32話。三河松平の事情の巻
太原雪斎と千寿君の知恵比べ。
勝者が尾張の歴史を創るッ!
え?信行?(ΦωΦ)?
評定の間にて林のオッサンや平手の爺様と一緒に信長と姫様を待つこと少々。着替えを終えたものの、やや憮然とした表情の信長といつも通りの苦笑いを湛えた姫様がやって来た。
憮然とした表情なのはアレだろ?いい加減粗相が恥ずかしくなって来たんだろ?だけどその理由が大声で機密を話した自分にあるもんだから、何とも言えないって感じなんだろう。
姫様の苦笑いは、その愚痴に付き合ったからだな。
まぁ信長の愚痴を聞くのも姫様の仕事みたいなもんだし、姫様の愚痴は俺が聞くから問題ない。
男である俺に話せない内容の場合は、信長や恒興にしてるみたいだから、やはりこうして信長のところに仕官したのは間違いじゃなかったと思う。
それはそれとして、軍議を始めようか。
そう言う意図を籠めて林のオッサンを見れば、彼は頷き、俺達の前に尾張の地図を広げた。
「それでは始めましょう。まずは現状の確認です」
軍議、もしくは情報の共有ともいうな。主君が部下に隠し事をするならまだしも、部下が情報を隠すのは宜しくない。だから主君の前で知ってることを報告し合うわけだ。
ちなみにこの時代、情報を放出することによって手柄が立てられなくなる! とか抜かすような奴がいて、わざと情報を隠してくる場合もあるので、そのへんは注意が必要だ。
だから有益な情報に必ず主君から褒美を与えるようにしないと、隠した情報を利用して抜け駆けをしようとするやつが現れるから要注意。
具体的には史実の秀吉や光秀だ。
まぁ連中の場合、周囲は仲間と言うよりは競争相手だったし、史実の信長も家臣間の競争を奨励してたみたいだから、仕方のない話では有るんだけどな。
ただ今回程度の戦でそんなことをされても困るし、そもそも俺は競争関係なしに命令違反を許す気は無い。
今のうちからその辺の教育もちゃんとしておかないと『命令違反したけど功績を上げたからいいだろう!』的な空気が生まれるかもしれんからな。
当時の信長は手段を選ぶような余裕も無かったし、そもそも人材が居なかったから簡単には裁けなかったようだが、今回で今川の干渉を退けて尾張を纏めることが出来れば数年は内政に専念できるからな。その間に人材の育成をきっちり終わらせる予定だ。
「では最初に信行様です。弟の美作と柴田が主戦力となり、その数はおよそ一五〇〇~一七〇〇ほどでしょう」
そう言って那古野の東、末森の位置に駒を置く。
史実では林が一〇〇〇で柴田が七〇〇だったらしいが、今回は林のオッサンが信長に付くと明言しているから、弟の方も少し減る可能性が有るようだ。
「服部党は北伊勢の国人が加わっておよそ二〇〇〇程になるようですが、長島の坊主は参加していないようです」
言いながら津島の西に駒を置く。
まぁ連中は信秀から散々金を搾り取ったからなぁ。その跡目争いに介入はし辛いか? それとも津島と何らかの交渉でもしたか? とりあえず服部党は動いたが、長島は動かないと言うのが重要だ。
北伊勢の国人衆の中に員弁郡の連中が居たら更に鉱山が手に入るんだが……いや、北畠や六角に目を付けられるから今は駄目だな。
いずれ潰す為の名目程度にしておこう。
「清須の大和守家及び岩倉の伊勢守家は、家督相続に介入するつもりは無いようですな。ただ信行様からの支援要請は届いているようで、いつでも出られるようにはしているとのこと。大和守は五〇〇。伊勢守は二〇〇〇。ですが伊勢守は蝮の介入も警戒しているので、兵は出せないでしょう」
北に二つ駒を置きながら話を進めて行くが、まぁそうだろうな。
そもそもが弾正忠家の家督争いなんだから、向こうの内心はどうあれ介入する理由にはならん。大和守が集めた兵だって名目上は服部党に対抗する為だろう?
「南の三河勢はおよそ七〇〇〇。正確には松平党と本證寺に扇動された一揆衆ですな。尾張に来れば銭も飯も有ると言って困窮する民たちを使ってます。松平党が三〇〇〇ほどで、一揆衆が四〇〇〇。ただ国人と一揆衆が混在しているので、もう少し数は増えるかも知れませぬ」
「ふむ」
この時期の三河は政治的にガタガタだし、相当苦しんでたからな。普通にしていればそれなりに栄えると思うんだが、何故か国内は落ち付かず一揆やら家督争いが頻発している状態だ。
それもこれも少し前に三河に居た尾張の織田って奴や、岡崎の松平に三河を統一されたくないからってんで色々とちょっかいを出していた今川って奴が悪いんだけどな! そういった事情から織田に恨みが有る連中が三河衆として参陣しているわけだが……そもそもの話、今の岡崎松平党って誰が率いてるんだろうな?
まさか信長よりも若い家康が信長と同年代とかあるのか?
「三河勢を率いるのは岡崎の松平勢かと思われますが、その総大将は誰になるのでしょうか?」
そう思って岡崎松平党の情報を確認すると。林のオッサンではなく信長が俺の疑問に答えてきた。
「んぁ? おぉ、そうか、吉弘殿は知らんかったの。岡崎松平を率いとるのはな。竹千代じゃよ」
そうか、やはり家康か。
「竹千代?」
俺とは違い、全く知識が無い姫様が確認を取る。
「うむ! あやつは一時期人質として三河から尾張に来ておってな! 安祥が落ちた際に捕えられた信広殿と交換で三河に戻った……というか今川のお膝元に送られた小娘じゃよ!」
「小娘、なぁ」
そうか、家康も女か。まぁ性別がわかったところで殺ることは変わらないが、一応留意しておこう。
「人質? 今の当主ってことは嫡子でしょ? それが尾張に? それに信長が小娘って言うと言うことは、信長より年下なの? それがなんで尾張から今川に? と言うかそんな子供が当主として兵を率いて来るの?」
姫様の常識では色々有り得ない事なのだろう。普通に目を白黒させて驚いてるが、幼い子供が家督を継ぐのは無いわけではないし、次期当主が人質と言うのは国人からすればある意味普通の事だ。
大内や大友もやってたからな。だが実感として理解できんのも無理はない。
なにせ大友家は何処まで行っても人質を取る側であって、送る側では無かったからだ。
「あぁ。三河についてちぃとばかし説明が必要かの? 端的に言えば、少し前までは三河では父上の威勢が強くてのぉ。今川とも真っ正面から散々に争っておったが、その戦の舞台であった三河はかなり荒れての。そのせいで付近の国人どもは常に悲鳴を上げとったんじゃよ」
その威勢も今では見る影も無いんじゃがな! と言って自虐的に笑う信長。しかし俺の知識では、家康は戸田なんたらに一〇〇〇貫で売られたとか言われてたが、どうやらこの世界は少し事情が違うらしい。
「ですな。基本的に大殿と今川は三河で戦をしておりましたので、三河の土地は荒れ、国人への負担も大きいものでした。そこで三河の国人衆の纏め役であった松平宗家の当主、松平広忠に対して多数の嘆願が届けられましてな。国人衆と今川との板挟みとなった彼が一手打ったのですじゃ」
平手の爺様が説明をしてくれるが……なるほどな。それが嫡子の人質に繋がるのか。
「まず今川に対して忠義の証として嫡子を差し出すと言う意向を伝えるのですな。これはまぁ国人では良くあることですから良いとして……その嫡子ですが、三河から出る前に護送役を務めていた戸田宗光なる者によって、当時安祥にいた我らに送り届けられたのです」
「は? つまり護送役が主家を裏切って、その嫡子を売った、と言うことかしら?」
爺様の言葉に嫌なことを聞いたと言わんばかりに眉を顰めるが、それは違いますよ。
「姫様、正確にはその嫡子は裏切られたわけでもなければ売られたわけでもありません。恐らくですが、松平宗家は最初からそのつもりで動いていたのでしょう」
「え? 千寿、それってどういうことなの?」
俺の言葉を聞き、怪訝そうな顔をする姫様とは裏腹に、信長も林のオッサンも平手の爺様もその通りと頷いている。
「つまりじゃな。今川には『嫡子を人質に出そうとしたけど奪われました』と言っておくのじゃよ。そうすれば『向こうに人質が居る以上全力で戦えません』という言い訳が出来るじゃろ? 物資についても『人質の扱いが悪くなるから積極的な応援ができなくなる』と言えるわけじゃな」
なんともあれな言い様ではあるが、そう言うことだよな。
「そして国人に対しては、自身の嫡子を人質に出すと言う行為を見せることで彼らを見捨てないと言うことを示しました。結果竹千代殿を理由にして三河衆は大きな戦をせずに済みますからな。三河衆にしてみれば良いことずくめだったのです」
「はぁ。嫡子を人質に出すことが良いことずくめって……」
溜息と共に訳が分からないと言わんばかりに首を振るが、これは弱小勢力が生き延びる為の知恵である。そしてこの恥も外聞も捨て去ることを厭わない生き汚さが国人の怖さだ。
こういった怖さを見くびることが無いように学んで欲しいものだ。何せこういうことを繰り返した結果、家康は我慢を覚え、死ぬことなく三河を統一出来たし、天下を取れたんだ。
直近では毛利元就も似たような存在と言えるだろうが、今回は関係ないな。今後少しずつ学んでもらって姫様が足を掬われないようにするのが俺の仕事と思えば良いだろう。
「そもそも安祥城の位置を見れば分かると思いますが、当時我らは深く三河に食い込み、何度も岡崎を攻めていたのです。それ故岡崎は今川云々を抜きにしても困窮していました。そしてこの人質は、織田に対して嫡子を引き渡すと言う降伏の証という意味があったのです」
ふむ、昔は何で態々三河から駿河に行く人質を尾張に運ぶんだ? って不思議に思っていたんだが、この位置関係を見れば納得できる。
と言うか安祥城って本当に岡崎のすぐ近くだもんな。そこを占拠していたのなら、岡崎はまさに織田と今川が争う最前線となる。だからこそ岡崎松平党は常に織田と今川の両者に圧迫されてたんだろうよ。
「じゃの。そしてその人質を『今川に送るつもりだったのに織田に奪われた!』と被害者面することで戦を回避しようとしたんじゃな。何と言うか、強かよのぉ」
扇子を広げてパタパタしながら松平広忠の行動をそう評価する信長だが、その顔には嫌悪感等は無い。むしろ「よくもまぁ」と感嘆している感じだ。
「はぁ。強かと言うべきか小賢しいと言うべきか」
姫様が溜息と共に感想を述べるが、本当にその通りだ。つまるところ、松平広忠は一人の人質で両方の勢力を止めたわけだ。しかし太原雪斎や今川義元がその程度の策に気付かんはずがない。
だから今川の面子に掛けて二万の兵を用意したし、城を落とした後に敢えて信広を生け捕りにして竹千代を取り戻し、駿河に運んだわけだ。で、舐めた真似をしてくれた三河勢に対して身の程を教えると言う意味を込めて先陣として使い潰すって感じの流れに繋がる、と。
「じゃが安祥が落とされ、竹千代が駿河に運ばれた結果、三河の扱いが更に悪くなった。その結果あれの父親は家臣に背かれて死んだ故、現状で松平の宗家の血を引くのはあやつしかおらんのじゃ。そんなわけじゃから、竹千代は儂より年下じゃが既に松平宗家の当主なんじゃよ。流石に兵を率いて来るかどうかはわからんがの」
家臣に背かれたねぇ。まぁ俺が知る世界でも松平広忠の死因は家臣に殺されただの、一揆勢に殺されただの、病で死んだだの、信秀の手で死んだとか色々言われてるが、これは策が失敗したことで使い潰される事になり、困窮することになった三河の連中を今川義元が唆したってところか? 毒殺なら病としても問題無いし、破傷風ってケースも有るだろう。
もしくは勝手に加害者にされた信秀が三河に混乱を生むために仕掛けた可能性も有るが、まぁどんな画期的な策でも失敗したら阿呆扱いだからな。
現状の苦境をすべてを阿呆のせいにすることは簡単だし、双方に敵視されて泥沼の状況に陥り、宗教に縋るしかなかった三河武士を唆すことくらいは簡単だろうさ。
「無論当主は竹千代殿ですが彼女は十にもならぬ身ですので、実質的に城を回しているのは竹千代殿ではありませぬ。今の岡崎松平を差配するのは、今川の目付け役の他では酒井忠次と石川数正なる者です。両者とも竹千代殿の信任厚く、過去に雪斎が率いた軍勢への従軍経験も有るので軍を率いるには不足が無さそうですが、今回は一向門徒の国人どもが主体でしょうから碌な指揮はできんでしょうな」
信長の言葉に平手の爺様が補足を入れる。しかしなるほどなぁ。今の岡崎が単独で三〇〇〇と言うのには違和感が有ったが、この二人が用意したか。
このご時世国内の不満を抑える為に他国へ侵攻するのは当たり前だし、勝てる戦なら出来るだけ数を出したいだろうさ。それに一向門徒の家臣が参加するなら三〇〇〇を集めるのも不可能では無いだろう。
でもって寺の坊主に使嗾される一向門徒がまともな戦をするはずが無い。数と勢いに頼んだ人海戦術が基本になる。ある意味では非常に面倒だが、ある意味では非常に簡単な戦になるな。
「場合によってはこの三河勢に太原雪斎が率いる駿河、遠江の軍勢が加わります。ただ基本的に雪斎は臨済宗の僧ですので一向宗と仲が良くありませぬ。その為、一向宗が多い三河勢と共闘することは考え辛いですな」
共通の敵に対して一致団結するのは武士の基本だが、宗教が絡むとなぁ。
一向門徒が多い三河勢が、強大な今川に対して力の差を理解しつつも従順にならないのはこれのせいでもあるんだよな。そりゃ雪斎にしてみたらこっちとの共倒れを狙うさ。
「なるほどねぇ。つまりその太原雪斎はいつ後方から襲われるかわからないから三河から先には攻めて来ないし、雪斎が三河に入れば、空になった所領がどうなるかわからないと心配して一向衆も引く可能性があるのね?」
姫様の言う通りだな。今回の雪斎の出陣はまさに足の引っ張り合いとなるだろう。一向宗としてではなく松平党として参加してくる連中にも一向門徒は多いからな。
とりあえず三河に太原雪斎の出陣の噂を流す準備をするとしよう。
「そう言うことですな。本来は損害を与えても引かぬのが一向一揆の怖さですが、今回はある程度の損害を与えれば引くことになります。援軍のつもりなのか督戦のつもりなのかは知りませんが、今回の人選は今川の失敗といえますぞ」
失敗、と言うよりは、今川的に今回の三河勢の乱入に対して尾張勢はろくに反撃出来ないだろうと思ってのことだろうな。雪斎の、いや、今川義元の狙いは、散々尾張を荒らされた織田勢が一時家督争いを止め、背水の陣を敷いて三河勢とぶつかった後になる。いわば仕上げの一撃を加える為の軍勢と言えるだろう。
二虎競食の計と言うか単純に漁夫の利と言うか、どちらにせよ三河勢が尾張に侵攻し、それなりに荒らし回ることが絶対条件だ。ついでに言えば『もし三河勢が一方的に負けても尾張は国内が落ち着いていないから何もできん』と考えてるかもしれんがな。
結局連中の狙いは家督争いに乗じて尾張を荒らすことであって、三河勢によって尾張を完全に制圧することではない。もしかしたら尾張の復興の時間を利用して消耗した三河を制圧するつもりかも知れんが、それとて所詮は今の信長と俺達を知らない者が立てた策。
『彼(敵)と己を知れば百戦危うからず』とは言うが、彼(敵)を知らないなら勝率は5割。それを自覚していない時点で奴らは彼(敵)も己(自分)も理解出来てはいない。つまり……勝ちの目は、無い。
歴史に名を遺す太原雪斎がこんな簡単な穴に気付かないと言うのが滑稽でしょうがないが、いまはまだ罠に嵌ってはいない段階だ。それが確定するまで過小評価はするべきじゃない。実際今の信長は綱渡り状態では有るんだ。気を引き締めて行かないと崖下に墜落することになる。
「ではこれらに対して手を打ちましょうか。まず信行殿を掲げる連中には林殿と信長殿、そして佐久間殿に当たって貰います。実際に敷かれた陣を見ないことにはさしたる事は言えませんが、基本的には林美作が率いる軍勢に対して林殿と佐久間殿が、そして柴田が率いる軍勢に対して信長殿に当たって貰います。姫様は信長殿の補佐をお願いします」
「お、おう! 任せよ!」
「か、畏まりました!」
「……ふ~ん。まぁ良いけど」
何故か信長と林はどもってるし、姫様はやや不機嫌だが、アレか? つまらないと思っているのかな? 確かに今回の姫様の役割は信長の補佐。つまり信長が日和って信行と土田御前を殺すことを躊躇しないように確実に殺すことだ。信長にそのつもりが有るなら姫様にも仕事が無いってことだから、さぞつまらないことだろうよ。
だが督戦も立派な仕事。姫様には必要な経験として受け入れてもらおう。
「服部に関しては信広殿を当てて下さい。彼が味方に引き入れたものと合わせれば一〇〇〇にはなるでしょうし、周辺の村の者どもも協力してくれるでしょうから十分対応できるかと」
「そうじゃな! 信広殿なら大丈夫じゃろ!」
そもそも外様の身で数千の三河勢を率いて二万の今川と戦った織田信広が、尾張勢を率いて服部党如きに負けると言うことが想像出来ん。
それに恐らく服部は信広とはぶつからずに三河勢が来るのを待つだろうから、単独では戦にはならんだろう。これに関しては『倍する兵を抑えるだけでも手柄だ』とでも言っておけば良い。
「北の大和守に関しては信光殿に動いて貰います。坂井共には内密に大和守や武衛殿と連絡を取って貰い、彼らに三河勢を尾張に招き入れた坂井大膳や信行殿を非難してもらうと共に『今は火急の時、尾張勢は信長殿の下で一致団結し三河勢に当たるように』と言う命令でも出してもらえれば最良ですね」
信光にそこまでのものが引き出せるかどうかは微妙だが、最悪交渉するだけでも構わない。
「む? 確かに武衛様も大和守も傀儡である現状を面白くは思っておらんじゃろうし、三河勢が来たら自分も殺されるかも知れんから協力はしてくれるじゃろうが、そんな命令を出されたら儂らも国人を殺せんぞ?」
国人を減らすことが今回の戦の目的なのに? と言って首を傾げるお子様。う~む。13歳のお子様が極々自然に国人の抹殺を狙ってるんだから、この世界も殺伐としてるなぁと今更ながらに思う。
それはともかくとして。
「交渉するだけで構わんのだよ。その命令が出るかどうかは別として、両者とも間違いなく乗り気になるだろう? そしてそれをこちらから坂井大膳らに教えてやればどうなると思う?」
命令が出れば尾張の軍権は信長のものだ。その後で神輿役が殺されれば報復を仕掛ける大義名分になる。命令が出る前なら武衛を救うための戦だな。戦に巻き込まれて死ぬか助ける事に成功するかは知らんが、どちらに転んでも有効活用できるだろう?
俺がそう言えば、信長も林のオッサンも平手の爺様も俺の狙いを正確に把握したようで「なるほど」と呟き、下を見て考え事をしている。
「なるほどねぇ。そこで清須の連中が武衛殿を殺すも良し、完全に隔離するも良し、どちらにせよ清須を攻める口実が出来るわ。ただでさえ連中には三河勢を招き入れたと言う理由が有るのに駄目押しまでするなんて、さすが千寿。敵に掛ける情け容赦なんか無いわね!」
信長たちのテンションが妙に低いのに反比例して姫様のテンションは高くなったな。これは信行を殺した後も仕事が有ると分かったから?
「そう言うことです。殺すべき時に、殺すべき者を殺す。これが正しき戦です。そして三河勢には鳴海城にて私と平手殿が当たります。本来なら私だけで行くべきでしょうが、手柄の独占は良く無いですし、城兵や付近の連中も信長殿の懐刀とも言える平手殿が鳴海城に居れば、自らを捨て石とは思わないでしょう?」
三河守云々は別にしても、俺にも武功が無いとな。正式に召し抱えられた後に姫様が軽んじられたら困る。
それに国人が降伏する分には構わんが、城兵まで降伏されたら処理が面倒だしな。そして何より俺の名前だと兵士を満足に動かせん。かと言って佐久間とは今まで面識が無いし、林のオッサンは弟の美作に当たって貰う必要が有る。そんなわけで平手の爺様と佐久間を交換する必要が有ったんだよな。
佐久間にしてみても援軍が来るかどうかわからん籠城戦より、次期当主を決める戦に参加した方が良いだろう? って感じで説得できそうだし。何より三河勢には俺への恐怖を持ってもらわんと。
でもってその中で何人かを捕らえて、坂井大膳が三河勢を呼び込んだと言わせれば、でっち上げが事実になるわけだ。いや、実際に呼び込んだんだろうが、結局は今川を通じて間接的にって感じだからこのままじゃ弱いんだよな。
くくく、本願寺の腐れ坊主に策士気取りの阿呆共、いつまでも特権を利用して舐めた真似が出来ると思うなよ?色んな意味で地獄を見せてやるぞ。
「「「ひぃ!!」」」
「まったく、しょうがないわねぇ千寿ったら!」
命を捨ててくると評判の一向宗にどんな風に地獄を見せてしてやろうかと想像していたら、下を向いて考え事をしていたはずの信長と他二人が妙な声を出して俺から距離を取り、反対に姫様はテンションマックスで抱き着いてきたでござる。
……何事?
家康に関しては勿論シリアルな独自設定ですよ?
今回の布陣を簡単に纏めると
信長・林(兄) VS 林(弟)
姫様・佐久間 柴田
信広 VS 服部
信光 VS 清須
千寿君・爺様 VS 三河勢
留守役も信光ですってお話ですね。




