11話。内政チートですかねぇ?の巻
作者の表現が悪いんでしょうが、基本的に内政チートが不可能と言う訳では有りません。
後ろ盾や国力、本人の信用や元手になるモノが無いと周囲を動かすのは難しいと言うお話です。
正体不明の子供に「自分には経験が無いけどコレで絶対に上手く行くから!だからお金出して!」なんて言われて、お金出しますか?もし一回出したとしても、それが失敗したあとで「土地や気候の関係を甘く見て失敗したけど、次こそは大丈夫!だからお金出して!」なんて言われて再度お金を出す人が居ますかね?
物事を成功させるためには経験(失敗)が絶対に必要で、その失敗が出来ないから転移者による内政チートは不可能に近いと言うのが作者の意見になります。
転生者は、立場によりけりでしょうね。
前半千寿君
後半尾張商人視点
「走れ走れー。お前たち。流れる汗なんか拭いてる暇は無いぞ~」
「「「……」」」
発破をかける千寿の声に返事をする元気もなく、ただ黙々と那古野城内の馬場を走るのは、元破落戸連中こと信長の護衛達である。
何故彼らは走るのか? それは織田の指南役になった千寿による虐待……ではなく、純然たる軍事訓練であるからだ。
軍を率いる将に個人の武など無意味と嘯く者もいるが、それはあくまで総大将のような者に適用される理屈でしかない。
実際問題、最前線で指揮を執る武将にはやはりある程度の武力が求められるものだし、更に言えばいつの時代も「良い前線指揮官」というのは、兵士の気持ちを理解できる指揮官のことを指すものだ。だからこそ千寿は兵士と共に走る、もしくは兵士に先んじて走ることができる武官の育成を怠るつもりはなかった。
教官役である千寿から「走るのは軍人教育の基本中の基本です! 体力と持久力を鍛えつつ、上官の命令に従うと言うことを無料で学べる最高にイカした訓練ですよ!」と力説され、自身もそれなりに走らされた経験を持つ姫様は「それはそうね」と苦笑いで済ませたのだが、苦笑いでは済まない者たちもいるわけで。
「ぬ、ぬぉぉぉぉ! 何故じゃ! 何故儂までぇぇぇ」
そんな叫び声を上げながらもしっかりと部下たちと一緒に馬場を走るのは、やや小柄な赤毛の少女。那古野城城主の織田信長である。
「ん~? 説明ならしただろう? 走れないと死ぬぞ? 戦場で馬から引きずり降ろされたら死ぬぞ? 馬がいないところで襲われたら死ぬぞ? 馬の上に居たら狙われるし、そもそも山の中に潜むことだってあるだろう? その時「馬がないから動けません」などと戯言を抜かすか?」
この時代の、というか日本の馬は大陸の馬と比べれば総じて小さい傾向にある。それでも日本人の平均身長を考えればそれなりの大きさなので、騎乗して駆ける分には問題ない。だが、体躯が小さいが故に三国志などで良くあるような馬上突撃というのはほとんど無く、馬はもっぱら移動用や武将が戦場で高い視野を得る為に使われている。
つまり馬に乗っている者は突撃よりも広い視野を獲得して部隊の指揮をすることと、いざと言う時に逃げることを優先しているのだ。
言い換えれば馬に乗っている人間はそれなり以上の身分の人間であり、敵方からすれば手柄首になるので狙われやすいということでもある。
また、馬は走ってるときならまだしも、止まってるときは本当に隙だらけだ。走ってるときでさえ、数人の足軽が命を懸けて引っ付くだけで倒されてしまう。
そして落馬した武士の扱いは悲惨の一言。
落馬した際に死ぬことができればまだ良いが、そうでないなら骨折は当たり前で、更に敵の足軽に囲まれてタコ殴りにされた後に殺されてしまうのだ。
その為、武将たるものはすぐに逃げる為に馬術を鍛えるのは無論のこと、馬を捨てて逃げる場合の事も考えて、馬がなくても動けるようになる必要もあるというわけだ。
そもそも弾正忠家が陪臣の陪臣である。その後継ぎ候補に過ぎない今の信長は、大軍を指揮する総大将どころか、千人の将が良いところなので普通に前線で戦うことになる。そんな彼女が武芸を磨かないとなると、ただでさえ家中の連中に軽んじられているというのに、兵士からも馬鹿にされてしまう。
兵士の支持を得られない将が辿る道は悲惨なものになる。それは歴史が証明している。
それに千寿が知る織田信長という人物は、必要ならば最前線に立って槍を振るうことを厭わない人間だ。そんな人間だからこそ、千寿は信長が死なないよう率先して走らせるのだ。
そして信長が走っている以上は部下たちも走る。信長が馬に騎乗しているならまだしも、自分たちと同じ徒歩であれば、なおさら主君を走らせている最中に自分が休むことなどできはしないだろう。
ただ、信長は不完全ながら気を使える人間なので、徒歩であっても付いていくのは大変ではあるのだが、そうやって自分を追い込むのもまた修行。
眼前で必死の表情で走る信長主従を眺めつつ、千寿は自分たち九州勢と彼女ら尾張勢の違いに思いを馳せる。
―――――
……九州に居た頃はこの世界の全員が気を使えるかと思っていたのだが、実際はどうもそういうわけではないらしい。
俺がそのことに気付いたのは、畿内に着いて少ししてからのことだった。
最初に違和感を感じたのは、小遣い稼ぎがてらに畿内の山賊を退治したときのこと。連中の動きに精彩がないことや、耐久のなさに姫様と共に驚いたものだ。
あの時はたまたま弱い連中に当たっただけかと思っていたのだが、そうじゃなかったんだよな。漸く違和感の正体を知ったのは、宝蔵院に入門してからだった。
まさか「普通の山賊は気を使いこなせていない」なんて、考えもしなかったよ。
九州では半農の兵士でさえほとんどが多かれ少なかれ気をつかっていたからな。それは一般常識ではなく、異常なことなんだと知らされたときの衝撃ときたら……。
とはいえ異常でもなんでもそういう連中がいるのだから、そういう連中に負けぬように鍛えるのが筋というものだろうて。
それに、だ。俺は、気というものは九州の人間特有のものではなく、全ての人間に有ると考えている。他の地方の連中はしっかり使いこなせていないだけだってな。
ならば限界まで走らせれば、いずれ覚醒するだろうと思われる。今はそれを見越した訓練を施している最中というわけだ。
ランナーズハイ? それはそれで良い。気の運用以前に、脳内麻薬をドバドバ出すことが修羅の第一歩だしな。
「い、言っとることは分かるぞ! 確かに馬がなくても動けるようになる必要もあるじゃろうさ! じゃが次期当主としての教育はどこへ行ったんじゃ!?」
おぉー。走りながらもここまで自己主張出来るとは。大したもんだ。しかし考えが甘いぞ。
「何を言っている? 農業政策は教えているし、兵法だってこうしてしっかり教えてるじゃないか」
田畑の区画整理についての利便性は説明したし、収穫量の向上については年単位先のことだからな。
商いについて教えても、あれは地域の特色や地元のコネとか既得権益があるから、単純に府内や博多、堺のやり方が尾張で通用するとは考え難い。だからこそ情報を集める必要が有るし、その為には護衛達を領内に出す必要がある。
で、その護衛達がしっかり仕事が出来るように鍛えているんだから、全く無駄がない。完璧な仕事じゃないか。
「へ、兵法じゃと! こうして馬場を走るのが兵法なのか!?」
ふむ。流石にただひたすら馬場を走るだけというのは不満らしいな。
とは言え「限界まで走らせることで気に目覚めるかもしれないから、とりあえず走っていろ」とか言ってもわからないだろうし、なにより城内の連中からすれば物笑いの種になっているからな。
自分の意志で行動して、それを理解出来ない連中に『うつけ』呼ばわりされるのは我慢できても、なんだかわからないことをして笑われるのは面白くない、か。
何せ那古野城内では「我儘なうつけ殿が誰とも知らぬ者を取り立てたと思ったら、そいつに言われて護衛崩れの小僧どもと一緒になって馬場を走っている」という噂が立っていてそれを聞いた連中から「とうとううつけが馬になったか」とか「いや、アレは鹿じゃ」とか言われて笑いものになってるらしいからな。
ただ、林のオッサンや平手の爺様はこの修行にもしっかり意味があることだと理解しているから、信長に失望することも俺を諫めることも無いのが救いと言えば救いだな。
俺としてはむしろそうして嘲笑されている現状こそ最高の状態と言えるので、あえて信長の悪い噂を広めてもらおうかと思ってるほどだ。
とは言え、それもこれも信長が納得していないと困るわな。
鍛錬は無理やりやらされるより、意欲的にするべきだし。
うむ。少しは教えてやろうか。
「謀は密を以て成す。こうして堂々と目立っていれば誰も信長殿が何かを企んでるとは思わんよ。そして、この鍛練の意味を理解できておらぬなら、そやつの目は節穴よ。そのまま笑わせておけばいい。もしも理解できる者が居たならば取り立てれば良いだろう? なに、いずれ阿呆どもには吠え面をかかせるのは確定しているのだ。今はそれを楽しみにすると良いさ」
何をしても周囲が勝手に『うつけ』と油断して過小評価してくれるんだぞ。最高の環境じゃないか。
「む、むぅ。なるほどの。それは確かに兵法じゃな」
納得したのか、とりあえず文句は言わなくなった。そこに明確な理由が有ればしっかりと理解できるのが信長の良いところだ。
素直とも言う。
「ついでに言えば「三十六計逃げるに如かず」だ。己の足で動けなければ逃げれもしないだろう?」
戦いは回避出来るものなら回避するべき。準備が出来てないならいっそ逃げろってな。
「おぉう。吉弘殿が言うと説得力があるの!」
「「「ですね!」」」
どういう意味かわからんが、走ってる連中全員が頷いてやがる。ふっまだまだ余裕があるようだな。
ならば鬼ごっこといこうじゃないか。捕まったら尊厳が死ぬぞ?
「ぴっ!」
「「「……っ!?」」」
俺の殺気に反応して連中が走るペースを上げたが、さてさて何周保つのやら。
―――――
信長を含む全員の尊厳を殺した後、生き残った池田恒興に後処理を任せ割り当てられた屋敷に戻ってみれば、俺宛に客が来ていた。
「お待たせしてしまい、申し訳ございませぬ」
一応謝罪はするが、先触れも無く勝手に来たのは向こうなので、俺としては必要以上に謙る気は無い。無いのだが、それでも目の前の人物を軽く扱えば今後が面倒なことになるのは分かり切っているから、それなりに低姿勢で接触してみる。
「いえいえ、こちらこそ急な訪問となってしまい、申し訳なく思っております」
俺の謝罪を受けつつそう言って頭を下げる40代の男性。彼こそ織田弾正忠家の御用商人である(と言うには双方の規模が釣り合っていないが)津島商人の堀田道空である。
史実では平手の爺様と仲が良く、信長と濃姫の結婚の面倒を見たり、信行との家督争いや尾張統一戦でも信長にかなりの便宜を図ったと言うが、はてさて彼が俺に何の用だろうか?
「本来なら茶の一杯でも出すのが筋なのでしょうが、現在貴殿をもてなすだけの茶器を持っておりませんでな。とりあえず白湯か水で我慢して頂きたい」
それなりに茶の湯の作法も学んでるが、他人を歓待するにはそれなりの茶器が必要なのだ。
しかし高価な茶器一式なんざ旅に持ち歩くわけにも行かないので、今は堺の商人に預けている状態だ。仕官先が決まった以上は尾張に持ってくるべきなのだろうが、尾張は暫く安定しないからな。
変に高価なモノは持たない方が良いだろうと言うことで、茶器の移送は現在保留中となっている。
「いや、それで十分です。お気遣いありがとうございます」
俺の事情を知ってるかどうかは知らないが、笑顔で感謝を述べてくる堀田。
……何が狙いかわからんが、俺としても商人としての繋がりは欲しい。
塩の増産についての話でもしてみるか?
越前の朝倉や近江の六角と敵対している美濃斎藤家に対して普段は安く売るのはどうだろうか。塩を独占しておけば美濃の家臣団の切り崩しにも使えるし。最悪美濃で売れなくても、塩は保存が効く戦略物資だからどこでも使えるよな。
増産を知った今川がどう動くかが未知数だが、塩田の方法を知ったところで攻めることは無いだろう。むしろ自分たちでも出来ないかどうか試すんじゃないか?
それに商人の堀田なら、下手に農民や武士を使って情報を拡散させることになる織田家よりも、自己の利益を守る為に必死で秘密を守ろうとするだろう。
俺が尾張でそれなりの立場を得た以上、後から主人公的な存在が来るかどうかはわからないが、今のうちに予想される内政チートを潰すのも悪くない。
もしも似たようなことをしている奴が居たら調べることも出来るし、向こうも信長の周辺は探るだろうから、俺の存在にも気付くだろう。
本来なら真っ先に開発するべきなのは無線なんだが……俺は作り方が良く分からんし、現時点で無線を開発するような事をすれば、どんな立場であっても技術を独占する為に足を切り落として監禁するくらいの処置をされるだろう。
今のところ無線を実用化している者がいないようだから、そういった知識を持つ転生者はいないと思いたいが、油断は禁物だ。
内政チートをしている勢力の有無を調べるために堀田を使うか? だが「尾張商人」と言うのがネックだ。もしも俺のような転生者がいた場合、当然織田信長を警戒してるだろうから尾張の商人という時点で警戒されてしまうだろうよ。
それに、俺が堀田に何かを頼めば、織田家の連中にもばれるからな。そうなれば向こうの情報を掴むどころでは無い。つまり情報収集を考えるなら織田家と縁の薄い博多の商人か、堺の商人をメインにするべきだろう。
で、顔見知りの府内の商人に関われば当主様を刺激するから、府内商人は敢えて無視するとして、伊勢商人も駄目ではないが、連中を強化すると言うことは北畠を始めとした伊勢の国人衆の強化にも繋がるし、長島も強化されてしまうからな。現時点では伊勢商人は弱体化してもらった方が都合が良い。
今、堺の商人が強化されれば本願寺や三好が色々しそうだが、俺や姫様は西国に興味が無い。というか関わる気がないから向こうがどうなろうと関係ないんだよな。そして現在の信長も畿内なんて見る余裕なんかないし。ただ、将来の事を考えれば連中には今まで通り勝手に争ってもらえば良い。
「吉弘様?」
ん? あぁ。長考しすぎたか。
話が飛躍しすぎたな。取り敢えず堀田には情報収集は望まん。塩でそこそこ稼いでもらう程度で良いか。
方法はどうする? 流下式は早すぎるから入浜式だな。そこから流下式を開発する奴が出てきたら「油断ならない商売敵」が現れたと判断した堀田が勝手に調べるだろうよ。
うん。そうしよう。
堀田にどこまで譲り、何をさせるかまで考えたところでふと堀田を見てみれば、彼は震えながら頭を下げてるではないか。
この反応は、あれだ。どうせ堺方面で仕入れてきた物騒な噂を信じたんだろうよ。舐められるよりは怯えてもらった方が良いのだが……とりあえず俺は商人を気分で殺したりするような人間ではないということだけは教えておこうか。
――――
お、恐ろしいお方よ! この度、織田家指南役となった吉弘様にご挨拶に来たのだが、こうして向き合うだけで背筋が寒くなる。
やはり堺からの情報にあったように、彼こそは九州大友家の中でも、いや、西国で最も血に飢えた男と言う評価は本当なのだろう。
彼等が九州から出て来ておよそ三年。その間に殺された賊や国人は千では足りんと聞く。
しかもその理由が関所で『姫様』の荷物を検めようとしたからだとか。それを咎めた兵が問答無用で殺され、関所を破壊され、その首をもって国人の館に乗り込んで館に居た者たちを全員殺してその財を奪う、だの。
地侍が『姫様』に下品な口を叩いたと言うだけで殺され、その蓄えを奪う、だの。
賊が村や町を襲った後でその後をつけて賊を殺し、溜め込んだ財を当たり前に己の所有物とする。という外道働きも辞さぬ人物らしい。
そうやって得た蓄えが、今や五百貫を越えるとなればそれが丸っきりの嘘では無いことが分かる。
それでも彼が罪人として裁かれないのは、彼が絶対の悪と認識されていないが故。そもそも吉弘殿や姫様を見れば明らかに高貴な方だというのは分かるだろうに、関所で兵がその荷物を検めるだと? 難癖をつけて銭や物を毟ろうと考えたのだろうて。
そう言った連中は他所の商人にも嫌われるから、大名にも嫌われている。それを排除してくれた吉弘殿には感謝するだろうし、国人を殺された領主や大名はその国人の土地を接収出来るからな。
もしも戦で負けて奪われた。などと言うなら意地でも吉弘殿を殺そうとするだろうが、言ってしまえばこれは喧嘩よ。更に喧嘩を売ったのが国人であると考えれば、高貴な方に喧嘩を売って滅ぼされた愚か者でしかない。
ならばその敵討ちなど出来まいよ。地侍に関しても同じじゃな。
賊に関して言えば、そもそも彼が賊を生んだわけでは無い。
悪政の尻を拭ったとも言えるし、連れ去られた女共は普通に帰還させておる。
「補填は領主がやれ」と言われればその通りよ。まさか賊を退治してもらった上に金を払えとは言えぬものな。
結局のところ彼には彼なりの理由が有って賊や国人を殺しているということは分かるが、逆に言えば、何かきっかけが有れば誰でも殺すと言うことでもある。相手を問わず殺しに躊躇しない人間が怖く無い筈がない。
そのきっかけがどこに転がってるかわからんのが何よりも怖い。
何と言ってもあの信長様ですら大人しく言うことを聞くほどのお方だからな。儂とて尾張ではそこそこ大きな商いをしているが、彼にとってはその程度では抑止力にはなるまい。儂などあっさりと殺すだろうよ。
「ふむ。貴殿は弾正忠家からの指示で我らを探っていると思っておりましたが、こうして直々に顔を見せて頂けた、ということは、情報収集は終わった。そう見てもよろしいか?」
震える身を抑えて頭を下げていれば、吉弘殿から儂が彼らを探っていることを示唆してきおった。平手殿からの依頼で彼らの身元の確認をしていることを言っているのか?
加えて、九州に伝手が出来ると言う利点もある故に調査を行ってはいるが、まさかそれを無礼として私を切り捨てる気か? 今もこうして儂を見て口元を歪めているが、これは無礼を働いた儂をどうやって苦しめるかを考えているに違いない!
クソッ! 賄賂は好まぬ性格らしいので簡単な手土産しか持って来ておらなんだが、失敗だったか!
丁寧な口調だが、これは余裕の表れよ。無駄に声を荒げて金を無心するだけの地侍など比べ物にならんほど恐ろしい。
下問に対して下手な答えは出せぬ。黙って頭を下げる事しかできぬわ。
「何を怯えてるか存じませんが、貴殿にはして欲しいことがあるのでここでお会いできたのは僥倖でした」
「し、してほしいこと、ですか?」
「えぇ。無論損はさせませんので私の話を聞いてみませんか? あぁ、無論断っても殺したりはしませんよ?」
「は、はぁ」
気の抜けた声を出してしまったが、私にして欲しいことがある、だと? さらに損はさせんとな? 断っても殺さんと言うのであれば謀略の類では無いだろうが、私に何をさせる気だ?
「なに、塩の増産方法の教授と堺や博多との繋ぎをお願いしたいのです。座については……まぁ私よりもそちらの方が詳しそうですのでお任せします。場合によっては信長殿と共に援助しましょう」
堺や博多との繋ぎは良い。むしろこちらから頼みたいくらいだったからな。だが塩の増産だと?
「塩についてはそれほど手間も銭もかかるものでは有りません。なんなら最初の準備に掛かる銭に関しては私が出しても良い。もし時間があるなら明日にでも試してみても良いでしょう。利益配分はそれからですな」
むぅ。つまるところ、知識を売りに出すが、その報酬は結果が出てから払えば良いと言うことか? 手間も銭もそれほどかからんと言うし、試しの分の費用を出すと言うなら試すだけ試してみれば良い、か。
「そこまで言われたのでは断る理由が有りませぬな。是非ご教授をお願いしたい」
利益配分などと大きな口を叩くからにはそれなりの効果が有るのだろうが、商人舐めて貰っては困る。見せてもらおうか、織田家指南役の実力とやらを!
商人から見たら千寿君はフリーザさんみたいな感じと思って貰えればイメージしやすいかも?
ジャンルがコロコロ変わってすみません。なんかローファンタジーでも無いらしいので歴史に戻りました。ハイファンタジーでも無いしなぁ…
今後は運営さんからナニカ言われたら移動することにします。