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4話。爺登場の巻

ノッブを放置して散策に向かった2人。

そっち方面はバッサリカットでさっさと帰って来ました。




最初は千寿君視点。

中盤以降は爺視点。



適当に散策してから帰ってきたら、信長を含む

少年少女の一味が車座になって凹んでた件について。


いや、お前ら一体いつまで凹んでんだ?


軽く2刻(4時間)は経ってるぞ?


それともアレか? 俺たちが帰ってくると言う報告を受けて、これみよがしに凹んで見せているのか?


だとしたら完全に逆効果だぞ。


器を見に来たと言ってるのに、そんなせこい事をしていたら評価が下がるだけだろ。


もしあれからずっと凹んでたとしたらそれこそ無能だ。


とは言え、この時期の信長は反抗期とか天才とか色んなものが混ざっているからな。


盗んだバイクで走ったら普通に犯罪だし、それを鬱屈した社会に対する反抗とか言われてもなぁ。


バイクを盗まれた人の気持ちも考えろ。暴走を青春とか言われても大人は納得せんし、大人が納得しないからまた騒ぐんだろ?


まぁ信長の場合、その行動に意味があるのがそこら辺の不良とは違うところだが、それだって本来ならしっかり周囲に理解させることができれば作業効率は上がるんだ。


つまるところ、きちんと大人を納得させる方法をわかっていないのが、現状の信長の問題と言ってもいいかもしれない。


うむ。これは平手のじい様が胃痛に耐えかねて諌死する前に教育が必要だろうよ。


と言う訳で教育的指導をば。


「うざい」


とりあえず殺意を向けてみる。


「ッ?!」


「「「ひぃ?!」」」


信長は振り返り警戒し、他の連中は腰を抜かしてるし、そこそこ鍛えているような少女は信長を抱えて後ろに下がろうとする。ふっ。こちらから何かしらの声が掛かると思っていたんだろうが、残念だったな。


俺たちに負け犬を慰める気など無い。


あぁ、ちなみにこれに反応しない場合はそれなりの処置をしていたとだけ言っておこう。


あん? 殺意ばっかだと教育に悪いって?

阿呆か。ここは現代日本でもなければ相手も学生じゃないんだぞ。


この時代の愚連隊なんか一歩間違えば賊だ。

つーかそのまま賊だ。言葉じゃ絶対に止まらん。


そして今は世紀末ではないが、まさしく力こそ正義の時代。悪魔が微笑む時代。


だからこそ最初にしっかり実力差を教えて、マウントを取り、前田やら佐々に中途半端に名家面されないようにするのは当たり前のことなのだ。


最初のうちに特大の釘を刺すのは当然と言えよう。


「お前らはいつまでそうしてるつもりだ。そこのガキどもから2人選べ。んで、残りはさっさと城に戻れ」


つーか働け。


護衛は主君のそばに居るのが仕事なのかもしれんが、その程度の力では正直無駄だ。


「ふ、2人じゃと? こ、こやつらをどうする気じゃ「あぁん?」…ど、どうする気、でしょうか?」


信長が俺に恐る恐る確認を取ってくるが口の利き方がわかってないようだ。


今の俺は仕官先を探してるだけであって、信長の家臣ではない。つまり現状信長に礼を尽くす必要が無い。


むしろ経験や実績に加え、人脈に生殺与奪を握っている現状を見れば、向こうが謙る立場である。


もっと言えば人材が欲しいのは向こうなのだ。

というか切実に人材を望んでるのが今の信長だ。


それを考えれば仕官先を探していると言った俺たちに対して三顧の礼どころではない礼を払うべきだというのに、このお子様は。


「明日登城しよう。その案内が1人と先触れが1人だ。まさかいきなり城主を連れて登城するわけにもいかんし、そちらにも準備が必要だろう?」


姫様を迎えるに当たって無礼があったら……わかるな?


「準備? あ、いや、ソウデスヨネ!準備は必要デスヨネ!」


「当たり前だ」


金がなくて食うためにどうしても仕官したいとか抜かすような素浪人と一緒にするな。姫様は大友家の人間ではないが、俺は吉弘家の人間として動いてるからな。


こちらから何かを頼んだ立場である根来の連中や国友の連中、修練中の身に立場など無いと言う宝蔵院での場合はまだしも、ただの地方領主の、更にその小娘に軽い扱いをされて許すわけには行かんのだ。


そして俺が正式な客人として向かうなら、向こうもそれなりの対応をするのが当然。でもって俺に対して気を使うと言うことは、俺が姫様と呼ぶ相手にも気を使う必要があるわけだ。


こう言う細かいところに気をつけないと姫様を軽んずる馬鹿どもが出てくるからな。

この世界、女の武将がいるとは言え、舐められたら終わりなのは一緒だ。


自分の妻を舐められて面白いと思うヤツは居ないし、少しでも姫様の立場の向上に役立つなら呼び方くらい我慢してもらうさ。





―――――





まったく! 若殿と来たら、また勝手に城を抜け出しおった!


昼になる頃じゃったか。津島の大橋殿からの連絡を受けて「気になるの」とか言ってたのは知っていたが、まさかいきなり供を連れて見に行くとは!


じゃが儂もその連絡の内容を聞いて、正直首を傾げそうになったのもまた事実。


大橋殿が言うには、堺から紹介状を持った、見るからに高貴な女性と、その女性を姫様と呼ぶ大柄の武士が、津島で一番の旅籠に予約を入れてきたと言う話じゃったからのぉ。


これだけではさっぱりわからんよ。


護衛らしき男が堂々と『姫様』と呼んでいると言うことは、お忍びと言うわけではないじゃろう。じゃが何故『姫様』と呼ばれる立場の者がわざわざ堺からの紹介状をもって津島に来るのじゃ?


伊勢から駿府にでも行けば良いではないか。


間者と言うにはあからさま過ぎるし、公家の姫で大殿への客と言うなら宿を取る前にこちらに何かしらの連絡をするじゃろう。


それをせずに最初に津島を訪れたと言うのが分からぬ。熱田神社への参拝と言うわけでもないじゃろうしの。


気になるのは事実じゃが、だからといってわざわざそれを自分で見に行く意味がわからんわい!


用が有れば向こうから来るじゃろうし、用がなければそのままどこぞに行くじゃろ!


素通りさせたら不味いと言うことで客人として出迎えるなら、こちらもそれなりの準備がある。


向こうの立場が分からん以上、どの程度の相手と見て良いかもわからんのじゃ。


その辺を大橋殿や堀田に調べさせ、場合によっては大殿に連絡した上で儂や林殿を迎えに出す必要がある。


なにせ『姫様』じゃからな。


もしも向こうが大殿より立場が上の相手じゃったら、その方に無礼を働いたと言うだけで若殿の立場が今以上に悪くなる。己の目で見るのは重要と言うのもわかるが、順序立てで動かねばならんこともあるのじゃ。


そのへんの機微を分かって貰えねば、若殿はいつか特大の失態を犯すことになるぞ。


じゃからこそ、儂は心を鬼にして説教をすると決めておる!今日はなんとしても儂の話を聞いてもらわねばならぬのじゃ!


「平手様! 若様がお戻りです!」


不退転の覚悟に燃える儂に対し、城に控えている兵がそう告げて来た。


「来たかっ!」


見張りには若殿が戻り次第必ず報告をするように厳命しておったからな。


例え若殿が見張りに何を言っても儂には筒抜けじゃ!


「はっ、そ、それで…」


む? ここで言い澱むとは…アレか? 若殿に何か言われたので、儂に報告したことを内密にして欲しいとかと言うことかの?


まぁそのくらいならよかろう。若殿が「げぇ?!なぜバレたのじゃ?!」とか抜かしたら「若殿の事なぞ爺には丸っとお見通しですじゃ!」とでも言ってやるわい。


……本当に理解出来たら良かったんじゃがのぉ。


いや、若殿の行動にはそれなりに意味があるというのはわかっておる。

じゃが程度と言うものがあるじゃろう?


一人で勝手に突っ走られては儂も林殿も立場がない。

なぜそのへんを考慮して下さらんのか。


「あ、あの。それで、ですね」


おぉ、忘れとった。


「すまぬな。報告ご苦労。当然お主が若殿にお叱りを受けぬようにする故、安心して報告せよ」


こうして兵を安心させることで、次回もしっかりと報告をするようになるじゃろ。

うむ。何回かこなしたら褒美をやっても良いかもしれんな。


あぁ、いやそうではない。今は若殿へ説教せねばならぬ。

今日という今日は例え何をしようとも決して逃がさぬぞ!


「それはありがとうございます。あぁいえ、そうではなく若様がお呼びなのです! 大至急平手様とお話がしたいとのことでした!!」


「なんとッ?!」


兵からの言葉に我が耳を疑う。


昔から城から抜け出すことは多々有った。戻って来て儂からの説教を嫌って逃げることも多々有った。じゃが戻って来て早々に儂と話がしたい、じゃと?


「……何があった?」


明らかな非常事態に自分の声が低くなるのを自覚する。


儂の気配が変わったことを感じ取ったのじゃろう。

部屋の外に居る兵も身を強ばらせながら報告をしてくる。


「詳しいことは何も。……ですが若様に付いていた護衛崩れの連中が2人減っていたとのことです」


護衛崩れって。あいつらはそれなりの家の者なんじゃがのぉ。いや、まぁ奴らも織田家に仕える者の次男や三男坊では有るが、禄を貰って若殿に仕えているワケではないし、現状ではただの遊び仲間じゃものな。


兵や小姓にしてみたら乳母姉妹の恒興以外は、働きもしないろくでなしでしかない。そういった連中を重用するとなれば、正式に若殿に仕えておる者共は面白くはなかろうよ。


こういった家中の反目もしっかり理解して欲しいところじゃが、今の問題はそこではない。


先ほど言ったように護衛共は家臣の次男坊や三男坊。

実家でも持て余していると言うところはあるだろうが、だからと言って軽々に死んでも良い人材ではない。


いや、戦ならば良い。何かしらの補填が出来るし武家としては間違っておらん。じゃが若殿の我儘に付き合って失われたとなればどれだけの問題になるか……これは至急確認をとらねばならんぞ!


「爺ぃ~! どこじゃ~! おらんのかぁ~! 抜け出したのは悪いと思っとるぞぉ~! 謝罪もする! だから出てこ~い!」


「「はぁ?」」


覚悟を決めた儂に聞こえてきたのは、若殿の声。

例え距離があろうとも儂があの声を聞き間違えるなど有り得ぬ。


じゃが……その後はなんと言った? 悪いと思っている? 謝罪?


あまりにあまりな内容に、儂は己の耳がおかしくなったのではないかと疑ってしまった。いや、しかし部屋の外にいる兵も一緒に驚いたような気がする。


「のう、今のは若殿の声じゃったよな?」


儂はアレじゃ。もう歳じゃから耳がアレだとしても、この兵は違うじゃろ。それに那古屋に居る者なら若殿の声を聞き間違えることなどなかろうて。


「ま、間違いありませぬ。若様の声でした!」


……そうか、やはり若殿の声であったか。


「では次じゃが、儂には「悪いと思ってる」とか「謝罪する」と聞こえたが、お主はどうじゃ?」


襖越しに話すのはアレじゃが、今の儂の顔は兵に見せれるような顔をしとらんからの。林殿がこの場に居れば、間違いなく儂と同じ顔をするはずじゃ。


「はっ。それがしにも同じように聞こえました! それ故「悪い」という言葉の意味と「謝罪」という言葉の意味を考えて居る次第!」


何気に無礼じゃが気持ちはわかる。


若殿が言う「謝罪」というのが儂らとは何かが違う可能性も考慮せねばならん。なにせ若殿じゃ。「武士にとって悪いというのは褒め言葉じゃ!」とか言い出す可能性もあるものな。


むぅ……。説教しようと意気込んでいたが、まさかこのようなことになるとは。


ハッ!? コレはまさか若殿の策か!? こうすることで儂の頭に混乱を招き説教を回避するつもりかっ!


「爺~爺~おらんかぁ~。アレか? 今まで散々説教を無視しとったから怒って帰ったか? それとも腹いせに爺が儂を無視するか? もしそうなら泣くぞ? 儂もう泣くぞ!」


「「は、はぁ?」」


あ、ありえん! あの若殿がッ! 今よりずっと幼きころから次期当主として厳しく鍛えられ、反発をすることはあっても弱音を吐くことが無かった若殿が!?


護衛崩れを2人失ったことで何か有ったか? それともとうとう気が触れたか!?


「その方! 直ぐに医者を呼べい!」


兎にも角にも今すぐにお休み頂かねば!


「はっ!」


兵も事態の重さを理解したのか、飛ぶような速さで部屋の前から駆け出して行く! これでよし。後はすぐにでも若殿にお会いして様子を確かめねばッ!


「若殿! 爺はこちらですじゃ! 直ぐに伺いますので、動かずに待っていてくだされ!」


気が触れたのならば何をしても危険じゃ。下手に動いて頭でも打たれては困る! 大声を上げて若殿の声が聞こえた方向に叫べば、そこには……。


「爺~! 良かったッ! 本当に良かったッ!」


「わ、若!」


儂を見て安堵したのか、涙を浮かべた若が、儂の下に寄ってくるではないか。


このような若殿を見るのは7つになった時の祝いの席で、御前様に拒絶された時以来のこと。あの時は涙を我慢しておったが、その後部屋に戻って泣いておられた。それでも家臣に涙を見せることなど無かったというのに、コレは相当弱っておる。


「若。一体津島で何があったのですか?」


今川や美濃の蝮によって暗殺者を差し向けられた可能性が頭をよぎる。いや、そちらならまだ良い。問題は御前様や弟君からの刺客だった場合じゃ。現在大殿が病に伏せっている故、次期当主の座を狙って動く可能性があるからの。


……その場合は家中が完全に割れてしまう。じゃがご安心くだされ! 爺はどんな時でも若殿の味方でございますぞ!


「鬼が来るのじゃ! 明日! ここに! じゃから出迎えの支度をせねばならぬ! 爺はそういう作法に詳しいじゃろ!? 頼む! 助けてくれぃ!」


……鬼?


ココに来る? 鬼が? 何をしに? それを出迎える? 退治ではなく? 何故? 


そして鬼を出迎える作法とは……酒ですかな?


「……若殿は疲れておるのです。今日はゆっくり休みましょう」


「うぇ?! なんじゃその近年稀に見る優しい笑顔は!」


「良いのですよ。誰だってそういう時が有ります。さぁ、寝所へ参りましょう。あぁ空腹では有りませんかな? 何か軽くつまめるモノでも用意しましょうか?」


「おぉぉぉい?! 爺、お主なんか勘違いしとらんかぁ?!」


よもや自覚がないとは、これは重症じゃな。






医者は、医者はまだかッ! 儂が若殿を押さえておる内に、間に合わんと大変なことになるぞ!




有無を言わさずに客人としての立場をGETした千寿君。

この辺の硬軟織り交ぜた(?)交渉は出来て当たり前。



爺はなんだかんだ言っても信長の爺ですからね。

例え気が触れても見限ったりはしないのです。


ちなみに次期当主は若殿とか若様呼びが普通で。女武将の場合は家によっては姫様も有りという感じでお願いします!


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