58話。蝮死すの巻
まさかの大事件が?前半夫婦の会話、中盤からは第三者視点と雪斎との会談。
やや短め。
感情的になった姫様を鎮める為に、家に帰って姫様と色々したあとで信長からの急使が持ってきた書状を確認すると、その中には衝撃的なことが記されていた。
「『蝮が義龍に殺された』ですか」
歴史の修正力…とは違うな。長良川での戦にならなければ美濃は割れんし、戦ではなく騙し討ちをしたことで、蝮の子と言う印象を植え付けることになるから義龍の求心力は低いまま。さらに蝮から国譲りをされていないから、信長に美濃を攻める理由がない。
つまり斎藤道三は歴史の流れで殺されたのではなく、殺されるべくして殺されたと言うことだ。
それにしてもここで『義龍謀叛。稲葉山にて蝮と弟を殺害』とはな。義龍が蝮に背くのは予想はしていたし、暴発を招くようにわざとあからさまに動いていたことは認めるが、まさか一気にここまで話が進むとは思ってもいなかった。
まぁ史実でも蝮を稲葉山から追放したが…追放から長良川までの流れを見れば、あれって元々殺す気だったけど準備段階でバレて逃げられたんだろ?
それなのに今回蝮が逃げられなかったのは、準備が蝮にすらバレなかったから。そりゃそうだ。準備も何も、兵士や国人に関係なく義龍が直接蝮を殺したんだからな。
「蝮は中途半端過ぎたわね。義龍を生かして、彼に群がる連中を粛清対象にしようとに考えたのでしょうけど…でもそれじゃダメ。蝮は初めから義龍を殺すべきだったのよ。美濃の国人の掃除はそれからでも出来たわ」
姫様は大名の視点で蝮をそう評している。
「さらに兵力云々ではなく義龍が個人で動くことを予想していなかったわね。嫡子が抱える「廃嫡されるかもしれない」と言う恐怖を蝮は理解できなかったのね」
そう言って俺に抱きついてくる姫様。大友宗麟はその恐れから二階崩れを起こしたと言われているから、義龍の気持ちが分かるのだろう。そしてそこまで追い込んでおきながら、義龍と個人的に会う時点で蝮には危機感が足りなかったという事だ。
「ねぇ千寿、これから美濃は荒れるでしょうけど、尾張に影響はあるかしら?」
俺からすれば焦る必要はないんだが、この時代の価値観から真剣に子を産みたいと願っている姫様にしてみたら、尾張でゆっくりと子を産みたいと言う思いがあるようだ。何せ向こうには信秀に20人を超える子供を産ませることができたと言う環境が有るからな。俺としても、現在国人を根切りにして再興の途中で、かつ一向門徒の残党に狙われる可能性がある三河よりも信長の目が行き届く尾張の方が良いと思ってる。
だからこそ問題になるのは尾張の状況だ。今はゆっくりと岩倉の勢力を駆逐しつつ、戦や領地の復興を学ばせて人材を育てようとしていたのに、美濃の動きによってはそれすら出来なくなる。義龍は国内を纏めるために敵を作ろうとするだろう。それは美濃国内で自分に従わない者になるだろう。
だが現状美濃の国人には義龍に代わる旗印が無い。長良川のように蝮が生きていたなら明智や竹中も義龍には従わなかったかも知れんがな。それに今回の件には長井や日根野のように、蝮を殺したあとの権勢を望む有力な国人の存在がない…言ってしまえばこれは純粋に斎藤家内の問題とすることが出来るわけだ。
そう考えれば義龍の継承を認めそうではあるんだよな。まぁ義龍の斎藤家継承を認めたからと言って、国人が無条件で従うことはないだろうが…とりあえず信長は斎藤への塩の販売を止めるようだ。個別に販売している西美濃三人衆や遠山に関しては向こうの出方次第ってとこか。
「結局のところは義龍が美濃国内の国人にどこまでの恭順を望むかですな。それによって美濃の混乱の規模は大きくもなるし小さくもなります。国内に敵が居ない場合は尾張に来るでしょうな」
今まで通り美濃の盟主として認めるならば許すと言うなら、ほとんどの国人は認めるだろうさ。何せ怖い蝮がいなくなって、青大将が盟主になるんだからな。そして共通の敵を作ることで内部を纏めるのは基本中の基本だ。だが今の斎藤家は稲葉山周辺だけの領主ではない。蝮やその周辺の連中を殺したことで間違いなく機能不全となるだろう。それによる混乱を誤魔化すための出兵はありそうだが…名目はどうする気だろうな?
「…そう、なら尾張は荒れるわね」
姫様の中では既に義龍の行動が予想出来ているのだろう。ならこちらも連中が尾張に干渉することを前提として動くだけの話。
「いや、むしろ今のうちに荒れてくれれば良いのですよ。それを鎮めることで、姫様が子を産む頃には穏やかな環境が整っていることでしょう」
出産間近になってから尾張が荒れるくらいなら、今のうちに荒れてくれれた方が良いでしょう?俺がそう言うと、姫様は目を丸くして俺を見てから、ぎゅっと強く抱きついてくる。
「それもそうね。…千寿、頼りにしてるわ」
「えぇ、万事お任せ下さい」
そう言って俺も姫様を強く抱きしめる。今も昔も姫様を守るのは俺の仕事だ。子を産みたいと望むなら当然叶えるし、義龍ごときに邪魔はさせんよ。
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「おぉ、三河守殿、ご無事でしたか。……今日は奥方殿の許可を取って来たのでしょうな?」
朗らかに語りかけてきつつ、どこかキョロキョロと警戒する雪斎。なんかキャラ変わってませんかねぇ?いや、たしか子供のころの義元を容赦なく折檻してたらしいから、体育会系なのかもしれんが……まぁ宰相とはいえ雪斎も「使われる身分」の人間だ。「使う身分」である姫様の威圧はそれだけ怖かったのだろう。
「えぇおかげさまで、昨日は大変失礼しました」
「なんのなんの。いつの世も女人とは強いものですからな」
これは寿桂尼のことか?まぁ九州でも、神代勝利の奥方とかはベッキーや高橋紹運からの攻撃を防いでたくらいだからなぁ。怖い女ってのはどこにでもいるのだろう。それはそれとして、だ。
「今回は妻の許可も取ってますので大丈夫です。それで昨日の急使の件ですが、雪斎殿の下には何か連絡はありましたか?」
寺の情報伝達の速度は侮れん。もしかしたら自分たちよりも詳細な情報を掴んでるかも知れないと思って直接確認したのだが…
「お恥ずかしい話ですが何も来ておりませんな。そもそも拙僧が三河に居ること自体を内密にしておりますし、草の者も三河守殿の威勢が強いここは避けて通るでしょう」
情報統制に関してはそれほど厳しくはしていないつもりだったが…兵士たちに「単独で動く渡り巫女や諏訪系の連中は殺せ」とか「顔を隠す坊主は一向門徒とみなして殺せ」と命じてたからその影響もあるのかもしれない。間違って普通の旅人を殺したら困る?そもそもこの時代に「普通の旅人」など居ないから大丈夫だ。
大体は伊勢詣りとか熱田詣りとかそれ系であり、例外として小売業を営む商人や浪人が居るが、他は僧の格好をした草だったり、山伏の格好をした草だったり、巫女の格好をした草だったりとまぁこんな感じである。
さすがに戦場に団体で金を稼ぎに来る巫女や、自分の許可を得て動こうとする真っ当な坊主を殺すような真似はさせないが、今の三河を単独、もしくは数人で歩く巫女など武田の諜報員以外の何者でもあるまい(決めつけてはいるが7~8割はそうなので残りの2~3割には諦めてもらうことにしている)
商人がついでに情報収集をしていると言うケースもあり、これに関しては中々厄介だが、俺や友野や堀田の認可を受けていない商人は草とみなして処罰するような形で動いている。実際それらは座の許可を取っていない「もぐり」なので旧来の法でも裁かれる立場にあるし、諏訪神社の許可証など出した日には財産没収の上、拷問一直線である。
そんなわけで今は神屋が買ってきた人間を三河の各地に配置し、土地や食物、職と一般人としての立場を与えることで彼らは神様仏様よりも織田様、三河守様と言った感じで民が協力してくれるし、それを見た地元の穢多非人と呼ばれていた連中も協力してくれるので、今のところ三河に反乱の芽は無いと言ってもいい。
この結果を以て尾張でも彼らを受け入れるように信長に進言するつもりである。信長自身はそれほど差別意識は無いが、家臣はどうしても差別してしまうだろうし、その結果が尾張国内に差別と火種を撒くことになるのでは意味がない。なんなら三河の民として移民させても良いかもしれないが…
そもそもこの時代、元々古くから居た穢多非人と呼ばれる人種とは違う、言うなれば新しく穢多非人となる人間が増えていた。その理由として宗教で弾圧されたり、無理な借金を着せられて全てを失ったり、乱捕りによって捕まったり売られたりした際、大名などに戦の為に買われたものの、戦が終わった後に生き延びた連中を養うことを放棄した者たちの存在がある。
こういった連中によって虐げられた彼らは、当たり前の話ではあるが基本的に体制側の人間を信じないし、生きることに希望を見出してはいない。その為、きちんと法整備を行い、人として扱うと宣言し、実際に家や食事や仕事を与え人として扱うことで、ようやく生きる希望を見出し、それに縋ることで民となるのだ。
彼らは一度全てを失った。だからこそ、与えられたモノを失いたくないと言う気持ちは誰よりも強い。そんな彼らに「巫女や顔を隠す坊主は敵だ、故に殺せ」と言ったところで否と答える者は皆無だ。何せ神も仏も自分を救ってくれなかった。いや、むしろ神仏に仕える坊主によって苦しめられてきたと言う過去がある。その意趣返しと恩返しが出来て、相手が巫女なら気持ちいい思いも出来るのだから、彼らにしてみれば素晴らしい仕事であると言える。
ただし、ソレ用にするために捕らえておこうとする阿呆も居るので、2日以上匿ったら殺すと言う布告もしてあるがな。そもそもこの時代の人間のモラルは恐ろしく低い。その為、布告を守らなかった連中を身内ごと首を刎ね、晒すことでようやく彼らは法を守るのだ。
その為三河では「三河守様は優しく慈悲深いが甘くはない」と言うのが常識になっているし、千寿も畏れを抱かれない為政者などただの阿呆と断じているので、法を破った場合の処罰には一切の容赦がない。
こうして五人組ではないが相互監視に近い体制を作り上げているので、雪斎が抱える草も下手に三河に滞在することなく、足早に遠江に抜けていくのだ。その結果雪斎をスルーした形になるのだから、連絡を受け取ることになる義元あたりは眉を顰めているかもしれない。
それはともかく、寺の中に入り本堂で向き合って座る千寿と雪斎。先程までの朗らかな空気は一切なく、真剣な表情で信長からの急使についての情報の開示と意見の擦り合せを行おうとしていた。
「…なんと、隠居や追放ではなく殺害ですか」
素で驚く雪斎。さすがの雪斎も義龍のいきなりの凶行は予想できなかったらしい。
「そのようですな。とりあえず美濃の国人に対しては、あくまで斎藤家のこととして納得させるつもりのようです」
これは推測だが、まぁ違っても構わんよ。俺にしてみれば、今回の事では織田は揺らがないと言うことを今川に見せるだけだ。
「確かにそのように言われては手も口も出せませぬな」
雪斎も俺の推測に無理はないと判断したようなので、このまま押しきるとしようか。
如何に太原雪斎で有っても情報不足。推察は出来ても細かいことまでは知らないので、どうしても後手に回ってしまう。そして今の千寿には相手に容赦する気がない。
「さらに義龍は弟も皆殺しとしました。その為家督を争う相手もおらず、求心力を高めるための戦が国内では出来ません」
「なるほど…では義龍は伊勢守からの依頼を受けて尾張に入ると?」
普通に考えればそうだろう。だがさせん。
「いえ、彼には美濃国内で留まるか、信濃を目指して貰おうかと思っております」
「信濃?」
完全に予想外と言ったところだろうか。まぁ今まで蝮は美濃国内や尾張に越前と言った敵と戦っていたが、信濃に手を出したことは無いからな。一体どうやって?と言ったところだろう。
「えぇ、少なくとも尾張はありませぬ。故に彼が動く前に、岩倉を干渉される口実ごと叩き潰します。それで、御家にもご協力頂きたいのですが…」
「……伺いましょう」
何を依頼されるかはわからないが、聞かないことには判断が付かないし、そもそも今川としては信長に勢力を拡大して欲しい。さらに此処のところ信長から譲られてばかりである。将来の盟主として相応しいところも見せる必要もあるので、大概のことなら応えるつもりであった。
「いや、そのように気を張らずとも大丈夫です。簡単なことですからね」
「………」
そんな事を言われたからと言って油断する程、雪斎は未熟ではない。無言で先を促す彼を見て、千寿は苦笑いしながら己の策を補強してもらうための頼みを伝える。
「御家には………………をして頂きたいのです」
「ん?あぁ、なるほど」
確かに彼が言うように実に簡単なことだが、今川家にしか出来ないことでもある。そしてこれなら義元も文句は言わないだろう。
「お話は理解いたしました。それではもう少し話を詰めたなら駿河へ帰還させて頂きまする。寺社については後程別の者を遣わしますので、よしなに…」
今川家の人間として、策は策で受け入れるが、臨済宗の僧としての仕事も忘れない。そんな雪斎を見て「つくづく社畜だなぁ」と言う感想を抱いた修羅が居たらしい。
蝮、胎動からの死亡確認。まぁ散々死亡フラグ立ててましたからねぇ。
義龍君の暴走により尾張が荒れる可能性が生まれましたが、千寿君的には「美濃で遊んでろ」と言った感じになります。
何をするかは…次回以降ですね。感想欄での展開予想はご遠慮下さいませ。
以下宣伝のようなもの
長 「なんじゃなんじゃ!二人して大人なふいんき(⬅何故か変換されない)出しおってからにっ!」
姫 「いやぁ何て言うの?やっぱり私ってば貴重な大人枠だし?普通枠のノッブさんが出すにはちょっと無理な雰囲気よね~」
長 「普通枠ってなんじゃ?!くぎゅ様が宿る赤髪のじゃノッブが普通なんてありえないじゃろ?!」
姫 「のじゃロリじゃないからねぇ。普通のチンチクリンなのよねぇ」
長 「(°Д°)」
姫 「とりあえずアレじゃない?史実みたいに利家とかで我慢したら?アレはチンチクリン好きでしょ?」
長 「出来るかっ!」
姫 「あんまし我儘言ってると、後が大変よ~?」
長 「な、なんとかなるわい!きっと作者がなんとかするはずじゃ!」
姫 「いや、作者に期待って…」
長 「うん。儂も言ってて「正直駄目かな」って思った」
姫 「向こうも文字数ばっかり嵩んでるし、もう少し話の書き方を勉強して欲しいところよねぇ」
長 「そうじゃのぉ。ぽいんとも伸び悩んでおるし、書きたい事を書いとるのはわかるんじゃが、もう少し読者殿にも合わせんとなぁ」
姫 「読み手が居てこその作品ですものねぇ」
長・姫 「「はぁ」」
こんな会話が有ったとか無かったとか。
何だかんだ言っても、基本的に作者はこのスタイルを変更する予定は有りません。(こう言うスタイルしか出来ないとも言う)
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※ふいんき(⬅何故か変換されない)は昔の2ちゃんねる系のネタでふいんき(⬅何故か変換できない)のパク…オマージュです。
ご心配をお掛けしてますが、作者の頭は大丈夫です。姫様が雰囲気って漢字を使ってます。




