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66話。毘沙門天との会談①の巻

毘沙門天と修羅、とうとう邂逅ッ!

ほほぅ。これが軍神の威圧か。簡単な饗応をされていた時、突如として城の奥から風のようなモノが吹いてきたと思ったら、ピリピリと肌を刺す感じが伝わってきた。


「定満殿!こ、これは?!」

「……御実城様が書置きを見たようじゃな」


直江実綱(最初は誰だ?と思ったが直江景綱だった)が慌てた声を出せば、宇佐美定満はなにやら諦めにも似たような感じを出して城の奥を眺めている。


少なくとも彼らはこの程度の威圧で潰れることが無いようで何よりである。


「ふむ。どうやら長尾弾正様はお怒りのご様子。やはり晴信殿の助命は長尾家にとって受け入れがたいと言うことでしょうか?」


((そうじゃねーよ!))


定満も実綱も流石に細かい事情(長尾家に於いて景虎の前での歳、結婚の話はタブー)を語るわけには行かないので、千寿の態度に対して何とも言えないのだが……それよりも、それなりに慣れている自分たちでも驚く程の威圧を受けて、尚も落ち着いて出された白湯を飲んでいる千寿に「コイツ、正気か?」と彼の頭の中を疑う方が先に来る。


まぁ普通に考えれば景虎が怒る理由はソレなので、客観的に見て千寿の発言自体は間違ったモノでは無い。ここで腰を抜かすようなら使者にはならないだろうし、無様な姿を晒されて景虎に失望された挙げ句、話もせずに織田との手切れとなっては困るので、コレはコレで良いことなのだが……どうにも彼の心中が読めないのが不安である。


とは言っても相手は自分たちより格上の使者。質問を無視するわけにも行かない。


「そうですな。今までの経緯を考えれば長尾家の中では晴信こそ諸悪の根源と言う思いは強いのです」


実際問題、晴信が北信濃に来なければこんな面倒事にはならなかったと言う思いは定満にもある。ただ彼の場合は、晴信に負けて自分たちに泣きついて来た信濃勢に対しても思う所が無いとは言えないし、そもそも関東の連中のように「降伏からの裏切りを当たり前」とする連中と比べて考えれば、一貫して敵である晴信よりも国人の方が面倒な相手と思えるのも事実である。


「ほほう。織田弾正忠家における今川治部殿のようなモノでしょうかね?いやはや、ご存知の通り某は九州から来たばかりの新参者ですので、東海や関東の国人達の気持ちに疎いところがありまして……何かご無礼が有ればご指摘願いたいところです」


((知らねーよ!))


九州出身と言うことどころか、新参者と言うことが初耳である。その新参者に三河守を授け、三河や信濃に関しての全権を預ける信長とは一体どんな人物なのだ?彼の口から明かされる新事実の一つ一つが貴重な情報なのだが、あまりにもソレを重ねて来られても困る。


いや、目の前の三河守が何者で、何を企んでいるのかを調べるのも彼らの仕事では有るのだが、ここまで開けっ広げに来られると、逆に裏を疑ってしまうのは彼らの業とも言えるだろう。


だがココで気になる情報を得た実綱は、喫緊の話題としてお互いの敵についての話を進めることを選択した。すなわち今川治部である。


「三河守殿は今川治部「殿」とお呼びですが、やはり織田弾正様は今後今川家との戦を継続していくのでしょうなぁ」


実綱も定満も公方の事などどうとも思っていないが、主君である景虎が公方を奉じて居る以上はその意思に従う必要が有る。その為公方にとって自らを脅かす敵である今川もまた長尾の敵となるのだが……正直に言えば武田に代わって甲斐を治め、北条と敵対した経験を持つ今川とは手を組んだ方が良いのではないか?と言う気持ちも有る。


何せここで今川と北条が手を結べば北条は後顧の憂いなく関東制覇に乗り出して来ることが予想出来るからだ。その相手をする為に上杉らに呼ばれて態々関東に行くのも億劫である。その為、北条の行動を掣肘出来る存在である今川家とは敵の敵は味方と言う図式が成り立つ。


何より所領が隣接していないのが良い。そう考えたとき、もしも自分たちが斡旋して織田と今川を停戦させることが出来れば、今川は関東に進み、織田が美濃へと触手を伸ばすこともできるだろう。そうなれば美濃の混乱を理由にして公方からの上洛要請を断ることも出来るという下心も有る。


美濃?親殺しの義龍が信用できるはずが無いではないか。公方が何と言おうが、連中と盟を結ぶなど有り得ない。最悪でも不戦の約定に留める。これは景虎も了承済みの事であるので、もし今後美濃斎藤が織田と敵対したとしても長尾が彼らに援軍を出すことは無い。


そんなわけで長尾家として気になるのが織田から見た今川の様子である。「不倶戴天の敵だ!」と言うなら調停も諦めるが、もしも手を組めるような余地が有るなら……さりげなく今後の長尾家の行動指針に関わる質問をする実綱はやはりやり手の政務官であると言えよう。


「私個人としては治部殿に含むところはありませんな。主信長も父親である先代が戦って敗れた相手ではありますが討ち死にしたわけでも有りませぬし、彼らに恨みを持つであろう国人もほとんどが家督争いや不正の粛正や先日の三河での戦で姿を消しております。また、そもそも今川家と当家の戦は三河を巡っての戦と言うことを考えれば、コチラから前に出る必要が有るとは思っておりませんな」


「ほ、ほう。なるほど」


「…では三河守殿は今川家が「三河は現在のままで良い」と言えば両家の間では戦にはならないとお考えですかな?」


思った以上に今川に対しての敷居が低い。コレは行けるか?実綱がそう思ったのと同じく、定満もまた千寿の言い様から「行けるか?」と言う気持ちを持つ。


「さて、実質三河を預かる自分からすれば、向こうが挑んでこない限りは私も信長も戦う気は無い。と言いたいところですが……」


「「ですが?」」


二人が思わず食い気味に聞き返してしまうくらいの好感触だ。コレは本気で両者の調停を考える必要が有るのでは?と思うが、何やら問題が有る様子。


しかし主君も自分も家臣もソレを認めていると言うのに、一体何が問題なのか想像もつかない。もしもその理由が公方なら、北条やら関東公方の名を使ってなんとでも転がせると言う思いも有るので、是非ともその問題を聞かせて貰いたいところである。


「織田弾正忠家は武衛様の家臣。そして武衛様は遠江の守護でも有ります。現在は、前回の戦で先代が敗れた為に尾張一国の守護に甘んじておられますが、こうして我らが三河の大半と南信濃を得た以上は遠江に対する興味関心はどうしても隠し切れませぬ。今川治部殿もそのことは当然理解しておいででしょうな」


「「あぁ」」


居たなそんなの。と言う気持ちになる二人。そもそも長尾勢が関東に出張るのも越後守護である上杉家の関係が大きいと考えれば、守護代の代官である織田弾正忠家としても武衛の意向は無視出来ないのだろう。


そして連中は勝ち戦となれば調子に乗る。それはもう際限なく。特に今の織田弾正忠家のように急激に所領を広めている様子を見てしまえば、内部の統制やら政を気にせずに「戦え」と上から命じて来てもおかしくない。


そして武衛からそのように言われてしまえばその家臣である織田弾正忠家としても動く必要が有るだろう。今川家もこの流れを知っていれば織田との休戦など有り得ないと一蹴するだろうことは想像に難くない。


武衛と言い公方と言い、何処までコチラの足を引っ張るのか。思わず溜め息を吐きそうになる定満だが、三河守の話はまだ終わっていないようで……


「そのようなわけですので、当方としても今川殿に対する切り札となり得る晴信殿は生かして使いたいのですよ。ご理解いただけませぬか?」


「「?」」


「………なるほど」


「え?あ!」

「いつの間に?!」


定満も実綱もいきなり襖の向こうに語り掛ける千寿に一瞬怪訝な目を向けるも、そこから主君である景虎が姿を現したことで、ようやく彼女が今までの会話を聞いていて、三河守はソレを知りつつ自分たちとの会話をしていたのだと言うことを察することが出来たのだが……


「(それ以前に何故隠れていたのだ?)」

「(というか顔が赤くないか?)」


隠れていたのがバレていたのが恥ずかしかったのか?とも思うが何か違うような気もする。家臣にそんなことを思われているとは露知らず、当の景虎は絶賛困惑中である。


「(ヤバイ。コレはヤバイ)」


自分の威圧に怯えることなく、さりげなく出した殺意も理解しつつ流すだけの胆力。座っているだけでも分かる武の技量。定満や実綱とも渡り合える知見に、新参者なのに三河守を任される能力。さらに長身(167cm)の自分を見ても怯えたり蔑んだりしない男など景虎をして初めて見る。


まぁ男が彼女を見て怯えるのは、長身だからではなく男を品定めする際に発せられる威圧のせいなのだが……本人はもちろんの事、周囲もまさか彼女が男の品定めをしているとは思っておらず、そのことは誰も理解出来ていないと言う悲しい現実が有るとか無いとか。


取り敢えず内心を晒さないように、そのまま無言のままスタスタと室内に入り上座に座る景虎。本来ならココは控えの間なので、場を移して他の家臣も集めた上で三河守との会談に臨むべきなのだが、こうして主君に座られてしまっては、定満としても「移動しましょう」とは言い出せなくなる。


それに無言のまま千寿を見る景虎からは、決して自分から話しかけてはいけないと言うオーラが放たれているようにも思える上、主君である景虎の目からは武田の使者を謁見した時よりも強い感情が溢れているようにも見える。


「(まさか景虎様がここまで警戒するとは…)」

「(やはり一廉の武士か)」


そう、主君と三河守の戦いはすでに始まっているのだ。コレは家臣として邪魔をしては行けない。定満と実綱は固唾を飲んで2人を見守ることにしたのだが……


「(うわぁうわぁ!私より大きい!それに粗暴な感じじゃない!こんな人居たんだ!どうしよう、身を清めて来たけど、どうしよう?!歓待?でもいきなりお酒って言うのも違うよね?)」


その主君は絶賛混乱中である。


千寿としてもじっと見られるのは……まぁ人物鑑定の為にもシカタナイと思う。だが流石にこのまま観察され続けると言うのはよろしくない。何せ向こうはこちらを観察出来るが、此方からそのような視線を向ければ「無礼」と断じられても反論が出来なくなる。


現状をどうにかするにはさっさと挨拶を交わして空気を入れ換える必要があるが、宇佐美定満や直江景綱から紹介も無く挨拶するのは礼儀として有り得ないので、何とかして欲しいところだ。


しかしこちらから二人に目で訴えることも出来ない。今の景虎には目を離せばいきなり襲われそうな危うさが有る。


場に景虎が現れただけで完全に後手に回ってしまった。そんな現状を理解して、自分の未熟さと見通しの甘さを悔いる千寿。


史実では勝頼を許していたし、信玄もなんだかんだで謙信を認めてたような文書も有った。そんでもって宇佐美定満の反応を見れば、条件次第では大丈夫そうだったが、流石に信玄の助命は厳しいのか?ソレとも……あぁ時期が悪かったか。


そして自分が何を読み違えたのかを確認すると「時期」と言うどうしようもないモノに突き当たってしまう。


川中島が終わって数年経った場合と、戦の直後だと印象もまるで違うのは分かる。コレは下手打ったか?と長尾との共闘の失敗と戦を覚悟した千寿。


とは言えこちらから攻める気はないので戦となるならば向こうからの遠征となるだろう。そう考えれば、焦るほどのことでもない。


なにせ今回の戦では長尾勢にも相当な被害が出ていることは把握している。その被害の補填や軍の再編成にはどうしても時間が必要になるからだ。


あとは今川が自分達の味方をするか、もしくは動かなければ、例え相手が上杉謙信であっても信濃で十分迎撃出来ると言う算段は有るのだが……戦支度で暫くは夜もまともに寝れないかも知れないと思うと、流石の彼も溜息を吐きたくなる。


「……定満(あ~もう!ずっと見てても良いけど、これじゃ話が進まないじゃない!何してんのよ!ホラ早く紹介!あくしろよ!!)」


そんな千寿の思いはともかくとして、絶賛混乱中の景虎はいつもは頼まれなくても横から口を出して来るくせに、今回に限って動かない定満に助けを求めた。と言うか直接話しかけるのが恥ずかしいらしい。


「え?あ……ハッ!こちらが織田弾正忠家からのご使者で、吉弘三河守殿にございます!そして三河守殿、こちらが越後守護代にして越後長尾家当主、長尾弾正少弼景虎様でございます」


景虎に名指しされ、じーっと視線で促されて、ようやく己の仕事を思い出した定満が互いの紹介をすると「交渉がどうなるにせよ、コレで自分も挨拶が出来る」とほっとした千寿が頭を下げる。


「長尾弾正少弼様に措かれましてはお初に御意を得ます。ご紹介いただきました、織田弾正少弼信長が家臣吉弘三河守鎮理と申します」


「うむ。長尾景虎である(へぇ吉弘って姓なのかぁ。吉弘景虎……うん悪くない)」


真顔で今後の事(長尾との戦)を考える19歳の修羅と、真顔で今後の事(結婚)を考える18歳乙女。2人の英雄の初対面は見た目以上にグダグダであった。

邂逅しただけっ!


見た感じは白髪アル〇リア顔でメッシュが無い感じだと思ってください。イメージCVは水樹様……ではなく萩原え〇こ。


定満も実綱も関東遠征や上洛には乗り気ではないもよう。つーか上杉勢でソレを望んでたのって謙信だけじゃね?って感じがするのは作者だけ?ってお話



宣伝のようなものはお休み。


と言うか、作者としては読者様からポイント評価して欲しいなら、ちゃんと「ポイント下さい!」って頼むべきだと思うんですけどねぇ。まぁそれも人それぞれなのでしょう。



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