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21話。マダオ錯乱①の巻

二章に入って早々コレである。

内政してる時間?(ヾノ・∀・`)ナイナイ


この時期のノッブは本当に大変なんです。

山口親子を討ち取り、鳴海を自身の直轄領にしてから数日経ったある日のこと。那古野城の城主である織田信長は現在、不機嫌の極みに有った。


「まったく父上は何をしておるのやら」


小柄で赤い髪の毛が特徴の少女は、父である信秀から送られてきた書状を眺め、溜息を吐きながらそう独り言ちる。


そもそもこの書状は、先日、鳴海城にて山口親子を粛清し、新たな城代として佐久間信盛を配置したことを伝えたことに対する返書だ。


基本的に父の愛(と言うか家族の愛)に飢えている信長にしてみれば、それがなんであれ、父親からの書状が来たことに喜びこそすれ、呆れると言うのは非常に珍しいことだということくらいは、尾張に来て日が浅い義鎮にもわかっていた。


(んー。それほどひどい内容が書かれていたのかしら? パッと考え付くのは「死ぬ前に娘の花嫁姿が見たい」などといった妄言の類だけど、まだ若い信長の場合はそれを言われても不機嫌にはならないで、苦笑い程度で済ませるか、千寿を貸してくれ! って言ってくると思うのよね。そうじゃないってことは……なにかしら? ん? 信長が私を見ている?)


織田家指南役として信長に雇われている姫様こと義鎮は、信秀からの書状に何が書かれていたのかを想像していたのだが、ふと気付けば信長が自分をじっと見上げているではないか。


(あ~指南役とはいえ流石に当主からの書状を妄言とか思うのはさすかに不謹慎だったかな? 信長って意外と鋭いからなぁ。ここは、さっさと謝った方が良いかしら?)


「のぉ、姫様や」


「はい?」


「病と言うのは坊主の祈祷で治るものなのかのぉ?」


「は?」


「いや、じゃからな。坊主どもが祈って病が治ることってあるのかや?」


「あ、怒っていたわけじゃないのね」


「いや、確かにこの書状には怒りを覚えておるが、姫様は悪くなかろ?」


「いや、まあそうなんだけどさ」


(危ない危ない。自爆するところだったわ。信長はあくまで書状の内容について考えていたのね。そしてその中に、坊主による祈祷の話があったって感じなのかしら。……んー。正直質問の意図がよく分からないんだけど、聞かれた以上は答えるべきよね)


「そんなの有り得ないわよ。もしそうなら典薬寮(律令制により制定された機関で、宮内省に属する医療・調薬を担当する部署)なんか要らないし、病で死ぬ坊主も帝も存在しなくなるわよ」


昔はそれなりに坊主の説法や祈祷などの効果を信じていた義鎮だが、今はそこまで盲目的に信じてはいない。


「千寿が言うには、呪いは有るかもしれないし、祈祷も気を楽にする程度の効果は有るかもしれないそうよ。だけどそれはあくまで気を紛らわせる程度。病に蝕まれた身は治療できないわ。もっと言えば、帝が病に倒れたときは国中の坊主が祈祷をするけど、それで「病が治った」なんて、聞いたこともないわね」


義鎮が「祈祷に効果はない」と断言すれば、信長も「じゃよなぁ」と再度溜息を吐きながら書状へと目を向けた。


(重症ねぇ。一体何が書かれているのやら)


真剣な表情を浮かべながら書状を凝視している信長の様子を見て、義鎮は書状の内容について考えを巡らせるのであった。


―――


ま、結局のところ、なにが書かれているにせよ書状を見ない事には何とも言えないんだけどね。


さすがに家族からの書状を盗み見るわけにもいかないし、いくら身内があれであっても、部外者の私が問われもしないのに口を出すのは色々と違うわよね。


千寿なら「やかましい」って言ってさっさと書状を強奪するんだろうけど、あれはあれで私たちに余計な気を回すなって言う千寿なりの気遣いなのよねぇ。


そのことは信長もなんとなく分かっているみたいだから、特に問題にしようとは思ってないみたいだけどさ。


とは言え、これ見よがしに溜息ばっかり吐かれてもね。ここは私も千寿に倣うべきかしら?


「お、おぉ! そうじゃ! 姫様にも見せねばならんな!」


とりあえず一人で思い悩んでいる信長の頭を殴打しようとしたことに気が付いたのか、手元の書状を見て溜息を吐いていた信長は、やや焦ったような感じで私に書状を差し出してきた。


「……中々良い勘してるわよね。戦場ではこれが役に立つでしょうけど、なんか不完全燃焼よ。良し! とりあえず叩こう!」


「なんで!?」


あれ? 声が出たかしら? 失敗失敗姫様失敗。


でも、とりあえず叩くと決めたからには叩くわ! 


「り、理不尽過ぎるじゃろ!」


「はいはい。諦めなさいな」


「う、うぎゃぁぁぁぁ「ペシッ」……って、えぇ?」


逃げようとする信長の頭に扇子を当てると、ペシッと軽い音が出た。当然力は抑えているから、痛いと言うよりは音が出るだけの一撃よ。


いきなりの宣言と攻撃に驚愕していた信長も、予想された痛みが無くてキョトンとしているわね。


「……儂、なんで叩かれたんじゃ?」


不思議そうに首を傾げるお子様。まだまだ甘いわね。だからこのおねぇさんが教えてあげましょう。


「あのね? 主君が溜息ついたり、しょんぼりしてたら周りが困るでしょ? そういうときはさっさと相談するか、一人になって考えなさい。周囲の皆が敵だった昔はどうか知らないけど、今は違うでしょ? そもそも指南役ってのはそのための役職なんだからね」


「そ、そうじゃな! すまんかったの!」


一瞬絶句した信長だけど、すぐに笑顔になって謝罪してきた。


この素直さと明るさがこの子の魅力なんだろうけど、大丈夫。千寿はこの子をお子様としか見てないから大丈夫よ。


一瞬女として危機感を覚えるも、千寿は普通じゃないことを思い出して安堵する。


そうよね、恒興だって控えめに千寿に憧れを抱いているけど、千寿はお子様としか見てないし。たとえ夜這いとかされても、普通に兄妹みたいに一緒に寝て終わるでしょう。


千寿との子供が出来ればこんな心配はしなくて良いかもしれないけど、今子供を産んだら私も子供も危険だっていうのは私だってわかっているわ。だからこそ子作りは千寿が言うように最低限家督争いが終わってからよねぇ。


なんともうまく行かないことに、今度は私が溜息を吐きそうになる。だけど……


「姫様? どこか痛いのかや?」


書状を見ることなく俯き加減になった私を心配するお子様の声が耳に入る。


「あぁ、ごめんごめん。ちょっと考え事をしちゃってね」


流石に信長に嫉妬したとも言えないし、そもそも彼女に相談するような事でもない。


「はぁ」


たった数日千寿が居ないだけでこれなんだから、どんだけ明確な弱点なのよって話よね。まさしく惚れた弱みってやつかしら?


それはそれとして。千寿が居ないからこそ気合を入れて指南しないとね! 私は千寿のおまけじゃないんだから!


そう思って信長が手渡して来た書状を見れば、そこには明らかに常軌を逸した命令が書かれていたわ。  


「……はぁ?」


主君の前で出すような声じゃないんだろうけど、これはしょうがないわよね?


「ねぇ、信長。貴女のお父さん、何がしたいの?」


書状を見た素直な感想がこれよ。おそらく信長も同じ感じなのでしょう。


「姫様もそう思うかや? 儂にもさっぱりわからん」


やっぱりね。だけどなるほど。納得したわ。だからさっきは不機嫌になったし、私に祈祷がどうこう言い出したのね。


「んー。だけど、まさか信長のお父さんが「信長にも祈祷料を納めて欲しい」なんて言ってくるなんて想定外もいいところよねぇ」


書状の内容を要約すれば『塩で公家に銭を贈るくらい銭を稼いでいるんだろう? それなら自分にもくれ』って内容なのよね。


これって一体何が狙いなのかしら?


「普通に考えれば、父上が病で死ぬのが怖くなって坊主に祈祷を依頼しとるって話になるの。儂とて父上が銭を集めておることは知っておったが、何をしとるのか? と思えば、これ(祈祷)かよ」


そう言って信長はぷくーっと頬を膨らませているけど、これはそんなに生易しい状況じゃないわよ?


「この分だとお父さんが蓄えてた津島の銭って、相当坊主どもに流れているんじゃないかしら?」


銭が流れる先として一番厄介なのは長島だけど、祈祷のために呼ぶ坊主は長島の坊主だけじゃないわよね。沢彦とか言う臨済宗の坊主も弾正忠に頼まれれば祈祷するだろうし、銭だって持って行くでしょう。だけどやっぱり一番厄介なのが長島の一向衆よ。


これまで支払われた銭は一体どれほどのものなのかしら。


一時期散々戦をしながらも四千貫を朝廷に献金出来るだけの財力が有ったにもかかわらず、弾正忠が信長に銭の無心をするなんて尋常じゃないわ。末森に城? それはそういう名目で周囲に「銭を取られるのも仕方ない」と思わせる策で、実際は祈祷料に消えていたのよね。


一応の偽装として、多すぎる子供たちに分けるって名目で適当な館を建てて誤魔化している感じかしら。


でも、あくまで主眼は自分の為の祈祷。


……その意味を理解したとき、私の中に言いようもない不快感が生まれてきた。そしてついその元凶を口汚く罵ってしまう。


「老害がっ! その銭を軍備や政に使えばどれだけの事が出来ると思っているの! 坊主? 死んだ後の葬儀で少し包めば良いだけでしょ? 長生きする必要があると思っているなら、祈祷よりも先に毒を何とかしなさいよ!」


信長の前で父親を老害扱いするのはどうかとも思うけど、これは我慢できないわ! 坊主連中のやりようも苛々するけど、己が毒に侵されていることにすら気付かないで浪費を続ける弾正忠に対して無性に腹が立つ!


「ま、待て! 今姫様は毒と言ったか!?」


「え? もしかして信長も知らなかった、とか?」


「し、知らんぞ! なんで姫様はそれを知っておるんじゃ!?」


いや、なんでって言われてもねぇ。


「あのね? これまで散々戦に出ていて、子供もたくさん作ってた貴女のお父さんが、40代に入った途端にいきなり体調悪化して戦にも出れないくらい弱るなんておかしいと思わなかった?」


「お、おかしい?」


思っていなかったのね。 


「普通に考えれば有り得ないわ。人が衰えるのは歳だけじゃないの。歳をとっても矍鑠(かくしゃく)としている人はいる。それは平手殿を見ればわかるでしょう?」


「た、確かに!」


目を見開いて絶句しているわね。……可哀想だけど、今は現実を受け止めてもらうわよ。


「もちろん本当に急な病かもしれないし、過去に戦で負った傷が最近になって急激に悪化したという可能性も皆無ではないわ。もしくは梅毒のような違う意味の毒なのかもしれない。でも今の弾正忠家を取り巻く現状を鑑みれば、彼の病は自然な物じゃないと言い切れるわね」


「……」


何せ、今の弾正忠の周りには彼に死んでほしいと思っている者が多すぎるんですもの。大和守も信行も蝮も今川も長島も、誰も彼もが彼を邪魔だと思ってるでしょう。


「さっさと死んで家督争いを起こせ」ってね。


大和守は弾正忠の権益を奪う為に津島か熱田を狙うでしょうし、信行は家督ね。蝮はできるだけ戦力を拮抗させて塩をより安く仕入れようとするかしら。今川は先日の山口某の件で弾正忠の死を強く望んでいるはず。


だけど直接動けば弾正忠の決死の反撃を受ける口実を与える事になるから、蝮と今川は手を出しては来ない。信行陣営を煽る程度ね。


だから今回の下手人は信行と大和守の可能性が高い。連中は弾正忠が死んだら即座に動くでしょう。家督を認める代わりに津島を狙うかしら? 地形的に考えれば大和守が津島で信行が熱田の可能性は高いわ。


なにせ信行の周りには「自称古き良き武士」が多いからね。神職ならともかく、商人を厚遇するようなことはしないでしょう。


そして今回の無心。これも連中の策よね。もし信長がこの無心を断れば薄情者とされるし、銭を払えばこちらの軍備が遅れて坊主の懐を肥やすだけ。どちらにせよ関係者は誰も損をしない。信長以外はね!


「う、うむ。確かに。毒と決めつけるのはまだ早いかもしれぬが、可能性はある。……特に梅毒ッ!」


うん。そうよね。傷の悪化とかも有り得るから完全に毒とは言い切れないけど、それよりも梅毒の可能性が高いのよね。弾正忠はこの身代で20人近い子が居るくらいの性豪ですもの。ほかの病をうつされた可能性だってあるわ。


だけど重要なのは、誰が? とか、なんのために? ではない。 


弾正忠が祈祷に頼るくらい弱っていることが最大の問題よ。つまりはもうすぐ弾正忠が死ぬと言うことを見越して、彼が死んだ後にどう動くかを考えなくてはならないわ。


「信長。すぐに堀田に連絡して、津島から矢銭を集めてもらって」


「……そうか。わかったのじゃ。坊主は?」


私がそう言えば、さっきまで動揺していたのが嘘のように静かになって、底冷えがするような声を出す信長。うん修羅の顔が出てきたわね。


信長の成長は嬉しいけど今は後。


それで坊主、かぁ。信長から見たら意味のない祈祷で弾正忠家から銭を盗んでいく詐欺師でしかないから、殺したいのは分かるけどさ。


「まだ殺しちゃ駄目よ。連中は弾正忠の依頼で祈祷してるの。そこに効果の有無は関係ないわ」


殺しちゃ駄目と言った時点で不服そうな顔を見せたけど、その後の言葉を聞いて一応納得はしたみたい。


そうよ。連中は依頼を受けて銭を貰ったから祈祷をしているだけなのよ。もしもこれが典医ならば嘘や無能を指摘できるけど、坊主は駄目。なにせ向こうは祈祷すれば病が治る! と言ってるわけじゃないんだからね。(言ってるヤツが居たら殺しても良いと思うけど)


「むぅ。父上といい、周囲の連中といい、一体何をしておるのじゃ!」


私の言葉に一応納得したものの、弾正忠の周囲にいる者に対しての不満は我慢できなかったのだろう。信長はここにいない関係者全員を『うつけ共』と認定し、声を荒げる。


それはそうよね。弾正忠は自分が今までどれだけの者を殺して来たと思っているの? 自分の番になったら祈祷で助かろうとしてるって、見苦しいにも程があるわ。


所詮は老害。今までは信長の行動の隠れ蓑としてできるだけ罪を押し付ける予定だったけど、ここまでくればもう生きていることが害悪。その死を利用して動くべきよね。


一番良いのは葬儀の場で一族郎党を皆殺しにすることだけど、流石にそれをやるには人員が足りないしその後の政に支障をきたす。


粛清は葬儀の後。いえ、葬儀そのものを口実にさせる? とりあえず準備はしないとね。


「京から平手殿と林殿も呼び戻しましょうか。代わりに村井貞勝と平手汎秀を京に送って山科卿から礼法の指導を受けさせておけば向こうとの繋ぎにはなる。佐久間については、今は保留。千寿に確認を取りましょう。一応「どう転んでも家督争いは間違いなく勝てるから安心しろ」と伝えておけば妙な動きはしないと思うわ」


動く時期は千寿の判断次第になるけれど、動くとするなら早いほうがいい。油断してるところを最大戦力を以て一撃で終わらせてやるわ!


「……うむ、儂らを舐め腐った連中を撫で斬りにしてくれるわい!」



死ぬ前に祈祷したり、死んだ後に300人の坊主が来て法要したらしいけど…無駄ですよね?(実際この時代でも祈祷は効果を怪しまれてました)それと、噂では祈祷しても助からなかった理由に「弾正忠殿は殺しすぎました」とか言って信長に斬り捨てられた坊主がいるらしいですね?


そりゃ斬られるわ。ってお話


姫様、何故か体の奥底から不快感を感じた模様。


信秀の死因は色々言われてますが、拙作では毒じゃね?って感じで話を進めます。


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