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41話。鳴海の戦④の巻

前半三河勢

後半尾張勢


第三者っぽかったり、微妙に武将視点なのは単純に作者が未熟なせいです。

7000もの軍勢が集まれば、それぞれで会話が有ったり馬の鳴き声がしたり、装備品の音がしたり、そもそも歩く足音もかなりのものとなる。


更に風にあおられたり、兵士同士がぶつかったり、武具が引っ掛かったりすることも有るだろう。しかも今はいつ敵が鳴海城から出てくるのかわからない状況だ。


向こうの数は少ないとは言え、戦になればこちらにも犠牲が出るのは確実だし、どの兵士だって犠牲になりたいなどとは思わないだろう。


だから悠然と歩いているように見えて皆が緊張していると言うのもわかるし、坊主どもに至っては大声で「返り討ちにしてくれる!」などと抜かしている始末だ。


本来なら聞かれたらどうする!と言って処罰する案件だが、彼らも逸っていると言うことは知っているし、何よりも忠勝が考案した策は、彼が考案したとは思えないほど見事な策であった為、あえて彼らの言葉を聞き流す余裕すら有った。


まさかあえて鳴海城を放置して動くことで、鳴海城の守備兵を誘うとは……自分もそうだが、石川数正も「開いた口が塞がらない」と言うような顔をしていたので自分と同じような衝撃を受けたのは間違いない。


確かに我々の目的は鳴海城の攻略ではない。今回の戦は尾張への侵攻と尾張での乱捕りこそがその目的である。だからこそ何の収穫も無い現在は、退くに退けない状況となっている。


このままでは信行との戦に勝利した信長が援軍に訪れてしまい、我々は何も得ることが出来ずに撤退を余儀なくされてしまうだろう。


当然向こうとてソレは理解している。故に奴等はコチラとは戦わずに籠城しているだけで良いのだ。それだけで連中は7000の三河勢を撃退したと言う武功を立てることが出来るのだから。


だからこそ誘うのだ。


こちらがあえて無防備な姿をさらして、鳴海城近くの街道を進むと言う今回の行動には多くの意味がある。


鳴海城から我らを見ている連中も、この動きが誘いだとはわかっているだろう。だがこの誘いに乗らずに籠城を続ければ、我らはそのまま鳴海を素通りし、尾張国内で乱捕りすることが可能となる。


そして一度でも尾張で乱捕りを行えば、我らも三河に帰還する名分が立つことになるので、そのまま帰還することも可能だ。7000の兵が一丸となって動けば、完全に囲まれる前に尾張を脱することも出来よう。


そうすれば我らの帰還後、奴等は被害に遭った地を治める国人達から「鳴海城の奴等は我らをわざと素通りさせた」と言われることとなり、奴等や奴等の主君である信長の立場が悪くなってしまうことになる。


何せ我らは抑えの兵士すら置かんで悠々と歩いているのだからな。それを一切妨害しなかったとなれば、何のための守備兵か?と問い詰められることになるのは必定。


ソレを防ぐ為には、どうしても一度は我々と戦わなければならぬのだ。さらに中途半端な数ではこちらの数に飲まれて終わるので、少なくとも1000は出してくるだろう。


我々はソレを迎え撃ち、散々に叩いてから尾張に進むもよし。損害を出した鳴海城を落とすも良しと言うわけだ。


もし自分が平手の立場なら悔しさで歯噛みしつつも、何とか兵を無駄死にさせないように我らにぶつけるべく細心の注意を払って出陣するだろう。


そして軽く当たってから追撃が来る前に鳴海城に逃げ込む。これしかない。これしか思い浮かばない。つまり敵は、誘いとわかっていても我らの策に乗らなければいけないと言うことだ。


自分達を待ち構える敵に、更にその数も5倍から7倍の敵に対して野戦で正面から当たるなど、指揮官としては悪夢以外の何物でも無い。


そんなことをするくらいなら指揮官が腹を切ってでも城内に留まるべきだろう。だが今回は敵が出陣をしなければいけない状態を作り出すことに成功した。


何せ敵は平手政秀。信長の懐刀である彼は絶対に信長の名を落とすことが出来ない。同時に保身の為に降伏もすることもない。ならば彼は戦うしかないのだ。


そして出てくるとわかっていればソレは奇襲にはなりえない。余裕を持って潰すだけだ。


このような悪辣な策をポンッと思い付くのだから、忠勝の武や戦に関する嗅覚は侮れん。


今は戦を学ばせる為に自分の側においているが、何れは先手の大将や総大将として兵を率いることになるだろう。今回の戦で経験と武功を積ませて、早々に「兵を率いる」と言うことを学ばせたいものだ。


その為に必要なのは武功と時間。武功に関しては今回の策の立案とこれからの戦が有れば問題ない。


あとは時間だが…もしも此度の戦で鳴海城を獲ることが出来れば、鳴海を今川に献上すると言う形にして、奴等を織田に対する壁にすると言う手も使えるようになる。


ソレが出来なくとも、信長にはこれから我々に土地を荒らされた尾張の国人たちとの折衝が有るので直ぐには動けぬ。


つまり、これから起こる戦には岡崎松平家の浮沈(浮く可能性が非常に高い)がかかっていると言えよう。


……そう考えれば、自分とて自然と手綱を握る手にも力が入るし、兵たちが気合いを入れるために声を挙げるのもわかる。


だから酒井忠次も、後方に乱れが有ると感じた際、高揚した兵士が何か失敗をした程度にしか考えて居なかった。


だが、徐々に後方からざわめきのようなナニカが伝わってくるにつれて、言い様の無い不安に包まれる。そしてその不安は最悪の形で的中した。


「い、石川数正様!討ち死に!」


「は?」


いきなり自分の近くに走り込んできた伝令が同僚の死を告げて来た。だが忠次は即座にその言葉を理解することが出来なかった。


更に凶報は続く。


「大久保忠世様、討ち死に!」

「渡辺守綱様、討ち死に!」

「内藤正成様、討ち死に!」

「本多重次様、討ち死に!」

「鳥居元忠様、討ち死に!」


次々と告げられる重臣たちの死。更に解せないのは「討ち死に」だと言うことだ。事故ではないのはわかる。一人だけなら事故の可能性も有るが、これだけの被害が出るなら間違いなく敵の攻撃なのだろう。


しかし、鳴海城から兵が出陣してないのはわかっている。伏兵による奇襲を受けたわけでもない。ならば何だと言うのだ?裏切り者でも潜んでいたか?


ソレを確認しようと、それぞれの報を持ってきた使者たちに確認を取ろうとしたところ…


「酒井様っ!!」


いきなり忠勝が自分の前に立ちはだかり、頭を押さえつけてきた。

「何事だ?!」と声を挙げようとしたが、次の瞬間。


「うぐっ!」

「がっ!」

「ぐわっ!」

「ごっ!」

「な、何がぁ?!」


周囲の馬回りが次々と落馬していく。その光景に思わず息を飲み込み、倒れている者達を見てみれば、全員の頭を矢が貫いているではないか。


兜すら用を成さない剛弓による狙撃。コレが忠勝が自分の頭を押さえつけた理由であり、使者が「討ち死に」と確信を持って報告してきた理由!


「うわっ!」

「狙われて…!」

「どこだ?どこから…」


忠次が、状況を整理している間にも、次々と落馬していく馬回り衆。その数を見れば一人や二人では無いのだろう。


自分達がいる場所が街道沿いで見晴らしも良い場所だから、的を確認しやすいと言う意味で狙撃をしやすいと言うのはわかる。だが、それは反対に狙撃をしている連中の居場所の特定も簡単なはずなのだ。


だが忠次にはこの攻撃がどこから来ているのかがわからない。何故ならこの射撃はほぼ真上から来ているから。


だが今重要なのは敵がどこにいるか?ではない。


「馬から降りろ!敵の狙いは馬上の武士だ!」


そう、優先すべきは生き延びること。そのためには狙撃の対象を散らす必要がある。敵の狙いが馬上の武士ならば、まずは馬から降りるのが当然の行動となる。


しかし忠次はこの狙撃を受けて自分が盛大な勘違いを犯したことを自覚していた。


と言うのも、この時代において馬に乗るものは全員がそれなりの身分を持つ者だ。だからこそ乱戦になれば手柄首として狙われることになるのだが、最初に狙撃などで狙われると言うのは非常に珍しいことであった。


まぁ無いわけでは無いのだが、通常は行われない。


何故珍しいのか?それは、馬に乗れるような立場が有る者は同時に多くの情報を持つ者だし、多くの場合地元において所領を持つ国人でも有るからだ。


この時代、識字率が低かったり算術への理解が薄かったりで、領地を維持するにはどうしても地元の地侍や国人の手助けが必要となる。


ソレを殺してしまえば、当然地元住民の恨みを買うし、その後の統治に差し支えが出る。反対に生かしておけば身代金や情報の奪取、また相手側への使者などいくらでも利用方法が有るのだ。


故に彼らが死ぬのは一番最後が基本であり、そうでないなら罠にはまった時や、一騎討ちで破れた際。または撤退中の殿を務める際などと言った特殊な事例となる。


それなのに敵は真っ先に自分達を殺しに来た。つまり、今回の戦において敵には自分達を生かして使う気が無いと言うことだろう。


ある意味で常識では有るが、己が侵略している敵に情けを期待していたと言う、愚かな考えの代償を支払うはめになってしまった。


ソレをまざまざと見せつけられる形となった忠次は「敵を追い詰めすぎたか…」と己の見通しの甘さに歯噛みする。


「酒井様!」


だが、今は後悔をしている時間は無い。


敵の狙いを見抜き馬から降りた忠次の側では、今も本多忠勝が忠次に降り注ぐ矢を必死で切り払っている。


「忠勝、すまぬ!助かった!」


その姿に素直に感謝の言葉を伝える忠次。実際彼がいなければ、自分とてこの矢に射抜かれて何が何だかわからないうちに死んでいただろう。


その証拠に今もなお続く射撃によって、馬から降りていない武者達や旗持ちは次々に射ぬかれていく。


「完全にしてやられた…」


相手の狙いを知った忠次は人目も気にせずに呻き声をあげる。


この射撃がどこから来ているのかはわからないが、すでに馬に乗っていた武者の大半が殺されているようだ。それに騎乗の武士は馬を降りれば良いが、旗持ちはそうはいかない。


まさか旗持ちの侍に対して「旗を棄てろ」とは総大将である忠次も言えない。言えるはずも無い。何故ならば戦場において旗は主君の首級と同じ意味を持つからである。


どんな乱戦であっても、自らを示す旗が立っているからこそ将は己が健在であると敵味方に示せるのだ。そんな主君そのものとも言える旗を預けられた武士はその旗を守る為に命を惜しむような真似はしない。


ソレを捨てるなんてとんでもない。と言うわけだ。


だがそうして旗を掲げ続けると言うことは、相手の射手にとっては的を掲げていると言うことである。結果として防御すら儘ならない彼らは無抵抗とも言えるような形で次々と殺されていく。現時点で被害者は50を超えているだろう。


しかもその被害は前を歩く一向衆ではなく、鳴海城からの攻撃に備えて中軍から後方に配置していた岡崎松平勢が中心となっている。

 

ここまでされれば敵の狙いは明白だ。敵は指揮官と成りうる武士を殺すことで軍勢としての三河衆を滅ぼし、ただの雑兵の群れとするつもりだろう。


実際に主君や隊の指揮官を殺された兵たちは、進めば良いのか止まれば良いのかすらわからずに右往左往している。


方向を転換しようにも敵が何処に居るかもわからないので、何が前進で何が後退なのかもわからない。


一揆衆は元より前に進むか停まるか後退するかしか出来ない連中なので、僧兵を狙われれば完全に統率が失われて暴走することになるだろう。


故に早期決断の必要があった。と言うか、今すぐ進退を定めなければ尚も続くこの射撃だけで軍勢が崩壊する。


そうなれば…待っているのは尾張勢の反撃を受けて屍を晒す自分達と、今川や織田による岡崎松平党を始めとした三河衆の隷属化。


最悪の場合は先代の弾正忠が健在であった頃のような、三河を舞台とした織田と今川の泥沼の戦が再開されるのである。


「忠勝ッ!敵の矢が何処から来てるかわかるか!?」


敵の狙いを完全に理解したからこそ、それだけはなんとしても阻む必要がある!既に多数の国人が討たれたが、まだ自分や忠勝が生きているし、兵士達を生きて帰すことが出来れば岡崎に残る竹千代や留守居の者達で盛り返すことも出来るだろう。


しかしその為にはまずはこの射撃に対処しなければならない。これをなんとかしない限りは進むも退くもままならないのだ。


そしてその為には攻撃が何処から来ているかを知る必要がある。忠次には見えないが、忠勝が必死で矢を切り払えていると言うことは、彼にはその軌道が見えているのだろう。


だからこそ彼にこの攻撃の出所の確認をした忠次の判断は間違っていない。


「鳴海城ですッ!この攻撃は間違いなくあそこから射たれてます!」


苦々しい顔をしながら鳴海城を睨み付ける忠勝。


「………はぁ?!」


そして忠勝の叫び声を聞き、言葉の意味を理解してからそんな間の抜けた声を挙げる忠次。


忠次の反応はおかしくはない。常識で考えて6町以上離れた距離から攻撃を加えてくるなど予測出来ないし、ましてやその攻撃を正確に当ててくるなど想像出来るはずがないだろう。


だからおかしいのは忠次ではない。異常なのは相手の方なのだから。



ーーーーーーーーーーーーー



時は少し遡り。鳴海城内に設けられたある櫓の上では、千寿と平手政秀。それに津田算長と池田恒興の四人が街道を北上して尾張を荒そうとしている(と見せかけて自分達を誘い出そうとしている)三河勢の大軍を余裕を持って見下ろしていた。


「では恒興、三河勢の内訳を言って見よ」

「はいっ!一揆衆4000に岡崎松平党が3000です!」


平手の問いかけに対して即答する恒興。

ソレを見て平手は満足気に頷く。


「その通りじゃ。ではこの中で何人を殺せば奴等は軍として全滅することになるかの?」


そして続けての質問。主観も客観も無い、気合いだの精神だのを一切考慮せずに事象としての全滅に対しての問いかけ。


「はいっ!およそ3割なので2100人です!」


恒興は自信満々に千寿に学んだ通りの数字を告げた。


千寿からは戦力2乗の法則や、士気の崩壊、戦略目的の達成の不能を理由として、実行部隊としての意味の消失と言う意味で3割失えば部隊は全滅したと見なされると教えられていたのでその数を挙げたが……実際の戦はソレだけでは無い。


「ふむ。数字の上ではそうじゃがの、実際はもっと少ないのじゃよ」


だから平手も実戦と数字の上での計算の違いを教えていく。別に千寿が間違っているわけではない。実際に3割もの兵を失えば戦の継続が不可能になるのは確かなのだ。


だが、実際のところそこまで殺る戦などほとんど無い。ならば何をもって敵を倒したとするのか?


「まず、一揆衆。あれは最初から軍勢としての用を成しておらぬ。その為、声を上げる僧兵を殺せばただの武器を持つ農民よ。コレは100もおらんな」


敵の過半数を占める一向門徒を一言でぶったぎる。事実、敵方の大将である酒井忠次も同じ考えなので、この言葉に間違いはない。


「な、なるほど」


「そして残る岡崎松平党の3000じゃが、その半数は後方にて兵糧や物資を守る者共よ。奴等は戦には使えぬので岡崎松平の兵士としての実数はおよそ1500となる」


懐から扇子を取りだし、岡崎松平党の軍勢を指す平手。この動作の節々に見える気品が、彼が「風流」と評価される所以だが…今はそのようなことを気にするような状況では無い。


事実、100やそこらの軍勢であったり、稲生での戦のように互いの本拠地が近い状態であれば、後方の部隊の必要性は薄まるが、今回のような遠征になれば、どうしても後方支援の部隊にも数を割かなければ軍勢が成り立たないのだ。


そして、基本的に後方の部隊に交戦は求められて居ないので、その練度や装備は戦を担当する兵に比べてかなり劣る。


「じゃからこそ今回の戦において向こうを滅ぼす為に求められる首は、この1500の中におる侍大将や旗持ち。更にはそれぞれの隊を纏める隊長となる。その数は…こちらも100はおらんじゃろうな」


「な、なるほど…」


つまりは僧兵と合わせて2百を殺せば、彼らは「軍勢」から「武器を持つだけの農民」に成り下がる。とは言えそのような斬首戦術が簡単に行くなら苦労はないわけで……


「まぁ簡単にはいかぬ。だからこそ、これから吉弘殿が行う射撃がどれだけ恐ろしいのかを理解し、敵がどう動くのかを良く見ておけい」


自分がやられたらどうするのか、今回は千寿を参考にするのではなく、敵を参考にするようにと念を押す平手。


「はい!」


元から千寿の真似が出来るとは思っていない恒興も、平手の言いたいことを正しく理解していた。


千寿にしてみれば簡単に諦められても困るのだが、まぁ今さら鍛えても自分と同じことが出来るようになるか?と言われたら難しいだろうとは思っているので、特に異論を挟むことはなかった。


「では吉弘殿。お願い致します」


言いたいことを言った平手が千寿に最初の矢筒を手渡す。


彼らが居る櫓の中には恒興に集めさせた千本の矢が有る。それはそれぞれ矢筒に入れられて、千寿が矢を使いきる度に交換していくと言う形にしている。


「かしこまりました。では拙い芸となりますが、精々皆を退屈させぬよう努めさせて頂きましょう」


普通ならこれだけ離れた的に当たるはずもない。どのような弓の名手であれ、やれと言われても断るだろう。


だが千寿は極々自然に弓を構え、矢を番える。


「ふむ?」

「え?吉弘様?」

「……むぅ?」


その姿に気負いは無く、何でもないようなことのように自然体なのだが、その矢を向ける角度がおかしかった。


それはほぼ真上。斜角で言えば70度から80度。和弓の構えとしては「高い」と言われる程度だが、離れた敵を狙撃するには向かないように思われた。


だが、千寿は3人の視線を受けながらも、躊躇なく矢を放つ。


1射。2射。3射。4射。


まるで狙いをつけていないかのように次々と上に向かって放たれる矢。その数が10を数え1つ目の矢筒が空になったとき「最後尾を良く見ておけ」と千寿に告げられた恒興は、三河勢の最後尾に有った旗がバタバタと倒れていくのを目撃した。


「す、凄い…」


目をキラキラさせて千寿を褒める恒興。


「お、お見事にございますな」


同じモノを見た平手にはソレ以外の言葉が浮かばない。


「……ありえん」


千寿があれだけ自信満々だったのだから、当てることは出来るのだろうとは思っていた。だが、まさか最後尾に居る相手をピンポイントで狙撃するなど想像すらしていなかった。


津田算長は同じ遠距離攻撃を生業としていることからも、この攻撃に対して他の二人より大きな衝撃を受けていた。


「これで三河勢は自分達がすでに私の射程内に居ると理解しましょう。そうすれば連中の取る行動は、一心不乱に前に出るか、全てを捨てて逃げ出すか。逃げ出されたら殺せる数に限度が出ますが、先程平手殿が言ったように、百の僧兵と百の三河武士は殺しますのでそのまま追撃ですな。前に出てきたら普通に迎撃です」


三者三様のリアクションに対し何のことは無いと言わんばかりに淡々と述べる千寿。


今の彼は殺すべき敵を殺す。それだけのことに集中した殺戮機械である。矢筒を受け取り淡々と10射、また10射と数を重ねていく。


彼が矢を放てば相手が倒れる。機械的に打ち込まれる矢に対処できる者は誰一人としておらず、バタバタと倒れていく旗と旗持ちの武士。そして馬から落ちる武者、頭を撃ち抜かれる僧兵たち。


「「「………」」」


千寿の集中を邪魔しないように、いや、今の千寿を刺激して自分に矢を向けられることがないように無言で敵陣を見据える3人。


普通に考えれば有り得ないことではあるが、今の千寿には「邪魔するなら死ね」と言いかねない怖さが有った。


千寿の攻撃に晒されている三河勢は自分達に何が起こっているのかわかっていないようで、先程から量産される指揮官クラスの死に対してざわつくだけで、前にも後ろにも動こうとしない。


まさかこのまま終わるのか?3人がそう思ったとき、敵の中央で動きが有った。


「…ほう」


その動きを見て、今まで無言で矢を打ち続けていた千寿が短く感嘆の声を上げる。


だが平手も恒興も津田算長も、ソレを意外とは思わなかった。何せ彼らの視線の先には、自分達では防御も回避も不可能と思っていた千寿による射撃を切り払う若武者の姿が有ったのだから。


しかも、その若武者は狙撃元であるコチラを睨み付けている。つまり彼は千寿の射撃の軌道が見えていると言うことだ。


その若武者に何度か射撃を行い、その全てを切り払われた千寿は、むきになるわけでもなくただ頷いて一度射撃を中断し、弓の弦を締め直した。


「平手殿、津田殿。戦支度を。あの小僧が居るならば、酒井忠次は一揆衆をこちらに向かわせつつ、岡崎松平党を逃がそうとするでしょう。よってまずは迎撃。次いで追撃です」


まぁ簡単には逃がしませんがね。


弓を構え直しながらそう言って口元を緩めた千寿は、複数の矢筒を自分の側に引き寄せた。射撃が通じぬあの敵に対して一体何をする気なのか?と3人は首を傾げるが…


「これより本格的な狙撃に入ります。あの小僧と酒井忠次は私が押さえるので、平手殿と津田殿は所定の位置へお願いします。恒興は近くに来た連中に対して射撃を行え」


「「「本格的な狙撃?」」」


敵に我攻めをさせて出血を強いるのが今回の目的なので、所定の位置に就き防戦の指揮を執るのは良い。だがそれ以上に千寿の言った言葉の意味がわからず、3人は首を傾げてしまう。


だが、その疑問に答えること無く、千寿は無言で矢を番える。そしてその構えを見て、3人は千寿の言葉の意味を正しく理解した。












水平射撃。最初に狙撃と聞いて3人が考えていた構えを千寿が取ったからだ。


「さぁどう捌く?」


まるで鷹狩りで活きの良い獲物を見つけたような。そんな愉しげな千寿の声を聞き、3人は自分が千寿の標的にならなかったことを心から安堵すると共に、これから始まる千寿の『本格的な狙撃』に向き合うことになった向こうの若武者に対して、ただただ同情したと言う。







すでにかなりの数の武将クラスを失った三河勢。まぁこの時期はそれぞれがまだ百人も率いてない時期ですからね。世間的にはそこそこ優秀な侍大将が死んだような評価です。


ホンダムを見つけた千寿君。相手がホンダムとは知りませんが「お前の輝きを見せてみろぉぉ!」って感じです。


修羅に目をつけられた若武者に未来は有るのか?!ってお話。


3割の法則については色々とご意見を頂いてますが、話の都合上コレで行くことにしてますので、ご了承願います。


宣伝のようなものは無し。


作者には細かい戦闘描写をする文才が無いもよう。


千寿君の無双を期待して下さってる方々には本当に申し訳ないと思っている。(メタ○マン風)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 〉前半三河勢 〉後半尾張勢 このまえがきだけで全てがわかる。 つまりは……『みんなで ((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル しようぜぇ〜』ってことなんだな! [一言] 何だかんだ忠勝凄…
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