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28話。マダオ錯乱②の巻

2人の客人の狙いとは一体…(すっとぼけ)


途中台本形式有り

「「「……」」」


那古野の城を離れて、家に帰って姫さまと色々した次の日、那古野城の評定の間では信長と林のオッサンと平手の爺様が揃って頭を抱えていた。どうやら昨日の客人が相当面倒な問題を持ち込んだようだな。


「恒興、アレはなんだ?」


とりあえず情報収集をしようと思い、信長の側近である恒興に事情を聞いてみたのだが。


「はい吉弘様! 実はあのあとに来たお客人様方から面倒な頼みごとをされてしまいまして」


「ほほう」


俺に聞かれるまで黙っていたが、恒興も喋りたくて仕方なかったのだろう。昨日の来客と信長たちの会話を俺たちに教えてくれた。




~~以下台本形式でお楽しみください~~




信光 「兄上は勝手すぎる! 何が祈祷じゃ! そのようなもので何が救われるというんじゃ!」


信広 「そうじゃ! 儂とて父上に死んで欲しいわけではないが、祈祷で病が治るわけではあるまい? それにあの銭が有ればどれだけのことができると思う? 今の父上はあの銭よりも価値があるのか? あのような真似をするくらいならばさっさと家督を信長殿に譲り、隠居すべきではないか! 

 父上は自分がおらねば弾正忠家が(つい)えると思っているようじゃが、今は父上こそが弾正忠家を潰す害悪よ!」


信長 「お、おぉ。随分と意気込んでおるのぉ」


信光 「当たり前じゃ! 信行殿もそれを止めようとせず、ただただ言いなりになっておるわ! いや、まぁ彼はまだ若いから仕方ないかもしれんが、問題はその家臣どもよ! 林佐渡殿の前では言いたくはないが、林美作や柴田も兄上を止めようともせんのだぞ!」


林 「あ、某はすでにあやつとは袂を分ちました故。某のことはお気になさらずとも結構にございますぞ」


信広 「む。左様か? ならば言わせてもらうが、お主らはあ奴らが何を考えておるか知っておるか? なんでも、一度『うつけ』と名高い信長殿に家を継がせ、父上が作った証文やら何やらを全て信長殿に処理させる気なのだぞ! そこで信長殿が渋れば商人からの信用を失うじゃろう? 家臣や商人からの信用を失ったところで信行殿が立ち上がり、信長殿に全てを押し付ける気なのだ! 商人から借りておる銭は徳政令でなんとかするのだと抜かしておるわ!」


平手 「ほほう。なるほど。徳政令によって家臣の借り入れを失くしつつ、商人には「私ができるだけ補填する」とでも言って信用を得ようとしておるのですな? わからんでもないですが、商人は馬鹿ではござらん。その程度の浅知恵では騙されませぬし、商人と繋がりが強い若殿を討ち取って徳政令を出せば弾正忠家の信用が無くなりますぞ。 察するにこれは我々を貶めるための大和守あたりの策では?」


信広 「平手殿が申される通りよ! これは父上の散財に乗じて坂井大膳や三位が弾正忠家を貶めるために立てた策! なればこそ、これ以上病床の父上に無駄な銭を使わせてはならぬのだ!」


信長 「では父上に直接言ってはどうじゃ? 『坊主などに金を使うくらいなら弾正忠家の為に潔く死ね』と」


信光・信広「「……」」


林 「若殿の言いようは過激に過ぎますが、間違ったことは言っておりませぬ。今の大殿は正直に言って見苦しい」


平手 「ですな。病に冒されて死すのが怖いのは誰もが一緒ですが、それから逃れるために祈祷? ありえませぬ。先ほど信広様もおっしゃいましたが、その銭が有ればどれだけの事ができるかを考えてもらいたいものですな」


信長 「そうじゃな。儂としては無駄に坊主に銭をやる気がないから伊勢に寄進して朝廷の覚えを良くしようとしとるがのぉ。父上のはただ銭を投げ捨てる愚行じゃ。坊主共がどんなにありがたがっても儂らには一文の得にもならぬわ」


信光・信広「「……」」


林 「して、お二方は結局何をしに参られたので? 大殿の愚行を止めるのは若殿とて不可能ですぞ?」


平手 「ですな。止めるとすれば、大殿か、大殿の周囲の連中、特に御前様やら信行様のように大和守の周囲の連中に唆されてる連中が死なぬ限りはこの愚行は止まらぬでしょう。まさか依頼されて祈祷しているだけの坊主を殺すわけにもいきませぬ故」


信長 「爺の言うとおりよ。せめて『もはや生を諦めたから銭を払うのをやめる。祈祷もこれ以上は結構。今までのことに篤く御礼申し上げる』と言わせてやるくらいじゃな。今のままでは父上が無様すぎるわ」


信光 「信長殿の言うことはわかる。わかるのじゃがな」


信広 「あれでも今の父上は弾正忠家の家長じゃ。それに対して『潔く死ね』などとは、とてもではないが、言えぬ」


信長 「そうかの? 儂は継承権やら何やらの問題が有るから言わんだけじゃったがな。しかしまぁ己で言わぬことを他人に言わせるのは良くないの。いっそ一度末森に行くか?」


林・平手 「「お待ちください!」」


信光 「そうじゃ! 今の信長殿が行けば信行殿を推す者共に殺されるぞ!」


信広 「左様。『うつけ』の信長殿ならいざ知らず、今の信長殿では危険視されるでしょうな」


信長 「むぅ。まともなら警戒されて、うつけなら話を聞いてもらえぬとは。なんとも不自由なことよな」


全員 「「「「……」」」」


林 「(某も若殿を軽んじていた一人であったからなんとも言えぬわ)し、して、本題なのですが」


信光 「お、おうそうであった! 儂らが来たのは貴殿が行っている伊勢への寄進に儂らの名を連ねて欲しいと思ってな。それを嘆願しにきたのじゃ!」


爺 「まさか先ほどの那古野冗談が真実となっておるとは。……大殿はどこまで堕ちるつもりなのでしょうなぁ」


信長 「情けなくて涙が出るわ」


信広 「坊主の祈祷で病が治るなら世の中の坊主に病で死ぬ者などおらぬ。儂はそのようなものに銭を使いたくはない。無論ただで名を貸してくれとは言わぬ。もし嘆願を認めてくれるのであれば、父上が亡き後の家督争いにおいて、我らは信長殿につこう」


信長・林・平手 「え?」


信光 「うむ! これは今回の兄上の祈祷の件だけではない。このままでは兄上が大きくした弾正忠家は、信行殿ごと大和守家に取り込まれ、大膳らによって差配されることとなろう。その際、連中にとって儂や信広殿は邪魔になる故、な。儂らは「信行殿が頼りなしと言うなら信長殿に頼るしかない」と思ってここまでやってきたのだが、まさか普段の『うつけ』が擬態だったとは! これはなんとも嬉しい誤算よ!」


信長・林・平手 「えぇ?」


信広 「叔父上のおっしゃるとおりですな。今の信長殿ならば、儂とて門前に馬をつなぐのに何の不満もござらぬぞ」


信長・林・平手 「えぇぇ?」


信光 「そうよな! うむ、こうしてはおれん、これより主となる信長殿に儂らが役に立つところを見せねばなるまい!」


信長・林・平手 「あ、いや、別にそんなことは」


信広 「そうですな! では儂と叔父上で協力して信長の味方を増やしましょうぞ! あぁ、なに、信長殿は案ずる必要はござらん。察するに、これまで信長殿が『うつけ』を演じていたのは、治部や蝮を欺くためでござろう?」


信長 「ま、まぁ、そうじゃな」


信光 「ふっふっふっ。この儂もまんまと騙されておりました。見事な擬態にござる!」


信広 「まったくです。しかしその擬態を崩さぬままに味方を増やすとなると、やはり伊勢への寄進でしょう。これを佐渡殿と平手殿の策とし、他の者共の名も連ねることを許せば、父上に寄進を求められている者たちの大半が信長殿につきますぞ!」


林 「い、いや、その必要は……」


光 「ん? あぁ、佐渡は主君を差し置いて名声を得るのは良くないと考えておるのか? 流石は筆頭家老。見事な忠義じゃが今回は信長殿の為に我慢せよ。家臣の功は主君の功。いずれ全てが明らかになれば信長殿の名も上がるのじゃからな」


平手 「こ、今回の件については林殿に譲りましょう。今更この老いぼれに功など要りませぬからな!」


林 「平手殿!?」


信広 「ハッハッハッ! 流石は平手殿。見事な忠義ですな! 儂もあやかりたいものです。では信長殿、早速仕事に取り掛かるゆえ、伊勢神宮への寄進の件、何卒よろしくお頼み申す」


信光 「そうじゃな。今までのことも有るし、口でなんと言っても信用できまい。まずは実績をもって儂らの能力と忠義を見てもらうとしましょう。ではこれにて失礼!」


信長・林・平手「え、いや、ちょっと」


信広 「叔父上、これはまさしく一刻を争う大事にございます。急いで動きましょうぞ!」


信光 「おうともよ!」


信長・林・平手 「「「えぇぇぇぇぇ」」」




~~~~




「なるほどな。要するに向こうに怒涛の勢いで流されたというわけか」


「はい。端的に言えばそうなります」


まぁ仕方あるまいよ。信長は賢いがまだ十三歳だ。どうしても経験不足だし、基本的に人間というのは経験してないことには対応できないものだ。本来であればそこを補佐するのが林のオッサンと平手の爺様の仕事なんだが、今回は主の一族が相手だし、向こうに悪意がないからなぁ。


一門の場合に限らず、一度でも敵に回った場合は殺すこともできるが、戦う前から「味方になる」と言ってきたのだから、なおさら対処に困ったんだろうよ。


もしも向こうから「味方になる」って言ってきたのを理由もなく殺してしまえば、尾張の統治はともかくその後がな。一門でさえ殺されたという情報が拡散されてしまえば、誰も降伏などしなくなってしまう。


そういった諸々の事情を気にしてしまい、三人して「どうしようか?」と思っていたら、いつの間にか話が終わってしまっていた、というわけだ。


これは向こうが上手だったと諦めるべきだろうな。


それに信長はどう考えているかわからないが、俺としては信光と信広なら助命しても問題ないと思っている。なにせ信光は信秀の弟であり、信長の叔父という立場から色々な工作に使えるし、信広は第三次安祥合戦においては太原雪斎率いる二万とも言われる大軍相手とぶつかって、何度か撤退させることに成功した実績をもつ武将だ。


一応それは「三河衆が暴走したから」だとか「策の為にわざと退いた」という説も有るが、それだって太原雪斎をして「正面から押しつぶすのが不可能。もしくは相当な犠牲が出る」と判断させるだけの実力があればこそ。


つまり彼の将としての能力は、現時点で織田弾正忠家の中ではトップクラスと言っても過言ではない。


第二次小豆坂で負けた? 策を読まれて負けたのは信秀であって信広ではない。あの戦では信広は先陣の一部隊長でしかなかったんだからな。


その後の第四次安祥城防衛戦で雪斎に捕まった事が声高に言われているが、あの戦は尾張からの援軍が無い中での籠城戦だ。そりゃぁ負けるさ。


だけどまさか当主である信秀の判断ミスを指摘するわけにもいかないから、彼が割を食ったのだろう。


それに彼の扱いは微妙なんだよなぁ。長男だったにも関わらず継承権がなかったことと言い、三河安祥に配備されたことといい、どう考えてもおかしいんだよな。だって信長と一〇以上離れてるんだぞ? ならば母親の身分がどうこうではなく、信長が生まれる前は彼が後継ぎでなければおかしいんだ。


尾張の城ではなく三河の安祥城を預けられてたというものな。確かに扱いとしてはかなりの重臣扱いなんだが、長男を配備するなら尾張国内の鳴海や刈屋に配置するのが普通じゃないのか? それなのに最前線中の最前線って、なんか「さっさと殺してしまえ」って感じがあるんだよなぁ。


結局のところ信秀が彼を信用していたのか殺したかったのかは不明だが、少なくとも信広が信秀に対して鬱屈した感情を持っているのは確かだ。


結局信秀は、信長にとっても信行にとっても、争いの種を残して逝く糞親父であると同時に、信広にとっても糞親父なんだよな。


終わり良ければ全て良しという言葉があるが、信秀の人生は晩節を穢しまくっている。つまり『全て悪し』だ。


まったく信秀は何を考えているんだろうねぇ。あぁいや、これから死ぬやつはどうでも良いか。


肝心なのは信広の能力だ。特に太原雪斎が率いる二万とも言われる軍勢と戦った経験が有るのは大きい。もし今の段階で信長に味方すると言うなら、彼は生かすべき人材だろう。


人を育てるのも重要だが、そもそも二万の兵と戦って生き延びた経験は、いくら金を積んでも得られないものだからな。


問題は彼らが味方にするつもりの連中にある。


現在信秀がどれだけの配下に寄進を依頼しているかにもよるが、普通に考えれば治る見込みのない祈祷の為に坊主へ寄進するくらいなら、他に使いたいだろうさ。


そこで、元々伊勢への寄進を考えていた次期当主である信長を担ぎ上げ「信長は弾正忠家の皆を代表して伊勢に寄進した」という形にしたのは見事という他ない。


そうすることで連中は金を払うことなく伊勢への寄進に名を連ねることもできるし、家臣や一門としても筋を通したことになる。そして信長は名を連ねた連中を自派閥に組み込めるという寸法だ。


ついでに最初に信長に従うことを宣言した二人は信長からの覚えが良くなり、他の口説いた国人たちにも貸しを作れる。


うむ。信長・信広・信光・そして国人の誰もが得をする素晴らしい策だ。


……信長が国人や一門の抹殺を考えてなければ、な。


今回は奴らのせいで粛清できる一門や国人がかなり減る事になるだろう。当初の予定通り戦には参加させないが、今後の粛清を考えると困ったことになるのは確かだ。


おそらくあそこで頭を抱えている三人は、それを悩んでいるのだろう。


だが現時点でそんなに深く考えるまでもないぞ? なぜなら今回信長に付く連中は、寄進の支払いから逃れるために信長を利用しようとしているだけで、本心から信長に忠誠を誓ったわけではないんだからな。


今後何か有ればすぐに裏切るだろうし、裏切ったらそれを理由に、裏切り者を仲介してきた信光やら信広の権勢を削げば良いだけの話。


それに尾張を統一する過程で信広以外の将にも数千の兵を率いる経験をさせる事ができるからな。そうなれば信広の価値はさらに下がる事に成るだろう。そもそもの話なんだが、別に一門衆の全てを問答無用で殺さねばならないわけでもないからな。


信行以外は10歳以下の子供だしな。信長が生かしたいと思えば生かしても良いんやで?


うむ。とりあえず信長にはその辺を示唆してやろう。

そうすれば現状で特に悩むこともあるまいよ。





―――




「本当かや? 儂らが勝手に奴らを生かしたことで、吉弘殿に折檻されたりはせんのじゃな!?」


「「誠ですな!? 武士に二言はありませぬぞっ!」」


三人が三人とも、今後のことより、俺に折檻されるのを恐れていた件について。……いや、なんだかんだ言っても相手は主君の一門だぞ? それを撫で斬り以外許さないって。鬼か? 人をなんだと思っているのか。


しかも林のオッサンや平手の爺様は「武士は犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つことが本にて候」と言う名セリフを知らんらしいな。


武士の嘘は武略だぞ? 武士には二言だろうが三言だろうが有るに決まっているだろうが。


いやはや、信長の側近がそんな甘い考えを持っているようではいかんよなぁ。

ククク。これはしっかりと、念入りに矯正せねばなるまいて。


「千寿。それは私がいないところでやってね?」


「あ、はい」


台本形式ってこんな感じでしたっけ?


弾正忠家がどうとかではなく、坂井とかの風下につきたくないと言うのもあるし、コレで信長が勝てば重臣ですからね。信長が負けたら負けたで適当な言い訳すれば言いやって思ってた模様。


信広=サンはなぁ。桶狭間が絶体絶命とすれば、大原雪斎が率いる大軍と戦ったこの人は一体…ってお話。

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