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31話。戦が近いようだ。備えようの巻

信秀が死ぬ前に戦争準備をする各勢力。完全に囲まれ、絶体絶命状態のノッブ陣営に勝機はあるのか?!(迫真)


前半千寿君。

後半ノッブ視点。

「おぉ吉弘殿! ようやく来たか! 大変じゃぞっ! 大和守だけじゃなく、服部と三河が動きを見せておるらしいっ! 連中はどうも父上が死んだ後に尾張に攻め入って来る予定らしいの!」


城に入った途端にお子様がドヤ顔で報告してきた件について。



なんか急に堀田が「お、お助けを!」と言って頭を下げてきて、それ以降は一切頭を上げなかったので、とりあえず放置してそのまま登城することにしたんだが、こちらはこちらでなんだかなぁって感じだな。


「ほほう」


それに何と言うか、言葉とは裏腹に全然大変そうに見えんのもなぁ。先に登城していた姫様もこれには苦笑いをしているじゃないか。


ただ、一応正確な情報を伝えてやろうか。そうじゃないと細かい差異で混乱することもあるしな。


「服部や三河に関しては正確には弾正忠殿の死ではなく家督争いの戦に乗じて、だな。ここで機を間違えれば尾張勢が対三河、いや対本願寺で一致団結してしまうから、準備を整えておくことにしたようだぞ?」


「おぉ、そうかや! 一向衆に関しては、まぁアレじゃからのぉ。どちらにせよ滅ぼすだけじゃが、下手に一致団結するのも考えものよな?」


「それはそうなんだが……」


信長が異様にヤル気だな? 姫様と何か話でもしたのか? 姫様に「どういうことですかね?」と視線で尋ねれば、姫様は苦笑いのまま答えてくれた。


「あ~あれよ。今のところ信長の家督相続後も私たちはここから出て行く気はないじゃない? それを正式に伝えたのよ。今後の立場とかそういうのの打ち合わせもあるしね」


「おうともさ! そもそも吉弘殿や姫様を雇う以上は最低でも守護代くらいの待遇が必要じゃろ? 尾張の場合は武衛様をどうするかという懸念があったが、三河ならば問題ない! 態々向こうが口実をくれたんじゃから徹底的に叩いて吉弘殿に三河守にでもなってもらおうと思ってのぉ!」


「ふむ、なるほどな」


信長が俺と姫様を雇い入れる際の条件を考えた結果が三河、か。


確かに三河守は信秀が持ってるし、何事もなければこのまま信長が継承するから問題ないわな。さらに攻めてきた連中を叩き潰して一定以上の所領を得れば、名実ともに三河守を名乗れる。それを俺にって寸法なのだろうが、大丈夫か?


「しかし林殿や平手殿は良いのか? 普通なら彼らこそ取り立てねばならんだろう?」


信長が大和守を滅ぼすのは良い。だが今の時点で武衛を滅ぼさないなら、弾正忠家は尾張の守護代扱いだろう? そして三河守が尾張の守護代より格下とするなら、三河守を任じた朝廷が信長に対してどんな印象を持つのか気になるところでもある。


「うむ。その辺は問題ない! 林も爺も、吉弘殿と姫様には儂が用意できる最上のもので報いるべきじゃと考えておるんじゃよ! 故に三河守を受けて欲しいんじゃ!」


なるほどなー。さっきも言ったが、このままならただの飾りだが、信長が三河の半分を持っていれば実質的な守護と言っても良い。そこから俺に役職と所領をって話になるんだろう。


これなら尾張の信長の直轄領は減らんし、織田弾正忠家に三河守が従うと言う体裁も手に入る。それに対今川に関しては俺が全力で動けるようになると言う利点もあるな。


つまり俺の狙いである家康や奥三河の管理もできるから、俺にとっては間違いなく良い話だ。


そして信長は面倒な三河の統治やら国人やらを俺に丸投げすることができるから、余計な負担を減らして尾張の内政や戦に集中できる。信長的には面倒事を丸投げすると言うよりは、俺の能力を信用して任せるって感じなんだろうな。


結論から言えば……悪くない。今後の展開次第だが、とりあえずは津具鉱山と尾張を結ぶ道の開発が急務になるか。


本来なら信秀が死んだ後にする予定だったが、伊勢で待機している神屋をさっさと呼び出して鉱山開発や土木作業用の人を買わせるか?


「えっと……やっぱり統治が面倒な田舎の三河より、すでに発展してる尾張の方がいいかや?」


俺が考え込んでるのを見て不安に思ったのか、お子様は上目遣いで俺を見てくる。これは意図的にあざとい仕草をしているんじゃなくて普通に本心だな。


「いや、三河で構わんよ。むしろ三河が良い。だが三河を俺に預けることに対する危険性について話さねばならんと思ってな」


「「危険性?」」


姫様と信長が顔を合わせて同時に首をかしげるが、まぁわからんよな。


こうして信頼してくれた上に配慮してくれるのはありがたいが、信長との付き合いはまだ半年だ。ろくな武功も無い奴を三河守なんかにしたら周囲が納得しないだろうし、鉱山についても話さなきゃフェアでは無いだろう。あとから「騙された!」とか言われても困るし。


「まぁ立ち話をするような内容じゃない。とりあえずは評定の間に行こうか」


「う、うむ! そうじゃな! 儂としたことが早まったわい!」


「儂としたことがって、アンタが早まるのはいつものことでしょうに」


姫様が突っ込むが、その通りだ。なんだかんだで決断は早いが穴が多いのが信長だよな。逆に言えばこの穴を埋めることが出来る人材が居れば問題ないってことでもある。


だが、今後暫くの間は尾張と三河に専念することになるだろうから、畿内に関わらなくて済むし、人材の育成にも力を注げばいい。そうなれば史実のような将軍関連の無駄なストレスもないだろうし、そもそも今の信長は美濃に興味が無いからな。


ついでに言えば、この歳で尾張を統一して三河まで進出するようになれば、桶狭間の戦いも起こらないだろう。


桶狭間の戦いが無ければ今川義元も死なないし、歴史も変わる。つまり俺みたいな奴がいた場合に予想される歴史知識を利用した先読みを根底から破壊できるって寸法だ。


それに、そもそも桶狭間の戦いは信長自身が「賭けだった」と語ったくらい危うい戦だ。この世界の信長が女で有る以上、色んな揺らぎも大きいだろうし、天気だって雨だの雹が降るとは限らない。


俺としてはそんな分の悪い賭けなんかしてられん。だからこそ三河の統治は重要になる。


はぁ。今回の戦では出来る限り一向衆を削らねばならんな。もしこれで織田が仏敵扱いされても、今の信長の勢力を考えれば三河と長島が騒ぐ程度。全国規模の叛乱にはならんだろうて。


ま、今は一歩一歩、だ。信長にとって尾張を獲るための大前提であるこの戦に負けたら全ておじゃんになるんだからな。


それと一応釘を刺しておこう。


「姫様の言うとおりだ。もう少しで尾張を統一するんだから、貫禄と落ち着きをもつよう心掛けてほしい」


能力はともかく貫禄はなぁ。今のままじゃあまりにもお子様だし。

林のオッサンと平手の爺様が上手く支えてくれれば良いんだが。


「うぐっ…マ、マエムキニケントウシマス」


「それ、千寿の真似かしら? 中々似てるけど、それならもっとムッとした顔じゃないと駄目よ?」


ムッとした顔って。俺、姫様にそんな顔してましたかねぇ? あ、忘れるところだった。


「と言うかこんなところで機密を大声で喋るな、このうつけが」


「ひぃ?!」


態々城門近くで待機してまで何してくれてんだこのお子様は。


いや、まぁ俺たちを雇い入れるということに興奮したのかもしれんが、それでもその辺で立ち話しながら話す内容ではないだろうが。時と場所をわきまえろ。 いや、俺も乗ったのはあるけど。


「あぁ、うん。それはそうね。これについては私も悪かったわ。とりあえず続きは評定の間でしましょう。あ、一度着替えてから行くから、千寿は先に行っててね」


「了解です」


さて、とりあえずこの場は良いとして、だ。正式に家臣となるなら、そろそろ信長の躾の方法を変えんとな。


だんだん強めの殺意を向けても気を失ったりはしなくなってきたが、殺意に慣れるってことは恐怖心が薄くなるってことだ。これはよろしくない。それにもう少しで十四になるお子様が粗相することに慣れても困るしな。


だからといって頭を叩くのは論外だし、飴は姫様の役目だしな~。はてさてどうしたものか。



―――――




……な~んか儂の扱いが厳しくなるような気がするぞ。具体的には吉弘殿が槍や刀を持って脅しを掛けてくるような感じじゃよ!


ただでさえ濃密な殺意なんじゃから、武器なんぞ持った日にはどうなることやら。

思い出すだけで粗相しそうになるわ! と言うか儂の扱いおかしくないかの? 儂十三じゃよ!? 立派な女子じゃよ!? それをいつまでもお子様扱いって、もしかして吉弘殿は年増趣味でもあるのかのぉ」


って……ぶべっ?!


いきなり姫様に頭を叩かれたが、急になんじゃ!?


自分の扱いが悪くなってきていないか? と思ってたところに折檻じゃ。儂とて文句のひとつくらい言ってもよかろう! そう思って後ろを振り向いたんじゃが……直ぐに後悔した。


「ひぃ!!」


儂の後ろには鬼が、否、鬼を喰らう修羅が、いや、修羅すら土下座して謝る存在である姫様がいて、その姫様が明確な殺意を持って扇子を肩でポンポンしながら儂を見ておったんじゃよ!


この状態の姫様に文句? 有り得んわ!


と言うか、何故ここまで怒っておるのじゃ? さっきまでは普通じゃったよな? 思わず首を傾げる儂に、姫様は冷たい声でいい放つ。


「ねぇ信長? 十三歳がどうとかって言ってたけど、千寿が年増趣味って何のことかなぁ? と言うか、年増って誰のことかしら? 私、気になるわ」


こ、声が出とったじゃとぉ!?


「い、いや、あのな? ほら、アレじゃよ!」


はわわわわわわ! まずい! まずいぞ! 


爺の奥や恒興の母でさえ年齢の話をしたらやばいのに、姫様くらいの年頃の相手は本気でやばいんじゃよ! 儂は詳しいんじゃ!


「アレ? アレだとわからないわねぇ。フフフ。仕方のない子ねぇ」


ゆ、許してもらえたのかや? そうじゃよな? 可愛い妹分の戯れじゃもんな?!


「それじゃ信長の頭を割ってみましょうか。そうしたらきっと何のことかわかるわね」


許してなかった!


「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!」


さも「閃いた!」と言った感じでぽんと手を打って微笑む姫様は、同じ女である儂から見ても魅力的な女性じゃと思う。じゃがその微笑みに騙されてはいかん! だって目が笑っとらんものッ!!


本気じゃよ! 姫様は本気で儂の頭を割る気じゃ!


「うふふふふ。信長の頭の中がどんな風になってるのか楽しみだわぁ。その辺の野盗や国人と一緒なのか、それとも他とは違うのかしら? あぁ、死なないようにかち割ってあげるから安心しなさいな」


そ、それなら安心……できるかぁぁぁぁ! 頭をかち割ったら死ぬわい! 万が一それで生きていたら、それこそ拷問じゃろうがっ!


どうにかして逃げねばと思うが、目の前に立つ姫様の目を見てしまえば、悠長に考えることなぞ出来るハズもなく。体は震え、ただアウアウと言った意味の無い言葉が口から出てくるのみ。


おわた。姫様が持つ扇子の攻撃が頭をかち割る様子を想像してしまい、思わずorzな体勢になってしまう儂。


せ、せめて儂も女の喜びを知りたかった。


「と、まぁ冗談はさておいて、さっさと着替えてね? ここでまた粗相しても時間の無駄だし『着替えが遅れた』なんて理由で千寿を待たせたら『軍議の前にそんなことを許容する時間などない」とか言われて、粗相したまま評定することになるわよ?」


「うっ」


想像してみるが、確かに言われそうじゃよ。



でもって、軍議の場で粗相させられてそのまま軍議をするのと、最初から粗相しとるのでは色々違うよなぁ。本当の意味で小便臭い小娘が上座に座って真剣な顔をしてあ~だこ~だ抜かしても滑稽なだけじゃよ。


と言うか姫様が許してくれたと言うなら是非もない! 乗るしかない!この大波にっ!


「わ、わかったのじゃ。皆を待たせるのもあれじゃし、急ぎ着替えるとしよう!」


そそくさと着替えながら、先程の話の流れを思い出す。その中でどうしても気になったことが有るんじゃが、これは聞いても良いことなのかの?


「何か聞きたそうな顔してるけど、千寿に三河を預けることの危険性についてなら私も知らないわよ?」


「そ、そうかや!」


儂の顔色から即座に質問の内容を見抜いて先回りしてくる姫様には戦慄を禁じえぬ。


吉弘殿もアレじゃが、姫様も大概よな。


「あんたが分かりやすいだけってのも有るけど、私の場合は千寿を見てるからねぇ」


「あぁ、なるほどの」


またもや儂の心中をあっさりと読まれたが、うむ。凄い説得力じゃよ。


「で、三河の件ね。これから千寿がきちんと説明してくれるとは思うけど、まぁ謀叛とかは無いから安心しなさいな」


「う、うむ! そこは心配しとらんぞ! いや、本当に」


だってそんなことを疑うまでもなかろ? 尾張が欲しいなら最初から儂に仕えたり指南役なんぞにならんでも、蝮か治部に仕えれば良いだけじゃしな。


と言うか、姫様が大友の姫として立つなら儂の方こそ従わねばならんじゃろ? 九州の実家と誓紙を交わして家を捨てたと言うが、流れる血は誤魔化せぬ。


それに尾張に居る時点でそんなん無意味じゃろうしのぉ。


「そうよねぇ。でもまぁ一応、ね。もしそんな心配をしてるようなら無駄だって言っておくわ。千寿が私を裏切ることは無い。そして私は早く千寿の子を産みたいから、さっさと信長に尾張を統一して欲しいと思っている。そんな中で騒動をおこそうとは思わないわよ。まぁ信長が今の弾正忠みたいにとち狂ったら話は別だろうけどさ」


儂の着替えを手伝いながらさらりとのろけてくるが、言ってることは正論じゃ。姫様に忠義を尽くす吉弘殿が身重になった姫様に迷惑をかけることは無いじゃろう。


元々三河云々関係なく、今の儂なんざ、吉弘殿が敵意を持った時点で終わりじゃからな。だからこそ「危険性」と言うのがわからんのじゃが。


「はいはい、悩むのはそこまでよ。悩んでも分からないものは分からないんだから、さっさと千寿に聞きにいきましょ?」


考え込む儂の頭を軽く叩いて行動を促す姫様。


それはそうじゃよな。別に隠しとるわけでは無いし、わざわざ自分から危険性を示唆して来たんじゃから聞けば教えてくれるよな。


「よし、では行くとするかの!」


さっさと聞いて、このモヤモヤを解消じゃよ!


……アレ? じゃが姫様が子を身籠ったとき、吉弘殿が三河に居るなら、その隙を窺うという儂の狙いは根底から破綻するんじゃなかろうか?


そう思って姫様をチラリと見たら、姫様は「バレた?」と言わんばかりに口元を歪ませておるではないかっ!


ぐぬぬ! ズルい! ズルいぞ姫様っ!

(敵を)絶体 (に)絶命 (させる)状態のノッブ陣営。日本語の奥深さときたら…まさに言葉の田沢湖や!



戦後の事を考えて動くのは常識ですが、取らぬ狸の皮算用にならないようにするのも当主の役割です。


伊勢のお客様は神屋=サンご一行でございます。まぁ前振りはしてますからね。作者は前振りもなく「こんなことも有ろうかと!」的な事はあんまりしませんよ?ってお話。


展開予測はナシでオナシャス!


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