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34話。博多の商人襲来②の巻

続、博多美人(?)襲来編。


呼んでおきながら襲来扱いされるかわいそうな子ですね。

「…大変お見苦しいところをお見せしました」


「「ほんとにな」」


「うぐっ!」


姫様と俺のツッコミを受けて赤面して俯く神屋だが、さっきまでのやり手の商人といった雰囲気は完全に消し飛んでいるように見える。


だがコレは擬態だ。さっきのが予定外の醜態なのは紛れも無い事実だが、転んでもタダでは起きないのが商人と言うモノ。すでに我に返っている以上、一瞬の油断もしてはならない存在であることに変わりはないのだ。


「ところで姫様…若殿と子を作るご予定は有りませんか?」


なんでそんな話題になるのかわからんが…


「ん~信長が。あぁ今私たちが仕えてる主君が尾張を統一したらかしらねぇ」


そしてなんで姫様がソレに正直に答えるのかがわからんが。


姫様の言葉を受けて真剣に考え込む神屋。何だかんだで俺は吉弘の人間だし、姫様の素性を考えれば祝いの品とかの用意も必要だろうから、今のうちから準備をしようってのはわかるぞ?


親父やらベッキーも姫様のことは心配してるだろうし、塩市丸様は大友家の後継ぎとしてあんまり評判も良くないしな。


最悪姫様と俺の子供を大友家の当主にって考えてるんだろうよ。絶対にやらんがな!


「はぁ~なるほど。では色んなお話はその後、と言うことですね」


「うん。そうなるわ。貴女の気持ちもわかるけど、コッチはこっちで都合があってね」


「いえいえ!そもそも姫様に非が有ることではありませんし!」


「それはそうなんだけどね?」


二人は何かをわかりあったようで、うんうんと頷き合っている。


姫様の切り替えの早さは知ってはいたが、神屋は神屋で先程までのアレは鳴りを潜め、何時もの糸目スタイルに戻ってるんだよなぁ。


…流石にさっきの、本気で動揺しながら目を見開き、血涙流してパルパル言ってた姿を見ると、今の落ち着きが嘘臭いと言うかなんと言うか。この切り替えの早さに驚きを禁じ得ない。


コレが女か。


「と言うか、なんでお二人はうつけの姫なんかに仕えることにしたんです?普通に武衛様とか言うお人に仕えてれば、今頃尾張だの遠江はとっくに姫様が治めてたんじゃないですか?」


そしたら普通にお子様だって作れたでしょう?っておいおい。さらりと武衛を追放してるぞ。


まぁ俺としてもあんな家柄だけの傀儡に仕える気は無いし、ヤツごときに姫様の頭を下げさせる気はなかったが。


「ん~いくつか理由はあるけど、一番はアレね。千寿ってば公方って言うか幕府が嫌いじゃない?」


「あ~そうでしたね」


うむ、足利幕府はダメだ。特に島津やら毛利やら龍造寺を使って大友を滅ぼそうとした義昭はさっさと死ね。と言うか畿内に居たときに殺しとくべきだったと最近ずっと後悔しとるわ。


「そして武衛は幕府に認められた管領家だからね。そんなのには従いたくないでしょ?」


信長に仕える理由にはならんが、武衛に仕えない理由にはなるよな。


ちなみに幕府の重鎮…と言うわけでは無いが、ソレに近い大友家にあって、千寿は数少ない幕府否定派であったし、それを隠しもしないことで知られていた。


コレは足利尊氏を支えたとされる九州勢にしては珍しいことで、こんなのが次期当主の唯一の小姓で良いのか?と言う声は度々上がったが、結局は小姓を辞めさせることもなければ、特に罰せられる事もなかった。


それは周囲には「後醍醐様を蔑ろにしたから」と言って尊皇の意思を表に出して誤魔化していたからだし、そもそも大声で幕府の批判をしていたわけでもない。


また、今もそうだが、幕府があまりにも弱すぎるのは周知の事実だ。


度々京から逃げ出したり、畿内での戦を助長したり、訳のわからない停戦調停を行う為にしゃしゃり出てきて、外交的失敗を繰り返しているような存在が武家の頂点なのか?と言う意見は共感を得られるモノでもあった。その意見を押し付けたりしなかったのも大きいだろう。


…実際のところ彼が排斥されなかった一番の理由は、次期当主であった彼女が千寿を手放したく無かったと言うもので、第二にすでに吉弘家の修羅として高い評価を得ていたからと言うものなのだが。


とにかくソレもコレも聞かれたら答える程度のモノだったし、語るのも応仁の乱についての見解や、太平記やら何やらの軍記モノについてくらいなので、それなりに仲が良くないと知らない情報ではあるのだ。


それをなぜ神屋紹策が知っていて、姫様も彼女が知っているのが当たり前のように話すかと言うと、北九州在住で年頃の娘が居る家は、大友家の次期当主の唯一の小姓で吉弘家の次男である彼に娘を嫁がせるべく、趣味やら嗜好の調査を行っていたというのは有名な話だった(女のネットワーク限定)からだ。


そして千寿と同い年の神屋も、嫁や妾にはならずとも商売上の付き合いが有るだろうと言うことで、その知識を与えられていたというわけだ。


完全に個人情報の漏洩であるが、家長であり父親の吉弘鑑理が息子に良い嫁を迎えようとして、むしろ積極的に広めていた節が有るので、これに関しては千寿も黙認せざるを得なかった。


そんな千寿が姫様と出奔したと言う話を聞いたとき、周囲の男共は純粋に千寿の事を「見事な忠義!」と褒め称えたが、年頃の娘達やその娘を千寿に嫁がせようとしていた親(特に母親)達は「姫様にしてやられた!」と地団駄を踏んだらしい。


まぁその話は別の機会にするとして…とにかく千寿が幕府嫌いの尊皇主義者である(幕府嫌いは公言してるが尊皇については周囲の評価)と言うことは大友家の若手の中では広く知られていることだったのだ。


「そんなわけで守護とかも駄目じゃない?そうなると、守護では無いけどそれなりに権勢が有って、更に将来性が有るところ。ついでに私みたいな姫武将のところが望ましいって話になったのよ」


流石に信長を名指しする訳にはいかなかったからな。それらしい理由を用意したんだが、姫様的には最後のが決め手になったんだよな。


ほら、史実の大友宗麟がやったように、誰かの家臣になったとき、主君になったヤツに妻(姫様)を狙われたら困るって話をしたら「もうっ!しょうがないわね!」って感じで姫武将に仕えるってことに納得して貰えたんだ。


…もし信長が男だったら、歴史を狂わせる為に津島の旅籠で殺してたかもなぁ~。うんうん信長が少女で良かった良かった。



ーーーーーーーー



「はっ?!」


「若殿?どうかなさいましたか?」


「恒興!儂、今なんか凄く命拾いした気がするっ!」


「命拾い?あぁ、また吉弘様が何か…」



ーーーーーーーーーーーーー




「権勢?あぁ、信長さんのお父ちゃんが朝廷や伊勢に寄進してましたもんね。確かに知る人ぞ知るって感じではありますなぁ」


流石は神屋紹策、抜け目がない。しっかり事前調査はしているらしいな。


「そうね。寄進するだけのお金を用意できる下地が有るなら、それなりの家なんじゃないかって思ったのよ。まぁ実際来てみたら予想以上にグダグダだったけど、それはつまり介入しやすいってことでしょ?」


うむ。そう言うことだ。姫様も最初はあまりのグダグダ具合に大丈夫か?って疑ってたけど、最近は信長を気に入ってるところも有って、積極的に教育をしてくれるしな。


それにこのグダグダな状態を整理すれば、意外と尾張には将来性も有るってわかるんだよ。ソレを姫様も分かってくれたのだろうて。ん?グダグダを整理しても将来性がない場所?………飛騨とか?


いや、信長○野望なら姉小路プレイは基本ではあるけど、実際あそこはなぁ。鉱山はあるけどなぁって感じなんだよ。美濃と信濃と越中に囲まれてるし、基本的に山間部だし、どうやってグダグダを解決すれば良いのか見当もつかん。


「ほぁーん。ま、姫様も若殿も不自由しとらんみたいやし、向こうにはそう伝えときますよって」


どこの方言かわからなくなって来てるが…是非とも親父にはよろしく伝えてくれ。親不孝をしてるのは自覚してるしな。


「こっちはこんな感じかしら。細かいことは自分で調べてみてね。わからないようなら聞いてくれたら教えるから、無駄に探りを入れたりしないでよ?」


「そげなこつしとらんちゃ!そげなこつしたばい若殿にくらされましゅ!」


動揺して博多弁が出てるぞ。と言うかさっきから俺をなんだと思ってるのか…


「それで、いい加減商売の話に移っても良いですかね?」


何だかんだで久しぶりに向こうの知り合いに会った姫様の為に二人のガールズトークの邪魔はしなかったが、そもそもは必要だから呼んだんだ。さっさと軌道修正しないと夜通し思い出話とかされそうで怖い。


…まぁ姫様のストレス発散になるならそれでも良いんだが。出来たら本題を済ませた後にしてもらいたい。


「あぁ、それもそうですね。失礼しました」


「あ、そうね。私も千寿と紹策の仕事の邪魔をする気は無かったんだけど、つい懐かしくて…ごめんね?」


そう言って謝る姫様だが、今回は誰が悪いとかではないので無問題ですよ。


「いえ、特に問題があるわけではありませんから。では早速商売の話ですが…神屋殿には人を買ってきて貰いたいのですよ」



ーーーーーーーーーーーーーーーー




ん~久方ぶりに会った若殿や姫様との会話は楽しかったけど、仕事は仕事やもんね。それに信長しゃんとか言うのが尾張を統一したら姫様が子を作るって言うなら、その時がウチにとっても絶好の機会!若殿の種ならおとんも文句は言わんし言えんやろ!


くくく、いっつもウチに男がいない事を馬鹿にしとる奴らに目にもの見せてやるわ!と思って、まずは若殿からの信用を得ようとしたんやけどなぁ…


「人…ですか?」


いや、若殿が買えと言うなら買うよ?ばってん、そいうちやなくても良くなか?あぁ、ダメだダメだ。博多の言葉はいかんっち。


「そう。まずは人です。特に甲斐信濃の武田や関東に出張ってくる長尾なんかが安く放出しているみたいですね」


ほほう。()()()と来ましたか。それに信濃と関東?


ふむ。さっきまでの口振りから尾張は確実に統一出来る算段が立ってるみたいだし、その後の復興に使う気ですかね?だけどやっぱりウチじゃなきゃダメな理由を聞いて置いた方が良さそうやわ。なんかここらへんに銭の匂いがするよってな。


「ですがそれならウチでなくとも、堀田さんとか言いましたか?ココの御用商人でも良いのでは?むしろ御用商人さんを飛ばしてウチがやったら迷惑なりません?」


職種や業種にもよるけど、基本的には商人にも縄張りがあるからなぁ。ソレをすっとばしても良い事なんか無いよ?いや、姫様はともかく若殿がソレを理解してないはずが無いんやけど。


「その通りですがね。尾張の御用商人が人を集めているとなると、美濃の蝮さんや駿河の公家さんが気にして邪魔をするかもしれませんので。しかしそこで「博多の商人が西で使うために人を集めている」と言うなら、彼らが邪魔する理由は無いでしょう?」


ほむほむ。まぁそうやね。特に東国のお侍さんは向こうの話なんかされてもわからんだろうし?


「具体的には大内と尼子あたりを理由にしましょうか。畿内は戦続きで人が足りないし、美濃や尾張は緊張状態で買えない。三河駿河遠江も同じですな。北陸なんか本願寺にむしり取られるから無理でしょう」


「あ~確かにそうですねぇ」


大内と尼子が争ってるのは嘘じゃなか。畿内も相当荒れとる。本願寺はどうか知らんけど、寺の連中はなぁ。金は持ってるくせに、まともに払わんのよコレが。


「相場的には通常1~2貫文なのでしょうが、関東では戦が続いていて、25~100文になるとか。そこで出来るだけ買ってきてもらいたい。あぁなんなら織田が持つ塩と交換でも問題ないですね」


「25文?!」


いくらなんでも安すぎやろ!そいだけで商売やっちいけるぞ!


「えぇ、嘆かわしいことに向こうでは相当民に対する扱いが悪いようですな。また刈田や七尺返し等をされて食うに食えなくなった村の者たちも身売りするんだとか。それらは多少高くなっても良いので買ってきてもらいたい。無論家族ごと、村ごとでも構いませぬよ」


「どぎゃしこ買うて気や?!」


つい声が出るけど、しゃあないやろ?だってそれで出来るだけって言ったらそれこそ万を超えるかもしれんち!


「出来るだけ。ですよ。予算は先程も言いましたが塩でも良い。あぁ、まずは我々が預けてる手形の2000貫から行きましょうか?」


いや、2000貫って!どぎゃしこ?!


「ひ、一人50文でも四万ですよ?!」


正気か?いや、正気なんやろうけど、そんなんどうやって養う気じゃ?!


「計算上はそうですが、実際はそんなにいないでしょう。一万集まれば最高と考えてますが…増えたら増えたで養う分にはなんとかなります。ただ、2万を超えるようなら連絡は欲しいですね」


しょ、正気じゃ。と言うか本気じゃ。しかし若殿は2万の人を集めて何をする気なん?


「…無理なら無理で構いませんが…出来ませんか?」


そう言って若殿がウチの目を覗き込んでくるけど…怖いお人や。


「正直に答えるなら無理ではないですよ?ただソイツらを纏めたり、運ぶまでの世話をする準備に時間がかかりますよって。なんでその分の銭も必要なんで、どうしても一人50文だのでは運べませんってくらいです」


怖いお人ではあるけど、ウチかて商人。出来るか出来んかを問われては嘘も騙しもせんよ。大体こんご時世怖くもない男に何の価値があっと?こん怖さはむせんね頼もしいじゃなかか?


ウチの答えを聞いて満足げに頷く若殿。ひとまずは合格ってこつかね?


「それで結構。足りなくなったら、言ってくれれば銭は追加で出しましょう。で、その人足の使い道ですがね」


「教えてもらえると?」


確かに気になっちはおるっちゃけど…


「えぇ、隠すことでもありませんからね。それに何をさせられるかわかったほうが向こうも来やすいでしょう?」


若殿はそう言って朗らかに笑うけど…目の笑っちまっしぇんちゃ!


「用途としては、三河の砦作りに田畑の開墾、街道整備に鉱山開発。場合によっては兵士としても使います。ホラ、これではいくら居ても足りませんよ」


三河?尾張じゃなく?…疑問は多々有るけど、問題はそこやない。最大の問題は…


()()()()?」


間違いなくそう言ったよなぁ?それが今回「神屋」を名指しした理由と?



















「そう。まだ誰も手をつけていない鉱山に心当たりがありましてね。神屋さんは好きでしょう?鉱山」


「………」


…いかん。若殿の言葉を聞いて、緩む口元を押しゃえる事の出来なか!最高じゃ!やっぱりウチにはこん人しかおらんち!


「…紹策、わかってるわよね?」


「はい!わかっちましゅ!」


あ、危うく何もかも忘れて抱きつくところやった…。姫様はほんなごと怖かとよぉ…。



博多弁につきましては「もん○ろう」を使ってますので文法的にアレかも知れませんが、一応仕様です。神屋さんも出来るだけ博多言葉を使わないように気を使ってるので、こんな闇鍋状態になっています。


そして神屋さんと言えば灰吹法。普通の学生が灰吹法を提言したところで、どんな炉が必要で、どんな分量が必要かはわかりませんからね。それならわかる人を呼べって話です。史実では平安時代にもやってたみたいですが失伝してたようですね。


でもってこの人のお祖父さんが灰吹法を石見銀山でやってます。南蛮吹きはしてないようですが…千寿君的にはどうでしょうね?


まぁいきなり呼んでも鉱山開発なんかできないので、その下準備をさせるために呼びましたってお話です。


人身売買については…説明必要ですか?


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