表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風神天翔記 ~とある修羅の転生事情~  作者: 仏ょも
五章。尾張と周辺国関係
107/127

97話。そのころの那古野。の巻

ノッブ登場。

文章修正の可能性有り。

尾張・那古野城。


これは今川屋敷で黒衣の宰相がブチ切れる数日前のことである。


清須城を落としたあと、信長は恒興に兵(と島津義弘と誾千代)を預け美濃との国境へ援軍として送り込み、自身は少数の兵を伴って那古野城に帰還していた。


これは自分が国境に布陣し義龍と向き合った場合、追い込まれて自暴自棄になった義龍が信長が居る本陣へ突撃を敢行してくる可能性を考慮したり、自分が義龍の前に出たらそれなりの戦果を得なければ退けなくなると言うことを考慮した結果導き出された戦略的な判断である。(戦果を得る=義龍を叩き潰す=美濃の連中が降伏してくる=畿内の連中に目をつけられる=めんどい)


……最後の『めんどい』が最大の本音だが、実際今の織田家には美濃の連中の面倒を見る余裕はない。かと言ってここで義龍の求心力を地に叩き落とした結果、美濃が乱れてその混乱が尾張に波及されても困るので、義龍にはもうしばらく美濃の国主で居てもらう必要があるのだ。


しかし今の義龍の立場は微妙である。もしもここで何の成果も無く兵を引けば、彼の評価はまさしく地に落ちる事になるだろう。


かと言って兵力の差はいかんともしがたい。


元々信長の足を引っ張る予定であった清須の連中や、本願寺の流れを汲む服部党は九州から現れた飛び入り連中のせいで早期覆滅されているし、本命の今川は長尾と関白の仲介により正式に織田と停戦してしまっていた。そのため今の義龍は己に倍する兵を単独で迎え撃つ必要がある状況に陥っている。


さらに義龍にとって都合が悪いことに、織田は今川との停戦によって三河と南信濃の軍勢も自由になるので、敵はさらにその数を増やすことが可能になっているのだ。


更なる援軍が予定される織田勢に対して、義龍はどうか?


……はっきり言えば最悪である。


まず斎藤家は土岐と繋がりがある近江の六角や越前の朝倉から敵視されていることや、義龍個人が己の父であり前国主である(斎藤道三)を殺したことで国人からの信用が無い状態であり、現状では国内の国人に援軍を要請するどころか、彼らによって稲葉山城を奪われ、それを手土産に織田に寝返ることまで警戒しなくてはならないだろう。


つまり今の義龍は、進むも地獄。退くも地獄。留まってもこれまた地獄と言った状況にある。それを自覚している義龍は、現在陣中で胃を抑えながら必死で打開策を模索している最中であった。


このように、完全に詰んでいる状態に陥った義龍と、その事情を理解している(準備不足と勇み足の結果の自業自得だが、そう動くように仕向けたのは織田と今川である)信長は、自身が後方に下がることで義龍との決戦を避け、適当なところで適当な事情をでっち上げ前線に撤退命令を出すことで向こうより先に兵を退き、義龍に軍を撤退させる名目をくれてやろうとしていたのだ。


これは信長が前線に出ていては出来ないことなので、こうして彼女が那古野まで戻っているのは決してサボりではなく、きちんとした戦略的な意味があってのことなのである!


「それに無意味に青大将の相手をしとる暇があるなら、尾張の政を優先せんとダメじゃろ?!」


「……いや、別にそんな全力で弁明しなくても良いわよ?」



~~~



「ほ、本当かや?姫様は本当に怒ってないんじゃな?」


しつこいわねぇ。


「そもそもなんで怒らなきゃダメなのよ?……何か怒られるようなことしたの?」


それなら正直に言いなさい。しっかりとぶち込んであげるわ。

そう思って扇子を出そうとしたら、信長が必死で弁明してきたわ。


「し、しとらんぞ! じゃが……」


「じゃが?」


何かしら? この様子だと……自分では悪いことをしたと思っていないけど、もしかしたら私が怒るかもしれないってことをしたってこと? でも清須で何をすれば私が怒るのかしら? 誾千代を自由にしたとか?


信長が何を言い出すのかと逆に興味が湧きてきた義鎮は、とりあえず扇子を構えて信長の言葉を待つことにした。すると信長は観念したかのような顔をして、下を向いてポツポツと話し出す。


「そ、総大将が兵を監督せずに帰ったら駄目かなぁ……と思ってのぉ」


「あぁ。なるほどね」


落ち込んだ様子を見せる信長を見て、ようやく彼女の言いたいことを理解した義鎮は信長の中の理想の総大将は『常に前線に立って兵と共に戦うような将帥』であることを初めて知ることとなった。


おそらくその元になったのは、越後の長尾景虎。いや、千寿なのだろう。


確かに千寿は、退く・攻める・留まると言った戦場での指揮に留まらず、国を跨いだ戦略をも理解する将帥であり、指揮官としては一つの理想を体現した存在と言っても良い。


しかし、言い換えれば彼の本質はあくまで将帥でしかないのだ。それは誰かに使われることでその本領を発揮する武器と言っても良い。つまるところ千寿と言う人間は、あまりにも切れ味が良すぎて、並大抵の使い手では己を傷つける事になる名刀と言える存在だ。


そんな切れすぎる名刀こと千寿に対して、信長は君主である。つまり名刀を振るう側の人間なのだ。


なればこそ、彼女が目指す先は千寿のような将帥(使われる存在)ではなく、義鎮のような君主(使う存在)でなくてはならない。


そこまで考えた義鎮は、今の段階で『信長がそのことをまだ良く理解できていない』ことを知ることが出来て良かった。と内心で胸を撫で下ろす。人は痛みを知ることで成長する生き物だが、それだって状況によりけりだ。


(これが取り返しの付かない敗戦の後だったりしたら目も当てられないからね。うん。今この時で本当によかった)


そう考えた義鎮は、今も不安そうにこちらをチラチラと見てくる信長に「……馬鹿ねぇ」と一言呟いてから、その頭を扇子でポコっと音がする程度に軽く叩いた。


「あう?」


思ったのとは全く違うリアクションに目を丸くしている信長を見て、この子は私をなんだと思ってるのかしら? と思いながらも、義鎮は己の考えを信長に伝えていく。


「あのね? 元々貴女みたいな国主は総大将として戦場にずっといる必要なんか無いのよ? そりゃ場合によっては貴女が動かなきゃいけない場合もあるけど、今回みたいな場合は信広殿や佐久間殿にも兵を指揮する経験を積ませる必要があるし、貴女自身にもちゃんと後方にいなきゃいけない理由もあるんだから、任せるところは任せて良いのよ」


「お、おぉ!そうじゃよな!」


君主の仕事は己が手柄を立てることではない。部下に仕事の方向性を示し、手柄を立てさせ、その成果を評価することが君主の仕事なのだ。


だからといって『戦なんぞ知らん』などと言って引き篭っていては、戦場で命をかけて戦っている武官たちの反感を買うので、そのへんの調節も重要になるのだが、少なくとも毎回毎回戦場にその身を置く必要は無い。


「大体それを言ったら、三河や信濃方面なんて全部千寿が担当してるじゃない?それに対して何か文句を言われたこと有る?」


「あ~確かにそうじゃの!」


今気付いた!と言わんばかりにポンっと手を打つ信長であるが、実際に彼女が三河に赴いたのは義鎮の妊娠のゴタゴタが有った時だけであり、向こうは全部千寿任せである。


そんな彼女に対して、三河や信濃の国内から信長に対して『織田家の当主として相応しくない』などと言う言葉は出てこないのだから、信長の心配は完全に杞憂であると言えよう。


一応補足するならば、今までは三河や信濃での戦の際には尾張国内でも戦があり、本貫を優先するのは当然のことであると理解されていたと言うのも有る。なので、今後尾張の中に敵が居なくなった状態にも関わらず、三河や信濃に対して信長が無関心な態度を取れば、他ならぬ千寿から「俺の負担を減らせ」と言った内容の苦情が来ることになるだろう。


そんな役割分担についてはともかくとして。


「わかったら仕事の話に戻るわよ。ハイ、これ」


とりあえず怒っていないことを伝えた義鎮は、信長に対して単身赴任中(公認の現地妻有り)の旦那から送られてきた書状を信長に手渡すことにした。


「仕事ってなんじゃ?……って三河の吉弘殿からの書状かや?」


「そうね。なんか予定を変更したいんだって」


「ほぉ~。何と言うか、珍しいのぉ」


「それは同感。でも読んでみればわかるわよ」


「ほむ?」


急に書状を渡された信長は、その宛名を見て驚きの声を上げ、さらに義鎮から告げられた言葉に驚きの声を上げた。


基本的に千寿は『戦は始まる前に終わっている』を地で行く性格をしているので、準備や段取りを重視する傾向が強い。そして、その準備があるからこそ不測の事態に陥ってもすぐに軌道修正をして目的を達成することが出来るのだ。


そんな彼が急遽予定を変更すると言う行動に出るのは、付き合いが長い義鎮から見ても非常に珍しいことであった。ただし千寿の場合、全ての行動理由が非常に合理性を重視したものであるので、信長のような現場主義且つ現実主義な人間には受け入れやすいものであるのは確かである。


そのため信長は「姫様が見ればわかると言うならそうなんじゃろうな」と、特に義鎮を問いただすことなく書状を読み始める。


「むむむ? 木曾を降伏させた後、南信濃に攻撃をさせる?木曾の本領安堵はともかくとして、なんで南信濃?」


書状を読み終えた信長は頭の中に地図を描き、それぞれの陣営の兵の動きを想像する。


予定であれば、今川が三河から兵を退いたところで千寿も兵を退き、そのまま三河勢は信濃へと移動して木曾を圧迫して降伏させる。それから尾張と信濃から美濃を圧迫し、義龍に嫌がらせをしつつ北条と今川が戦を始めたら即座に取って返し、三河を奪うのが本来の流れであった。


これは、いくら現時点で信長に義龍を殺すつもりがなくとも「尾張にちょっかいをかけて来た美濃勢に対して、なんの返礼もしないのは有り得んよな?なんかムカつくし!」と言った尾張国主の意見を慮った結果考案された作戦であるが、三河勢が信濃から美濃を圧迫しないとなれば片手落ちも良いところである。


尤も、義龍に対する嫌がらせ云々は信長が我慢すれば良いことだから(そもそもの話、今回義龍が尾張に対してちょっかいを掛けるように仕向けたのは自分たちである)まだ良い。


問題はその命令が生み出す効果だ。普通に考えれば、木曾に南信濃を攻めさせ、撃退した後に返す刀で木曾を覆滅してその所領を直轄地として治める。と言ったところだろうが、これから増える予定の東三河十万石の運営にすら頭を痛めている千寿がわざわざ自分の仕事を増やすような真似をするだろうか?


ついでに、この策を使って木曾福島周辺を直轄領とするなら木曾義昌の所領安堵を認めた意味がない。敢えて罠に嵌める必要が無いことを考えれば、どうしても千寿の行動がチグハクに見えてしまう。


「むぅ……どゆこと?」


わからないことはいくら考えてもわからない。そう判断した信長は、素直に姫様(内容を知ってる人)に尋ねることにした。もしも目の前に居る相手が義鎮以外だったなら、プライドが邪魔をして質問をすることができず、千寿の狙いを取り違えたりして時間を浪費することになったかもしれない。しかし信長にとって義鎮を頼るのは恥でも何でもないので、こういったことが可能なのである。


「はぁ。しょうがないわねぇ」


質問された義鎮としても、もしもこれが思考停止した上での質問ならば「横着するんじゃないわよ」とツッコミを入れるのだが、情報が足りなくて答えを導き出せないことを自覚した上での質問なので、今回は特に折檻は無しとした。


……主君に折檻前提で向き合う御伽衆もどうかと思うが、信長(折檻を受ける当人)がそのことを特に問題に思って居ないので、おそらく問題はないのだろう。


そんな心温まる主従関係を維持したまま、義鎮は千寿の狙いを解説することにした。









「えっとね?……が……だから……になるのよ。わかった?」


「ほへー。なるほどのぉ」


「ついでに言えば北条にも貸しを作れるわよ?」


「おぉ!それもそうじゃの!ククク、せいぜい高く売りつけてやるわ!」


「えぇ。そうしなさいな」


「うむ!しかし流石は姫様よのぉ。よくもまぁこんな短い文で吉弘殿の考えが読めるものよな!」


「そりゃそうよ。私と千寿の仲ですもの」


「ぐぬぬ!見せつけおってからにぃぃ!」


「ふふん♪」


「(私は石、私は木。私は壁で、私は柱。何も考えるな、何も言うな!)」


ちなみに今まで触れもしなかったが、はしたなく着物の袖を噛む信長と、そんな彼女を見て得意げにお腹をさする義鎮が居るこの部屋には、妊娠中の義鎮の側仕え兼護衛として望月が控えていたりする。


……ちなみのちなみに義鎮は千寿から個別に書状を貰っており、その中には信長宛に送った書状の中に書かれていた策についての解説が明記されていたのだが……そのことを知るのは義鎮本人と、彼女と一緒に書状を見た望月だけであったと言う。

久々登場な気がしますが、実際は前の章の最後とかに出てましたからねぇ。

普通に更新が久々と言うだけでして……誠に申し訳ございません!


なんだかんだで千寿の主君はノッブなので、木曾勢に南信濃へ攻撃をさせるためにはノッブの許可が必要なんですよね。


つまり、全部○○が悪いんだ!ってお話。



―――


さんざん引っ張って燃料ポイントを稼ごうとする作者がいるらしいですぜ?読者様もお気を付けなすって下せぇ。



閲覧・感想・ポイント評価・ブックマーク・誤字訂正ありがとうございます!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 短期間で勢力が拡大したら内政の時間ですわな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ