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20話。第二回集団粗相事件。プラス実家の反応の巻

リザルト回と言うか何と言うか…


作者の中での一章が終了です。


なんか俺が鳴海城を調査している最中に柴田勝家が来ていたらしい。


「はっ! 地侍如きが家老だ何だと言われて勘違いしおってからに!」


それも上機嫌だった信長を不機嫌にするおまけ付きだ。


普通にブーメランなんだが、少なくとも史実の信長は上司(父親や守護や足利義昭)相手に偉そうにはしてないしなぁ。


それに信長は基本的に馬鹿が嫌いだし、さらに自分を散々見下してきた相手。その上、今の勝家は弟の信行や母親の土田御前に付いて家督争いを助長させようとしている存在だからな。


自分の行状が原因と言えなくもないが、信長の『うつけ』には信長なりの理由が有る。それを理解することも出来ずにギャーギャー騒ぐだけの連中に信長が好感を抱ける筈もない。


よく殺すのを我慢したもんだ。


「それで、その柴田は何と?」


ぷんすかしてるお子様は恒興に任せて、姫様に事情を聞くことにする。あの分だと愚痴が大半を占めるだろうしな。


「そうねぇ。普通に「此度ばかりは若殿が正しゅうございます。勘違いして申し訳ございませぬ」っていって頭を下げたあとは、何も言わずにそそくさと帰っていったわよ?」


ほほう。ここで謝罪出来るところを褒めるべきか、そのまま帰した連中の不甲斐無さを責めるべきか。いや、「此度ばかりは」とか抜かす時点で織田弾正忠家の家臣としては駄目なんだが、所詮俺達は「客将」だから織田家の重臣様に文句を言う権限はないし、放置でいいな。


現時点の勝家が己の感情も隠せない阿呆だと言うことがわかっただけでも良しとしようじゃないか。


「なるほど。所詮は尾張の田舎者と考えればそんなものかも知れませんね。ではこちらも予定通り守将を残して撤退しましょうか。なにせ拠点に帰るまでが戦ですからな」


勝ったと油断してるときや、負けたと凹んでる時が追撃の機会なんだ。特に今のこいつらには常に緊張感を維持できるだけの体力も、程よく気を抜くような経験も無いからな。疲弊して使い物にならなくなる前に帰還するべきだろうて。


「あーそうだったわね。府内に帰るまでが戦です! だもんね」


当時を思い出したのかフフッと笑う姫様。うむ、油断慢心駄目絶対。と言うわけで、いまだにグチグチとぶー垂れてるお子様を止めんとな。


「いい加減にしろ。いつまで戦場で愚痴なんぞ垂れ流すつもりだ」


何やってんだこの阿呆は。それは油断だし、家臣の前でやることでもなかろうが。


「ひぃ?!」

「……っ?!」


うむ。修羅が戦場で放つ本気の殺意を不意打ちで受けて、信長も、それに追従していたお子様どもも全員黙ったな。


愚痴を聞いていただけの連中はある意味巻き添えをくらった形では有るが、主君の暴走を諫めない時点で同罪だ。信長の部下に太鼓持ちなんざいらん。リヨらせるぞ阿呆共。


それとな。

「さっさと起きろ」


「「「「………?!?!?!?!」」」」


いつまで戦場で寝ていやがるつもりだ。


ただまぁ、今回は初陣の連中も多いし、言われた通り鎧も脱いでない。今はここが戦場だと思い出したようだから止めは勘弁してやるさ。


「殺すのは尊厳だけで勘弁してやる。ただし着替えは後だ。さっさと撤退準備をするように」


「「「ハッ!」」」

「……」


俺の指示に対して震えながら答える護衛崩れと、俯いて凹んでいる信長。酌量の余地はあるとはいえ、怠慢の罰は罰としてしっかり矯正せんとな。褒美? 後で金でもくれてやれ。


「信長は流石に着替えんと駄目だな。その間に他の連中に支度させる。ここに残るのは、恒興だな。後からすぐに城代を派遣するから数日はここで城主の真似事をしてもらう」


「え? 私ですか?」


流石に国境の城に城主がいないのは不味いからな。これを機に恒興には城主としての仕事を経験してもらうとしよう。当の恒興は不安そうな顔をしてるが、投げっぱなしにする気はないぞ?


「なに、俺が補佐に付くので数日程度なら心配いらんよ。……姫様。信長殿を頼みます」


本当は姫様から離れるなんてごめんだが、今回は姫様のスキルアップも兼ねてるからな。


「はいはい。こっちは任せておきなさい」


「よ、よろしくお願いします!」


うむ。信長と乳母姉妹とは思えんくらい礼儀正しい娘っ子だ。いや、問題児の側に居たからこうなるのも当然か?


「それじゃ、さっさと行くわよ?」


「お、おぅ!」


そう言って姫様は着替えをさせる為に信長を奥へ連れていく。


うむうむ。なんだかんだで宝蔵院に居たときも度々別行動は取っていたし、ここに誰かを残す必要があるということも理解してるからな。


残したやつを補佐する必要性を考えれば、俺が鳴海に留まるなんてことは、考えなくてもわかることだ。


今の姫様なら、俺が居ない間に変な男に付きまとわれても普通に殺すだろうし、見た感じだと信長の侍女にしか見えんから、諜報員に狙われる可能性も低いはず。


それに鳴海城から那古野くらいの距離なら急げば半日で戻れるからな。那古野が信行や大和守に奇襲を受けても駆け付ければ良いだけだ。


「あ、そうだ!」


姫様の安全について考えていたら姫様が戻ってきた。


ん、なんか怒っていませんか?


「千寿ぅ。指南はわかるんだけどさぁ。帰りが臭くなるからあれは止めて欲しいんだけど?」


「臭くなる。と言われましても」


普通に戦したら垂れ流しだったり、返り血を浴びたままだったり、泥に塗れてたりで汚いのが普通なんですが? むしろあまり綺麗だと戦場に行ったって気にならないんじゃないですかねぇ?


なんて思っていたんだが、俺が承諾の返事をしないのが不服らしく、頬を膨らませて睨んでくる姫様。いや、それはご褒美ですよ?


「止めて欲しいんだけど?」


ご褒美なんだが、本気で嫌がっている姫様に反対はできんよなぁ。


「……ゼンショシマス」


姫様に再度念を押されては仕方ない。というか、この場合って俺が悪いんですか? 戦場に居ながら油断した上に殺気だけで粗相する未熟なコイツらが悪いのでは?


謝罪しながらも内心ではそう思っていたんが……


「ならばよし!」


俺の謝罪を受けて、笑顔で笑う姫様を見たら文句も言えん。あぁ、これが惚れた弱みと言うのだろう。


えぇ。何が有っても姫様はお守りしてみせます。……他の誰をどれだけ殺しても。



――――



尾張から遠く離れた九州は筑前の国。


博多を見下ろす立花山城では豊後三老の一人で筑前方面の軍権を預かる吉弘鑑理は、久方振りに届いた息子からの書状を見て苦笑いをしていた。


「どうなされました鑑理殿? 貴殿が書状を見て苦笑いをするとは、随分と珍しいですな」


同席していた九州の雷神こと戸次鑑連(立花道雪)は、本当に珍しいモノを見たかのような声を上げて驚いている。


事実、修羅揃いの九州にあって一、二を争う戦闘集団の長である吉弘鑑理という人物は、そうそう笑顔をみせる人ではない。さらに最近の豊前の情勢を見れば、豊前から送られてきた書状に対して不満をぶつけることが多いのだ。


にもかかわらず、苦笑いとはいえ笑顔を浮かべたのだ。


鑑連が「何か事態が好転したか?」と淡い期待を抱いてしまうのも無理はないだろう。


なにせ大友家は三年前、次期当主として鍛えられていた嫡子の大友義鎮を追放(出奔)させ、それまで当主が甘やかして育ててきた苦労知らずの塩市丸を次期当主とする御家騒動が有ったのだが、それ以降、何と言うか、まったくもって振るわないのだ。


そもそもの話、幼少のころから次期当主として厳しく鍛えられてきた彼女と違い、塩市丸は大友家の次期当主として必要と思われる教養も技能も持ち合わせていない。そんな彼が姉に代わって次期当主となったのだから、振るわないのも当然と言えば当然のことである。


今更ながら府内では彼の教育が最優先で行われているのだが、その結果は芳しくない。


家督争いが起こらなかったことは良いことだろう。それは粛清された家臣以外の誰もがそう思っている。だが今の塩市丸や彼を溺愛するだけの当主を見れば、どうしても出奔した義鎮と比べてしまう。


塩市丸も姉と比べられていることを察して気を悪くするも、それで能力が上がるわけではない。


幼少の頃より次期当主として鍛えられた挙句、千寿という、戸次鑑連をして常軌を逸したと言わざるを得ない力をもった修羅によって鍛えられた義鎮は、次期当主どころか、そのまま当主としてやっていけるだけの力が有ったのだ。


それに並ぶとなれば、並大抵の修練では足りないのは当然のこと。


しかも、だ。今まで甘やかされて育ってきた塩市丸には、死に物狂いで鍛えるなどと言うことはできなかったし、指導役に任じられた家臣も、当主からの叱責を受けることを気にしてしまい、厳しく指導をすることができていないのである。


現在の当主が、厳しく教育を行うことで塩市丸と疎遠になることを望んではいないこともあり、府内では「当主様が耄碌したせいで次期当主が中途半端な人物に成り下がっている」と蔭口を叩かれる始末。さらに救えないのが、次期当主を支える為に各々の家から派遣された優秀な人員は、優秀であるが故に当主や塩市丸に批判的な意見を言って遠ざけられているとか。


大名として外戚やら何やらの立場を慮る必要があったり、国人の機嫌を取ったりしなければならないのだが、それすら覚束無いのが現在の大友家の状況であった。


自分たちのように指揮系統がしっかりしているところならまだ大丈夫なのだが、他の方面では先陣争いやら乱暴狼藉の取り分やらで揉めることも多々あるとか。


戦では油断し、政ではグダグダ。そして現在の当主や次期当主には彼らを統率するだけの力がない。これでは家が栄える筈もない。


今では「これでは、姫様を奉じていた重臣たちが計画していたように、当主様や塩市丸様を討ち取り、彼女を当主にしていた方が良かったのではないか」と嘆く家臣は多い。


このような状態でどうして笑えるというのか。府内にいる彼の嫡男、吉弘鎮信からの書状にどんな内容が書かれていたのだろうか。 


「あぁ、勘違いさせたようじゃな。確かにこれは豊後を経由してきた息子からの文ではあるが、送り人は鎮信ではなく、東国へ赴いた次男の鎮理よ」


「ほう。鎮理殿ですか」


「うむ。あやつめ、ようやく仕官しおったわ」


それを聞いて鑑連も「なるほど」と納得した。何せ今の府内は佞臣と奸臣による権力争いの真っただ中であり、嫡男の鎮信もいい加減にしろと言った感じでうんざりしているらしい。


そのうんざりしている嫡男からの愚痴ではなく、全く関係ないところにいる次男から仕官の報告である。ドロドロとしたものが拭われたような気になるのも仕方ないことかもしれない。


「何やらここ数年は畿内で修行をしていたようですが、とうとう仕官しましたか」


実のところ、彼から手紙が届くのは今回が初めてではない。堺の商人を通じて数か月に一度は届いていたのだがここ半年ほど途絶えていたので、向こうで何か有ったのではないか? と不安になっていたのも事実である。


だからこそ鑑連はその話題に乗ってみることにした。主筋の姫である義鎮のことも気になっているが、鎮理もまた自分が目を掛けていた修羅なのだから。


「彼ほどの人材が仕えるとなると、何処の家でしょうな? 三好は四国が入りますから却下として、官領の細川家か畠山家あたりですかな?」


(畿内の最大勢力と言えば三好だが、彼らは出奔するにあたって播磨・四国より西には入らぬと言う誓紙を交わしている以上、三好は無理。細川も畠山も三好と敵対しているが、腐っても管領家。鎮理を使いこなすことが出来れば一方的に負けることもなかろう)


そう思って確認を取るも、鑑理は苦笑いをしながら首を横に振る。


「はて、三好でも管領家でも無いとすれば……あぁ、近江の六角ですか? 確か管領代とか言う役職が与えられてたはずでしたな」


「いや、六角も違う」


「む?」


(畿内の有名どころではない? よもや公方嫌いで有名な彼が、名前だけの公方に仕えるようなことはあるまいし……わからぬな)


「お手上げでござる。彼は何処に仕官したのでしょう?」


(こうなれば正直に降参するか。どうしても自分で調べねばならないなら人を出すが、既に書状が来ていて、目の前に答えが有るのだ。ならばさっさと聞くべきだろうよ)


「さしもの其方でもわからんか。尾張、じゃとよ」


端的に答えを告げて更にその苦笑いを深くする吉弘鑑理。その顔だけ見れば完全に悪だくみしている悪党だ。


だが鑑連はそのような鑑理の顔など見慣れているし、今はそれ以上の興味を放たれた言葉に持っていかれていた。


「尾張、ですか? たしか伊勢の隣でしたな?そのようなところに何故?」


正直東国の地理は微妙ではあるが、伊勢神宮のある伊勢やその周囲くらいは何となくわかる。間違っていたら赤っ恥だが、両者の関係は今更その程度でどうなることもない。むしろ尾張に何が有るのかに興味があった。


「うむ、草薙の剣が奉じられている熱田神宮と言うのが有るらしい。そして現在の尾張守護は三管領が一つの斯波家だそうじゃ」


「ほほう」


熱田神宮とやらは知らないが、草薙の剣くらいは知っている。そして管領家が尾張にあると言うなら、彼が仕える先としては申し分ないのかもしれない。


そして納得すれば、こう言う地方の情報を得ることができるというのも楽しいものだと気楽に考えることもできる。


だがその後に続く言葉に、鑑連はその身を強張らせることとなる。


「で、その斯波管領は現在守護代である織田とか言う者の傀儡らしい」


苦笑いしながら言うその姿を見て、何と言って良いかわからなくなる鑑連。


「えぇと。あぁ、ではその守護代に?」


取り敢えずはそういうことだろう。鑑連は、自分が知る少年の力や、大友家を捨てたがその直系である義鎮という存在を考えれば、守護代程度では荷が重いようにも感じたが、守護を傀儡にするような者ならそれなりの実力者なのやも知れない。と考え直すことにした。


だがその考えも外れていた。


「いや、その守護代の家老の次期当主の指南役だそうじゃ。儂にも何が何だか訳が分からんよ」


「は?」


(守護代の家老の次期当主の指南役? 守護代の家老ではなく? 守護代の次期当主の指南役でもなく?)


「……彼は何をしてるのですか」


それでは牛刀で小魚を捌くようなモノではないか。そう思えばこそ、呆れ声が出てしまう。


「先ほども言ったが、儂にもさっぱりわからぬよ。わかっておるのは、姫様共々楽しくやっとると言うことと、定職に就いたから安心せいと言うことと、神屋から人を派遣してくれと言うことくらいじゃな」


親としてはそれが何よりの便りなのだろう。苦笑いにも柔らかさがあるように見える。それに大友家の家臣としても義鎮様が息災なのは素直に嬉しいことでもある。


……いざと言うときは彼と義鎮の子が大友家の家長となるやもしれないのだから。


(それと、さらりと気になることを言ったな)


「神屋から人、ですか?」


神屋と言えば、博多を代表する商人の一人で、自分たちも世話になっている人物だ。そこからの人を求めているとなれば、尾張の商人や堺の商人には任せられないことをするのだろう。


(一体彼らは何をする気なのやら)


九州大友家において将来を嘱望された規格外の修羅と、それに鍛えられた次期当主であった姫の二人が、九州から遠く離れた尾張という地で何をするつもりなのか。それを不安に思いながらも楽しみにしてしまう自分も相当毒されているのだろう。


書状を見せながら楽しそうに昔話を始める上司に相槌を打ちつつ、鑑連は(神屋との連絡を密にしよう)と思うのであった。



















「尾張、ですか。そうですかそうですか。そこに千寿様がいるのですね!?」

雷神様にすら異常と言われる千寿君。

彼が異常なのは共通認識だったりします。


そして史実以上にグダグダな大友家。そりゃいきなり次期当主変更したって上手くはいきませんよね。尚、二階崩れで姫様を支えるつもりだった重臣たちはしっかりと粛清されてるもよう。

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