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67話。毘沙門天との会談②の巻

久々の日間一位!景虎強すぎぃぃぃ!


さぁ待ちに待ったシリアル回だッ!



不思議な緊張感が溢れる海津城は控えの間。景虎と千寿の互いが挨拶を終えたので、では本題に入ろうかと言う空気の中、先に発言したのは最上位者である景虎であった。


「では最初に当家と御家の盟約に関してだが……(い、いきなり結婚はダメだよね。あんまり焦っちゃ向こうも引くかもしれないし。まずは家ぐるみのお付き合いで外堀を埋めるんだ)」


「御実城様ぁ?!」


「む、どうした定満(何か他に良い案でもあるのかな?亀の甲より歳の功とも言うし、ここは聞いてみるべき?)」


景虎としてみたら計画的かつ順序立てて考えた方なのだが、全体的な話を見れば盟約云々は断じて最初にする話ではない。まずは深志に関する問題から解決せねばならないのだから、定満が焦った声を上げるのは当然のことと言えよう。


「い、いえ、まずは深志城に篭る武田勢に対する事案から片付けるべきかと!」


本当にわかってないような表情をする景虎に対して不安を覚えた定満は、万が一があってはならないと思いしっかりと説明をする。だがそのようなことは景虎の中ではとうの昔に解決済みである。


「うん?それは織田弾正忠家に引き取ってもらうのだろう?(彼が欲しいって言うならあげなきゃね!それにこっちはお城も土地も貰えるんだから悪いことないじゃん)」


「え?あ、まぁ。はい」


長尾家としても織田家としても損が無いし、定満や実綱としてもそうしてくれるならそれが一番良いと思っているので、この決断には問題は無い。問題は無いのだが……もしも景虎の頭の中を知れば、今の彼女が男の関心を得るために貢ぎ物を捧げる少女でしかないことに頭を抱える事になるだろう。


「で、ですがその条件に晴信の助命と言うものがありますが……」


あまりにもあっさりとした承諾に毒気を抜かれた定満に代わり、実綱が条件の再確認を行う。先ほどの怒りの威圧を考えれば定満はきちんと書置きをしたと思うのだが、もしかしたら細かい確認をしていないのかもしれないと思ったのだ。


「あぁ、それもあったな。しかし何か問題でもあるのか?(今更雌猫なんかどうでもいいし。それに甲斐と信濃の守護から織田弾正忠家の家臣の側室にまで落ちたんでしょ?最初はまた男を捕まえて!って思ったけど、よくよく考えたらある意味殺されるより屈辱じゃん)」


景虎目線で言えば、どこの馬の骨の側室になったかは知らないがこれこそ雌猫にふさわしい末路。いい気味だ。と言ったところだろうか。もしもその馬の骨を使って信濃に攻めて来たら、今度はそいつごと成敗するだけの話だ。そう、今の彼女はそんなヤツ(負け犬の雌猫)など眼中にないのだ。


「え?あ、まぁ、御実城様がソレで良いなら某からは言うことはないのですが…」


「(アレ?この人って晴信死すべし!って公言してませんでしたっけ?)」

「(うむ。晴信に与える慈悲は無い!とまで言っておったのぉ。まぁ悪いことではあるまいよ)」

「(…確かに、今回の戦ではこちらも多大な犠牲を払いましたからな)」

「(そう言うことじゃて。もし今後織田と戦う事になるにしても、今ここで戦をするよりも、深志を得てからの方が良いしの)」

「(ですな)」


僅かな間に180度変わった主君の主張に混乱した両者だが、一番の難関がクリアされたことで無傷で深志とその周囲を得ることが出来るのだから、今回の戦は紛う事なき大勝と言っても良い内容となったことを喜ぶことにしたようだ。


目と目で通じ合うオッサンと爺様はさておき、自身がこうして来た目的をあっさりと果たされた千寿も内心では軽く混乱していた。とは言えコチラの要望を飲んでもらったのだから、礼はするべきだろう。


「お気持ちお察し致します。また織田弾正忠家として長尾様に感謝を」


感謝を述べる千寿は千寿で、あれ?晴信の扱い軽くないか?と思っていたのだが、なんだかんだで戦には勝ったんだし(信玄も負けを認めていた)信濃に関わらなければそんな扱いになるのかねぇ?と考えることにした。何よりこれで長尾との戦を懸念する必要が無くなると言うのだから、文句を言う事でもない。


「なに、アレが生きていることで信濃や甲斐の国人が織田殿に降りやすくなるし、今川治部との戦に役立つと言うのは先ほど三河守殿が言っていたこと。確たる理由が有るならば私とて口を出す気はない(え?私のお気持ち察してくれたの?やった!雌猫も最期に役に立ったじゃないか!)」


「はっ。ありがたきお言葉。重ねて御礼申し上げます」


信玄の使い道に就いて説明する手間も省けたし、この様子なら公方にも口添えしてくれそうだ。交渉の際に使う伏せカードは、使わずに済むならそれに越したことはないと言うのもある。あまりに都合よく進むことにやや不安が有るが、定満や実綱の様子からも信玄の助命を反故にすることはないだろう。


これで信玄を側室に上げることを許可した姫様に対して、長尾との戦のきっかけを作ることになると言う余計な負い目を負わせる可能性が無くなったと思えば、千寿も自然と雰囲気が和らいでくる。


「互いに得があること。礼など不要。(もぉ水臭いんだから。だけどそんな義理堅いところも良い。見たか雌猫め!理想の殿方はココに居るぞ!お前はどこぞの馬の骨に嫁いで炭でも舐めてれば良いんだ)」


ーーーーーーー


「クシュン!あぁ……あのあと暫く裸だったから風邪でも引いたか?いやはや、旦那様は夜も凄かったねぇ。ふふっ、あの処女には旦那様の良さなんか3割もわからんだろうよ」


ーーーーーーー


どこぞの馬の骨によって腰を砕かれた雌猫がくしゃみをしながら言った言葉はともかくとして、お気持ちを察して貰った(と思ってる)景虎は絶賛大興奮中である。


「深志の問題が片付いたなら盟約の話となるが……定満?(もう問題ないよね?婚姻は外交手段の基本だから問題なし。後は…向こうから来てもらってもいいけど、越後の連中の相手なんか面倒なだけだし。あ、そうそう。彼くらいの人だと絶対に奥さんが居るよね?いなければ最高だけど、流石にそこまで都合の良い事は有り得ないだろうし。なら私も雌猫みたいに側室になるのかな?)」


さすがの景虎もこれだけの相手に妻が居ないなどとは考えてはいない(もしも独り身なら最高だと言う希望も捨てないが)ようだ。さらに自分が側室になることすら厭わないのは、家督なんか継いでも面倒しかなかったと言う思いが強いからだ。


それに自分には元々父親から家督を継いだ兄や、上田長尾家に嫁いだ姉が居る。大体幼少時から家督なんか関係ない寺に入れられていたのだ。兄があまりにもアレだから仕方なく家督を継いだが、越後が落ち着き、晴信が居ない今なら別に彼に戻しても問題ないだろう。家臣?自分を担いで置きながら勝手な行動したり裏切ったりする連中なんか知らん。


今までの人生を振り返り、人知れず覚悟を決める景虎。ここで定満が頷けば、白髪の軍神は白無垢姿で三河に向かうことだろう。だが定満も長年越後を支え続けてきた身である。景虎の覚悟はともかく、そう簡単にぽっと出の守護代家の代官との盟約など結ぶ気はない。


「はっ。差し出がましいことを言うようですが、細やかな盟約に関しては流石にこの場では決めかねまする。まずは不戦……互いの不可侵から始めるべきでしょう。その後は織田殿や我らの情勢次第かと」


まずはこれならと言う感じで提案する定満。実際のところはこちらから南信濃に侵攻する気はないし、向こうも人材不足で動ける状況ではないので、不戦と言うよりは不干渉と言っても良いだろう。


元の信濃守護である小笠原がどう動くかはまだ不明だが、今回得ることが出来る北信濃から数万石与えればソレで満足すると思う。それでも納得しないと言うならばコチラは義理を果たしたと言って縁を切れば良いだけだ。


今はそんな連中よりも重要なことがある。そう、北信濃の領地だ。長尾勢にしてみれば、今まで景虎に領土欲が無いために、戦えど戦えど領地が増えることがなかった。その結果鬱屈とした不満を溜め込んでいたのだが、今回景虎が北信濃を完全に入手すると言う決断をすると言うならば、この成果は北信濃だけではなく他の地域も適用される可能性が出ると言うことになる。


つまり今後は戦に勝てば領土が増える可能性が有るのだ。この外交的成功は長尾勢にとっては限りなく大きい。


また下手に織田と同盟を結べば武衛の要請で今川との戦に駆り出される恐れもあるので、ここで織田弾正忠に自分たち長尾勢が後ろ楯になったと勘違いしてもらっては困るという意味を込めての不戦である。


まぁ美濃斎藤家とは違い、相手次第では同盟に発展する可能性が有るのが、定満としての最大の譲歩と言えよう。


「ふむ、なるほどな……(そうか。向こうは私を知らないし、側室だとしてもいきなりはマズいよね。まずは向こうの奥さんに意見を確認しないと家庭が崩壊するかも。そしたら私が恨まれるかもしれない……それは駄目!うん。ここで勝手に動いたら彼に迷惑がかかると言うことはわかったぞ。これが段階を踏むということか…さすが定満!)」


そんな老臣の高度な政治判断も、恋する乙女にかかればこの通りである。とは言え実際に期間を置くのは互いの情報を得るため(特に長尾勢からみた織田家は不思議の塊なので、少しでも情報が欲しい)なので、結果としてはそれほど間違ってないのがまた凄いところだ。


そして千寿にしても景虎の思考は読めないが、定満の「長尾勢を納得させる為に景虎が領土を得ることを認めた」ことを広めたいと言う考えは読める。


なにせ後年の上杉家は、戦をして勝っても恩賞が出ず家臣の不満が溜まって裏切りが発生。さらにその裏切った者を討伐する戦に駆り出されても、肝心の謙信が裏切った家臣を許すので褒美が出ず、それに不満を溜めた者が裏切りに走ると言う、もぐら叩きのような様相を見せていたのだ。


それも関東に始まり(佐野とか佐野とか佐野)次いで越中(神保とか一向宗とか)次に上州(北条高広とか北条高広)それから越後(上田長尾とか)それが終わったら関東(成田とか結城とか足利)またしても越中(神保とか一向宗とか)さらに地元の越後(本庄繁長とか)である。もう狙ってるのか?としか言い様がないが、そりゃいきなり勝頼を許したり北条氏政と同盟組んだらそうなるよねって感じだ。(とは言えコレは織田と戦うために必要な下準備だったので、戦略的な目を持ち合わせて居れば納得出来ることだが、当時の関東の国人にすれば織田信長よりも後北条家が憎いので、この辺の感情を理解できていなかったのは問題だろう。……結局は義昭って奴が足を引っ張ったのだが)


だが、今後は戦に勝ったら領土が増えると考えれば、少しは景虎に従おうとする者も出てくるだろう。実際は北信濃が空白地帯になるだけなのでソレを接収するのを認める感じだから、戦で降伏してきた相手の本領安堵とは別問題なのだが、定満もソレはわかっているようなので千寿からは特に言うことはない。


だが「一度も褒美として土地をやったことがない」と言うのと「下賜したことが有る」のではやはり違うのだ。


今までの長尾勢は戦に勝っても自分の領土になることがなかったからこそ関東を荒らし回ったが、今後の関東での戦は統治を考えたモノになるかもしれない。そうなった場合、長尾勢はどう動くのか……まず間違いなく国人たちは殺されるだろうなぁと思うと、今後の関東からは目が離せないことになりそうである。


「定満の言いたい事は理解した(確かに段階を踏むのは大事)。だがソレは我ら長尾家の都合だ。織田殿からは何か有るだろうか?(だけど向こうから言ってきたら大丈夫だよね?さぁ、長尾と婚姻による繋がりが欲しいと言って良いんだよ?)」


「「御実城様?」」


そんな景虎の申し出に?マークを浮かべたのは千寿ではなく定満と実綱の両名である。確かに三河守の主君である織田信長は官位の上では景虎と同格だし、ここでの共闘は公方からも頼まれていることではある。しかしここまで気を遣う必要があるのか?確かに国人の引き取りはありがたい話だが、そもそもそれは向こうの要求である。その為これ以上何かを要求させるようなことを言う必要があるとは思えない。


とは言え、すでに主君からの問いかけは行われてしまっているので、ここで自分たちがなにか横槍を入れるわけには行かない。決して愚かではない主君が三河守に何を見たのか、そしてその三河守は何を要求してくるのか。


固唾を飲んで見守る両者と、自分に何かを期待する目を向けてくる景虎に対してどうしたものかと悩む千寿。言葉だけを聞けば要求を聞いてもらえそうな気もするが、ここで遠慮なく押していけば我欲が薄いと言われる彼女からの印象を悪くする可能性もある。


それに元々こちらが望んだ要求は叶えられているのだから、ここは押すよりも謙虚に行くべきと判断するところだろう。


「いえ、こちらからは特には。長尾様のご厚意にただただ驚くばかりでございます」


そう言って千寿が頭を下げると、横の2人からはあからさまにほっとしたような気配が察せられた。……肝心の景虎は気持ち肩を落としたが。


「そうか(ちっ!ご好意に気付いたならもっとグイグイ来ても良いのに!あ、でも定満と実綱がいるから無理か…なら仕方ない。じゃぁお酒だ!)では三河守殿、(親族の)固めの盃と行こうではないか。定満、春日杯を持って参れ(そういえば彼ってお酒は大丈夫かな?もしダメなら……無理やり飲ませて看病しよう。そうしよう)」


「……は、ははっ!」


しかし、転んでもただでは起きないのが軍神流。は?と言う顔をする千寿を尻目に、長尾は動くのだ。そしていきなりお気に入りの馬上杯を持って来いと言われた定満は、一瞬思考停止に陥るが客人の前で抗命するわけにも行かず、すぐに盃を取りに行く。


残された実綱は千寿に「ウチの子がほんとスミマセン」みたいな顔をして頭を下げてくるので、なにか名目を見つけては酒を煽るのが彼女のライフワークなのだろうと推察する。


それに千寿も九州の修羅として酒が飲めないワケではない。元々上杉謙信が酒が好きなのも知っているし、酒に付き合うだけで機嫌が良くなると言うのなら信玄のような不意打ちで側室を希望されるよりはよほどマシである。


「お待たせ致しました!」


駆け込むように盃を持ってくる定満。その脇には小さな酒樽も抱えている。


これは本来なら小姓がやるようなことであって、定満ほどの重臣がやるようなことでは無いのだが……今回は直接主命を受けた身であり、待たせているのも主と同格の使者と言うことで彼が直々に動いたようだ。


「うむ。肴は無いが…まぁ良かろう。では三河守殿まずは一献。(ふふふ。殿方と一つの盃で酒を飲み交わすことが出来るなんて、今日はいい日ね!)」


「はっ。頂戴いたします」


普段塩だの梅干で酒を飲む景虎には問題ないだろうが、客人に対してはどうなのだ?と思う定満と実綱。とは言え固めの杯だし、下手に異物を混ぜないほうが良いのかも知れないと思うと、酒を前にして上機嫌の主君に進言するのも憚られる。


とりあえず三河守から何か言われない限りは黙っていようと心に決め、大人しくこの儀式(酒飲み)を見守ることにしたのであった。




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早朝、千寿はある小姓に対して「起きた時の為に水を用意しておくように」と言付け、颯爽と去って行ったと言う。


そして景虎が目を覚ました時にはすでに千寿はおらず、部屋には白目を剥いた定満と実綱、それに空になった酒樽が散在していたと言う。ソレをみた景虎は断りなく立ち去った(実際は寝言みたいな感じで退出の許可を出している)千寿を責めることなく、一言、こう呟いたと言う。


「……ふっ、やりおる(凄い!私よりお酒が飲める人なんて初めて!決めた!今度はコッチから三河に行くんだっ!あわよくばそのまま三河に……)」


そんな主君に水を渡しながら、景虎・定満・実綱と言う長尾家が誇る3人を真っ向から叩き潰した千寿に対し、その小姓は男として憧憬を抱くことになったと言う。


その小姓の名は樋口与六と言った。

愉悦部の諸君には申し訳ないが、作者には彼女をどん底に突き落とす事は(まだ)出来なかったよ………


酔いつぶれた勢いで景虎を奥の部屋に運んで○○○しても良かった?残念、修羅は酔わないのだ(真顔)まぁ普通に敵地みたいなところでヘベレケになるような事はしませんし、奥様の許可が有りませんからねぇってお話。



宣伝のようなものは今回も休み。


と言うか、この調子だと景虎メインの幕間とか書いたらどうなることやら……もしかしたら総合の上位も目指せるんちゃいますかねぇ?



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