53話。その頃、九州の実家では?の巻
そのころ九州の実家では……
今更ですが、この作品の登場人物の年齢には多分なご都合主義がごさいます。
「ふむ。ほぉ。なるほどのぉ」
先程から上司の鑑理殿が書状を見て一喜一憂しておるが…これはアレじゃな。前回と同じく豊後からの書状ではあるが大殿や親匡(塩市丸)様のことを書かれた書状ではなく、尾張にて仕官した鎮理殿からだな。
何をしたかは知らないが少し前に送った神屋からは感謝の礼状が届いたし、姫様も生活には不自由していないらしい。向こうは向こうで元気でやっているようで何よりである。とは言えこちらもようやく親匡様が元服し、初陣を済ませようとしている大事な時期。
姫様が息災なのは喜ばしいことだが、いまはその情報が漏れるのはよろしくない。
なにせ最近は殿や親匡様の能力への不審から以前よりも姫様の帰還を求める声が上がっているし、大内や少弐の動きもおかしいところがある。吉岡殿(吉岡長増)も老境の身であるし、このような時に府内で癇癪を起こされて鑑理殿が蟄居などと言うことになれば、北九州がどうなるか分からぬ。
だからこそ豊後の大友親子を刺激する内容の手紙は不味いと思うのだが、目の前の上司の判断は違うらしい。まぁ主家の醜聞はともかくとして己の息子が息災なのは良いことだろう。
そう思ってた時期が鑑連にもありました。
「あやつめ。なんでも正式な三河守に補任されたらしいぞ。ははっ早速息子に抜かれたわ!」
「……はぁ?」
目の前の上司は北九州の問題がどうこうでは無く、普通に出世した息子からの一報に喜んでいただけであった。
確か以前の話では尾張の守護代の家臣の次期当主の指南役という意味がわからない立場だったはずだが…それが何で三河守? それも「正式に」という事は僭称ではなく朝廷の認可付き? そもそもどこから三河が出てきたのだ?
書状の中の一文を聞いただけで大量の突っ込みどころが発生するのは雷神と称される戸次鑑連にしても中々無い経験である…相変わらず彼はわけがわからない星の下に生まれているらしい。
彼自身がソレを引き起こしているのも否めないが、何がどうなれば無位無冠の彼がいきなり三河守になるのか。それがわからない。
混乱する鑑連に対し「その気持ちは良くわかる」と言って書状を渡してくる鑑理。しかし「良くわかる」も何も、千寿を育てたのは目の前に居る上司である。この人も大概だが、吉弘家では常識を破壊するのが家訓なのだろうか?
口に出したら間違いなく自分の常識も破壊されそうなので、とりあえず黙って書状を見せてもらうことにする。こうやって他者に見せることで、後ろめたいことは無いと言うことを示しているのだろうが…豊州三老とまで言われる彼であってもこのような形で気を使わねばならないというのが今の大友家である。
溜息を堪えつつ書状を読み進めていけば…なるほどと納得する。尾張と三河の国境にある城における防戦の指揮に加え、自身も200以上の兜首を挙げた。さらに三河での一向門徒の根切りや三河に攻め込んできた今川勢との戦に勝利。また姫様も家督争いの戦の際に尾張で50を超える兜首を挙げたと言うなら、夫婦揃っての抜群の武功である。ここまで殺れば三河の人間は彼に従うだろうし、尾張内部の国人衆の反発もあるまい。この事実をもってすれば三河守にもなれるかもしれない。
「あ~なんと言いますか、随分と楽しんでいるようですな」
前も思ったが、今回はそれ以上である。若者らしいと言えば若者らしいはっちゃけ具合に、鑑連も自然と苦笑いが浮かぶ。
「うむ。とは言えちと殺り過ぎのようにも感じるが……」
苦笑いを浮かべる鑑連とは対照的に鑑理はやや真剣な面持ちで息子の心配をしていた。
やりすぎる家臣は主君にとって最大の敵にもなりうる。狡兎死して走狗烹らると言うのは韓信一人に通じる話ではないのだ。まして千寿という修羅は猟犬どころの騒ぎではない。彼が仕える主君が彼を危険視すればどうなるか…鑑理が父として心配するのはわかるが、鑑連からすればその心配はまったくもって的外れと言わざるを得ない。
「ご心配はわかりますが、この文を見れば東国にはまだまだ兎は残っておるようですし、もしもこの信長とやらが姫様や彼を排除しようとしても十中八九返り討ちにするのではありませぬか?」
おそらく今の三河勢は信長よりも千寿を恐れているだろうから、信長から追討の命令が出ても従わないだろうし。そもそも彼ならば「面白い!ならば俺を超えてみせろぉぉぉ!」とか言ってノリノリで戦いに興じそうである。そしてそんなはっちゃける彼の横で、苦笑いする姫様の姿まで想像できてしまう。
最悪の場合は二人でまたどこかに行くだけだろうから、今は好きにさせておけば良いのだ。
「ふーむ。まぁそれもそうか。それに三河守は今の主君である織田信長とやらに貰ったらしいが、その信長とやらは弾正少弼と兵部権少輔を兼任しとるらしいしな。つまらん嫉妬からあやつを排除するような者でもなさそうじゃ」
心配の種が減った鑑理は主君の信長についても言及する。
「尾張の守護代の家臣が弾正少弼と兵部権少輔ですからな。朝廷と幕府に正式に認められているのに守護からは認められていないと言うのがなんとも……」
大友家の姫と吉弘家の御曹司が仕える相手が、どこぞの馬の骨ではないのは間違いなく吉報だが、余りにもちぐはぐすぎる。この上で三河の実権まであると言うなら今の織田家は間違いなく微妙な立場だろう。
「それがあやつの狙いじゃろうて。次なる狙いは守護か守護代か……ふっ尾張国主に仕える三河守と言うのも面白かろうよ」
「なるほど。あえて歪な状態を作り出していると…よほど自信が有るようですな」
勝てると判断したからこそこうした状況を作ったのだろう。そうでなければ現時点で弾正少弼と兵部権少輔など受けることは無いはずだ。中々に強かな部分もあるが、これで14歳である。短期間とは言え姫様と千寿の教えを受けただけではここまでの者にはならないだろう。
つまり千寿が主君に選んだ織田信長という人物は、才能と能力と先見の明を備えた非常に将来性の有る人物であるという事だ。
「そのようじゃな。しかし、躍進する新興の家を支える重臣か。……本当に楽しそうじゃのぉ」
「…誠に」
書状を見ながら心底羨ましそうに呟くその姿は、九州に名高き修羅ではなく疲れ果てた老人の様に見えた。事実鑑連も、色んな柵によって縛られた今の大友家重臣と言う立場より、三河守と言う立場でありながら好き勝手に暴れまわることができる千寿の方が楽しそうだと思う。
「…この分では我々に何かあったときは、鎮理殿の下に人を逃がすことになりそうですな」
考えたくはないが、家を保つことは武家にとっての最優先事項。大友家に恩があるのは事実だが、だからと言って己の代で家を断絶させるわけにもいかない。そう考えれば今の千寿の下に人をやるのは悪い手では無いように思える。なにせ新興の家だし、彼とていきなり三河の運営などと言われても必要な人材は不足しているはずだ。
あと数年あれば彼が育てた人材が周囲を固めてしまうだろうが、今ならば彼の下で重臣となれる可能性が高い。それに将来はどうなるか分からないがもしも大内や少弐、龍造寺や菊池といった敵に敗れたさい、それらに仕えるよりも、また今の府内のような面倒な家に仕えるよりも、千寿の居る向こうのほうが分家を作る先として、また避難先として優れているように思える。
そもそも千寿は大友家の家臣との軋轢が有って出奔したわけではない、姫様と共に在る為に家を出たのだ。その為大友家の人間が「彼に仕えたい」と言って三河に行っても無下にすることはないだろう。むしろ知り合いで周囲を固めることが出来れば姫様の安全が保証されると考えるかもしれない。
「ふっそうだな。…アレが出て行く時には、確かに「吉弘の名を知らしめよ」とは言ったが、まさかここまで名を広めることになろうとは思いもせなんだ。まぁそれはそれとして鑑連の言いたいこともわかる」
どこに行っても大成すると言う確信は有ったが、大友家を出て僅か4年。仕えるべき主君を見出してからは1年にも満たない期間でこれである。今後どうなるのか聞くのが怖いような楽しみなような……だがこちらから彼を支えることが出来る人材を送れば、彼の修羅はより一層高く飛ぶことが出来るという確信もある。
「……望む者を彼の下に送りますか?」
今の大友家は本当に危ういのだ。流石に佞臣を送る気はないが、前途ある若者を府内で腐らせたり、主君や佞臣の嫉妬で謀殺されるくらいならば、向こうで生きて欲しいと思う気持ちに嘘はない。
「……そうじゃな。それぞれの家の若手、次男や三男の中で有望なのに声をかけてみようか。府内の殿には…まぁ何とでも言えよう。なにせ今の親匡様のように、家臣に嫉妬して鬱屈とするような主君ではどうにもならんからのぉ。ならばいっそ居なくなる方がお互いの為であろうよ」
「話は聞きましたぞ!!」
パーン! と音が聞こえるような勢いで評定の間に続く襖が開け放たれた。そこに居たのはバーン! と文字が見えそうなくらいに香ばしい格好をした白髪のオカッパ少女。もとい幼女(御年10歳)である。
「はぁ…」
「ほっほっほっ。相変わらず元気じゃのぉ」
盗み聞きをしていたことを咎めることなく、溜息を吐いて額を抑える鑑連と、元気な孫娘を見るような目で乱入者を眺める鑑理。
任地の関係から家族ぐるみの付き合いをしているし、鑑理から見れば彼女は生まれた頃から知っているので、今更多少の無礼を咎める気もない。
「お父様! 私は千寿様の待つ三河へと行くことを希望します!」
鑑連から特別扱いを受け、さらに未だに額を抑えている鑑連に対して果敢に言い募るのは、言わずと知れた雷神の愛娘、誾千代である。
「……向こうは別に待っとらんわい」
とりあえず反論する鑑連。歳をとってから出来た子のため普段から散々甘やかしているので、どうしても強く言えないが、流石に目に入れても痛くないほど愛しい一粒種を三河なんぞに送る気はない。
……千寿が大友家から去るまでは「絶対に彼を婿にする」と狙いをつけていたのは事実だが、今は他の相手を探している最中だ。
「いいえ! 千寿様はお待ちのはずです! 姫様と共に大友家を去る際、千寿様がこの誾だけに向けられた悲しげなお顔を誾は忘れたことがございませぬ!」
「勘違いじゃ」
確かに彼は「元気でな」と言って彼女の頭を撫でていたが、その際もむしろ姫様との旅を楽しもうとする気配を隠しもしていなかったと記憶しているし、何度か来ている手紙にも誾千代に関して触れてきたことは一度もない。客観的に見て普通に親戚の子のような扱いである。
「何をおっしゃいますかぁ!」
ドンドンと地団駄を踏み、ペシペシと鑑連の肩を叩く誾千代。ちなみに前回神屋の人間を送って欲しいと言われたとき、紹策の為に用意された船に彼女が密航しようとして捕まるという珍事もあったのだが、流石に紹策も戸次家の恥をネタとして千寿達に話すことは無かった。
「とりあえずそろそろ落ち着け。鑑連も困っておるわ」
鑑理の言葉を受けてピタリと止まる誾千代。彼女にとって鑑理は気の良いお爺さんであるが、怒らせれば恐ろしく怖いことを知っている。
「しかし御義父様……」
何より彼は千寿の父。つまり千寿の妻を自認する彼女の中では、鑑理は義理の父でもある。誾千代にしてみれば実父には甘えも有って多少傍若無人に振る舞えるが、流石に夫となる人の父には無礼は出来ない。その為彼の言うことにはしっかり従うのだ。
鑑理のことを御義父様と呼ぶ娘を見て鑑連は再度額を抑えるが、元々事あるごとに千寿を「お前の婿になる男だ」とすり込んでいたのは彼である。完全に自業自得といえよう。
さらに誾千代にとって、記憶の中にある千寿以上の修羅は未だに見たことがない。その為、彼女の中では最高の修羅=自分の旦那。であり、自分の旦那は彼しか居ない! と言う謎の方程式が成立していた。
「何と言おうとお主を三河へ送る気は無い。彼のことは諦めよ」
「嫌です! 絶対に諦めませんッ!」
鑑理によって動きを止めた娘に言葉をかけるが、結果としては正に鎮火しつつあった火に油を注いだだけとなってしまう。
それでも鑑連は諦めない。元より己は武骨者。言って聞かぬならば拳で語り合うのみ!
「どうしても彼を追うと言うならばこの儂を倒してからに……「隙ありぃぃぃ!」ないわっ!」
話してる最中の父親に向かって全力で殴りかかる娘と、月日が経つ毎に重くなってくる攻撃に修羅としての喜びを感じると共に、婿が居なくなるんじゃないか? という不安に苛まれる父親の図である。
「ま、ほどほどにな」
すでに千寿には正妻として姫様が居るが、三河守ともなれば側室の一人や二人は必要だろう。今は10歳の幼女だが、2、3年もすれば適齢期である。彼女が望み、鑑連が認めるならば鑑理にも止める気は無い。
千寿が居なくなってから定期的に行われる父娘のコミュニケーション兼修羅としての鍛練を眺めつつ「早く姫様との間に子を為して欲しいものよ」と生まれてくる孫に期待する鑑理。
「甘いっ!食らえ獅子の牙を!稲妻襲雷っ!」
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
今日も今日とて父の勝ち。……立花山城は今日も平常運転である。
実家に「出世したぜ!」と報告をする千寿君と「何で三河?」と混乱する実家の図。
そんなわけで白髪(銀髪)ロリ登場。いや、ギンちゃんの年齢的に、ベッキーは宗茂じゃなく高橋紹運をギンちゃんの婿にしようとしてもおかしくないと思うんですよね。
紹運にはすでに跡継ぎも居たので、ギンちゃんと紹運の子に立花家を継がせたら…とか妄想してたと思います。
まぁ彼は正妻一筋だったから諦めたのかも知れませんが……もし紹運が旦那なら、ギンちゃんも普通に従ってるだろうし、夫婦仲も悪くなさそうですよね。
稲妻襲雷。直訳すればライトニング○ルト×2。黄金に輝く鎧を纏った戦士もビックリする気を使った雷神の奥義であるってお話。
以下宣伝のようなもの。
長「むぅなんか白髪ロリが出て来おったぞ…」
姫「ん?あぁあの子?そろそろ来るかと思ってたけど、まぁ名前から白髪って言うか銀髪にしやすいし、年代的にも作者の中ではギリギリセーフみたいなのよね」
長「いや、そーじゃないじゃろ?!ロリ枠なら儂がおるではないかッ!何故新キャラがロリなんじゃ?!」
姫「え?作者が白髪ロリが好きだからでしょ?」
長「(°Д°)」
姫「それに、信長は自分をのじゃロリって言ってるけどさぁ」
長「な、なんじゃ?何を言う気じゃ?!」
姫「この時代だと14ってロリじゃないわよね?」
長「(°Д°)」
姫「つまり今の信長はただの赤髪のじゃノッブなのよ」
長「(°Д°)」
姫「だから白髪ロリは必要枠なのよねぇ。いやはや、そこら辺の合法ロリじゃなくてよかったわ~。もしこっちに来たら、信長の出番が無くなるかもね~」
長「(°Д°)」
こんな会話が有ったとか無かったとか。
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