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風神天翔記 ~とある修羅の転生事情~  作者: 仏ょも
四章。尾張統治と下準備編~
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94話。清須落城と尾張統一の巻

清須城内の戦闘。

戦闘描写ガガガガ。

尾張 清須城内


「ひゃっはー!」

「首だ!首だ!」

「命だ!」

「手柄だぁ!」

「「「とっとと死ねぇ!!!」」」


「ひぃ~!!」


「「「獲ったどーーーー!!」」」


信長の軍勢による本格的な攻勢が始まって三刻程。城門が開いてから一刻程が経過した清須城では、敵味方入り乱れる乱戦に……なっていなかった。


ただでさえ数が違うのに、殺る気も違うし個人の武力も違うとなればそれはもう一方的な虐殺である。唯一の救いは信長と義鎮からの厳命で乱暴狼藉が禁じられている為、女子供を嬲らずに殺すと言うことだろうか。


これは同じ女としてどうこうではなく、そんなことをしている隙に襲われたり、敵を逃がすことを嫌っただけと言う話ではあるものの、一応の慈悲では有るだろう。


そんな中、義弘はそれなりの武人の気配を感じて城の奥へ奥へと足を踏み入れていた。


「「で、でりゃー」」


「遅い」


「「グハッ!」」


小姓らしき者が狭い通路で二人同時に攻めかかるも、横薙の一撃で柱ごと両断。


「「「く、くそっ!これ以上はっ!」」」


「邪魔だ」


「「「う、うわぁ!!」」」


前後から三人同時に挑んでも、彼女の持つおよそ一丈(約3メートル)の槍はまるで意思が宿っているかの如く敵を貫く。彼女の豪腕と槍術の前には室内だろうがなんだろうが関係なかった。


こうして小姓が命を捨てて挑んでくると言うことは、誰かは知らないが近くに敵の将が居ると言うことだ。少なくともこうして小姓が命を投げ出す程度の忠誠心を向けられて居るので、決して雑魚では無いと言う確信は有る。


しかし今の義弘の標的は将ではなく武人だ。そして今の彼女が「それなり」と判断する以上、少なく見積もってもその武力は誾千代に匹敵すると見ている。


それだけの武人が相手では九州勢でも苦戦は必至。


なんだかんだで彼らは同じ船で過ごした仲だし、そもそも彼らは千寿に仕える同胞である。その上で義弘は彼らの命を預かる身だ。大友家から来た連中からすれば余計なお世話だ!と言われるかもしれないが、彼らの中には無駄にして良い者など一人も居ない。


それらの理由から彼女は率先して強敵を片付けようとしていた。


断じて敵に手応えがなさすぎて、強者を求めて彷徨っているわけでは無い……はずである。


「……女子か」


そんな彼女の元に一人の武人が現れる。歳は30前後。身の丈は義弘より高く、六尺程(約180センチ)はあるだろうか。


そして彼がその手に携えている得物は、屋内での戦闘を考えたか長さ一間半(270センチ)程の一目で名のある刀匠に鍛えさせたのだろうと言うことがわかる十字槍。


全体から生じる気は、彼こそが自分が探していた武人だと言うことを確信させるに十分なモノであった。


「そちらから来てくれたか」


殺すべき敵を前に、義弘は『手強い』だとか『面白そうだ』などとは思わない。ただ手間が省けたと思うだけだ。


「……これ以上は進ません」


そう言って槍を構える姿には義弘をして「ほうっ」と思わせるモノがあった。しかしこの期に及んでは無意味だ。彼の未来には死以外は存在しない。


それは勿論彼も理解しているのだろう。だが「理解はしているがそれを黙って受け入れる気は無い」と、言ったところだろうか?


こうして義弘の前で精一杯の気勢を吐く姿には、獰猛さも無ければ怖さもない。ただ痛々しいだけだ。


「一応聞いておこうか」


この時の彼女が彼を見て何を考えたは不明だが、ここで義弘は戦いの前に敵に声をかけるという、九州の人間(主に弟と妹)が聞いたら目を剥くような行動を取る。


「……何をだ?」


「どうせ死ぬんだ、潔く腹を切る気は有るか?」


あっけらかんと貴様に先はないと言い切る義弘。しかし言われた方はソレを傲慢とは思わない。この状況ではどう考えても自分たちが生き延びる可能性は無い。


ならば雑兵に首を取られるよりは、彼女の目の前で腹を切った方が、名が残ると言うものだろう。ある意味で最後にかけられた慈悲と言ったところだろうか?


一人の武士としては頷きたい気持ちもある。


しかし彼にはその道を選ぶことはできなかった。否。一つの条件さえ満たしてくれれば、喜んで腹を切っただろう。そして一縷の望みを懸けて、彼はその条件を義弘に告げることとした。


「妻子の命を安堵してくれるならば、喜んで腹を切ろう」


そう。このまま自分が死ねば、己の妻も幼き子も殺されてしまう。


今の彼は信友でもなければ武衛でも無い。己の妻子の為だけはなんとしても生かしたい。そんな思いで動いていた。


その為だけに、こうして生き恥を晒しながらも交渉が出来る将が来るのを待っていたのだ。


しかし義弘にはそんな事情は関係ない。戦場に居る以上は敵であり、敵の事情など慮っていては戦など出来やしない。


故に彼からの哀願は無慈悲に切って捨てられる。


「それは無理だ。そもそも妻子の為に命を賭ける覚悟があるならば、戦の前に武衛やら大和守やら坂井やらの首を刎ねて持ってくるべきだったな」


いや、無慈悲では無い。言ってしまえば、その為に信長は彼らに三日与えたのだ。


その三日で何もしなかったくせに、今更「妻子だけは助けてくれ」と言われても頷けるハズがない。名が惜しい?己の命が惜しい?主君の命が惜しい?妻子の命が惜しい?それは誰しもが願うことであるが、負けた者には選ぶ権利などない。


負けると言うことは全てを失うと言うことだ。


目の前の彼が何を惜しんだかは知らないが、どうしても主君は殺せないし妻子も死なせたくないと言うならば、妻子を連れて逃げれば良かったのだ。


坂井大膳も信長も簡単に逃がす気などなかったが、それでも逃げるだけの覚悟と逃げ切る能力が有ったのなら信長も登用を考えただろう。


アレも嫌だ、コレも嫌だと言って手段を選び、こうして清須に残っている時点で愚物。よって義弘には彼を生かす理由がない。


妻子に関しては命令通り苦しまずに殺してやると言った感じである。


「そうか。ならば某は妻子を守るために鬼となろう!」


「鬼?……阿呆が」


「何?!」


己の覚悟を鼻で笑われて、手に持つ十字槍に力を込める。しかし、義弘の価値観で言えば、侮辱しているのは相手の方だ。


戦場(いくさば)と言う地獄に立つものは皆が鬼だ。にも関わらず今更になって妻子の為に鬼となるだと?今まで鬼として戦場(ここ)に立っていなかったと言うのなら、貴様はただの阿呆ではないか」


仏と遭えば仏を切り、鬼と遭えば鬼を食らう。戦場の修羅たる義弘からすれば、彼は温すぎた。彼の覚悟を無様と言い切ると同時に義弘が槍を構え、殺気を発する。


「ぐっ」


まるで押しつぶされるかのような圧力を感じる殺気に飲まれそうになるが、彼には守るべき者が居る。


例え目の前の修羅から見て自分が温くとも、相手の言葉が正しいと理解していても、このままむざむざと殺される気は無いし、守るべき者を殺させる気も無い。


「我は森可成っ!一槍馳走仕る!」


「雑兵の名に興味はない。島津義弘の名を地獄の鬼に喧伝せよ」


どうせ助からないならせめて一矢報いる。時間を稼げば妻子は乱戦の中で逃げることが出来るかもしれない。親として、武人として、鬼として彼は名乗りを上げ、義弘はその覚悟すら無意味と切って捨てる。


後世、尾張清須城の戦いにおける唯一の激戦とされた「鬼の一騎打ち」はこうして幕を開けた。



――――


十字槍。基本的には穂身の中程に枝分かれした別の穂身がある左右対称の両鎌槍のことで、十文字槍とも呼ばれる。


有名なのは宝蔵院に伝わるモノだが、似たような形状は昔からあるので特に珍しいと言うものではない。


これが厄介なところは紙一重の回避が難しいところだろう。突けば槍、払えば薙刀、引けば鎌と言われるように、敵に回した場合は非常に面倒な武器だ。


ただ使い道は限定されており、まず場所は屋外(もしくは遮蔽物の無い道場のような場所)であること。


馬に乗ったまま使うには向かないこと。(引っ掛けた雑兵の肉や鎧等が付いたりする)


刃として使うので手入れが面倒なこと。さらに枝分かれしている関係から、部分的な強度が弱くなること(使い手によっては重くすることでカバーは可能)等がある。


言ってしまえば一騎打ちに向いた武器と言えるかもしれない。そんな一騎打ちに向いた武器を持つ森可成に対して、義弘が持つのは姫様から預かった(姫様は千寿から献上されていた)1尺4寸の穂を持つ笹穂槍と呼ばれるタイプの槍だ。


元々義弘は片鎌槍を使っていたのだが、彼女から「指揮権を預ける」という信頼の証として預けられたもので有るし、さらに千寿が三河でコレを手に入れた際に「これは……良い槍だ」と褒めたと言う情報もあり、実際に使い心地は抜群なので、今では今回の戦の褒美にこの槍を貰って家宝に認定しようとしているくらいのお気に入りだったりする。


それにこの槍は義弘が使っても問題ないくらい頑丈だし、切れ味も(すこぶ)る良い。リーチに関しては本来は倍の長さが有ったらしいが、姫様が使いやすいように柄部分の長さを半分にしたと言う経緯があるらしい。


まぁその辺はともかく、千寿の気遣いのおかげでコレは一騎打ちにも使えるし馬上槍としても使えるという、非常に使い勝手の良い武器となっていた。(当然使いこなす技量があってのことだが)


――――


ドーーーン!と言う音と共に城内の建物が倒壊し、崩れ落ちる建物の中から二人の鬼が姿を現す。


片や全身に大小多数の傷を負い、全身を朱に染めながらも()()()のような槍を鬼の形相で振るう三十代の男。


片や青に近い黒髪を靡かせ無表情で笹穂槍を打ち合わせるのは、見た感じはいまだ無傷の長身の少女であった。


二人が戦闘を始めてからおよそ四半刻(三十分)戦場を縦横無尽に動く両者が槍を合わせる度に周囲の建物が破壊され、兵士たちが巻き添えを食らわぬように距離を取る中、両者の一騎討ちは佳境を迎えようとしていた。


(速さは向こうが上、力はコチラが上。得物は向こうが上。技量は互角。しかし既に均衡は崩れている。これ以上細かい技の応酬をしていては勝てん。ならばっ)


「フンッ!」


(狙うは確実に体勢を崩す一撃!)


「……」


壁や柱を無視した、遠心力を利用したなぎ払い。建物を破壊出来るだけの力がある可成からすれば、障害物云々は関係ない。破壊した建物の廃材ごと義弘に叩きつける!そんな勢いを持った十字槍。脂の乗り切った年齢である可成の全力攻撃を、義弘は顔色一つ変えずに無言のまま廃材ごと押しつぶす。


「グッ!」


(まさか今まで力を抑えていたと言うのか?!)


「……」


表情を一切変えずに撃ち込んでくる様子からは、無理をしているような感じはない。つまりはそう言うことだろう。


修羅とは、何も考えずに目の前の敵に全力を出す獣ではない。


相手の実力を測り、一撃で殺せるようならそうするが、それなりに拮抗している場合は己の底を見せずに相手の底を確認しようとする、冷静な目を持つ狩人でもあるのだ。


その視点から見れば、この清須は相手方の巣であり、目の前の森某以外にいかなる戦力が存在するかわからないし、罠や伏兵の可能性もある。


更に森にそれなりの力が有ることを認めたので、彼女は伏兵が潜む可能性のある建物を破壊しつつ持久戦を仕掛けることにした。


そして今、敵に罠も伏兵も無いと判断したので、その命を喰らうために全力を出すことにしたと言うだけの話である。


「ちぃ!」


円運動の最中に潰されたせいで体が流れるが、可成は力の流れに逆らわず転がることで追撃の一撃から逃れることに成功する。


とは言え自分がまき散らした廃材の上を転がるのだ、当然細かい破片などで擦り傷は出来る。それが背中や腕ならまだ問題ないのだが、指などに傷を負えば動作に微妙なラグが生まれてしまう。


その為回避の為に転がる際も指を庇うようにしなければならないのだが、そんな余裕を与えてくれるほど目の前の修羅は甘くはない。


「…疾ッ」


「くっ!」


無駄な音を出さず、空気ごと斬るかのような一撃が可成の転がろうとした場所を目掛けて突き入れられ、己の空間を潰される形となった可成は無理な態勢で回避を余儀なくされる。


……それが義弘の狙いと分かっていても。


「これで一本」


「ぐぅっ!」


(足だと?!今まで力を抑え、更に執拗に武器や腕を狙っていたのはこの布石か!)


驚愕する可成に対し、狙い通りに右足を貫いた穂先を引き戻し中段に構え直す義弘。彼女には油断も隙も無ければ高揚も無い。ただ殺すべき敵を殺すだけと狙いを定めている。


右足を貫かれ、さらに全身に薄い傷を負う森可成といまだ無傷の島津義弘。だれが見ても戦いは完全に義弘が優勢であった。


(ぐぅぅ。ま、まさかこれほど差が出るとは!)


ちなみに本来30代前半と言う脂の乗り切った年齢である可成と、小娘と言っても良い義弘の間にはココまで一方的になる程の実力差は無い。


修羅としての練度が互角ならば他の要因が勝負を分ける。


これが宝蔵院で学んだ千寿や義鎮であれば技術の差で圧倒するのだが、幸か不幸か義弘も可成もそのような槍術は学んではおらず実戦で磨かれた戦場武術と呼ばれるモノを使っているので、技量に大きな差は無い。


ではこの差を産んだ要因は何か?と言えば武器と腕……ではなく()だ。


まず武器。戦いの前には十字槍であった森可成の得物はその片刃を叩き折られ、今では片鎌槍のような形となってしまっていた。


とは言え、この程度であればこのまま片鎌槍として使えるし、実際戦場で暴れるのならばそれで済む話ではある。


しかしこれが一騎打ちとなると、話ががらりと変わってしまう。


十字槍は刃が左右に有ることを前提に造られている。しかし現在はその片刃を破壊されたことで重心が微妙に狂ってしまっているのだ。


小さいことでは有るが、戦力が拮抗している場合はこの僅かな差が大きく響く。


さらに可成は過去の戦で指を1本失っている。それは小指や親指では無いので武器が握れなくなると言うモノでは無いが、どの指であれ1本無くせば力の入り具合に左右で差が出るのは当然である。


それらのバランスは慣れで何とかなっても、握力の違いと言うのは攻防 (特に防御)において明確な差を生んでしまう。


結局のところ、指はともかく可成の武器が十字槍であることを見た上で、最初に武器破壊を選んだ義弘の判断が明暗を分けた要因と言えよう。


その上で踏み込みに必要な足を奪った。切断はしていないが、間違いなく半分ほどは斬ったので今までのような動きも攻撃も不可能だろう。さらに止血をする時間を与える気も無いので、あとは黙って防御に専念するだけで義弘の勝利は動かない。


しかし命懸けの修羅を相手にして防御に回ることの愚を知る義弘は、彼の出血死を待つつもりなど無い。


「さぁ死ね」


(来たッ!)


ここで義弘が選んだのは、払いや叩き潰す動作に比べて隙が生まれにくく、予備動作が見え辛い突き。足を斬られて満足に踏み込んで堪えることも、まして回避も出来ないであろう可成の腹部を狙って突き入れる一撃は、彼が待っていた一撃でもある。


「ぐっ…見事!しかしタダでは死なんっ!」


槍の軌道に左手を差し入れ刃の勢いを僅かに殺して即死を防ぐと同時に、腹で受けた槍に全身の力を籠めて、一瞬相手の動きを止めたところで右手に握っていた槍を投擲!


自身の肉体でもって槍を止められたことで、意識を可成の腹部に向けていた義弘の眼前に片刃となった槍の穂先が迫るが……


「まぁ、そう来るだろうよ」


(コレも読まれていたかっ!)


彼女はあれだけ大事そうにしていた槍を何の躊躇も無く手放し、屈みながら柄に蹴りを加えて穂先をより深く刺しこむ。これによって胴体を貫通した槍は、可成をそのまま壁に縫い付けることに成功する。


「ガハッ!」


結局、敵が死ぬ間際に放つ最期の一撃を警戒しないほど彼女は未熟では無かったと言うのが全てであった。


「中々の腕だった。だが予定が詰まっているのでな」


そう言って腰の刀を抜く義弘には「強敵だったことに免じて妻子を助けよう」等と言うつもりは無い。コレが父の貴久や兄の義久なら、息子の命を助けると言う選択をするかも知れないが、義弘はむしろ強敵だからこそコイツの子は生かしてはおけないと思っている。


「ぐっ……」


(えい。可隆。済まない。逃げる時間も稼いでやれなんだ……しかしそう簡単には死なん!首だけになろうとも噛み付いてでもコヤツの足を止め……て………?!)


()()と言うのが己の妻子を含む城内の人間の命だと理解した可成は、腹に刺さった槍を抜こうとするが、彼を壁に縫い付けた義弘の一撃は片手で抜ける程浅い攻撃ではない。


そして可成は己の体を動かすことを諦めた。しかしただで死ぬつもりもないので、何とかして反撃の糸口を……と周囲を確認していたとき、そこに在るはずがない、否、在ってはいけないモノの存在を見つけてしまう。


(馬鹿な?!)


歯を食いしばりながら、せめて目は背けん!とばかりに義弘を睨みつける可成だが、次の瞬間にはその目を見開いて、義弘から視線を逸らすことになった。


「?」


死を覚悟した鬼がこの期に及んで何を驚くのか?


相手から目を逸らすことの愚を知りながらも、森某の視線の先をちらりと見れば、まだ3歳になるかならないかの小僧が震えながら小太刀とも言えないような短刀を抜き、自分に向けて刃を向けているではないか。


「ち、父上を離せ!」


(よ、可隆!)


体と同様に震える声であっても、たどたどしさが有ったとしても、この場で明らかな実力差が有る己に対して叫ぶ様は見事の一言。黙っていれば死ぬ者と、鍛えれば一流の修羅になること予想される子供を見比べた義弘は、その優先順位を変える。


「ま…ま……て」


(何故出てきた!とは言わぬ。儂が不甲斐無いからだ!だが目の前で我が子を殺されて堪るかっ!)


そんな義弘の狙いが分かったのだろう。可成は掠れた声を掛けるが、既に義弘の耳には届かない。彼女にとって戦場に立つ以上は皆が鬼。そこに老若男女の区別はない。


それに元々討ち取る予定の子供が目の前に出てきた。ただそれだけの話だ。


「小僧。名を聞こう」


「な、何?!」


「この状況でこの私に啖呵を切ったその度胸に免じて、せめて親と一緒の墓に入れてやる。しかし墓標に名を書く際に『名も知らぬ小僧』では格好がつくまい?」


しかし義弘にも多少の情けは有る。子の為に命を懸ける親に、親の為に命を懸ける子。その死に様や死後を冒涜する気は無い。


「……?!」


初めて受ける明確な殺意に絶望を覚え、ガチガチと歯を鳴らしながら粗相する小僧。だがその目は義弘を捕らえて離さない。


ソレは目を離せば即座に殺されると理解しているのと、自分がこうして敵の目を引き付けている限り父は生きていると言うことを知っているからだ。


(逃げろとは言わぬ。せめて時間を稼いでくれ!)


そんな息子の命懸けの援護に応えようと、可成は槍を抜くことを諦め震える手で腰の刀に手を掛ける。


「も、森可成が嫡男!森可隆だっ!ち、父上も母上も俺が……俺が守るっ!」


「そうか。では死ね」


(よくぞ言った!お主は儂の誇りよっ!)


「おぉぉぉぉぉぉ!!!」


息子の声に応えて最後の最後の力を振り絞り、可隆を殺そうと歩を進めていた義弘の後頭部に向けて刀を放つ!


「……」


そんな可成の攻撃を予想できなかったのか、その一撃は無防備に背を向けていた義弘の頭を貫いた!


(よ、可隆。に、逃…げ……よ……)


本当に最後の最後の力を振り絞った可成は、そう声を出すことも出来ずそのまま息絶えた。右足を貫かれ、左腕を失い、腹に槍が刺さったままでも残った右腕で刀を投げ、相討ちに持ち込もうとしたその姿はまさしく修羅。


「ち、父上……」


最期に軽く微笑みを浮かべ、がくりと首を落とす父の姿を見た可隆は始めて見る父の安らかな顔を、その最期の姿を目に焼き付けようと、その両目から涙を流しながらも決して父から目を離そうとはしなかった。


「見事」


そんな可隆に義弘はザンッと刃を降り下ろし、可隆の体は首と共に地に転がった。


最期の投擲で死んだはず?何のことはない。


可成が最期に見た光景は彼が死に際に見た幻に過ぎず、実際は義弘に届いて居なかった。ただそれだけの話だ。


「森可成・森可隆親子、島津義弘が討ち取ったッ!」


そして二人の首を獲った義弘は勝ち名乗りを上げる。可成だけではなく、可隆も一人の武人であったと、自分が討つべき敵であったと声高らかに宣言した。


その声は清須で戦っていた全ての者達に聞こえたと言う。


それから半刻もしないうちに、武衛親子・織田信友・坂井大膳らも討ち取られ、清須に籠った者達は全員討ち死にとなったと言う。




ーーーー


こうして、服部党や武衛一派が滅んだことで、織田弾正大弼信長による真の意味での尾張統一が成されることとなる。


それは彼女が織田弾正忠家の家督を継いでから、僅か1年と少しのことであったと言う。



服部党覆滅と清須が落ちたことで、尾張はノッブの元に統一ってお話です。


森サン?ご都合主義です。長可サンはまだ産まれておりませんでした。十字槍については……にわかなので勘弁してください。作者のご都合主義でございます。


これにて4章が終わり、何話か前のあとがきに書いたように一部完扱いとなります。




美濃・三河・関東・越後・京その他に関しては5章以降です。4章は尾張統一ですからね。


活動報告に書きましたが、幕間とかぽつぽつ更新しつつ他の作品を執筆(執筆で良いんですかね?)していく予定ですので、今後とも作者の作品をよろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[一言] 蜻蛉切 VS 人間無骨、あえて銘を言わないのは、分かる人だけ分かればいいという感じでアリですね。
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