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7話。主人公、定職に就くの巻

ようやく話が微妙に進んだぜ!



前半千寿君

後半爺様視点

さてさて、城内の連中を散々焦らせたところでおさらいをしよう。



問・何故九州大友家の人間が来たからと言って尾張の人間が焦るのか。


答・特に理由はない。強いて言えばなんとなく。



いや、巫山戯てるわけじゃなく、本当にこんな感じなのだ。


彼らの現状を現代日本人的な価値観で言えば以下のようになる。



~~~~



A・「おい! 九州の大企業の重役が視察に来たってよ!」


B・「マジ? しかもソフ○バンクかよ! やべっ!」


C・「ソフトバ○ク!? ありえなくね?」


主・「ほらほら、とりあえずお茶だお茶! あと掃除!」


A・「うひょーまさかウチみたいな地方の弱小企業に視察に来るなんてな!」


B・「あぁ、やべーよな!」


主・「とりあえず失礼が無いようにな!」


A・B・C「「「了解!」」」


D・「……でもウチってあそこと取引とかないですよね?」


C・「アホかお前。アレだよ!」


D・「アレって何だよ」


A・「お前なぁ。向こうに何か無礼とかしたらつるし上げ喰らうじゃん? ソフトバ〇クと付き合いのある企業がどれだけあると思ってんの?」


B・「だよなぁ」


主・「そうだぞ、何がどこで繋がってるかわからんし、間違いなく親会社(将軍家)とは繋がってるんだからな。変な噂とか立ったら困るだろ!」


D・「なるほど。それはそうですね」


A・B・C「わかったら手伝えや~!!」


D・「り、了解です!!」



~~~~



といった感じだろうか。


加えて言えば、相手の身代が大きいから萎縮しているというのも有るが、一番怖いのは悪評を垂れ流されることであろう。なにせこの時代、名声というか他者から評価を殊の外気にする連中にとって、悪評を垂れ流されるのが何より辛いのだから。


しかも相手が大友家なんていうメジャーな家だからな。


家が大きいと言うことは声がでかいと同義。西国全てに自分等の悪評が流されるなんてのは、評判の為に腹を切る連中にとって悪夢以外の何物でもないわけだ。


自分とは直接関係がない? たとえそうであっても、笑い者にされるのは我慢ならないのだ。この辺の価値観は現代の日本人には中々わからんだろうよ。


でもってここ尾張には、悪評を垂れ流すことに定評のある少女がいるときたもんだ。


少女はまだ子供だから、それをきちんと教育できてないってことで、まず平手の爺様が恥を晒し、ついで家臣としてどうなんだ? という理由で林が恥を晒し、最後にその父親は何してんだ? となって信秀が恥を晒すことになる。


自分たちのせいで主まで天下の笑いものになるんだから、そりゃケジメ案件だろう。当然若殿当人だって廃嫡だったり出家だったりに追い込まれるかもしれん。


というか、史実の信長は悪評が立ち過ぎて家臣に背かれたことがあるくらいだ。

それで家督相続の戦に負けていたらそのまま首切りエンドだった程である。


つまりこの時代、評判ってのは想像以上に重要なファクターなわけだ。


それほどのことだからこそ、彼らは俺たち相手に変なことをして評判を落とすわけにはいかない。


もしもこれが信長が家を継いだ後ならともかく、今はまだ次期当主でしかないからな。自分のミスで自分が継ぐべき家をボロボロにするわけにはいかん。


史実の信長? 自分のミスと思ってない節がある。


いや、もしかしたら「あの時はミスったな~」なんて思っていたのかもしれないが、それだって相当後になってからの話だろう。


まぁ大名が公式にミスを認めるなんてことは然う然うないから、あくまで内心で思う程度だろうけど。


で、現状なんだが……。


「この度は誠に失礼致しましたッ!」


「「若殿がもうしわけごさいませんッ!!」」


お分かりだろうか。織田信長と筆頭家老と次席家老の3人で綺麗な土下座を敢行しているのである。


信長的には思うところもないわけではないだろうが、家老の二人としては「何とか自分で勘弁してくださいッ!」と言ったところだろうか。


さりげなく信長を前に出していることから、信長を庇う気はなさそうだが。


主君を見捨てるのか? と言いたいところだが、まぁ信長が全ての元凶みたいなところはあるしな。責任者が責任を取るのも常識と言えば常識だし。


「挨拶の前に謝罪もどうかとは思うけど……とりあえず謝意は伝わりました。ですのでもうその辺で」


昨日の事程度なら、姫様も俺も無礼って程の無礼と思ってないのでここまで平謝りされても姫様だって困るだろうよ。いや、反省の色が無かったら何人かパトらせているが、あの後しっかり動いたみたいだからな。少なくとも俺としては思うところはないぞ。


三人の土下座を見て「本当にコレを見たかったの? 人違いじゃないわよね?」と言った視線を俺に向ける姫様。


姫様の本心としては既にアレな評価だろうが、俺が見たいと言った人物なので、まだ評価を定めてはいないようだ。


(さすが姫様! 気遣いも完璧だぜ!)


「とりあえず頭を上げてください。えぇと、筆頭家老の林殿でよろしいですかな?」


紹介も何もする前から土下座をされたからな。このままでは話も出来ん。


「はっ! 某が筆頭家老を務めます林秀貞と申します!」


こちらから話を振れば頭を下げたままそう答えてくる。


「ご丁寧にどうも」


このオッサンも苦労してるなぁとは思うが、姫様的にはこれが普通だったから特に違和感はないみたいだ。とは言え今回の我々は客人であって詰問の使者とかじゃないから普通に接してもらいたいもんなんだがなぁ。


「とりあえず頭を上げてくれませんか?」


俺も姫様に倣いやんわりと言ってみる。


「お、おぉ! そうか! ならば遠慮なく……ぷぎゃ!」


俺の言葉を聞いて頭をあげようとした信長の後頭部を、林と平手が一瞬で掴んで、そのまま床に叩きつけた!


「えぇぇ~」


お互いに頭を下げたままなのに、流れるような連携プレーを可能にするとはお見事ッ! ワザマエ!


…いや、そうじゃないな。織田家ってこんなフリーダムだったのか? 随分印象と違うんだが。


「「何卒! 何卒此度のご無礼の段、平にお許し下さいッ!」」


信長の頭を押さえながらの謝罪には必死さが宿っている。


あ~コレはアレか。田舎大名の家臣には思った以上に大友家の名前が重かったか。


まぁ向こうは豊後と筑前を領する名門だし、こっちは尾張下四郡の守護代の家臣の家臣だからな。そりゃ比べ物にならんか。でもって林も平手もここで死を覚悟したから、せめて今くらいはしっかり若殿を躾てやろうとしてるわけだ。


……日頃の恨みとかも有るんだろうなぁ。


「林殿、平手殿。今の私は大友の次期当主ではなく吉弘家の次男に嫁いだ身です。それほど気を使う必要はありませんよ?」


見かねた姫様が声をかけるが、それ、絶対逆効果ですよ?


「「「大友家の次期当主ぅ?!」」」


ホラね。さらに土下座が深くなった。


今は次期当主じゃないと言っても、昔そうだったってだけで普通はこうなりますって。


これが中国地方とか四国なら、そのまま上座にGOですよ。


っていうか、信長の頭が……え? なんかめり込んでません? ここ、畳じゃなくて板の間なんですが。


ま、まぁココは優しい千寿君がなんとかしてあげようじゃないか。

このまま窒息死とかされても困るしな!


「とりあえず話が出来ないので頭を上げてください」


「……」


「「申し訳ございません!申し訳ございません!」」


頭をめり込ませてムームー言ってる信長と、謝罪し続ける家老。客観的に見ればもはや時代劇で言うところの「武士に無礼を働いた町娘とその親の態度」である。


有無を言わさず謝ることでなんとか嵐が通り過ぎるのを待つ感じ。と言えばわかりやすいかもしれない。だけどなぁ。俺は信長を見に来たんであって土下座を見に来たわけじゃないんだよ。


「四度目だ、頭を上げろ」


仏の顔は三度だが、四度まで言ったら文句あるまい。いや、姫様のを加えたら五か六だ。次は望み通り介錯してやる。


そう言った意思と殺意を込めて命令してみると、反応は劇的であった。


「「ハッ!」」


即座に頭を上げる2人と、頭をめり込ませたままビクッと震える信長。


「えぇぇ~」


姫様はなんとも言えない顔をしてるが俺にはコレで大丈夫って言う確証がありましたよ。さっきまでは頼みだから駄目なんであって、しっかり命令すれば従うんですって。


武士と言っても、率いる者と従う者のヒエラルキーははっきりしているのだ。


それで言えば、彼らは従う者。いや中間管理職と言った方が良いかもしれないがな。


何と言うか、社畜なんだよなぁ。悲しき日本人の性よ。


というか、頑張って粧し込んだ信長が頭を床に埋めてバタバタしてるってかなりシュールだな。


コレ、写真とまでは言わないが、絵にしたら人気出るんじゃねぇかな?




――――




「なるほどのぉ。九州とはそのような地なのじゃな!」


「そうね。まぁお城の中に居た私が知る限りの話だから、実際はもっとサツバツとしてるかもしれないけどね~」


おぉ。若殿と姫様が意気投合出来ておる。


いやはや、一時はどうなることかと思ったが、予想以上に話がわかる方々で助かったわい。


……しかし、お二人の出奔の原因が家督争いにあったとはのぉ。若殿にしてみても他人事ではないし、色々参考になることも多かろうて。


姫様の見識は確かだし、所作を見れば只者では無いのは一目瞭然。


それもこれも、姫様が大友家の次期当主として鍛えてきた結果じゃと言うのであれば、実力に不満はないどころかこちらの器に入りきらんわ。


更に見事なのが吉弘殿よ。家督争いで他の重臣達が姫様を担ぎ上げ当主や弟殿を討ち取らんとしたところ、よもや次期当主である姫様を出奔させることで家督争いを未然に防ぐとは。


普通ならこちらが死ぬか向こうが死ぬかじゃが、どちらにせよ家督争いが表面化すれば家は傾くし、負けた方の派閥に属する者たちに対して他の家からの干渉を招くじゃろう。


それを厭った姫様が普通に弟殿に家督を譲って出家した場合でも、姫様を警戒した当主や弟殿にいずれ殺されるであろうことは明白。


じゃが、姫様が弟殿に家督を譲り、更に西国へ戻らぬと誓紙まで書いたなら当主とてそれを認めぬわけには行かぬわな。


わざわざ子供と家督争いなどしたい当主などおらんからのぉ。


姫様が自ら家督を譲ると言うならさぞや喜んだ事だろうよ。


まぁ今後は二度と誰からも信用されることはないじゃろうが、な。


何せ己が定めた次期当主を出奔させ、ソレを支えてきた重臣達を粛清したのじゃ。そのような扱いを見れば人心は離れようて。


もしくは、弟殿に家督を譲る前に全ての汚名を己で被るつもりなのやもしれぬが、話を聞く限りではそうではなさそうじゃしな。


いやいや、遠く離れた九州の名家がどうなろうと儂らの知った事ではない。今重要なのは、儂らの今後について、じゃ。


姫様を説得した責任が有ると言って、出奔する姫様と共に大友家を出たと言うのが本当ならば、吉弘殿は正しく忠義の士。


更に堺や博多、府内の商人と繋がりを持ち、宝蔵院や国友とも接点が有ると言うなら奇貨どころではない!


しかもその見識は儂や林殿では到底届かぬ高みに有るし、武に関しても非凡で有ることは先程の殺気だけでもわかる。


アレはヤバイ。そりゃ若殿や護衛崩れどもも、恐怖で言うことを聞くわい。


その上初陣は済ませているし、兵の指揮も数千までなら経験が有るときた。


姫様も何度か戦に出ていて、最大で万を率いたと言う話じゃしの。あくまで総大将としての参加らしいから、細かい指揮はしたことが無いらしいが、それはそれで若殿にとって良い手本となるじゃろう。


吉弘殿も、主を支える忠臣としてだけではなく、本当の意味での補佐が出来る人材よ。


儂や林殿ですら彼から学ぶことは多い。


無論騙りでは無いことが前提じゃが、恐らくそれは無い。九州の事情に詳しすぎるし、何より「威」の桁が違うからの。


これが当たり前に万を超える兵を率いることが出来る家の跡取りとして育てられて来た結果と言うなら納得するしかないわい。


問題はこれほどのお二人を我々が雇い入れることが出来るかどうか、じゃよなぁ。


家格を考えれば、筆頭家老どころか彼らを旗頭にして尾張を取ることも可能な家格よ。


まぁ大友の名を捨てたと言うならばそこまでにはならんかもしれぬが、それでも御両人の存在を武衛様が知れば守護代として迎えてもおかしくはない。


それ程の方々をどう扱ったものか。


「……手殿! 平手殿っ!」


考え込んでおったところ、隣に座る林殿に呼ばれて我に返る。


いかんいかん。今はお二人の饗応中。例え大友家の次期当主でなくとも間違いなく貴人じゃ。礼を尽くさねばならん!


しかし妙に焦っておるの? 若殿が何か粗相でもしたかの?


「どうやら平手殿はお疲れの様子。この話は後日に致しましょうか?」


む? 吉弘殿が何か言っておったか。ならば粗相したのは……儂か!?


「ま、誠に申し訳ござらぬッ!」


まさか儂が粗相したせいで若殿への印象が悪くなっては、本末転倒どころの話では無いぞッ!


「いや、昨日の夜半に我らのことに関する報告を受け、その饗応の支度をしていたのです。疲れて当然でしょう。むしろそこまで配慮して頂けたと思えば、こちらが恐縮する立場ですよ」


ここで無礼を咎めるのではなく、儂らの苦労を労うか。なんとまぁ人間の出来たことじゃ。


「私も姫様の我儘に付き合わされたり、急な客人に右往左往したりした経験がございます。平手殿程の苦労をしたとは口が裂けても言えませぬ。ですがまぁ、この場は「気持ちはわかる」とだけ言っておきましょう」


「も、申し訳ござらん」


この気配り、流石は大友家に仕える重臣よな。しかもただの慰めではない。なにせ吉弘殿は口だけでなく、実際に九州からここまで姫様と共に歩んで来ておるのじゃ。


さぞかし苦労も有ったじゃろう。じゃがその苦労が成長に繋がり、余裕として現れておるのじゃろうて。


うむ。このお二人を雇い入れることが出来なくとも、交友を持つだけでも若殿には良い刺激となることは間違い有るまい。


……で、何の話をしてましたかの?


「それでは林殿にお伺いしますが、貴殿には異論は無いと?」


「無論です! むしろ是非にお願いしたい!」


なんじゃ? 林殿が凄い勢いで頼み込んどるぞ?


「爺よ、疲れておるなら休んでよいぞ? あと、その件については儂からもよろしく頼むのじゃ!」


若殿まで? 隣の姫様が苦笑いしておりますが、一体何を?


「では客将と言う形でお世話になります。条件は先程のモノで結構。期間は信長殿が正式に家督を継ぐまでとなります。家督を継承後に信長殿が我らを召し抱えるだけの人物となり、更に我らを必要としてくれたなら、家臣として仕える事になるかもしれませんな」


き、客将?陣借り…とは違うよな? な、何が有ったのじゃ?!


林殿が認めたと言うことは法外なモノではないのじゃろうが、お二人を客将として雇う条件とはなんじゃ?!


「では早速教導と行きましょう。まずは我らから見た尾張についてですが……」


き、教導!? 先程から驚くだけの儂とは違い、若殿も林殿も表情は真剣そのもの。















い、一体儂らはこれからどうなっちゃうんじゃ~?








シリアルな織田家である。ノッブもまだ若いからシカタナイネ!


マッチポンプ?ハハッ。


誰得爺様の次回予告風味。


とりあえず千寿君たちは客将になったもよう。

細かい話は次回だッ!





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