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42話。鳴海の戦⑤の巻

もっと文才が…戦闘描写を綺麗に纏める文才が欲しいっ!

矢の雨を降らせると言う言葉が有る。


今までは、それは唐の国における数千、数万の弓兵による一斉射撃の事を指すモノだと思っていた酒井忠次は、今日ココでその認識を改めることになった。


いや、酒井忠次だけではない。鳴海城に居る諸将、いや、この戦場に居る者全員がそうだろう。


「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


少しだけ射撃が止んだと思ったら、次の瞬間には一度に5本以上の矢が忠勝に向けられていた。その様子はまさしく忠勝だけに降り注ぐ雨。ソレを必死で捌く忠勝を見て「まさか忠勝にココまでの武が有るとは…」と己の節穴具合に腹立ちもするが、問題はその忠勝をして全く余裕が無いことだろう。


切る。

払う。

捌く。

避ける。

そして受ける。


「ぐっ」


順調に防いでいるように見えるが、受けたときにその顔を歪ませることからかなりの威力が込められた一撃らしい。元々この相手が放つ矢は兜ごと頭を貫く一撃だ。ソレが息吐く暇もなく連続で襲い来るのだから、忠勝の必死な顔も分かる。


固唾を飲んでこの攻防を見守っている兵士たち。ココで忠勝が倒れたなら士気は崩壊するだろう。いや、そもそも忠勝が居なければ自分も死んでいるし、その時点で三河勢7000は軍勢ではなく逃げまどう農民の群れに成り下がる。


だからこそ今のうちに決断をしなければいけないのだが、ソレが出来ない。


「ぐわっ!」

「うっ!」

「ぬ、ぬわーーー!」


今のうちに陣を纏めようとして各々の備えに出した兵士が容赦なく射抜かれる。忠勝を狙いながらも、本陣から出ようとするものは容赦なく射抜かれていく。つまり相手にはまだまだ余裕があると言うこと。コレにより忠次は下手な動きを封じられているのだ。


全軍突撃をしようにも、忠勝が居なければ撃ち殺される。馬にも乗れず、旗も無ければ兵士は誰に続けば良いのかわからない。そもそも堅城である鳴海城は簡単に落ちないと言うのは十分に理解している。その城に向けて我攻めなど被害が増すだけだ。


ならば撤退するべきなのだが、ココで「退け」などと言おうものなら即座に陣が崩壊する。向こうは我先に逃げる者たちを後ろから射殺すだろうし、そんな状態で追撃を受けてしまえば敗走どころの話ではない。


戦と言うのは追撃された際に一番犠牲を出すのだ。誰かが殿を務めるにしてもこの射撃に対処できる人間でなければ殿にすらならない。では忠勝を殿にして撤退か?と言われればソレも難しい。何故なら自分たちはすでにこの射手の射程内。忠勝から離れた瞬間に射殺されてしまう。


進むことも退くことも出来ない現状に歯噛みする忠次。それは稲生で柴田勝家が味わった焦燥にも似ているが、彼と忠次には大きな違いが有る。


忠次は大軍を有している。だが向こうが居るのは城だ。突撃したところで状況の改善には……。ここまで考えたとき、忠次の頭に一つの案が閃いた。ソレは外道とも言える手であるが、現状手段を選んでいる余裕などない。


「ま、また他のヤツを…く、糞ったれがぁぁぁ!!」


一瞬躊躇するも、今も必死に敵の攻撃を捌きながら、他の兵士が射殺される様子に心を痛める忠勝を見れば、彼を失う訳には行かないと言う気持ちが強く出る。それに忠勝とて決して無傷ではない。回避しきれなかった攻撃や、攻撃を防いだ際に発生する衝撃で少なからずダメージを受けている。


コレ以上のダメージを受ければどこで集中力が途切れるか分からないし、この射撃に対しては一瞬の隙が命取りとなる。それに何としても彼を失う訳にはいかないと考える忠次は、一つの決断を下す。


「全軍突撃!」


忠次の声を聴き、周囲は「正気か?」と言う顔を向けて来るが、今の忠次には取り繕う余裕などない。


「ココは既に死地よ。下がれば殺される。なら距離を詰めるしかあるまい!」


最後尾の石川数正が最初に射殺されたのだ。ならば安全圏など無い。ソレを兵にわからせる。そして距離が近付けばコチラも攻撃が出来るし、何より今の一揆衆なら…


「うむ!突撃!突撃じゃぁ!!」

「行くぞ!反撃せねば殺されるだけじゃぞ!」

「鳴海を落とせ!射手は一人!貼り付けば勝てるぞ!」


予想通り、門徒を失ってでも自分は死にたくない腐れ坊主共が的を散らすために門徒を駆り立てた。コレで敵の攻撃が緩めば良し。もし緩まなくとも、どうしても眼前に迫る一揆衆へと意識を向けなばならんだろう。さらに坊主が言うように、射手は一人。殺せる数には限度がある!近接して反撃を行い攻撃が薄くなったところで一揆衆を囮にして我らは撤退する!


一揆衆を見捨てる非情の策。だが後にどのような誹りを受けようとも構わないと言う覚悟を持って忠次は命令を下す。


「もはや勝利は諦めた。此度の無様は忠勝の武も敵の武も知らなんだ我が身の不明。それが原因で数多の将が殺された………だがせめて忠勝は生きて岡崎へ戻して見せようぞ!」


その決断すら、修羅の手の内であることも知らずに…


結局のところ、今の酒井忠次では吉弘鎮理(高橋紹運)には敵わない。それだけの話であった。




ーーーーーーーーーーーーーー



「撃てぃ」


ダーンッ!と言う音が響き渡り、稲生で柴田勢が味わった銃撃が一向門徒に襲い掛かる。

さらに今回は野戦での正面からの単調な連続射撃ではなく籠城側による十字砲火。


25人を4つの部隊に分けて行われる間断なき連射と轟音。そして千寿の攻撃が一人の武による射撃なのに対して、根来衆の射撃は集団による攻撃である。


当然敵に与える損失(数)は根来衆の方が上だし、視覚だけでなく聴覚にも訴えるので、彼らの射撃が生み出す恐怖は、いまだに指揮官しか殺していない千寿のモノとは種類が違う。その結果攻め手の一揆衆にしてみれば…


「何じゃ?!」

「雷じゃぁ?!」

「天罰じゃぁ!」


正体不明の攻撃に怯える一揆衆。


「慌てるな!天罰などでは…ガッ?!」


忠勝が千寿の攻撃を引き受けて居る為(鳴海城に攻撃させる為千寿が敢えて殺していない)生き延びていた僧兵も、ここまで接近すれば用なしだと判断した恒興の射撃によってその命を絶たれて行く。


鳴海城に籠る者たちにしてみれば、三河勢は信長の家督争いの隙を突いて尾張を荒そうとした略奪者。根来衆にしてみてもこの戦は自分たちの技を実践する為の場だ。その為遠慮も容赦もする気は無いので、率先して僧兵やら指揮官っぽい者を狙っていく。


彼らが討ち死にしたことで統率が取れなくなった一揆衆が我武者羅に攻めて来るが、ソレで落ちる程鳴海城はヤワでは無いし、守将の平手も勢いだけの農民に後れを取る程未熟ではない。


「うわぁ!」

「くそっ!」

「な、何でだよぉ!」


石を飛ばし、矢を放ち、湯をかけて。様々な方法で城壁の上から一方的に一揆衆を殺していく。そもそも攻城戦の備えの無い農民が城攻めなどしても城が落とせるわけが無い。城の前に造られた空堀や、小さいが段差を付けられた道に勢いを殺された一揆衆はもはやタダの獲物である。


「城門開けぃ!」


まともに城に接近することも出来ず、戦場に屍を晒し続ける一揆衆。その勢いが完全に失われたと判断した平手の声が戦場に響いた時、既に狩られる者と狩る者の格付けは終わっていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「アレが忠勝の言っていた「鉄砲」か…」


一揆衆が城に近付いたのでその対処をする為なのか、忠勝に対する射撃の密度が明らかに減ったことを確認した忠次は、即座に撤退を選択。


今も戦場に取り残された一揆衆は次々と殺されているが、岡崎松平党の損害はおそよ200人と言ったところだろう。ソレがほぼ全て敵の射手一人に与えられた損害で、さらにそのほとんどが侍大将や旗持ちと言うことは松平家にとっては洒落にならない損害では有るが………ソレでも兵士たちはほぼ無傷。


彼らさえいれば岡崎周辺の農作業や何やらは可能だし、整然と後退しているように見える(実際は中隊長クラスが全滅してるのでスカスカだが)三河勢は鳴海城の軍勢より多いのだ。このままなら落ち武者狩りに遭うこともなく無事に撤退できるだろう。


最悪の中でもなんとか少しだけマシな結果が残せそうだ。そう思って多少の余裕を取り戻した忠次は、後方から聞こえてくる銃声を聞きあの武具の怖さを知った。


確かに正体不明の射手による射撃は怖い。だがそれによって殺される兵の数は良くて数百人(コレでも一人の戦果としては異常だが)。それに対して「鉄砲」は部隊で動いている。その為、死者としては少ないかも知れないが、士気の崩壊と言う意味では弓矢による射撃よりもよほど怖い。


今回はその2つが敵にあり、自分たちに牙を剥いた…いや、コチラから喧嘩を売った形になってしまった。連中は追撃に移るだろうが、今後何の対処もしなければ一方的に殺されるだけになってしまう。


早急に敵の射撃に対する対処を取らねばならないが…


「………」


何かしらの意見を出せるであろう忠勝は、鳴海城から距離を取った時点で疲れ切って倒れてしまっている。まさに孤軍奮闘した彼を叩き起こすわけにも行かないし、忠次としても彼は休ませてやりたいと言う気持ちが強いので起こすつもりはない。


現在鳴海城との距離は半里(2キロ)ほどしかないので、追撃には備えねばならないが、鳴海城の連中はまず一揆衆を殲滅するはずだ。何故なら彼らが逃げ延びれば付近の村を襲うから。


元々乱捕りを行う為に従軍してきた連中なので、尾張の村を襲うことに躊躇はしないだろう。ソレを防ぐためにも一揆衆は執拗に狙われるはずだ。


それに忠次としても奴らを味方とは思っていない。生きて帰ってくれば先に逃げた自分たちを裏切り者扱いして岡崎周辺で暴動を起こすだろうから、精々逃げまどって時間を稼いでくれれば良いとすら考えていた。


そもそも忠次には一揆衆に構っている余裕は無いのだ。


本来なら出来るだけ早くこの場を離れねばならないが、現在多数の武将を失ったことでまともな統制を取ることが難しくなっている。もしコレ以上急げば後退が潰走に変わってしまうだろう。そうなれば追撃を受けた時に反撃も出来ないし、落ち武者狩りによって多数の犠牲を生むことになる。


ソコまで考えて、追撃が来る前にいっそ自分たちだけでも逃げるべきでは無いか?と言う思いはある。だが兵を見捨てて逃げることを恥とする思いも有るし、更に殿を任せることが出来る将が居ないので、自分が逃げれば部隊は簡単に崩壊し、すぐに追い付かれる……と言うか率先して狙われる可能性が高いと言う現実もある。


更にこの後の領国経営に必要な労働力と言う意味での人的資源の確保の必要性を考えた結果、歯がゆい思いをしながらもゆるりと整然とした後退をすると言う選択を選んだのだ。だがこの決断が正しいのかどうかは、自分でもわからない。


いつ追撃が来るかわからないと言うプレッシャーに加え、今後多数の侍大将を討たれたことに対する補填や、駿河から向かって来ている太原雪斎に対する現状の説明が必要になる。


その時は彼を上手く転がして鳴海城にぶつけることも考えねばならないが、その為には自分たち岡崎松平党が先陣を務めねばならないだろう。


そうなれば次は留守居役に残した者たちが出陣することになる。鉄砲や射撃に対する備えが出来て居ない以上、ソレは何としても回避せねばならないのだが………あの太原雪斎相手に生半可な交渉は無意味。それどころか下手な口実を与えてしまえばコレ幸いと岡崎松平党を隷属させようとして来るだろう。


「………がっ!」


それを防ぐ為にはどうするか…馬上で今後の岡崎松平党の将来を考えながら撤退をしていた酒井忠次は、その横で板に運ばれながら寝ていた本多忠勝が突然あげた呻き声を聞き、何か有ったのかと確認をし……その目を見開く。


なんとしても生かして帰す。そう誓った若武者は寝かされていた板に固定されるかのように、矢で胸を貫かれて絶命していた。


「た、忠勝ッ!!」


鳴海城からの追撃が来た。本来ならば追撃に対して即座に迎撃の指揮を執る立場にある忠次だが、それよりも今後の岡崎松平党に必要不可欠な存在であると見ていた本多忠勝を失ったことの衝撃で目の前が真っ暗になり………


「死ね」


その声が聞こえたと思ったと同時に眉間に矢を打ち込まれ落馬する忠次。その表情は岡崎松平党の将来を悲観したのか、それとも忠勝を失ったことを悲しんだのか…ただただ悲壮な絶望感に塗れていた。


そして酒井忠次亡き後、彼が死んだことで今までなんとか軍として纏まっていた三河勢は完全に崩壊した。今となってはこれを纏めることが出来る者はおらず、さらに一定以上の格がある武士たちも千寿の矢に怯え恐慌状態に陥ったため、迎撃の指揮を執るどころでは無くなってしまう。


その結果、鳴海城からの追撃隊である千寿が率いる500の部隊に対し、三河勢3000は為す術もなく蹂躙された。さらに本證寺が集めた一揆勢も鳴海城から出た平手が率いる軍勢によって執拗な追撃を受け、最終的に岡崎に辿り着くことが出来たのは7000の軍勢の内、500にも満たないと言う散々な有様であったと言う。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「覚えておけ恒興。拠点に帰るまでが戦だ。戦場から逃れたからと言って気を抜くとお前もこうなる。大した傷も無いのに疲れ果てて寝るなど言語道断だ」


「はい!」


討ち取った者たちの首を集めさせている中、千寿が「拍子抜けだ」と言いながらも隣に立つ恒興に対して教えを授ければ、恒興も疲れた体に鞭を打ちその疲れを見せないように明るく振る舞う。


…ココで「疲れたから休ませて欲しい」等と言えるほど恒興の面の皮は厚くないのだ。


特に恒興は女性なので「寝てるときに敵に捕えられればどうなるか」と言うことを考えればこの教えに対して異を唱えることは無い。無いのだが…満身創痍になりながらも千寿の射撃を防いで見せた若武者が、疲れ果てて寝るのもシカタナイのではないかと思う気持ちも有るのは確かだ。


「そもそもあの程度の射撃で倒れるとは何事か。久々に槍を振るえるかと思えば…未熟者が」


「あ、あははは」


全身から「不完全燃焼だ」と言う気配を漂わせて、ソレを隠そうともしない千寿に対し、恒興は笑うしかない。下手に何か言ったら「このまま訓練として槍合わせを行う」と言い出しかねないからだ。


それに自分ではあそこまで耐えることも出来なかっただろうが、どうやら千寿の中ではアレでもまだ前哨戦らしい。「この人とは絶対に敵対しない」今までもそう思っていたのだが、今後は今まで以上にそうしよう。恒興はそう決意した。


なにせ千寿は「未熟者よ、強くなれ。貴様が成長したところを俺が喰らう」等と言うような変則的なツンデレキャラでは無い。未熟者だろうが何だろうが敵ならば殺すと言う生粋の修羅なのだから。















「本多忠勝が家康より年上………そうか。やはり居たか」


「?」


そして板に縫い付けられたように絶命している忠勝(捕虜から確認を取った)を見て、千寿がポツリと呟いたその一言は、すぐ隣に居た恒興にさえ聞こえることは無かった。



イメージ的にはAUOの攻撃を捌く青い人です。そう見えないのは完全に作者の文才が足りないからでございます。


今回は碌な戦闘になってませんが、現時点のホンダムは実力的に姫様と互角くらいでした。ほぼ我流で九州やら北陸の修羅も知らず、この若さでコレは正直異常。あと数年有れば、千寿君の槍を普通に捌けるくらいにはなってたでしょうね。


松平家の将来はいかに!ってお話


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― 新着の感想 ―
「君が死ぬまでッ! 狙撃を止めないッ!」を地で行う主人公。 人の心とか無いのかと疑ってしまうが。いいぞ、もっとやれ。 どれだけ強かろうとも、少しでも傷がついた時点でそれは死亡フラグになるんだよな。…
[良い点] 本多忠勝。 修羅さえいない世界線なら。せめてもうちょっとラック値が高ければ、主人公になれたかもしれない男だった。 そしてそれら全てをラッセルしていく千寿=サン。 スゲー(語彙消滅 [気に…
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