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25話。ノッブ、大体の方針を決めるの巻

まだまだ会議中

とりあえず姫様による物資の発注は留めたので、集める兵等の調整が必要になるわけなんだが。


「適量としては信長殿は三百程度で良いでしょう。後は平手殿と林殿がそれぞれ二百。合計で七百もいればそれなりに戦えますからね。いやはや、前回の百人を集めての行軍訓練が早速役に立ちましたな」


「お、おぉ! そうじゃな! 七百とて今の儂には十分じゃよ!」


五千の兵を指揮しろと言われるかと思って戦々恐々としていた信長が食い気味に賛同してきた。実際今の段階では五百がやっとだろうしな。それに今回の戦は俺たちの戦ではなく信長の戦。ならば出しゃばるのは無粋と言うものだ。流石に百の次にいきなり三百と言われた馬廻りたちは大変だろうが、そっちのフォローは俺がしてやればいい。信長のフォローは姫様に任せよう。


そう思って姫様をチラりと見れば、姫様はわかってると謂うように頷いてくれた。うむ、言わずともわかってくれてるな。先ほどの策といい、流石は姫様。立派になられたものだ。


(もう、千寿ったら、何日か会わなかっただけなのにあんなに私を見て。ヤるのは家に帰ってからっていってるじゃない。まぁそんなところも良いんだけど……あ、いや、ダメよ! 今は戦準備の最中なんだから集中しないと! まったく、こんなんじゃ安心して側室も探せないわよ。もうっ、しょうがないんだからっ!)


「……なんか噛み合っておらん気がするのは儂だけかの?」


「気のせいね」

「気のせいだな」


まったくお子様が何を言ってるのやら。俺と姫様は一心同体だぞ? それにさっきの策だって信長と言う特殊な状況でもない限りは間違ってはいないんだ。


家督を継いだばかりでも一万の兵を集めてそれを運用できるとなれば、今後信長を侮るやつは居なくなるだろう。本来ならそれでいいんだからな。


だが今は周囲に侮ってもらわないと困るという事情があるというだけの話。


信秀の阿呆のせいでどこまでも祟られるのは面白くないから、初撃で土田御前は確実に死んでもらうぞ。信行は、まぁ、能力次第だな。


信長の二歳下だからまだ十一歳だし、責任を問うのもな。問題なのはあれを煽る周囲の連中だし。……優秀なら殺さねばならんが、お行儀が良いだけの阿呆なら一度は助けるように助言しておこうか。


もしも助けたあとで調子に乗ったり、もう一度謀叛を起こすようなら? それで一門の粛清は完了だ。一度許した以上は処分しても問題ない。


「恐らく相手は千五百は集めてくるはずだ。そうなれば七百対千五百となる。選り取りみどり、だな」


もしもこの状況で新たに信長に味方しようとする奴が居たら、そいつはそれなりに信用しても良いだろう。とは言え戦闘が始まった途端に寝返ろうとする可能性も有るから、今回の戦では「味方をする」と宣言したやつも使う気はない。


下手に勝ち戦に加えてしまえば味方したやつに褒美をやらないといけないし、倍の敵に勝ったら調子に乗って乱暴狼藉に走りそうだし。


いや、戦国時代において乱暴狼藉は勝者の特権ではあるが、同じ尾張の民だ。結局は信長が金を使って復興させることになるから、無駄な出費は抑えたい。


うむ。下手に動かれる前に「織田弾正忠家の家督争いに巻き込むつもりはない。戦の規模を大きくしないためにも尾張のことを思うなら動くな」とでも言っておくか? これなら勝手に勝ち馬に乗ろうとして動いた連中も処罰できるし、その後ろにいるであろう大和守家も連帯責任(この場合は管理責任か?)で処分できる。


大まかなところはこれくらいでいいか。残りは軍備に関してだが。


「ねぇ信長、信長は鉄砲を集める気はないの? 前に千寿の射撃を見て喜んでいたじゃない?」


おっふ。姫様が地雷を薦めようとしておられる。いや、地雷なら歩兵相手にかなりの効力を持つから良いんだが、流石に鉄砲はいかんですよ。


「ん? 確かに吉弘殿の腕は見事じゃが、あれくらいなら弓の方がよかろ?」


お、おぉ。まさか信長が鉄砲を否定するとは。


内心で驚く俺を尻目に姫様とお子様の会話は続く。


「そうなの? 確かに当てるのは難しいし、火薬の匂いとか煙が邪魔だけど、音っていう意味ではかなりのものよ?」


「うむ、それは認めるがのぉ。結局「音だけでは死なない」と分かれば効果が無くなるのじゃよ。あれは百丁以上の数で撃つことで初めて音と殺しを両立できるものとみた。しかし流石に自前であれを百丁なんか揃えたら銭が無くなるわな。っていうか全然足りないし。それだけの銭が有れば尾張を栄えさせる為に使わんといかんじゃろ。そうせねば爺や林だって儂に刃を向けてくるじゃろうて」


しみじみと語る様子を見て二人の考えは分かった。姫様は音響兵器として鉄砲を評価しているのか。確かに大筒も最初はそんな感じだしな。でもって、信長も音響の効果は認めているものの、運用方法が難しいのと数が揃えられないのと維持費がかかることを理解してるから、どうしても購入には踏み切れないというわけだ。


正徳寺で斎藤道三と会見した際に数百丁の鉄砲が有ったというが、明らかに嘘だもんな。誰がどう考えても金が足りん。


津島が有ればそのくらい大丈夫と言いたいところだが、実際は無理だ。津島は伊勢の津や堺、博多や敦賀と比べたらただの港町だぞ? 駿河だって港は有るし、戦続きの尾張とは元々の都市の規模が違う。今川とかの場合は、関わりのある連中に対する利益配分があるから財を独占できないし、所領が広い分それぞれに維持費がかかっているからそれほどの収入ではないと思われているだけで、実際のところ今川家に納めている金額は津島より上だろう。


そして一丁が千貫と言われた初期の種子島(実際は弾や整備道具をいれて二百貫くらい)だが、現在の信長がこれを百丁揃えたら間違いなく織田弾正忠家が滅ぶ。なにせこの鉄砲、撃つまで遅い、撃っても当たらない、そして当たっても死なないの三拍子揃った欠陥武器だ。


現状ではどんなに熟練した人間でも準備に最低三〇秒ほどかかるし、有効射程と言われる一町(およそ100メートル)で撃っても、弾丸が丸いため貫通力に乏しく、頭以外に当たっても即死しない。一応安い鎧は貫通するが、鎖帷子は貫通しないし、鎧と鎧下の間に湿った布でも有れば、衝撃すら完全に遮断される。それでもまともな防具も何もない農民なら殺せるかもしれないが、大金を投じて農民を百人殺して嬉しいか? という話になる。


流石に長篠のように数千丁も有れば弾幕で殺せるのかもしれないが、それも死体を盾にした突貫で突破された程度の攻撃力しかない。もう少し後に開発された銃ならともかく、結局、現在の鉄砲は音響兵器か狙撃に向いた武器でしかないのだ。そんな欠陥武器を揃えるために銭なんか使ってみろ。平手や林でなくても切れるだろう。


わかりやすく言うなら「先進国で大国のイギリスの開発した武器だから大丈夫だ!」と言ってろくに調べもしないで、国家予算でパンジャンドラムを大量に買うようなもんだ。そんなことをしたら間違いなく内閣総辞職案件だろう。


いや、パンジャンが百あったら敵味方全滅させることはできそうだけどな。

……パンジャンはともかくとして、だ。


予算の関係上、正徳寺の時点で信長が効果不明な鉄砲を数百丁抱えているなんてことは有り得ない。それにその後もな。裏切り者である山口親子を殺すための戦(赤塚の合戦)でも、信行との戦(稲生の合戦)でも、信長は鉄砲を使っていないのだ。


特に稲生の合戦は本陣まで柴田勝家が攻め込んできたにもかかわらず、である。 秘密兵器を使わないなんてありえないだろう。


一応柴田に対しては「大声でどうこうした」という話もあるから、それが鉄砲の一斉射撃の音だっという意見もあるみたいだが、それにしては柴田方で死者が少なすぎる。つまり当時の信長には鉄砲が無い。もしくは十分な弾薬が用意できなかったと見て良いだろう。


「とりあえず鉄砲を正しく使うには数か熟練の技が必要じゃし、技量を鍛える時間も無ければ数を揃える銭も無い。故に鉄砲は集めぬし使わぬよ」


そう言って信長は話を纏めた。


うむ、その通りだ。どんな弱者でも相手を殺せるというのが銃という武器の利点だが、現状ではかなり使い手を選ぶ武器でもある。それを兵卒にもたせるなんてとんでもない。


ちなみに俺も鉄砲の技術は学んでいるが、そうそう使う気は無い。なにせ俺クラスの武将になれば暗殺や狙撃をするなら弓の方が早いし、銭もかからないからな。流石に知らないと対処ができないし、信長の興味を惹く為に持っていたが、実際に使うとなるとなぁ。


興味を惹いた結果、早いうちから種子島至上主義から脱却できたのは間違いなく良いことなのだが、はてさて長篠はどうするか。いや、まぁその時期なら数を揃えることもできるだろうから、別に気にしなくて良いか。


「ま、信長がそう言うなら良いわよ。私だって別にあれを使いたいわけでもないし。あくまであれの音に驚いて兵が逃げてくれれば、無駄に農民を殺さなくて済むかなぁって思っただけだしね」


「あぁ、なるほど。そう言われればそうかもしれんの。流石は姫様。儂とは着眼点が違うわな」


なるほど。農民対策か。そう言えば姫様は最初から音響兵器って言ってたもんな。


出鼻を挫ければそれで良いと割り切るのも正しい判断ではあるが、だが今の弾正忠家の内情だとそれだけの為に鉄砲を揃えるのはやはり無理だろう。


なにせ出鼻を挫いた後が続かんからな。俺が行けば鉄砲の意味がないし、他の馬廻りもまだ未熟。鉄砲の一斉射撃を聞けばこっちの兵士だって動きが止まるし、そもそも敵も味方も知り合いだから馴れ合いになる。


そうならないように徹底的に洗脳、もとい教育を施す必要があるが、果たして間に合うかどうか。


教育には時間が必要だが、今は時間をかければかけるほど信秀が弾正忠家の予算を使い込むからな。いや、それとも信秀はすでに死んでるか意識不明の状態で、土田御前が坊主に祈祷をさせている可能性もあるか? そうすることで自分は本気で信秀の身を案じていたと言うアリバイ作りもできるしな。


ふむ。尾張の虎と呼ばれた信秀が、晩年にここまで無駄なことに金を使うことも考え辛いっちゃ考え辛い、か?


むしろそっちの方に話を持っていけばどうなる? そうすれば信長にとって土田御前は守るべき母親ではなく、父親を殺して弾正忠家を危うくした女狐って感じにできるし、信秀も晩節を穢したことにはならんだろう。それにこの方が周囲を納得させやすいってのもある。


扱いとしては、莫大な予算を坊主どもへの寄進に使い、豊臣家を滅ぼす一因を作ったとされる茶々と一緒だな。


そのへんの話は林のオッサンや平手の爺様の帰還を待つことになるだろう。軍備の話もあるし準備はしておいても良いが、筆頭家老と次席家老にも仕事を残さんとな。


そうなると次は戦に勝ったあとの話になるんだが……これも二人が戻ってからにするか。


「とりあえず今日はこれまでだな。実際に戦をするのは信秀殿の死後だし、準備は早いに越したことはないが、あまりにも早いと違和感が出る。この辺の調整も林殿や平手殿と協力して行うとしよう」


「そんなこと言って……本当は早く家に帰りたいんでしょ? まったく千寿ったら仕方ないんだから!(まぁそうね。実際に弾正忠家に仕えた人間にしかわからないこともあるだろうし、引き込まなきゃいけない人間とかがいるなら殺す前に聞いておかないと駄目よね)」


「……姫様や、おそらくじゃが、心の内と外が逆転しとるぞ(ぐぬぬ!見せつけおってからにぃ!)」


感想にもありましたが、信長の鉄砲はかなり怪しいです。基本的に新しいもの好きなノッブが鉄砲を揃えてたら使いますよね?この時期に数百の鉄砲の一斉射撃をくらったら敵陣は崩壊しますし、まともな戦にはならないでしょう。しかもこの時期に数百あったら、斎藤道三亡き後の美濃を攻略するのに10年(桶狭間から6~7年)かかりますかね?鉄砲千丁は超えるでしょ?ついでに言えば信長の鉄砲云々が出てくるのは美濃を落としてから(上洛してから)ですからね。そういう記載が一切無いってことは…多分鉄砲が無かったんじゃない?ってお話

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― 新着の感想 ―
[一言] そらねー、テッポに関しては史実のノッブ、関(誰でも知ってる鍛治の町)で作らせてたぽいしねー (現代でも鍛治で有名なのは堺と土佐と新潟三条かなーあ、あとSATUMAか
[気になる点] ここまで読みましたが面白いですね!! でもパンジャンドラムなんて知っている人の方が少ないんじゃw
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