







「ヨシヒロ?え?まさか島津義弘がいるのか?!」


「はっ?」


「………あぁん?」


「ひぃ?!」


近習たちが待機しているはずの中庭から聞こえた声。その一声は義鎮にとって、決して無視できない一言であった。


突如として聞こえてきた名に、紹策は耳を疑い、義鎮は殺意を漲らせ、至近距離で姫様から発せられる本気の殺意に当てられた信長は久しぶりの粗相をし、世間話の最中に突如室内から発せられた姫様の殺意を感じ取った利家と成政は「また殿が何かしたのか?!」と考え、巻き添えを恐れて信長を見捨てて逃げだそうかと本気で考えたと言う。


千寿君が三河で兵を集め、南信濃に進軍し、飯田で秋山との交渉を纏め、上原で信玄との交渉を纏め、海津で景虎との飲み会を終えるまでには大体2~3か月かかってます。岩倉織田家は半月も持たずに壊滅したもよう。


まぁヨシヒロと言われたら最初に来るのは島津ですよねぇ。この小者、一体何者なんだ(迫真)


続きはWEB(次話)ってお話。



宣伝のようなものはお休み。


宣伝のネタが無いけどポイントは欲しいです!(正直)


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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ、転生者でヨシヒロときけば 戦国一のキチガ◯ともいわれる 島津義弘を思い浮かべる人が圧倒的ですね 個人的には戦国一のキチガ◯には 水野勝成も島津義弘に負けず劣らずだと思ってます
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