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風神天翔記 ~とある修羅の転生事情~  作者: 仏ょも
五章。尾張と周辺国関係
106/127

96話。前略、今川の館より⑦の巻

ひゃっはー連続更新だー!

文章修正の可能性大。

駿河・駿府今川屋敷


この日、義元の下に尾張での戦の顛末が届けられた為、義元は雪斎を呼び出していた。その話の内容は、もちろん尾張の情勢と今後の自分たちの動きについての打ち合わせである。


「……まさか清須攻めが一日で終わるとはな」


「流石に予想外でした。なんでも九州から来た連中の初陣と言うことで、かなり無理な攻め方をしたようですな」


「そのようだな。あまりに苛烈な攻めで清須城は半壊、城内に居た斯波義統・義銀親子は討ち死に。降伏を認めず撫で切りとした後で、美濃との国境に兵を進めた、か」


一番苛烈だったのは鬼島津と森可成の戦いであったが、流石にそこまでの情報は無いので義元は織田が勢いに任せて城を落とした結果、兵たちが暴走して城が半壊したと思い込んでいた。


「ふむ。城内の敵対勢力を撫で切りにしたことで、降伏してきた者たちを警戒する必要は無くなりますからな。しかし人材が居ないと言いつつも、ここまで果断に処罰を行うとは、なんとも……」


「恐ろしいか?」


「はい。それもありますが」


「ん?」


わざわざ溜めを作った雪斎に訝しげな目を向けると、雪斎は仏門の徒としてはあるまじき感情でしょうが。と前置きした上で、こう述べた。


「羨ましいな。と」


「あぁ。なるほど」


そう。雪斎が驚いたのは一日で城を半壊させたことではなく、降伏を認めずに撫で斬りを行ったことだった。もしもこれが自分たちならば、斯波親子は殺さずに国外へ追放する程度で矛を納め、彼らに従っていた者たちを登用して清須の統治に利用していたはずだ。


それらを一切斟酌せずに大鉈を振るった信長が羨ましいやら恐ろしいやらで、複雑な感情を抱いていたのだ。そしてその雪斎の思いには義元も同意できる部分がある。名門であるが故の拘束は、義元としても時に煩わしく感じるものだからだ。


「ひと思いに全部殺ることの難しさよな」


「まさしく」


そうすれば禍根はなくなるとわかっているし、鎌倉時代の武士は当たり前に族滅を行っていたこともわかっている。しかし今川家はそのような真似が出来ない。それがあまりにも度が過ぎた下郎ならば、降伏を認めずに殺すこともある。しかし基本的には名を保つために窮鳥を懐に入れざるを得ないのだ。


これは何も今川に限った話ではない。一番わかりやすいのが関東で争う長尾と北条だろう。

彼らは何度歯向かおうと、降伏してきた者に対しては温情をかけねばならないと言う面倒臭さがある。


そうしなければ、長尾の場合は次の遠征の際に、北条の場合は侵攻の際に、それぞれに潰された家の者たちが死に物狂いで抵抗することになるからだ。そしてそういった相手を攻める際は同じ関東の諸将は相手を本気で攻めようとはしない。


そうこうして攻め倦ねている間に敵に援軍が来ることになり、結局何も得ることなく撤退することになってしまう。


こういった面があるので、長尾景虎も北条氏康も何とかして関東の諸将に対して自分の影響力を強めようとはしているのだが、その動きはどうしても中途半端なものにならざるを得なかった。


それは下手に影響を強めれば、敵が攻めてきた時に援軍を出さねばならなくなると言う事情があるからだ。結局関東は、長尾と野戦をしたくない北条と、関東まで遠征したくない長尾の微妙な駆け引きの上で成り立っている。


そんなところに信長が来たらどうするだろう? 


「「…………」」


義元と雪斎の脳裏には『面倒じゃの』『喧しいわ』『何をいまさら』『はよう死ね』などと言って高笑いしながら諸将の首を刎ねていく幼女の姿が有った。


いや、まぁ実際の信長は『必要なら躊躇なく殺すが不要なら生かす』タイプの人間だし、国人の事情にも配慮するだけの余裕と優しさを持ち合わせて居るのだが、如何せん彼女は殺しすぎた。


母や弟を筆頭に、弟に従った家来衆から自分に従わない国人衆、義元に内応を約束していた山口親子も説得などせずに躊躇なく殺しているし、三河の国人に至っては寺社ごと族滅した上に、溜め込んでいた財貨を全部没収して軍資金として使うほどだ。


……実際はその半分以上が千寿と義鎮(姫様)の手によって行われたことであるので、ある意味では風評被害と言えるかもしれない。しかし、部下の行いは主君の行いでもあるので、この辺は諦めてもらうしかない。


「と、とりあえず話を進めるか!」


「そうですな。彼女が関東に出張る訳でもありませぬからな」


そんな信長の評判はともかくとして、彼女が尾張を制したことで事態が一つ進んだのは事実である。


「確か、すでに禁裏から織田に対して『関白殿下からの仲介の話は無視しても良い』と言う綸旨が出ているのであったな」


「はっ」


「公家どもめ、連中を欺いている我が言うことでは無いのだろうが、舐めた真似をしてくれるな」


義元が京の公家に対して怒りを覚えているのは、その綸旨が織田にだけ出ていて、今川には一切の連絡がないことであった。


本来休戦調停が無効だと言うのなら、双方に使者を出すべきであろう。これでは今川は近衛の言葉を無視できず、無条件で織田から先制攻撃を受ける羽目になってしまうのだから、義元が怒りを覚えるのも無理はない。


「我等とてこれが織田の手だとは理解しておりますが、確かに面白くはありません。それに今後を見据えればこのままで良いとは口が裂けても言えませぬな」


「まったくだ。一度タダ飯喰らい共を締め上げる必要がある」


「今はまだできませんが?」


「それはそうだろうよ。何せ我らは綸旨の存在を知らぬのだからな」


流石に今の段階で、自分たちが綸旨の存在を知っていると言うことを公表して公家を誅してしまえば、長尾や北条に自分たちの動きの不自然さを見抜かれてしまう。故に今川家として役に立たない公家共を締め上げるのは、織田が禁裏から頂戴した綸旨を公表した後のことだ。


ちなみに、雪斎が千寿と打ち合わせてきた流れで行けば今後の予定は、以下のようになっている。


①休戦協定を信じた義元が東三河から兵を退き、その兵を伊豆へと向け、長尾と共に北条に当たる。

②それを見た三河守が兵を退き、尾張国内もしくは美濃へと兵を回す。

③三河勢と尾張勢で美濃斎藤に一撃を加えた後で、三河勢は兵を戻す。

④今川が全力で北条と戦っていることを確認した三河守が東三河を落とす。

⑤織田の協定破りに仰天した今川が兵を戻す。

⑥織田が今川と長尾に綸旨を見せ、己の行動の正当化を行う。

⑦織田と今川が三河・遠江間で睨み合う。

⑧それを見た北条が、兵を長尾に向ける。

⑨織田と今川で停戦を行い、今川は伊豆へと侵攻。

⑩織田は西信濃を攻略し、美濃に圧力を掛ける。


と言う、簡単に言えば十段階の工程が予定されていた。


この中の④~⑥を実行するために、今川には綸旨の存在が知られて居ないと言うのが最低条件となる。


今のところ計画通りではある。禁裏も、長尾も、北条も、斎藤も、なんなら今川家の家臣団や織田家の家臣団まで、全てが自分と信長の掌の上で踊っている状態だった。


それは間違いなく良いことだ。しかし、である。


このような状況の中で、公家の方から自分たちに禁裏の動きを伝えようとする者が居ないことが、義元にはどうにも我慢できなかった。


「糞どもが。普段あれだけ世話をしているというのにな」


「確かに。織田弾正からは、駿河に下向している公家やその関係者に情報を渡さぬように画策しているとは聞いておりますが、いくらなんでもここまで完璧に押さえ込まれては意味がありません」


「その通りだ。いずれ織田が我らに従うと言っても流石にこれでは、な」


「まさしく。いつまでも驚いてばかりはいられませぬ」


国内の政に関しては負けるとは思っていないが、外交やら戦略の部分では完全に遅れを取っているのが現状だ。義元は『このままでは主家としてあまりにも甲斐性が無いとして、見限られる可能性すら有る』と懸念していた。


雪斎にしてみても、あの三河守がわざわざ今川と敵対して自分の仕事を増やすような真似をするとは思ってはいないが、それでも主家としての立場を懸念する思いはある。


元々禁裏にとっては今回の休戦調停そのものが近衛による勇み足だ。故に禁裏の立場で考えれば『勝手に朝廷の名を使うな!』と近衛を叱責するのもわかるし、その勝手な行いを帳消しにしようとするのも当然の話だろう。


さらに普段から献金を欠かさない信長に対して優遇措置を取るのも、まぁわかる。


義元とて、禁裏が困窮していることを知りながらも献金はしてこなかったのだから、向こうが自分よりも定期的に銭を払ってくれる信長を優遇する気持ちは理解できるし、いまさらそのことで禁裏や京の公家を咎めようとは思わない。


彼にとって問題なのは、駿河にいる公家どもだ。


「差し当たってはあの公家共よ!彼奴らめ、禁裏の出した綸旨のことすら掴めぬ公家どもに何の意味が有るのだ!」


そう。今川家にとって、駿河に下向している公家連中は知識や文化の伝道師であると同時に、京との繋ぎ役でもある。それなのに朝廷の行動を掴めないと言うのなら、何のために連中を養っているのかわからなくなるではないか。


結局今川家は公家連中の怠慢のせいで情報が得られず、三河を織田に掠め盗られることになるのだ。いや、三河だけではない。織田がそのまま遠江に侵攻してきたら、北条と織田に挟まれた自分たちは迎撃の準備すら出来ない状況に陥ってしまうだろう。そうなったら甲斐の信虎がどう動くことか。


考えれば考えるほど、今回の『綸旨を用いた休戦破棄』と言うのが、今川にとって致命的な策になるのがわかってしまう。


……元々この流れが策の内であり、織田に、否、三河守にこれ以上領土を拡張する気が無いと知っているからこそ義元も我慢出来るが、これが本当に織田に裏を掻かれたとなればどうなるか。これはもう関係者全員を処刑してもまだ足りないほどの大失態と言っても良いだろう。


京洛の喧騒から逃げ出し、のんべんだらりと駿河で生活している公家共の間抜け面を思い浮かべるだけで、義元は己の蟀谷に青筋が浮かぶのを自覚してしまうほどの怒りを覚えていた。


(……やれやれ。殿のお気持ちはわかるがな)


「落ち着きn「……雪斎様」ん?」


内心で溜息を吐きつつも、雪斎が怒り狂っている主君を諌めようとしたとき、外から彼に対して声が掛かる。それは雪斎が情報収集に使っている間者であった。


「……何があった?」


普段なら義元との協議中に声をかけてくることなどないはずの彼が、わざわざ自分たちの会話を中断させてまで報告することだ。間違いなく緊急事態が発生したのだろう。


そう思った雪斎は、義元を諌めるより先に外にいる間者に声を掛けた。するとその間者は、雪斎が予想もしなかった事案が発生したことを伝えてきた。


「木曾福島城の木曾義昌が南信濃に兵を出し、飯田の秋山らによって迎撃された模様です」


「……なんだと?」


「む?どうした雪斎?」


「あぁいえ、少々お待ちくだされ」


「う、うむ」


予想もしなかった報告を受けて一瞬頭が真っ白になるも、さすがは黒衣の宰相。本当に一瞬で立て直し、即座に情報の分析を行う。


(西信濃の木曾福島を治める木曾義昌は、現在美濃斎藤家に所属している。では尾張で劣勢の義龍を助けるために、織田の注意を信濃に向けようとしたか? いや、そもそも木曾単独では何もできん。実際飯田の秋山に迎撃されたしな。それに下手に動けば我らと停戦している三河守の軍勢を招く事になる故、普通は避けるだろう。いや、一応それは尾張への援軍を防ぐと言う意味では無意味ではないが……しかし、今の義龍の為にそのような真似をするか?)


雪斎はそこまで考えたが、彼の出した答えは否である。


(無いな。長年仕えてきた譜代の臣であったり、特別な恩賞が期待できるならまだしも、現状で義龍に忠義立てても良いことなどない)


何をしても家を保つことが家長の務めである。それを考えれば、今回の南信濃への出兵は無駄にして無意味。それどころか黙っていればそれなりに扱われていたであろう家を、徒らに危機に陥れる行為だ。


(木曾福島は、その立地から長尾も今川も斎藤も織田も重要視しているので、黙っているだけでそれなりの待遇は与えられる。にも関わらず、現在落ち目の斎藤の為に連中が家を傾ける覚悟で兵を出すことなど有り得ん。ならば木曾は他の誰かに依頼されて動いたと言うことになる。そして現在木曾に南信濃を攻めさせることが出来るのは、直接援軍を送ることが出来る北信濃の村上か甲斐の信虎)


一応名目としては『尾張で苦戦している義龍の援護』を名目にするのだろうが、その実態は違う。と雪斎は考える。


(おそらく狙いは他の勢力との渡りをつけること。その上で木曾が南信濃に攻め込むことで得をするのは……あぁそういうことか)


ここまで考えてようやく、誰が、何のために木曽義昌を動かしたのかを確信した雪斎は、その犯人の顔を思い浮かべて蟀谷に青筋を浮かび上がらせる。


「あの野郎、やりやがったな!」


「せ、雪斎?」


先程までの自分以上に怒りを見せる雪斎に、やや腰が引けた感じで問いかける義元だが、彼は彼で雪斎が言う『あの野郎』が誰かは察しが付いていた。


そもそも雪斎が露骨に感情を表に出して罵倒する相手など、最近は一人しかいない。


――何をしたのかはわからんが……恨むぞ、三河守。


義元は雪斎を怒らせた男が居るであろう三河の方向を眺め、遠い目をしながら心の中でそう呟いたと言う。

今川の二人組回。


取り合えず織田と今川の予定はこんな感じでした。

ただ、これだと織田が近衛から恨みを買いますよね?


つまりはそう言うことですってお話。


旦那。感想欄での展開予想は削除対象ですぜ。


――――


読者様から頂戴した燃料ポイントがインスピレーションとなり、作者の筆を走らせるのだ!



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[一言] 信長と主人公、息してますか……?(笑)
[一言] 信長さんの外道株が爆上がりw バブル崩壊の日はいつ来るのか。
[一言] 連続更新ありがとうございます。 丁度読みきった所に連続更新。 年末年始の激務後の休みが面白い作品で最高な休日になりました。
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