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64話。主人公は単身赴任中の巻

姫様からの返信を貰った千寿君サイド。

「旦那様~三河から文が来たぞ~」


「誰が旦那様ですか……」


ハキハキと動いて男性の横に座る女性と、グッタリとした様子で返事を返す男性。


「そんなのアンタしか居ないじゃないか。いや~前のヤツとは違って頼り甲斐が有る旦那でアタシは嬉しいよ」


そう言ってにやけながら上機嫌で三河からの書状をヒラヒラと見せてくる妙齢(22歳)の女性。彼女こそ甲斐武田家第19代当主武田晴信改め武田信玄である。


千寿からすれば彼女は再婚するには十分な若さだし、すらりとした長身(165~170)で均整の取れたスタイルは男を惹き付けるだけの魅力が有ると思っているのだが、どうやら周囲の評価は違っていたらしい。


なにせこの時代では22歳ともなれば立派な年増扱いだし、背が高いと言うのも女性としては評価を落とす要因となっているようで、自分に対して女としての魅力を感じる男は、極一部の特殊な趣味の持ち主だけだと思い込んでいたと言うのが実情である。


その為千寿の後ろ楯を得たい彼女としては、女としてのアピールよりは将として自分は使える女だと言うことをアピールしてくるのだが、千寿としては彼女が使えるのはわかっているし、何だかんだで女性なのだからと色々気を使っていた。


……それが不味かったのだろう。信玄にしてみれば、そうやって自分を普通の女性扱いされることなど初めてなので、千寿と居るのが実に楽しい。甲斐の民を背負うという張り詰めていたモノも無くなり、千寿が頼りになる男であると認識した信玄は、もう新婚の妻が旦那に甘え倒すかのような勢いでなついていると言っても良いだろう。


景虎がこの様子を見れば「…雌猫」と言って眉を顰めるだろう。千寿も「まんま気紛れな猫だな」と思いながら相手をしているので、他者から見てもお似合いの夫婦のように見えるのは仕方の無いことかもしれない。


しかし言うまでも無いことだが千寿の中では姫様が第一であり、当然信玄との肉体関係も持っていない。信玄が夜這いに来たときは普通に気絶させて別の部屋で寝ているくらいだ。


そんな奇妙な生活も、この書状が来たことで終わりを告げる。内容によっては信玄を殺すことにもなるので、千寿も信玄も見た目ほど余裕が有るわけでは無い。特に信玄はそうだろう。


南信濃上原城。側室云々は別として、すでに晴信は織田へ降ることを配下の将兵に伝え、彼らには甲斐に戻るも良し、信濃の自領へ帰るも良し、自分に従って三河に来るも良しと言う選択肢を与えていた。


その結果2000居た兵は半数に減り、残った1000人を率いて千寿と行動を共にすることになる。よって現在千寿が率いる兵は、元々の3000に秋山が率いる500と晴信の1000を加えて4500人となっていた。(後方の小荷駄隊は別編成となる)


それらの編成や深志の内藤と木曽福島の馬場への使者の派遣。更に南信濃における施政の確認や今後の打ち合わせをしているのが現状である。


「いや~姫様?って言うか正妻様がアタシを認めてくれるかねぇ」


三河からの書状を読む千寿の横で、おどけた口調ながらもかなりドキドキしている信玄だが、千寿が無言で書状を渡して来ると、ガバッと言う音が聞こえるくらいの勢いで書状を奪い取り、その内容を確認していく。


「おぉ!アタシの側室入りを認めてくれるってさ!」


そして問題の箇所を確認するや否や上機嫌になり、バンバンと千寿の肩を叩きながら、ほっと胸を撫で下ろす信玄。千寿の隣の心地よさを知り、その辺の男を掴まえて子を作ることに抵抗を覚え始めて居たので、正妻からの側室入りの認可は素直に嬉しいことである。


「良く見てください。仮ですよ仮。正式な認可は姫様に直接お会いしてからです」


「かって~なぁ。正妻様が認めたんだからアタシはアンタの側室さ、普通に旦那らしくしてくれよ!」


「いや、だから仮ですって……」


「さ、これからは夜もよろしくな!」


聞く耳持たないと言わんばかりに話を終わらせに来る信玄。自分が側室になれるかどうかで今後の人生が大きく変わって居たのだから無理もないことだろう。こうして夜の話題を振ってくるのはもちろん千寿に釘を刺すためだ。


「はぁ」


……何と言うか、美人でモデル体型の若い女の子(22歳)に言い寄られているのにまったく嬉しくない。つーか自分が空腹な虎の目の前に置かれた生肉にしか思えない。普通の虎なら撲殺して終わるのだが、コレが自分にとって有益な存在だからタチが悪い。


とりあえず「この時代の女は強いなぁ」としみじみ思うと共に、姫様が無事に出産できたらいいなぁと思う千寿。


こう言ってはなんだが、千寿としては姫様との子が出来ることよりも、彼女が幸せであることを望んでいるのだ。そして彼女は早いうちから千寿との子を産むことが自分の幸せだと思っている。だからこそ子を成した。そのことに後悔はない。だが、自分のような修羅の子は男でも女でも苦労するだろうなぁと思うと非常に居た堪れない気持ちにもなる。


とは言えそれは戦国乱世の価値観にそぐわない考えだ。子を望む姫様にそんなことは言えないし、言う気もない。それとは別に、自分の妊娠が分かった途端「あ、晴信を側室にするなら紹策もお願いね」と気楽に言ってくる姫様の強かさには苦笑いを禁じえない。


いや、千寿とてわかってはいるのだ。なにせ信玄は今後三河で5万石を預かる自分にとっての筆頭家老のような存在だ。それと関係を持つのは三河吉弘家の為になるだろう。さらに博多の豪商である神屋とも血縁関係を持てれば、その資金力や政治力を当てに出来る。そんな相手が向こうから来ていると言うのに「ソレを逃がすなんてとんでもない!」と言うのは戦国大名として非常に正しい。


だが逆の立場なら……もし博多の商人が「味方をして欲しければ姫様を抱かせろ」などと言って来たら、千寿は博多を灰燼に帰す自信がある。その為、自分の夫をこうして使うことが出来る姫様に対して、喜んで良いやら寂しさを覚えれば良いやらで、非常に微妙な感じになる。


「そ、そんなこれみよがしに溜め息吐かなくたっていいじゃねぇか!いくらアタシだって傷付くぞ!」


千寿の溜め息を聞いてそんな事を言ってくる信玄。自分が女としては求められて無いのは自覚しているが、ここ数日女として自分を気遣ってくれる男に対して、夜の話題を振ったら溜め息を吐かれると言うのは彼女としても心にクるモノがあるようだ。


「あぁ、勘違いをさせましたか。いや、信玄殿は魅力的な女性ですよ」


「うぇ?!」


千寿としても流石に女性にこんな誤解をさせてはいけないと思い、そっぽを向いた信玄の顔を自分に向けさせ、目を見てストレートに信玄を褒める。


「ただ正室が妊娠したと同時に他の女性を抱くと言うのに抵抗がありましてね。女性としては面白くはないでしょう?」


固まった信玄に対して自分の心の内を話していく千寿。苦笑いをしながら頭を優しく撫でてくる千寿に対して信玄の思考回路はショート寸前である。


「そ、そういうモノなのかどうかわかんないけどアタシの場合はただ子種を貰うためだけの関係だったからよくわかんないねいやほんと実際男としては見てなかったしでももしかしたら本当に好いた男の場合はそうなのかもしれないかもね!」


自分でも何を言っているのか分からないが、とりあえず前の旦那はあくまで子種の提供者であって愛だのなんだのは無かったと言いたいらしい。


「なるほど。まぁこの話題はもう止めにしましょう。夜はしっかりお相手しますので、信玄殿もそのつもりでいて下さい」


「お、おう!じゃねーや、はいっ!」


慌てて言い直す信玄に思わず苦笑いを浮かべてしまう。


「別にいつもどおりの口調で構いませんが?」


「……アンタが良いなら良いけどさ。だけど流石に正妻さんの前じゃきちんとしないとダメだからな。今のうちからそう言う癖を付けときたいんだよ」


「なるほどそうですか。まぁその辺は奥の問題になるので姫様にお任せしましょう」


千寿としても今川に殺された前の旦那だのその子供についてわざわざ触れようとは思わないので、軽く流すことにする。ちなみに側室が夫に対する態度に関して、姫様に丸投げするのはこの時代の常識として間違いではない。むしろ正室がするべき仕事であるので、姫様から何かを言われない限りは千寿も深入りしようとは思っていない。


とりあえずこの問題は片付いた。しかし問題は他にもある。


「で、次の問題です。信濃と甲斐の国人、及び九州大友家からの出向者についてですね」


人が居ないと言うのは確かだが、ここに来てまさかの一斉増員である。とは言え受け入れることが出来ないと言うわけではない。なにせこの織田弾正忠家は尾張の40万石に加え、南信濃20万石と東三河を除く三河の20万石を一年足らずで手に入れたのだ。それも国人を殲滅した為、ほとんどが直轄領である。当然人手は足りないし、即戦力となる人間が来てくれるのは素直に嬉しい。だが……


「問題って……あぁ~。アンタの力が強くなりすぎて信長との間に緊張が生まれるってのと、他の家臣との軋轢かい?三河も尾張も敵対した国人はほとんど死んでるけど、元々信長の味方をしていた林とか平手とかは面白くないだろうからねぇ」


うんうんと頷きながら千寿の言いたいことを先読みしてくる信玄。流石に家臣に担がれて当主になっただけに実感が籠っている。だが少し違うぞ。


「いや、おそらく信長も林佐渡殿も平手殿も佐久間殿や一門の連中も文句はないでしょう。むしろ「信濃?そんな山奥行きたくないので、引き続き三河守殿が管理してくれ!」と言ってくるでしょうね」


「へ、へぇ……」


自分が命懸けで切り開いた信濃の扱いが悪すぎる。口元をヒクつかせて怒りを我慢している信玄だが、おそらく千寿の予想は正しい。


なにせ清須を除く尾張の約40万石が目の前に有るのだ。誰だって転封や改易は嫌だが、それでも生まれ育った尾張で加増を受けるのと、信濃だの三河で加増を受けるのでは多少石高が減じても尾張国内を選ぶのは当然と言える。


それに今の尾張は美濃が信濃に攻め込んだおかげで非常に穏やかだ。しばらくは軍事行動よりも国内の領政を優先すると言うのは衆目の一致するところである。ならばわざわざ今川と隣接する三河や、今川だけでなく長尾・斎藤・地元の国人が混在する信濃になど行きたいとは思わないだろう。


「それに林殿や平手殿は京において、主君の名代として公家や公方の相手をしてますからね。下手に国元に戻されるよりもよっぽどやりがいを感じているのではないでしょうか?」


そう、マーシーとクワマンこと林と平手は現在京にて工作中であった。その所領については子供が運営してるし、しっかり加増の予定もあると言う、尾張の皆が羨む仕事中である。


「あぁ、筆頭家老も次席家老も尾張で動きを見せないと思ったら、京に行ってたのかい?」


元々三河の防諜は異常とも言えるレベルだったので、そのまた先である尾張の情報は、許可を取った商人や糸目の博多商人くらいしか情報源が無かったのだが、それでも彼らの動きが掴めなかったのはそう言うことかと納得する。


そして納得したなら千寿の言いたいこともわかる。そもそも名誉を重んじる武士にとって「京」で「主君の名代」として「公家や公方」の相手をすると言うことは尾張国内で領政をするよりよほど重要な案件である。


それなら切り取ったばかりの三河や信濃と言った田舎で作業する千寿を羨むことはないだろう。しかし、主君は尾張で忙しいし、一門も家臣も騒がないなら、一体何の問題が有るというのか?三河と信濃を合わせて大体40万石。ここに九州と甲斐・信濃の国人を割り振り維持していれば良いのでは?


そう思った時期が信玄にもありました。


「純粋に俺が忙しすぎます。姫様を尾張に送る以上、尾張にも九州からの人間を何人か送る必要がありますよね?そして三河の事を何も知らない連中に三河の知行を与え、さらに南信濃では木曽福島の斎藤や甲斐の今川、北信濃の長尾の相手ですよ?」


「うわぁ」


ついでに言えば三河も信濃も入手したばかりの土地であり、千寿が家臣になる相手の事を知らない上に相手も主君となる千寿のことを知らないときた。


つらつらと述べられた事だけでも面倒事満載だ。それにどうやら千寿は北信濃の国人たちに対しても南信濃ではなく三河に知行を与える予定らしい。これは自分が三河守であり、監督責任を果たすためだろうとは予想ができる。


だがそうなると信濃に行くのは九州勢となり、これまた風土や考え方がまるで違う連中なので、問題が発生することは火を見るより明らか。


うん、詰んでるね。


信玄も思わず手を合わせたくなるような状況だ。


「とりあえずはまだ姫様が三河に居ますので、最初に北信濃の長尾と話をつけます。内藤殿の説得には秋山を連れて行きますので、信玄殿「信玄」……信玄は高遠に移り、三河から送られてくる物資の管理をお願いします」


側室なんだから呼び捨てにしろ!と言わんばかりの視線と口調に折れた千寿は、とりあえず信玄の要望通り呼び捨てにすることにして、今後の指示を出す。


呼び方はともかくとして、信玄としても面倒事はさっさと終わらせるに限ると思っているので、現在北信濃の海津城で深志を攻略するために再編成をしている景虎との会談は急ぐべきだと思うし、自分が付いていけば面倒事が増えるだけなので南信濃で待機と言うのもわかる。


それはわかるのだが、どうしても気になることが一点。


「……夜はどうするんだい?」


自分を魅力的と言い切ったくせに。夜は覚悟しておけとまで言ったくせに。やっぱり口だけか?そう思うとどうしても気分が重くなる。


とは言え千寿とてそれなりに人生経験を積んで来た身、信玄が不安に思っていることもわかっている。だからこそ「ココはしっかりと甲斐性を見せるべきだろう」と変な方向で気合を入れてしまう。










「夜?ハハッ。仕事も終わりましたし、これから夜通し頑張りましょうか」


「うぇ?!こ、これから?!」


何かのスイッチが入った千寿からのいきなりの爆弾発言。信玄にしてみたら正しく晴天の霹靂である。なまじ近くで話し合いをしていたのも不味かった。


なんだかんだで姫様と離れて単身赴任のような状況だった千寿は、向こうからの提案&奥様公認と言うことで堂々と信玄に牙を向く。


「いや、ちょっ!……まだ身を清めて…………ンッ、アッ、アッーーーーー!!」


こうして始まった修羅と虎の最初の戦いは一晩中続き、信玄はしばらく立ち上がることが出来ないほどのダメージを受けることになる。そうして翌日、極々自然に北信濃に出立しようとする千寿に対し、猛牛と言われた秋山信友を始めとした甲斐や信濃の国人衆から畏敬の念が込められた視線が向けられていたという。






千寿君。流石に三河だけじゃなく信濃まで担当すれば、普通に忙しすぎて夫婦の時間が取れないことが悩みの種らしい。


とは言え他の人材も居ないので、現在の織田弾正忠家では尾張は信長が史実より減った尾張衆を纏め、それ以外の外様衆を千寿君か率いるような感じです。


具体的な描写?ハハッ。


次回、毘沙門天との邂逅か?!ってお話



宣伝のようなものは無し。



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