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52話。京都での仕事、林編の巻

林=サン仕事中。


ギリギリ更新!

最後の方や後書きに加筆します!

平手が山科言継と会談をしている頃、弾正忠家の筆頭家老である林秀貞は一言も喋らずにただただ平伏していた……わけではない。


「上様におかれましては、ご健勝のこと誠にお慶び申し上げます」


「うむ、苦しゅうない。お主の事は存じておる。林佐渡、尾張からよう来たな」


「お、おぉっ!某如きの名を知っていただけていたとは…この栄誉、子々孫々までに語り継ぐ所存にごさいます!」


林が挨拶をしているのは先頃京に戻ってきた十三代将軍足利義輝。形式上は武家の頂点に立ち、周囲からは剣豪将軍と揶揄される今年で20になる女性だ。(未婚)


ちなみに彼女は林の事など知らないし、その主である織田信長の名も軽く知る程度でしかない。配下が口上を聞いた際に、用件と共に彼の名を聞いたのでリップサービスをしてやっただけなのだが、それでコレほどまでに感謝されるのであれば義輝とて悪い気はしなかった。


そしてこの林は義輝がリップサービスをするだけの価値が有る者なのは確かである。何せ彼の主君である信長は前回挨拶として五百貫もの銭を無償で献上してきたのだ。


更に今回は、先代が死んだことで信長が弾正忠家を正式に継いだと言う挨拶と承認を願い出る為にわざわざ来たと言うではないか。


やれ役職をよこせだの、黙って書類に判を押せだの等と言う輩より、こうして純粋に将軍として接してくれる田舎武士の方が相手をしていて嬉しくなるのは、人として仕方ないことだろう。


それにこの林もそうだが、織田弾正忠家の人間は田舎武士としては確りとした礼法を身に付けているので、粗野な態度に我慢する必要が無いと言うのも高評価の一因である。


長尾景虎も頑張ってはいたが、無理をしているのは一目瞭然だったし、勅書を持ってきた公家も苦笑いを堪えていたのを義輝も見ていた。


林としても上方の者たちが持つ田舎武士に対するマイナスイメージが、結果として普通にしているだけの彼らを高評価することに繋がるのだから「山科言継の元で礼法指導を受けろ」と言う千寿の指示に間違いは無かったと、その見識に舌を巻く思いである。


それはともかく。


「うむ。その方の忠義嬉しく思う。して、早速だが本題に入ろうか?」


急かすような口調で用件を促す義輝。別に忙しいわけでもなければ、次の客人が待っているわけでもない。ただ林が持参したであろう献上品の書かれた目録に興味があるのだ。


「はっ、ご多忙のところ申し訳ございませぬ!まずはこちらがご挨拶に持参致しました品の目録となります」


ご笑納頂ければ幸いですと言って差し出される目録。それを近習が手早く回収し義輝へと差し出す。それを受取った義輝は、ご笑納もなにも、望むなら満面の笑みで称賛してやると言う気分になる。


なにせ「ご挨拶」と言うことはこれは家督の相続とは別件。つまりタダである。まぁ感謝の言葉を書いた書付けを書く必要が有るかも知れないが、その程度の話だ。そして家督が別件ならばそちらにはそちらで何かしらの謝礼が用意されているのだろう。


一粒で2度美味しい。これには義輝もにっこりするしかない。


「うむ」と言って近習から渡された目録を見れば、塩が二石に銭が五百貫。挨拶とすれば十分以上のモノと言えよう。思わずにんまりしそうになるのを我慢するため、眉を寄せ下唇を軽く噛んだのを勘違いしたのか林は頭を深く下げて謝罪を始めた


「お恥ずかしい話ですが、所詮我らは尾張の田舎者。上様が何を欲しているかを察することが出来ず、それをご用意することもできませなんだ。そのため間違っても邪魔にはならないものと考えて銭と塩をご用意させて頂いたのですが……決して主信長には上様を軽んずる気持ちなどございませぬ!ご不興を招いたのであれば、その罰は主を支えることが出来なかった某に有ります!何卒、何卒信長へはご寛恕の程をお願いしたく……」


「え?あ、うん」


思ってもみなかった反応をされてリアクションが取れなくなる義輝だが、田舎者からしたら将軍と言うのは雲の上の存在であり、怒りを買えば大変な目に遭うと考えるのは、当時の常識からすればそれほど大きな間違いではない。


実際の将軍を知る三好を始めとした畿内や他の大名はそんな勘違いをしないので、将軍に対してはそこそこの敬意を示すだけだ。長尾も敬意は持っていたが畏れては居なかった。


普段からそのような感じの扱いを受けているので、義輝にはこのように畏敬の念を持って接してくる林に対してリアクションがとれず、思わず固まってしまう。そして固まった義輝を見て機嫌を損ねたと判断して更に謝罪する林。


必死に頭を下げる林に対して「あうあう」と狼狽える将軍と言うグダグダな空気を払拭したのは、義輝の側に仕える近習であった。


「んんっ!林殿、誤解が有るようなので畏れ多くも上様のお気持ちを代弁させて頂きますが…上様はお怒りなのではなく、織田弾正忠殿の忠義に対してどのように応えるべきかとお悩みであっただけですぞ。例えどのようなモノであれ、上様への忠義の気持ちの込められた献上品に不満などございませぬ……そうですな?」


(良く言ってくれました!流石藤孝!)


「うむ。その通りだ。誤解を招いたようで済まぬな」


近習である細川藤孝の絶妙なサポートを受けた義輝は、その流れに逆らうことなく自然に林を宥める。実際に直接銭を贈るのは雅ではないだろうが、だからと言って鉄砲を一丁だけ持ち込まれたり、尾張の名産品などを持ち込まれても扱いに困る。


つまりは何にでも使える銭や腐らない塩の方がありがたいのだ。と言うか、それこそが義輝が欲しいモノなのでそこに不満など有るはずもない。


下手に誤解されて茶器等を持ってこられても腹の足しにもならないので、この誤解は何としても解いておきたいところだ。


「さ、左様でしたか。上様のお気持ちを捉え違えるなど不敬の極み。度重なるご無礼何卒お許し下さい!」


再度頭を下げる林に「それはもう良いから!」と言いたくなるが、下手に何かを言えば逆効果になると見た義輝は、ここは藤孝に任せた方が良さそうだと判断し、目で合図を送る。


その合図を受けた藤孝は、一瞬溜め息を堪えるような仕草をしてから頷いた。


普通なら許されないような不敬だが、義輝は公私共に世話になっている藤孝に全幅の信頼をおいている。立場が立場なので正式な婚姻は出来ないが、二人が男女の仲なのは周囲の者たちの間で暗黙の了解となっていた。


義輝から見れば藤孝は文武両道にして一流の文化人にして忠臣にして愛人。広い見識のせいか稀に良くわからないことを言ったりするし、何故か奥州の大名に詳しいし、剣や弓よりも鉄砲を気にすると言う悪癖は有るが、基本的に優秀で自分への忠義と親愛に疑いは無いので、義輝は何かあったら彼に頼ることにしているし、そのことに対して抵抗はない。


藤孝としてもこうして献金をしてくれる相手と交流を持つことに対しては異論は無いようだし、何より前回平手某が挨拶に来たときに彼は直ぐに会うべきだと言って田舎者との会談を渋る義輝を説得したのだ。その結果挨拶として献金を受け取れたし、再度こうして使者を寄越してくるようになったのだから藤孝の目は確かだと言えよう。


「林殿。上様はいちいち斯様なことに目くじらを立てるほど狭量な方ではありませぬ。不敬を晒せと言うつもりはありませぬが、もう少し肩の力を抜かれては如何ですかな?」


そんな藤孝だが、彼には彼の考えが有るようで、他の大名の使者に対する態度に比べて、林に対しては幾分柔らかい物言いを心掛けているようだ。


そしてその言葉は義輝の気持ちを包み隠さず、そのまま言語化したモノでもある。そう、普通にしてくれれば良いのだ。


「はっ。兵部大輔様のお言葉は大変ありがたきお言葉なのですが、我々のような田舎者が肩の力を抜くとなると、どうしても不敬となってしまいます故…」


義輝に対するよりは幾分柔らかくはなっているが、藤孝は藤孝で幕府の重鎮である。義輝も藤孝も必要以上に堅苦しい物言いを嫌うと言うのはわかったが、ならばどの程度なら良いのかがわからない。


下手に力を抜いて不敬と咎められるよりは、堅すぎると苦笑いされてる方が良いと判断しての態度である。……下手に気を抜けば尾張国内での信長と姫様を思いだし、自身の中にある「戦乱の元凶が偉そうにすんな」と言う気持ちが態度に出てしまうかも知れない。そうなれば確実に不敬を咎められるので、林は一切気を抜かない方針でこの場に居るのだ。


そんな林の内心を知る由もない藤孝は林の言葉を受けて「そう言えば自分もお偉いさんだった」と苦笑いをした。


「…まぁ然程面識の無い相手にいきなり親しく接すると言うのも難しいのはわかります。これに関しては追々と致しましょう。ただ我らは織田殿の忠義に対して疑いは抱いておらぬと言うことはご理解頂きたい」


「は、はっ。恐れ入りまする!」


藤孝の言葉に軽く頭を下げる林。義輝に対する態度とはまるで違うのは一目瞭然だ。そして義輝は藤孝の狙いを看破した。


なるほど、あえて親しみを感じさせることで気軽に訪れなさいよって言う感じにする策なのね!そして気前が良い織田は、訪れる度に手土産を持参する。だからこそ優しく接して懐柔すると言うことかッ!


……うまい!流石藤孝!うまい!


義輝の頭の中では小さい義輝が藤孝を大絶賛していた。


「さて、あまり話し込むのも何ですからそろそろ本題に入りましょうか。確か家督の相続に関してでしたな?」


「はっ!何卒主信長の家督の継承をお認め頂きたく!」


義輝からの称賛の視線はさておき、藤孝は林が来た理由に言及する。将軍として忙しくは無いが、接客と言うのは存外神経を使うのだ。義輝を早く休ませたいと言うのもあるし、林が心労で倒れたりして恨みを持たれては堪らないと言う算段もある。


林にしてみても、さっさと本題を済ませたいのは一緒であるので、藤孝の言葉に否は無い。そして話が本題に入ったのならば、これから先は義輝の仕事である。


「ふむ。家督の継承は構わぬ。しかし信長は余に何を求めておるのだ?あぁわざわざ言葉を選ぶ必要はない故、率直に述べよ」


そう、義輝の仕事なのだが、問題は何をすれば良いかわからないことだ。家督の継承を認めろと言われても、本人と家臣が認めたならそれで終わる話ではないか。


これが尾張守護を寄越せとか言うならまだしも……逆に「家督の継承は認めぬ」などと言う状況が想像できない。その為、自分が承認したと言う書付けか何かを求めているのだろうとは予想しているが、まずは確認をすべきだろう。


「はっ。それではお言葉に甘えさせていただきます!主信長が望むのは、畏れ多くも弾正忠家の家督の継承を認める旨の書かれた書付けを上様にご用意して頂くことでございます!」


向こうは勢いに任せて言い切って来たが、ふむ。やはりそうか。しかしそれなら全く問題がない。どうせ献金に対する労いの書付けを書こうとしていたのだ、ついで…と言うわけでは無いが、その程度は労力ですらない。


「……なるほど」


とは言え頼まれたからと言ってホイホイと書くのも芸がない。あまり林を追い詰めない程度に焦らすべきだろうと判断し、義輝は少し考え込む振りをする。


「上様。憚りながら言わせて頂ければ、特に問題は無いかと思われまする」


そんな義輝に彼女が望むタイミングで望む言葉を掛ける藤孝。流石藤孝!と称賛したいところだが、義輝としてはどうしても気になるところもある。


「ふむ。藤孝が言うならそうなのだろう。しかし林よ、信長は幕府の役職を望まぬのか?」


武衛が居るので尾張守護や国人衆としての役職を与えると言うのは無理だが、準国人…は難しいかもしれないが、外様衆やお伽衆として任じるくらいのことならば義輝の胸三寸でも可能な事である。


本音としては何かしらの役職に就いて欲しい。何故なら献金を受け取っておきながら「これは挨拶で貰ったモノだから」と額面通りに受取り、彼らに何も与えないとなれば将軍家としての沽券にも関わる事柄になるからだ。


それならば何かしらの形有るもので返礼とすべきでは無いか?と言うのが義輝や藤孝の考えであった。


この辺の思考は山科や禁裏と全く同じだが、今まで軽んじられて来た経緯もあるので、ただで大金を貰うのは義輝も怖い。


尾張の田舎者に気を遣いすぎだと言われるかも知れないが、挨拶で五百貫を持ってくる相手に気を使って何が悪い?と言われれば幕臣とて反論する余地はない。


そしてこの件は、将軍としての沽券だけの問題ではなく今後の献金も絡む問題なので、決して軽んじてはならないと思っていた。だからこそ信長が何かを求めるなら余程無理が無いようなら与える気でいたのだが、向こうからは何も言ってこない。


本当に今回の書付けだけで済むならそれでも良いのだが、後から愚痴を言われて献金を止められても困る。ならば聞ける時に聞いておきたいと思ったのだ。


そしてその義輝の問いに対する林の返答は「否」である。


「畏れながら申し上げます。ご承知の事とは思いますが、尾張には守護として武衛様がおり、その補佐の守護代が既に二家ございます。我ら弾正忠家はその守護代の一つである織田大和守に仕える身にございますれば、その方々を差し置いて上様より役職を頂戴することは幕府の秩序を乱す行為と考えております。よって我が主信長は上様より役職を頂くなどといったことは己が分を超えたことと理解しております。それ故、信長は役職を求めてはおりませぬ」


ちょっと卑下しすぎじゃないか?林の言葉を聞いた義輝と藤孝はそう思ったが、言っていることは間違ってはいない。


「…なるほど。そこまで幕府のことを考えておるか。信長は誠に忠臣よな」


役職が要らない理由を聞き、納得した様子の公方を見て胸を撫で下ろす林。まさか「幕府の役職なんざ邪魔なだけじゃろ?いらんいらん」と言う信長の本音を伝えるわけにも行かないので、それらしい言い訳を考えてきたが……どうやらこれで問題は無かったようだ。


義輝としても言われてみればその通りと納得出来る内容なので特に不満もない。むしろ幕府の都合なんざ知るか!と言わんばかりに役職を求めてくる連中に比べれば数倍、いや、数十倍の好感を持つに値すると思ったくらいだ。


信長は役職を望んではいないのはわかった。後から文句を言うことも無さそうだ。その意味での懸念は消えた。だが、だからと言って何も与えないと言うのもやはり将軍としての沽券に関わる。


さてどうするか?……悩んだ時は藤孝えもんである。


視線で助けを求められた藤孝は考える。確かに言っていることは正しいし、自分が知る信長と言う人物は意外と目上の人間を立てるし、苛烈だが義理堅く約束ごとは守るタイプの人間だ。


ならば現時点では守護代はともかくとして、守護に対して下克上をするようなことはしないだろう。それに将軍家に対して献金の一つもしてこない斯波武衛やその守護代等より、こうして挨拶に来る信長と誼を通じておく方が良いと思われるので、ここは懐柔策をとるべきだろう。


「仰ることはごもっとも。この藤孝、織田殿の忠義に心を打たれましてございます」


とりあえず誉める。交渉の基本である。そしていきなり何を?と混乱気味の林に反論をさせぬように畳み掛ける。


「ただ、それだけの忠義を知りながら何も与えないのでは上様の沽券に関わりまする。よって何らかの職を受けて頂きたいのですが…」


「いや、その…」


さっきの話は全否定か?と驚いているが、その通り。武衛の事情や弾正忠家の事情よりも将軍家の事情が優先されるのは当たり前の話だろう。


「某が思い付くのは二つ。まず先代の織田弾正忠殿は朝廷より正式に三河守を拝領しておりましたな?」


「はっ。仰る通りでございます!」


そんな事まで知っているのか?と驚きの表情を見せる林と、流石藤孝!と目を輝かせる義輝。


「ならば三河守護ならばどうでしょう?現在は空いておりますし、何より今川治部との戦にも役立つのでは有りませぬか?武衛様にはこちらからその旨をお伝えしてもよろしいし、信長殿を守護代に仕える一代官にするのは幕府にとっても損失ですからな」


「み、三河守護にごさいますか?!」


「なるほど。朝廷より正式に三河守と認められているならば、余としても信長を三河守護とするに異論は無い」


献金先として向こうを優先されても困るし、何より今川治部の名が義輝の決定を後押しした。奴が制定した仮名目録や追加を確認すれば、奴は足利が造り上げてきた秩序を完全に崩壊させるつもりであると言うことが有り有りとわかる。


今川は足利の連枝衆でもあるので強く咎めることは出来なかったが、信長を三河守護にすることが奴に対する備えになると言うならいくらでも任じてやる。


そんな意思が見え隠れする公方を見て林は本気で焦りを覚える。信長が三河守護になれば尾張守護の武衛とある意味で対等になるが(武衛は管領と越前・尾張・遠江守護だが、実質は尾張の御輿でしかない為)拝命と同時に公方や武衛から「三河に転封せよと」言われてしまえば、尾張の所領を治めることに対する大義名分が失われる可能性がある。


そして信長が尾張の所領を返上し三河に移るとなれば、三河を好きにして良いと言う吉弘殿との約束を破ることにもなる。そうなれば……最悪の事態を想像し蒼白になる林。


それを見た藤孝は「あれ?もしかして信長に三河守護って何か問題が有るのか?」と不安を覚えた。彼はあくまでも織田にとって最良と思える提案をしただけであり、決して苦しめる気は無いのだ。


だがどうも様子がおかしいと感じた藤孝は三河守護以外の役職を与えることにした。この察しの良さが多彩な彼にとっての一番の才能なのかもしれない。


「あぁ、どうも話が飛び過ぎたようです。流石に守護代でもなければ上様の御一門でもない方をいきなり守護とするのは無理がありますな。いやはや某としたことが、上様を前にして間の抜けた提案をしてしまいました、誠に申し訳ございませぬ」


「え、ま、まぁ言われてみればそうよな。格式だけの三河守とは違い、実務を伴う守護職は些か性急で有ったかも知れぬな」


藤孝が言うならそうなのだろう。そう判断した義輝は「良い案だと思ったけど仕方ない…」と思いつつ、この場で信長を三河守護にすることを諦めることにした。


そうやって意見を撤回し乗り気だった義輝を止めてみれば、林は明らかにほっとした表情を見せる。やはり三河守護は駄目らしい。細かいことはあとで調べるとして……不満げな表情を見せる義輝へのフォローも兼ねた第二案を提示する。


「それでは2つ目の案ですが、・・・・ならどうでしょう?」


「それは……」


三河守護と比べれば随分と落ちるが、信長の最初の任官とすれば悪くないだろう。そう言う意図が込められた藤孝の提案に対して、林は反論する術を持たなかった。





ーーーーーーー


 


「んんん?」


「また変な声上げて…今度は何?平手殿の報告の次は林殿よね?公方との交渉で何があったの?」


「何かと言うかなんと言うか…公方めが儂を兵部権少輔にするとか言ってきたらしいの」


「兵部権少輔って…まぁ確かに任命権は幕府に有るけどさぁ。兵部省と弾正台って両立出来……なくはないのかしら?」


「どっちも形骸化しとるからのぉ。しかし最初は三河守護にされるところじゃったが、なんか向こうが取り下げてくれたらしいの。そんでもって公方の直臣になれば、武衛様や大和守がうるさいので、細川兵部大輔の補佐としてって感じなんじゃと」


「あぁなるほど。直臣と陪臣の間みたいな感じか。まぁ三河守護よりはマシよね」


「じゃな。今更「三河守護なんじゃから三河に行け」と言われても困るわい!」


「そうね。林殿は良い仕事をしたわ。そして今回のコレは信長を何かしらの役職につけないと幕府の沽券に関わるから、とりあえずコレにしましたって事でしょ?なら受ければ良いじゃない」


「むぅ~姫様が良いなら良いんじゃがのぉ」


「ん?あぁ千寿も特には気にしないと思うわよ?貰えるものは貰っておけって言うんじゃないかしら」


「そうか?それも良いことなんじゃが…」


「煮え切らないわねぇ。何か有るの?」


「いや、弾正少弼と兵部少輔ってどっちが偉いんじゃろな~と」


「……兵部少輔は権官だから弾正少弼で良いんじゃない?」


「やっぱり軽いのぉ~まぁ幕府よりは朝廷から貰ったヤツの方が良いけどな!」


「そう言うことにしておきなさいな。とりあえず両方とも正五位下相当の役職よ、やったね信長コレで殿上人に一歩近付いたわよ♪」


「いやぁぜんっぜん嬉しく無いのぉ~」



足利義輝登場。と言うか剣豪将軍って絶対悪口ですよね?将軍としての仕事をしてないと言うか何と言うか。将軍が剣術鍛えてどーすんだ?って感じでしょ?


まずは伊勢=サンのところに行って政治を学ぶべきだと思うんですよね。まぁ先代の頃から京から逃げてたし、幼少期にまともな教育を受けることが出来なかったと言うことなんでしょうけど。


そして室町の最終兵器こと細川=リアルチート=藤孝=サン。いや、史実のこの人は一日48時間有っても足りないでしょ?


武芸百般に古今伝授をはじめとした文芸、更に茶や蹴鞠や歌の習得に加えて公家との取り次ぎや大名への各種指導プラス領地運営。子供も優秀で戦も出来るお坊っちゃん。なんぞこれ?


ただ拙作の藤孝=サンは何か様子が……ってお話。


義輝のイメージCVは小清水亜○。金髪乙女。

藤孝のイメージCVは福山○。皇子ではない。



林のオッサンと平手の爺様は一緒に上洛してます。それぞれの交渉もほぼ一緒。そして同じ使者に書状を持たせてますので、ノッブにしてみたら同じ日に弾正少弼と権兵部少輔に任じられてます。


朝廷にしてみたら月二百貫でも十分なのに、二人増やしたら月四百貫ですからね。閏月を加えれば年間約五千貫です。そりゃ官位もやりますよ。幕府は沽券云々もありますが、結局は藤孝による猛プッシュが要因ですね。



今回も宣伝や解説のようなものは無し。




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皇子でないなら狼と香辛料じゃな
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