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風神天翔記 ~とある修羅の転生事情~  作者: 仏ょも
五章。尾張と周辺国関係
115/127

105話。情報は大事。兵法書にも書いてある

文章修正の可能性有り

「そんな感じで、あの坊主は儂らが連中の反攻に合わせて駿河に攻め込むと勝手に判断して、そのまま満足して帰ったわけじゃな」


「へぇ~。何と言うか、迂闊よねぇ」


幻庵との会談を終えた信長は、そのまま義鎮の下へと赴き会談の内容を説明していた。


ちなみに会談の場には一門衆として信広や信光が。家臣として佐久間信盛などが居たが、彼らは幻庵や信長の狙いには気付いておらず、ただ遠江攻めが現実になりそうなことに対して驚きを覚えると共に、織田家の悲願の達成を優先するか、それともこれ以上の領地拡大を諫めるべきかを真剣に悩んでいた。


悩みと言っても彼らの困惑の大本は「今川との戦が嫌だ」と言うものではなく「領地拡大は嬉しいが、遠江なんかには行きたくない」とか「これ以上仕事が増えても困る」とか「もう少し待てないのか」と言った感じのもので、今川と雌雄を決すること自体には不満はない。


「ま、ここにおるのが父上や武衛だったなら多少無理をしてでも……いや、むしろ喜び勇んで遠江に出たと思うんじゃがの」


晩年の信秀はどうかは分からないが、少なくとも三河の安祥城を有し、岡崎まで兵を進めていたころの信秀ならば、北条の援護が確実に受けられると言うなら迷わず乗っただろう。


そんな信秀の時代を知るからこそ重臣たちは葛藤するし、彼らの葛藤を読み取ったからこそ、幻庵も『今は難しいだろうが春先になれば動けるだろう』と確信していたのだが……彼の誤算は、時に主君に進言したり、時に強硬に迫ることで主君に己の意を伝え、織田家の動きに関与する一門衆や重臣たちが、織田家の意思決定に何ら寄与する存在ではないと言うことだろうか。


今の織田家は信長の気分で動く。


それは信長が尾張の統一や三河の制圧など、先代も成し得なかった功績を立てたことで「自分が意見を言っても邪魔になるかもしれない」と彼らが自覚しているからだ。


それに彼らは現状でも今までの数倍以上の利益を配分して貰っていることで完全に満足しており、これ以上の待遇を求めていないため、信長に逆らう理由が無いと言うのも大きな理由である。


「う~ん連中の思惑に乗れば遠江を取って、駿河を北条と折半。それから甲斐に行くってのも確かに不可能では無い。もしも信長が天下を目指すって言うならそれでも良いかもよ?」


「目指すのは勝手じゃがなぁ。そもそも戦に勝ったとしてじゃよ? 得た土地を任せる相手がおらんでは何とも出来んわい」


「まぁねぇ」


そして、当の信長も現時点でこれ以上の勢力を拡大させることを良しとしていない。


「結局円満に治めるにはその辺で日和見しとる国人を取り立てることになる。それなら別に国人の上に立つのが儂じゃなくともよかろ? 長年戦をして、適当に国人を整理した挙句に『もういらん』と言われるような生き方なんざ真っ平御免じゃよ」


義龍に殺された美濃の蝮こと斎藤道三がまさにこれだった。


そして国人領主の代表としての守護大名から、彼らを統べる戦国大名へと脱却する最中に発生するゴタゴタは、何も尾張や美濃だけの話ではないのだ。


所領を広くすればするほど仕事も増える。その仕事を処理させる為には家臣も増やす必要が有る。増えた家臣が信用できるかどうかは完全に未知数だし、それが地元に根を張る国人なら猶更面倒。そしてそんな面倒を好き好んで抱え込むほど、信長は殊勝な性格をしていない。


「その『もういらん』って言う代表が足利将軍家と細川管領って言うのが救えないところよね」


「じゃよなぁ」


そりゃ戦乱も終わらんわな。と二人で「はぁ~」と溜息を吐く中、一人気を吐く者がいた。


「姫様も信長、様も何を言っておいでですか! 戦う前から気持ちが負けていては勝てるものも勝てませぬ! 細かいことは倒してから考えれば良いのですッ!」


未だに信長に対して敬称を付けることに抵抗はあるものの、信長が姫様の主君であり千寿の主君であることは事実なので、何とか現実を受け入れようとしている姿を見せる九州に名だたる修羅の愛娘。誾千代である。 


「……このお子様め」


「なにおぅ?」


お子様呼ばわりされたことで犬歯をむき出しにして信長に敵意を見せる誾千代。


勿論この態度は主君に対して相応しいものではない。しかしそれを言ったら義鎮の態度も家臣が主君に取る態度ではないし、そもそも誾千代は義鎮の家臣であって信長の家臣ではないのだ。


よって、誾千代に対して態度を改めるように促すのは義鎮の仕事であるのだが、その義鎮は信長が誾千代を相手にしているとき、彼女がまるで手の懸かる妹を相手にしているかのような気安さが見られたので、敢えてこのままで良いと判断していたりする。


もっとも、公の場ではキチンとさせるつもりだし、信長が正式に抗議をしてきたらその限りではないが。とりあえず今のところ義鎮は二人の関係に口を挟む気は無い。


そんな誾千代(白髪ロリ)と信長(赤毛のお子様)の主導権争いはともかくとして。


「まぁ、誾千代の言うことも間違いってわけではないのよねぇ」


「むっ」


「ほら見なさい!」


この戦国乱世、修羅でなくとも、敵は殺せるときに殺すのは当然のこととして受け止められているので、誾千代の意見は過激ではあっても決して荒唐無稽な話ではないのだ。


また誾千代は、今川を主君に据えることで大義名分が立つと言うのなら、そのまま美濃だろうが伊勢だろうが近江だろうが潰せば良い。とも考えており、信長や義鎮の懸念に対しても「統治? そんなのは勝った後で考えるのです! 人質とか取ればいけますって! 逆らうようなら見せしめで族滅しましょうよ!」と言った感じで、冬になったら関東に出稼ぎに赴き、そこにあるものは来年の種籾どころか村の人間全部を略奪する景虎一行も驚くほど模範的な鎌倉武士的思考で物事を考えていた。


ただこの時代、こう言った思考は多かれ少なかれ誰しもが持っているものであるし、考えるだけでなく少なからず実行されていることでもあるので、誾千代一人がサツバツしているわけではない。と、彼女を育てた雷神様の名誉のために付け加えておく。


閑話休題。


現在重要なのは、北条が『織田は今川を敵視している。よって今川が東に勢力を拡大することを良しとしない』と言うことを前提にして策を練っており、その前提から織田家が今川の隙を突いて遠江を得る為に全力で動くことに疑いを抱いていないと言う現状をどう利用すれば織田の為になるのか? と言うことだ。


「う~む。戦うことも選択肢に入れるのは当然じゃがの。しかし姫様?」


「ん?」


「実際、相模で治部と北条がぶつかったら、吉弘殿はどう動くつもりなのかの?」


信長は千寿に対して自由に動いても良いと言う白紙委任状を渡しているので、彼が『隙が有れば動く』と公言したことを実行したところで咎めるつもりは無い。それどころか千寿から援軍要請が有ればすぐに兵を出すくらいのことはするつもりだ。


しかし、元々信長に対し『今川家を盟主にする』と言ったのは千寿である。それなのに、ここで遠江を攻めるのはどうかとも思う。だが、不倶戴天の仇敵と見做されている相手が作った明確な隙を見ても動かないとなれば、今川と織田の関係が周囲に露見する可能性も出てくるだろう。


信長としては「そろそろ公開しても良いんじゃない? と思っているのだが、千寿は「利用できるものは何でも利用する」タイプの人間であり、わざわざ自分から策を暴露するような性格でもないので、やはり隠すのが前提になるのだろう。


動けば今川が窮地に陥り、動かなければ策が露見する。ならどうする? 考えるまでもない。


「あのね信長。千寿は惟信にこう言ったのよ? 『井伊谷は潰し、曳馬(浜松)か掛川を囲む』ってね。それに千寿は最近忙しすぎるから、そろそろ失敗が必要なのよ」


「ん? じゃから……あぁ。そう言うことか」


「む? 姫様、それはどういうことでしょう?」


義鎮の言葉を聞き、一瞬考えるも答えを見つけた信長に対し、誾千代は首を捻る。


「良いかお子様よ。吉弘殿は『囲む』だけなのじゃよ」


「……14にもなって独り身の癖に」


「ななな、なんじゃとぉ?!」


ドヤ顔をしながら解説をする信長に対し、話の内容よりもお子様扱いされたことが気になった誾千代は、年齢を逆に利用して意趣返しをすることに成功する。


しかし、ここには信長以外の女性もいるわけで。


「……誾千代。今、何か、言ったかしら?」


「ナニモイッテマセンッ! ぷぎゃ!」


無表情で「あぁ~歳のせいで耳が遠くなっちゃったかなぁ」と呟く義鎮(19歳)を見て、心底「しまった!」と言う顔をして土下座するも、しっかりと扇子でお叱りを受ける誾千代と、


「ハッ。ヴァカめ! ハベッ! ナンデ?!」


その誾千代に心底「ざまぁみさらせ」と勝ち誇った顔を見せたところを、ついでとばかりに折檻された信長の図である。


「二人とも、真面目な話の時に煽るのは止めなさい」


「「ハイッ! スミマセンデシタッ!」」


信長の方はやや理不尽な気もしないではないが、本人が納得しているので特に問題はないようだ。この一連の流れはともかくとして、このままでは話が進まないと判断した義鎮は話を纏めにかかることにする。


「要するに、千寿は隙があれば遠江に侵攻するけど、大きな城を落とす気は無いってことね。隙を作る為に遠江の今川勢は、一〇〇〇くらいを籠城用に残して、残りは駿河に退くの。甲斐の軍勢も一〇〇〇くらいだけ残して後は駿河に向かわせるでしょう」


「あぁ。そうして相模で戦っている本隊に合流して、北条を破ってから遠江に戻って来るのが今川にとって一番確実な方法と言うことですか」


「そうなるわね」


元々ほぼ互角の兵力が向き合っているところに甲斐や遠江に派遣していた将帥と五〇〇〇もの援軍が加われば、北条の『分散させて叩く』と言う基本戦略は一気に瓦解することになる。


そうして北条の乾坤一擲の策を頓挫させてしまえば、後は抑えの兵を相模と伊豆に残して、遠江に引き返して織田と戦うことも可能になるだろう。だが北条がいては何時まで経っても織田と全力で戦えない。故に、まずは北条に勝つことを優先する必要が有る。その為には一時織田に隙を晒してでも、遠江で対陣している軍勢を相模へ展開させることが必要なのだ。


今川はそう言った名分で遠江に展開する兵を撤退させるつもりなのだろう。


「それはわかりました。ですが姫様。それだと千寿様は本気で遠江を落とさないと駄目なのでは?」


今川が残した一〇〇〇程度の軍勢を破れないようでは千寿の武名が廃る。それは義鎮も望まない筈だし、そもそも尾張からの援軍が加われば籠城側とは10倍以上の差となる。これでは落とすつもりがなくても向こうが勝手に降伏する可能性も有るのでは?


そう尋ねれば、義鎮に代わって信長が誾千代の疑問に答える


「儂が援軍を出せばそうなるじゃろうな」


「む? 信長、様は、千寿様に援軍を送らない、と?」


「そうじゃな。援軍の代わりに『勝手に停戦を破るな』と叱って兵を退かせる使者を出すことになるかの」


「な、何ですと?!」


信長の言葉を聞き誾千代が「姫様。コイツ、千寿様の名に傷を付けようとしてますけど、よろしいのですか?」と義鎮を見れば、彼女は特に怒る様子もなく、それどころか「良くできました」と頷くことで信長の意見に賛同の意を示す。


「言ったでしょ? 今のままだと千寿が忙しすぎるの。それに私たちは新参者の癖に有り得ない厚遇を受けてるからね。ここらへんで一回信長からお叱りを受ける必要が有るのよ」


「お叱り、ですか? あぁ。なるほど」


ここまで言われれば誾千代も義鎮の言いたいことを理解する。


「本当ならそんなことする必要は無いんじゃろうが、な。しかし、こうでもせんと身内から「吉弘殿の立場が強すぎて儂の立場が危うくなる」とか言い出す阿呆も出てくるでな」


これが千寿への嫉妬で足を引っ張ろうとするなら、その忠臣面した阿呆を怒鳴りつければ良いだけの話だが、真剣に織田家や信長を案じての忠言であれば無視することは出来ない。しかし千寿に何の瑕疵も無いのに罰することも出来ない。故に今回の件だ。


千寿の先走りを信長が叱責することで、彼の持つ権限に歯止めをかける。これにより、信長と千寿の間に明確な序列が出来るし、周囲の連中から「両者の間に不和が有る」と思われれば策にも流用出来るので、万々歳と言う訳だ。


実際今の千寿にとって「仕事が減る(もしくはこれ以上増えない)」と言うのが最上の褒美となる。それを確信しているからこそ出来る常識外れの策でもある。


停戦云々は関白に気を使ったと言うものでも良いし、そもそも今川が北条との乾坤一擲の戦をすると言うなら、向こうは義元と雪斎だけが知る水面下で結ばれている協定だけではなく、遠江や甲斐の国人を納得させることが出来るであろう策を弄してくるだろうから、信長はそれに乗るだけで良い。


予想外の援軍の出現によって北条が破れ、相模の端に追い詰められるかもしれないが、別に今川が強くなろうとも織田は困らないし、そもそも織田と北条は正式に盟約を結んだわけでもない。


今川を潰す絶好の機会を逃がしたことで内部の者どもから文句を言われようとも『北条の都合よりも関白殿下の面目を優先するのは勤皇の士として当然の事』とでも言えば納得させることは難しくないだろう。


納得しないなら? 逆賊として討伐するまで。


朝廷とて、献金を絶やさぬ織田を重んじているが故に『近衛からの停戦命令に従う必要はない』と言っているのであって、その他の者から近衛を軽んじられることを望んでいるわけではないのだ。


自分たちの為なら北条だろうが関白だろうが何でも利用する。戦国大名として実に当たり前の行動である。


結局幻庵の失敗は、織田家は信長の気分で動くと言うことを知らなかったこと。

そして、その信長の気分を左右することが出来る存在を知らなかったこと。

この二点に尽きた。





今川と織田が不倶戴天の仇敵であることは周知の事実ですが、これに「信長と三河守は不仲である」と言う情報を流すことで、新たな仕込みとするもよう。


真っ先に越後の人が釣れそうですね。


因みにノッブは今川が好きと言うわけでもないので、現時点で千寿君と姫様が本気で『今川を滅ぼそうぜ! 風避けは別なヤツを用意するからさ!』とか言ってきたら「シカタナイのぉ!」と言いながらも、ノリノリで今川との戦に乗り出します。


その後の事? 「後で考える! 是非もないね!」ってお話。


―――



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― 新着の感想 ―
[一言] 兵法書にも書いてあるのに何故かその情報を得るために大きな役割を果たす諜報員の忍を冷遇する風潮があったらしい。 過度に厚遇しろとも言わんけど普通に扱うってことは出来んかったのか。
[一言] 「模範的な鎌倉武士的思考」 脈々と受け継がれてるお家の方が側室にいらっしゃいますね……w
[一言] うん?その噂が流れたら 氏康君『風除けならここにいるぞ〜‼‼だから越後のイナゴ娘をホイホイしてぇ(号泣)』とか言いそうw 少なくとも今川勢よりは物分りが良さそうな北条(調教済み)の方が適して…
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