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23話。姫様、間違えるの巻

千寿君視点。段取り八分って言いますからね。

「急げ急げ! 敵は待ってくれんぞ!」


「「「はっ!」」」


佐久間と交代する形で那古野に戻ったらなんか戦支度をしようとしてる件について。


「おぉ吉弘殿! 戻ったかや。面倒をかけてすまんの! 恒興もご苦労じゃった!」


「ハッ! ただいま戻りました!」


書類仕事をしながら俺達を労う信長と、その言葉を受けて嬉しそうにする恒興。いや、労いは労いで受けるが、この戦支度はなんぞ?


いや、まだ兵を集めてはいないようだな。 で、とりあえず堀田から矢銭の提供を受けて、兵糧や装備品を整えようとしてる段階なのか。


「お疲れ様千寿。それで、状況はわかっているかしら?」


疑問に思っていると、信長と一緒に書類仕事をしていた姫様が俺を労ってくれる。

うむ。働いてる姫様も良いよな。でもってなんか楽しそうだし。 

あれか? 老害と化した信秀を仕留めようとしてるのか? それとも大友宗麟の血が騒いで坊主を殺したくなったとか?


姫様はキリスト狂にならなくても坊主は嫌いなのかね? いや、畿内を巡ってる時から仏に祈って救われた奴なんぞ見たこともないから、宗教に対する不信感が強いのは知っていたけどさ。


そもそも釈迦の教えは解脱が目的であって、病気を治したり祈祷で雨を降らせることでもなければ座で金を稼ぐことでも無いからな。それが何故高利貸しになるのやら。


不浄を清めるとか言って自分等に全財産を寄付させようとする連中はこの頃は当たり前に居たんだよなぁ。


雨後の筍が如く新しい宗派ができては内部抗争で弾きだされる業界だしな。さらに坊主同士で「あの宗派は許さん!」だの「あれこそ仏敵だ!」だのと言う連中が後を絶たん。いや、仏の敵は貴様らだろうが。何が「欲からの解脱」だ、腐れ坊主どもが。


逆サ磔にして門前に飾るぞゴルァ! とかよく言ってたからな。

……あれ?もしかして姫様が坊主を嫌いなのって俺のせいか?


まぁ今更どうでもいいか。


所詮連中は霊感商法の詐欺師だし。是非嫌って貰おうじゃないか。


天国? 地獄? 民にとって戦国乱世以上の地獄なんか有るのか? その地獄を終わらせる為に坊主を殺すのが必要なら、なんぼでも殺したるわ。


宗教なんてなぁ! 曹洞宗だけ有れば良いんじゃ!(極端)


とまぁ、宗教論戦は後にするとして、だ。


「一応は。弾正忠の頭がおかしくなって、祈祷に予算を使っているんですよね? それで祈祷料を信長殿にも納めるように言ってきたから、それを名目にして津島から矢銭を提供してもらい、軍備に充てようとしている。と言った状況かと推察しますが如何?」


「流石千寿、話が早いわね」


やはりそうか。信秀の晩年は完全に老害だからなぁ。


無駄に子供を作って、無駄に弾正忠家の金を散財して、無駄に城造って、無駄に敵も作る。まさしく老害。 黙って那古野に入って信長の教育してろよ。なんで古渡だの末森だのに行くんだよ。そんなんだから葬式も信長が喪主になれなかったんだよ。そりゃ家督争いが起きるよ。


なんたって葬式の喪主は後継者がやるもんだからな。


……いや、もしかしたら晩年の信秀はうつけの信長よりも、家臣に担ぎ上げられた信行に家督を継がせようとしていた? 少なくとも家臣から見向きもされてない信長よりは、家臣に担がれている信行の方がましではあるよな。


担ぎ上げられたふりをして家臣を操る方法や、津島と熱田に関する引き継ぎをしていた可能性も有るには有る。


何せ史実でも信秀は信長に一切そう言うことを教えていないからな。それで親父に裏切られたことを知った信長が、葬式で怒り狂って抹香を投げつけた? 


てっきり坊主どもに対する怒りや、敵を作りまくって何一つ問題を解決しないままに死んだ親父に対する怒りかと思ったが、その線もなくはないのか。


だが信長は何だかんだで親父を尊敬していたって話も有ったような? いや、まぁ口で言うだけなら無料だし、合理的な信長なら家臣団を纏めることや将来の家督の事を考えれば、親に対する孝行の気持ちくらい有った方が良いって判断をしたのかもしれん。


それもこれも結局は信秀の行状次第だけどな。


極限まで好意的に考えるなら、奴は信行に信長を支えさせるために教育していたのかも知れない。その結果、信行や周囲が勘違いした可能性も有る。


それなら信長にとっては信秀は味方だから、抹香は坊主に対する怒りだろう。結局は霊感商法に騙された親父に対する怒りは有っただろうが、な。


結局向こうの世界の信秀が何を考えていたかはわからんが、ここの信秀に関しては完全に老害だよ。行動の全てが信長の邪魔をしている。


だからこそ津島に金を出させたのは大きい。連中だって死ぬ寸前の老害が坊主に銭を払う為に金を集めているということは知っているんだからな。


矢銭だ何だと普通にむしり取られている印象があるが、あれだって税の一種だし、本来は治安維持だの様々な権利の確保の為に使ってもらうために差し出しているものだ。


だからこそ商人たちだって、死にかけた信秀に金を払うくらいなら、信長に金を払うさ。何故か? 少なくとも信長は津島の商人の邪魔はしないとわかってるし、大和守とかが津島を管理するようになれば、確実に搾り取られて衰退することになるからだ。


で、津島は今後末森から派遣されるであろう使者に何を言われても「既に次期当主である信長に支払った」と堂々と言える。こうなれば今後は末森に一切支払うことはないだろう。信長はある意味で風よけとして使われることになるが、津島からの評価は上がるだろうさ。


「とりあえず今のところ津島が出してきた矢銭は二千貫ね。そして堀田殿からは何時も通りの支払いを約束されているわ」


そう言いながら書状をこちらに回してくる。そしてざっと確認してみれば成る程。現金ではないが、確かに二千貫の手形と堀田からの支払いは別になっている。


「うむ! そこで吉弘殿が来るのを待ってたのじゃよ! なにせ兵糧やら軍備を整えようにも、兵の総数や期間を定めねばどこまで準備して良いかわからんじゃろ? 流石に京から爺や林が戻ってくるのをアホみたいに待つわけにもいかんしの!」


「確かにそうだな」


信長はそう言うが、実際は軍費を集めた時点で戦支度におけるこいつの仕事は終わってるんだよな。確かに規模や期間の問題は総大将が決めるべき案件では有るが、それだって元手が有れば何とでもなる。


現場にしてみたら一番面倒な金を片付けて貰えたのは非常にありがたいことだぞ? 平手の爺様だってここまで下準備が終わっているのを知れば「若殿はここまでで十分ですぞ! あとは余計なことに金を使わないで時期を待って下され!」とでも言った後に手放しで褒めるだろうさ。


とはいえ信長の性格上、黙ってもいられんか。


「とりあえず今の段階で兵を集めるのはやめておこうか」


「む?」


「兵を集める前に、五百貫程を伊勢神宮に寄進して、祈祷をしてもらうように手配をしたほうがいいだろう」


信秀が死ぬ前に兵を集めれば、今川や蝮に狙いがバレる可能性が有るからな。まずは別方向の穴を埋めるべきだ。


「ほぇ?」


俺の言葉に首を傾げる信長。何故病が治るわけでもないのに寄進を、それも伊勢神宮なんかにするんだ? って感じだな。


「伊勢神宮? ……あぁ、なるほど」


呆ける信長とは違い、姫様はきちんと意図を理解してくれたようだ。


「むむ。姫様? どう言うことかの?」


信長は首を傾げながら姫様に確認を取るが、どうやら本気でわからないらしい。姫様がチラッと俺の方を見たので頷いておく。


姫様がきちんと理解できてるかどうかの確認と、俺が気付いていない何かを見つけている可能性も有るからな。


俺の思うところを理解したのか、姫様は信長の顔の前に人差し指を立てながら説明をする。


「まず一つ目。内心はどうあれ、津島は寄進の為に銭を出したんだから、寄進はしないと駄目よ」


そう。名目上は寄進の為に金を集めた以上、寄進しないと横領になるからな。馬鹿正直に全額寄進する必要はないが、きちんと支払う必要がある。


「あ、あぁ。それはそうじゃな」


商業に理解を示す信長は契約に関してはしっかりしているから、基本的に約束は破らないんだよ。浅井とか朝倉? あれは向こうが和平を破棄したケースだな。


「二つ目。寄進をしないと信長が親不孝だの何だのと言われて周囲の評価を落とすことになるわ。だから寄進は必要なのね。そして寄進先が伊勢神宮なら長島や地元の坊主に銭が回らないし、周囲も納得するわ」


うむ。これもその通り。この時代、比叡山や伊勢神宮を知らない奴なんかいないからな。うつけの評価は構わんがそれ以外の評価は高い方が良い。


そして伊勢神宮に祈祷を依頼したと言えば親不孝とはいわれないだろう。


当然、地元の坊主は面白くないだろうが、長島だのなんだのに金をやる必要もないし。ちなみに熱田の場合は既に金を積まれて頼まれてるはずだから、わざわざ依頼する必要はない。


「ふむ。敵を増やす分にはかまわんが、儂が親不孝をしたと言う理由で廃嫡されては意味がないからの。それにそのような口実が無くとも周囲は皆敵じゃ。ならば無駄に不名誉な口実は与えん方が良いわな」


信長のいう通りだ。万が一とち狂った信秀に廃嫡されたら、信行との戦いやら尾張の統一の大義名分を失うからな。ちなみに『うつけ』は廃嫡の理由にはならない。何故なら周囲が『うつけ』である信長に家督を継がせようとしているからだ。信長が『うつけ』だからこそ信行が信長を諌める形で動くんだ。ある意味で『うつけ』の評判こそが向こうの大義名分とも言える。


いや、大義というほど大きくもなければ義もないが。 


それと今回の信秀の無駄遣いに対する警鐘だな。


本来なら信長が弾正忠家を継いだ後で信秀が蓄えていた財を使って軍備の拡張やら領内の整備やら家臣への報奨やらを行わなきゃ駄目なのに、蓄えた分の全額が坊主に回されたもんだから、家督相続後の政が成り立たたなくなることはほぼ確定してしまった。


つまるところ現時点でグダグダになるのが確定してる以上、誰だって継ぎたくはないのだ。信行ですら現状を知れば一度は信長にやらせたいはず。しかしこちらはすんなりと家督を継ぎたいから、お互いの望み通りではあるが、な。


とりあえずこちらとしては、とち狂った信秀に廃嫡されるような可能性は潰すべきだし、尾張の統一後に親不孝だのなんだのと言った評価は願い下げなのも事実。


この時代は中途半端に儒教が関わってるからタチが悪い。


あれは政治には要らん。


有名なところだと、武田信玄なんか親の追放の件を一生言われるからな。いや、彼はそれ以外にも色々やらかしているけどさ。


なんにせよ、悪評は少ない方が良いってことだ。悪評が『うつけ』だけなら戦で勝ったり領内を栄えさせたりすれば良いけど、親不孝は巻き返しが利かん。


「そして三つ目、地元の坊主に寄進しても喜ぶのは奴等だけなのに対して、伊勢神宮なら朝廷にも好印象を与えるわ」


「あぁ、朝廷も有ったの!」


その視点は完全に予想外だったのだろう。普通に驚いている。


本来朝廷とは尾張の田舎者が「ついで」扱いできるようなものでもないが……いや、田舎だからこそ、か。


それを言ったら、そもそも尾張の片田舎の田舎侍の分際で、家督争いの最中に勝った後の名声やら朝廷の評価を気にする方がおかしいのかもしれんが、今回は確実に勝てるからな。


ならば後のことを考えねばなるまいよ。


「まぁ私からはこんなところかな。千寿は何か補足はあるかしら?」


「ん?」


あれ? おしまい? 俺はあのこと姫様に説明してなかったっけ?


「「………」」


うーむ。と唸りながら首を捻る俺を見て、姫様と信長も今の説明に何か抜けが有ると感じたようで頑張って考えているが、どうやら思い付かないようだ。


ここで引っ張っても仕方ない。答え合わせといこうかね。


「近々お客さんが来るでしょう? まだ尾張に入れるわけにはいきませんから、暫くは伊勢に滞在してもらわないと困ることになります。その分の滞在費という意味合いもありますね」


実際それは寄進とは別に支払うんだが、それでも「五百貫支払いました!」よりは「総額で伊勢に千貫支払いました!」の方が耳触りが良かろうて。


「「あっ!」」


俺の言葉を聞いて二人は「忘れてた!」と言う顔をする。うむ。なんというか、まだ出会って一年にもならないのに仲良いよな? あれか? 南蛮かぶれとキリスト狂だから何か引き合うものが有るのか?


いや、どうでもいいか。今は久方ぶりの戦支度に専念しよう。


「さて。理解できたなら動こうか?」


「お、おうよ!」


「いい返事だ。姫様?」


「はい。確認よろしく」


「かしこまりました」


姫様が処理した書類を確認していくと、どうしても違和感を感じる。いや、やってることは間違ってない。予算と購入する兵糧のバランスも問題ない。装備品も……あぁ、そうか。


「姫様? 一つ確認しておきたいのですが?」


違和感の正体に気付いた俺は即座に指摘することを決意する。何せこれは放置したら洒落にならない損害が生まれるからな。


「ん? 何かしら?」


俺の様子に尋常じゃないものを感じ取ったのか、居住まいを糺す姫様。うん数日振りに会うけど、やっぱりウチの奥さんは綺麗だな。


「「……」」


「……ごほんごほん。夫婦で見詰め合うのは結構じゃが、そういうのは家でやってくれんかのぉ?」


「「ちっ!」」


わざとらしい咳払いで俺達のコミュニケーションを邪魔してくる信長に、殺意、抱かずにはいられない!


「ひぃ!? 理不尽じゃないかのぉ!」


理不尽? 知るか! 馬に蹴られて死ぬ前に、俺が物理的に地獄に堕としてくれるわっ!


「あぁ千寿。とりあえず続きは家でヤるとして、何か私に聞きたいことが有ったんじゃないの?」


「むっ」


信長の尊厳を仕留めようとしたら姫様に止められたでござる。いや、まぁそうだな。公私混同はいかんよな。


「くそぅ。見せつけおってからに……」


「ふふ~ん」


助けてもらっておきながら不満タラタラな信長と、それを見て勝ち誇った顔をする姫様。さっきまで仲良さげだったのに、いきなり悪くなったな。


あれか、お子様のくせに独り身の辛さが身に染みたか? お子様には三年早いぞ。


それはそれとして、だ。早く家に帰るためにも、さっさと仕事を終わらせるとしようか。


「それで姫様、姫様は此度の戦でどれだけ兵を集める予定ですか?」


「え? とりあえず五千かな。それから近隣から人を集めて一万くらい? あ、もしかして足りなかった?」


やっぱりかー。


「い、一万、じゃと?」


自分の想像が正しかったことを知った俺がなんとなく信長の方をみてみれば、我らが雇い主である那古野城の城主様は目をまん丸に見開きながら、ハクハクと鯉のように口を開け閉めしていたのであった。












姫様、発注ミスで単位を間違える(未遂)なまじ金が有るもんだから準備出来るのが問題だったりします。


因みに信長が家督を継いだときの最初の戦は、裏切り者である山口親子の討伐で、その際に率いた兵士は八百人と言われています。


対して山口親子は今川からの支援を受けても千五百。初期の信長の戦なんてこんなもんです。


信秀は何をしたかったのやらってお話

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― 新着の感想 ―
[一言] 大友の次期当主なら 確かに最低5000 普通に一万だよねw
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